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T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.3 The truth in her memory Chapter 2-4



 2匹の獣が迫って来る。

「オイお前!もう一度だ!もう一度今の動きをやれ!今度は見切る!」
「おどれ!妖術使いか⁉天狗か⁉どっちでもええ、斬っちゃる!わいは天下一の兵法者じゃあ!おどれも斬って、頼光越えの天下無双になっちゃるわ!」

 四肢のついた暴力の塊たちは、各々牙を剥くように口角を釣り上げて咆哮した。
 もはや彼らの目に互いの姿はなく、その双眸は理解不能な方法で自らの刀を破壊した新しい敵を捉えて離さない。

『さぁて、取り敢えずコイツらの潰し合いは阻止出来た。で、だ。こっからコイツらどぉ動くかねぇ?』

 剣術の達人とて、徒手空拳は素人だ。
 殊更一芸に秀でている分、その傾向は強い。
 ゆえに、形勢は完全に源に傾いた。
 一般人と一兵では足りないほど、彼我の戦力差は絶大だ。
 なのに、木佐もシンメンも、全く折れる気配がなかった。
 彼らに未知に対する恐怖心がないのか、飢えた獣が絶対に獲物を追うことを諦めないように、源を狙い続けている。

『へぇ構え崩さねぇのか……度胸あんじゃねぇか。こぉなりゃ両方寝かせてやらぁ……っつか、始めからそっちでやりゃ良かったんじゃねぇか?……まぁ、いぃか』

 それならそれで、源は構わない。大いに構わない。
 アレコレ考えてから動くより、動きながら考えるのが本来のやり方なのだから。

「紫姫音、両腕の凶運の掴み手ハードラックゲッター破滅との握手シェイクハンズ・ウィズ・ダムネーションに替えろ。ちょい本気出す」
《りょーかい》

 場所が場所だけに音声だけの交信しか出来ない紫姫音だったが、拗ねずに即応する。
 両腕を瞬時に白色に変え、腰を落とし、源はいよいよ本気の戦闘態勢を見せた。
 だが、本気の彼を前にしてもなお、野心家たちは欲望の牙を引っ込めない。

「お前そこ動くんじゃねえぞ!何しようとしてんのか知らねえけど、一発ぶん殴ってやっからよ!」
「もののけが!いてこますぞ!」

 曰く、日ノ本兵法天下一ノ無双さいきょうになるため、彼らは天然災害にも等しい男に挑もうと前進し続けた。
 その飽くなき闘争心に充てられ、逸る気持ちを堪え切れずに、源も叫ぶ。

「興が乗った!上等だバカども、かかって来ぃよ!」

 当初の目的など呆気なく頭から消し去って、ただ相手を打ちのめすことだけに専心する。
 男という生物のバカバカしさを凝縮したような3人の有様だが、ここは戦場、武が全てを語る場だ。
 事を収められるのも武だけだ。
 ジリジリと距離を詰めていた木佐とシンメンが、前傾姿勢で駆け出す。

『なぁんてな……正面から殺り合えるとでも思ったのか?バァカ』

 対する源は、クルリと身を翻して、背後の木を思い切り蹴りつけた。
 雨水を大量に湛えていた葉から、樹雨のように大量の雫が降り注ぐ。

「紫姫音!電圧上げろ!」
《ほーい》

 仕込みは済んでいる。
 先ほど刀を折った時、すでに源は動いていた。
 圧し折れた刀の、切っ先側。相手の喉に突き刺すべきその尖端に天を仰がせるように、すでに地面に投擲していた。
 これにより、源の両腕の破滅との握手シェイクハンズ・ウィズ・ダムネーションと2本の刀の切っ先と、1対の電極が2つ完成していた。
 電極間には、鉄分を含んだ血を浴びた2人の男。
 そして、先ほどまでの雨。
 つまり、低気圧下。
 これにより何が起きるか?
 火花放電と呼ばれる、空中放電現象だ。
 高電圧の電流が、高い抵抗値を持つ大気中を、閃光とともに駆け抜ける現象。
 言わば、落雷だ。
 身体の表面を、ピリピリとした感覚が走り抜ける。柄強度可変型泉下客服FAANBWと源の体表面を覆うナノマシン含有のゲルが、アースの役割を果たしている証左だった。
 セント・エルモの火と呼ばれるコロナ放電の光が、2本の切っ先に迸るのを見て、源は呟く。

「じゃぁな、バカども」

 新しい時代の幕開けを告げるように、派手な音と閃光が轟き煌き、2人の男を呑み込んだ。

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