T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.3 The truth in her memory Chapter 1-8


~1600年10月21日PM3:42 美濃~

 血跡と島津十字を背負った遺体が消え、本来景色の形容として相応しくなかったグロテスクさがなくなった。
 雨脚は強まっていく一方だったが、源の地道な歩みは着実に幸太郎までの距離を詰めている。
 進行方向には、無数の足跡や一定方向に折れた枝、断片的に飛び散った血痕などの痕跡があった。
 これだけ大量に手掛かりがあれば、追跡は容易だ。
 加えて、源には追跡トレースツールがある。
 視界に浮かぶガイドはタキオン粒子の残滓を感知し、正確に幸太郎を追跡トレースしていた。
 時と共に薄れて行くその反応に、焦ることもない。
 源はすでに幸太郎の気配を強く感じ取っていた。
 恐らく、木佐幸太郎はすでに5人を手に掛けている。
 新鮮な遺体たちは、どれも見事な切断面で一太刀の元に斬り捨てられていた。
 疲労しているとはいえ現役の兵士を相手に、雨も酷ければ足元も悪い悪条件の中で、だ。

『野郎、慣れて来てやがんな……』

 どこまで話の通じる相手か分からない。
 今回はケースとしても特殊だ。
 出来るだけ穏便に済ませたいが……。
 と、そこまで考えた時だ。

 雨が鋭く光った。

「……テメェが木佐幸太郎か」
「へえ、絵美じゃないのか、誰だお前は?」

 もし、刹那を捉える神罰を免れる目Charismavogelperspektive神を掴む手Die Haendeum Gott zu fangenがなければ、首を撥ねられていただろう。
 源は指で摘まむ刃先を撥ね退け、光学迷彩カメレオンを解除した。

「よく俺の位置が正確に分かったな」
「足跡だけがペタペタ伸びて来れば猿でも分かる」

 わざわざ用意したのか、それとも遺体から奪ったのか。
 マサムネとも称される擦り切れた着物ボロを身に纏い、対照的に刃毀れ1つない見事な業物を携えた木佐幸太郎が、源の死角となる木陰にゆらりと立ち尽していた。

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