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T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.3 The truth in her memory Chapter-1-2


~2176年10月6日AM6:53 東京~

 源が絵美の元を訪れる、ほんの30分前のことだ。

「源ちゃん、ちょっといい?」
「あぃよ」

 T.T.S.ラウンジの片隅にある、小山のようなソファ。そこで煙草をふかしつつ、『沈黙の春』を黙読していた源に、T.T.S.Master甘鈴蝶が声をかけた。今日の鈴蝶はそういう気分なのだろう、女性の身体のままだ。

「紫姫音も?」
「んーん、紫姫音ちゃんはここでお留守番」

「おとなしくしてろ」
「はーい」

 なぜかダンスしてる亜生インターフェイスFIAI紫姫音を置いて、源は鈴蝶に連れられて廊下に出た。
 そのまま着任者待機ロビーに這入っていく鈴蝶に、源は違和感を覚える。

「おぃ、んな糞狭ぇ場所で何の用だよ」
「いいから、とにかく入って」

 もしかして、久しくご無沙汰だった鈴蝶の中の女が疼いたのか?なんてホラーな考えを必死に振り払って、源も続いた。

「で?なんだよ、わざわざこんな場所で」
「これ」

 ロビーに入るなり、鈴蝶がデータを送ってきた。
 違法時間跳躍者クロック・スミス。T.T.S.の捉えるべき標的の情報だ。

「仕事入ったんなら普通に教えりゃ……」
「引っかかるんだ。そいつ」

「引っかかる?」
「経歴。あと、時間跳躍の仕方が妙なんだ」

 言われた通り、経歴に目を走らせると、見慣れた固有名詞が目に留まった。
 Alternative。正岡絵美が設立し、組織した日本国第2の警察機関。そいつは、かつてそこに所属していた。

「なるほどな……時間跳躍の仕方が妙ってのは……こっちの資料か……おぃ何だこりゃ」

 渡されたもう1つのデータには、奇妙な折れ線が描かれていた。さながら時の流れを黄色い線で書き起こしたような図の中に、今日を起点にした線がある。
 だが、この線の終点がおかしい。
 本来、重なって表示されるべき設定目標点と跳躍着地点が、大幅にずれていた。
 まるで、初代T.T.S.No.1を失った時のように。

「I.T.C.のみんなも動揺しきりだよ。こんなのはあの一件・・・・以来見たことがない。設定されたのは幕末の日本。吽號もそこに向かって跳んでる。なのに引っ張られた・・・・・・。西暦1600年10月21日の日本に」
「ならあの糞ビッチと同じように転送されたってのか?それとも……TLJ-4300SHヤツらのが故障したとか?」

「どちらも違うみたい。ほら、明日の17:00に跳躍しているこの線は正常に動作している」
「なら何で転送じゃねぇって言ぃ切れんだよ?」

「転送時に着く転回点が観測されてない……らしい。詳しいことは青洲おじいちゃんに訊いて」
「で、引っ張られたって結論になんのか?どぉいぅことだかまるで分んねぇぞ……ってか引っ張られたって何だ?どぉいぅ状況なんだソレ」

 当然ともいえる源の言葉に、しかし鈴蝶は返す刃がない。
 降参とばかりに両手を上げて、彼女は溜息を吐いた。

「だから知り合い・・・・を当たって欲しいの。連絡することは職務に抵触するから、出来れば直接会いに行って聞いて来て欲しい。正直なところ、私にもよく分からないけど、青洲おじいちゃんいわく、1つ可能性があるとしたら」


~2176年10月6日AM7:31 東京~


「コイツの個人的パーソナルな部分に要因がある可能性がある……らしぃ……心当たりはねぇか?」

 不透明過ぎるがゆえに、どうしてもダラダラと続いてしまった状況説明を終え、源は絵美に問い質す。
 だが、絵美にしても、この内容にどんな顔をすればいいのか困っていた。
まるで雲を掴むような話だ。
 状況もロクに分からない以上、手掛かりを掻き集めたいのは理解できるが、自分に有効な情報の用意があるかと訊かれれば、答えはNOだった。

「悪いけど、なにも浮かばないわ。跳んだ先は1600年だっけ?確かその年って……関ヶ原の戦いの年よね?」
「そぉなんか」

「江戸幕府の生まれるキッカケの戦いよ。江戸時代っていうの、聞いたことくらいあるでしょ?」
 T.T.S.になって初めて日本の地を踏んだ源は、日本を知らない。歴史ともなれば尚更無知だ。
「あったかもな……っつぅか、それ関係あんのか?」

「うん。もしかしたら、その辺りの出来事とかヒトが関係してないかなって……うん?待って、関ヶ原?関ヶ原って確か……」

 突如、絵美はその場に固まった。
 彼女の中で膨大な量のアーカイブに検索がかけられているのが、源にも分かる。何かを閃いた時の絵美は、見慣れていた。

「……そろそろ終わっか?」
「……あった」

「お、なにめっけた?」
「男の子が大好きなヤツ」

「ってぇと……女?」
「汚い大人ね。アンタらし……」

 と、言いかけたところで、絵美は苦笑した。

「違うか、アンタは眼中にないのね」
「おぃ、1人で納得すんな。何見つけたんだか教えろよ」

 ふんと鼻で笑って、彼女はジッと源を見つめる。
 首を傾げるしかない源に、絵美は一つ条件を提示した。

「その前に約束して。この件、源が引き受けて」
「まぁ、順当に行きゃ俺がやんだろぉし、別にいぃぜ」

「ありがとう、アンタのそういう所嫌いじゃないよ……じゃあ言うね。コイツ、木佐幸太郎が求めているのは、多分1つ」

 ゆっくりと、彼女は人差し指を真上につき出す。
 同時に、一切の照明が落ち、天に夜空が広がった。
 それは、かつてこの施設の主たる目的だったものの名残。
 プラネタリウムの映す、天に散りばめられた宝石の海だ。
 星明りに照らされた絵美の目は、真剣そのものだった。

「最強よ」

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