T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.3 The truth in her memory Chapter 2-9



 冬の長雨が冷たく街を濡れそぼつ音がする。
 甘鈴蝶の登場により、捜査は未来のT.T.S.に引き継がれ、現代を生きる絵美たち特異特別捜査本部第一課に、もはや手はない。
 だが、それはそれとして報告書を出さなければならない。その辺りの上手い捏造を、絵美は鈴蝶から仰せつかっていた。
 さてどうしたものか、と1人頭を抱えて捻っていると、視界の隅に人影が見えた。
 本日の特異特別捜査本部第一課の活動は打ち切っているが、彼はずっと外で警護してくれていたのだろう。

「……いたの」
「鈴蝶が言っていたことは、事実か?」

 疲れ果てた声に破棄はなく、視界の片隅に捉える姿は亡霊のようだ。
 だが、それでも事実を伝えなければならない。

「ええ……」
「……そうか」

 幾ばくかの沈黙を呑んだ後、彼は呟いた。

「失望した?」

 正岡絵美は、自分が小ズルい側面を持っていることを自覚していた。
 相手の意図を酌み、その裏を掻く。そんな手段を常套化している女に、正々堂々など語れない。
 だが、それ故に仲間では誠実でいたかった――。

「失望したのはむしろお前の方なんじゃないか?俺たちはそんなに……」
「違うよ」

 幸太郎の言いたいことは分かるし、その叱責を浴びせる権利は彼にはある。
 だが、その質問には断じてNOだ。絵美にとって、特異特別捜査本部第一課の面々は替えの効かない重要な存在だ。

「私が失望しているとすれば、それは未来の自分に対してよ。無責任に過去に影響を与えようとするなんて、何考えて……」

 待てよ?と自分の中で声がした。

「気づいたか?」

 幸太郎の声に、絵美は顔を上げる。
 そうだ。
 なぜ告げられた?
 未来だろうが何だろうが、自分なら過去が可笑しくなることをするわけがない。
 ならば、今すべきことはなんだ?

現在こっち未来むこうで連携しろってこと?」
「恐らくな……だから全員に連絡しておいた。じき揃うはずだ。で?俺は何をすればいい?」

 かつて、絵美の相棒バディは間違いなく幸太郎だった。
 絵美の力となり、精神を押し鎮め、安定させる。
 それこそが、木佐幸太郎の役割だった。

「なら、どうしてこんなことになったんだ?」

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品