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T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.3 The truth in her memory Chapter 2-1


~1600年10月21日PM3:45 美濃~

 雨脚が弱まり、僅かな雲の隙間から薄明光線が差した。
 日の光を受けた煌きを挟んで、源と幸太郎は睨み合う。
 緊張の糸が張り詰める中、やおら2人は互いを指さして顔を顰めた。

「どんだけのめり込んでんだお前、んなボロッ布どこで見つけて来やがった」
「お前こそ本当にT.T.S.か?この時代に溶け込む気ゼロじゃないか。TPOの欠片もない」

「っるせぇ、テメェほどかぶれてねぇだけだ」
「……それで?」

 中段に構えていた刀を下ろして、幸太郎は首を捻った。
 源もまた、凶運の掴み手ハードラックゲッターに包まれた黒い腕を下ろす。

「お前は誰だ?どうして絵美ではなくお前が来たんだ?」

 核心を突く質問だ。答えには言葉を選ばざるを得ない。
 今回の任務は非常に特殊だ。
 平時いつもは捕縛対象である違法時間跳躍者クロック・スミスに手を貸し、協力関係を築かなければならない。
 だが、現状それは夢物語だ。
 幸太郎はる気満々で、嬉々として源に切っ先を向けている。とてもじゃないが、話が出来る雰囲気ではなかった。
 まず剥き身の刃を納めさせなければ、前進ない。
 とにかく、信頼関係の構築は喫緊の課題だ。
 手っ取り早いのが、共通の立場や言語に立ち、視点を共有することで同族意識を植えつけることだろう。
 幸いにも、共通の話題は幸太郎の方から提示してくれている。
 だが――

『……幸太郎コイツに絵美を語られてもなぁ』

 釈然としない思いに駆られて、源は躊躇った。
 よって、絵美の話題で団結する手はなし。
 さて、ならばどうするか?
 刹那の間に膨大な思考を回した源が、なんとか常在戦場の観点から話をしようかと口を開きかけた、その時――
 背筋を悪寒が走り抜けた。
 さながら銃口を向けられたような威圧と畏怖に、肝が縮む。
 自然と腰を落として気配に目を向けた源と幸太郎の目に、幽鬼が如き人影が映った。
 返り血で真っ赤に染まった襦袢に、刃毀れの酷い刀と半分折れた槍を手にした男は、ゆらりと身体を揺する。
 ギラギラと血走った双眸がピタリと2人に焦点を定めていた。

「……どっちじゃ」

 ボソリとだが、クリアに耳に響く声だ。
 25Mは距離が空いてる。
 なのに、歪に吊り上がった口角から漏れ出たような、ほとんど口を動かさない喋り方にも関わらず、男の言葉は鮮明に聞こえた。
 まるで、天の声が頭の中で響いて来るようだ。
 なにより、その立ち姿から感じる脱力感。それでいて瞬発的に如何様にも攻撃を繰り出して来そうな体幹の安定性を感じさせる背筋の伸びた姿勢に、全身が総毛立つ。

「なんだアイツ……」
「……」

 ゆっくりと、源と幸太郎は腰を落とした。
 今にでも、あの男がこちらに奇襲をかけて来そうだ。

「のお、おまはんら、西か東か、どっちやねや?」
「……あ?」

 男が体幹を傾けるのを確認して、幸太郎が半身に脚を開いた。
 剥き身の刀が2本。いつ激突してもおかしくない緊張感の高まりに、源の気は急いた。

「待て、木佐。まだ話は終わってねぇ、っつぅかテメェも空気読めや!誰だテメェ」
「わいは辨助や。新免辨助。兵法天下一になる男ぞ」

「新免だと?」
「おぃ、誰だ、テメェ知ってんのか?」

 幸太郎が動揺する気配を感じて、源は小声で尋ねた。
 新免辨助。
 後に姓を宮本、名を武蔵に改める、日本で最も有名な剣豪の名を、源は知らなかった。
 呼吸すら憚られる張り詰めた空気の中、源は必死に次手を考えることしか出来ない。

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