T.T.S.
FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day conclusion
T.T.S.のヴァーチャルロビーには、およそ6000近い情景の変動型が組み込まれている。
そのパターンの1つ、中華庭園を見回す東屋の中で、い源は1人茶器を煽っていた。池の真ん中にポツリと立つ東屋は、蓮の花が咲く水面から吹き上がる風で、快適な温度になっている。
肉体はボロボロでも、こうして意識だけになればゆっくりと出来るわけだ。
ふと、哨吶という木管楽器の音が、響き渡った。
盃の普洱茶を空けて、源は音源に目を向ける。
視線の先、池の畔に立つ天台庵風の建造物から、絵美が姿を現した。
「よぉ、謹慎だって?ここにいていぃんか?」
「……熱心ね。そんなに仕事に情熱を持っているとは思わなかったわ」
「ま、たまにゃな。今日はマダムんとこで入院だしな」
T.T.S.本部の中からアクセスする源は、急須から普洱茶のお代わりと絵美の分を注ぎながら席を勧めた。
このロビーにアクセスするには、メンバーのDNAと光彩パターンが必要なだが、ネットワーク環境と前述の鍵さえあれば、どこからでもアクセス出来る。
仕事を生きがいにする絵美は、律儀に自宅からアクセスしているのだろう。
「んで?こんな夜更けにどぉした?もぉ2:00回ってんだから寝ろ重病人」
「うるさい重傷患者」
対面に着席した絵美が普洱茶に口を付けながら、源が広げた書類データに目を向けた。どれも、皇幸美と服部エリザベートの身元変更に関する第三者見解の書類ばかりだ。
「……幸美ちゃん、これから大変でしょうね」
目を眇めた絵美の言葉を、源は鼻で笑い飛ばす。
「重罪人の罪をロンダリングしてやってる身としちゃ、同情してやる気はねぇよ」
皇幸美が法的罪に問われることはない。彼女の名は、歴史的汚名と共に源に殺された。というこ
とになっている。
そして、新たな人間として生きることになった彼女の、その人柄を第三者として保証するのが、源になったわけだ。
「そうでしょうね。汚いって憤慨する人もたくさんいるでしょうけど、こればっかりはね」
「そぉだ。恨みってのは消えねぇから存在価値があるんだよ」
そこまで話の歩を進めたところで、絵美が切り込んで来た。
「ねえ、エドになにを託されたの?」
「なにがだ?」
「とぼけないでよ。エドはアンタのことを気に入っていたのは、私にだって分かったわ。だからこそ、アンタになにかを託さなかったわけがない」
源は手を休めず、表情も変えず、普洱茶を今一度煽ってから立ち上がる。
「なにもねぇよ。先寝るぞ」
「……いいわ。いつか教えてくれるならそれで」
「なにも教えることなんざねぇよ」
小さな湯飲みを池に投げ、それが消えて行くのを見守りもせず、源は天台庵風の建造物に戻って行く。
「んじゃ、おやすみさん」
「ええ。今日はありがとう。お陰で助かったわ」
源は手で礼を受けながら、意識をフェードアウトさせていく。
『ダリィ1日だったが……終わり方はまぁ、悪くねぇ』
そう独り言ちて、自らの意識をスタンドアローンに切り離して、記憶領域を引っ掻き回した。
ようやく、気分が整った気がする。
毎年のように、ジャンクデータの中からどうでもいい口約束を引っ張り出した。
頼み……が、ある……………僕……の身体……………無事、な部分…………
彼女に…………せめて………一部……………細胞………でも……………
彼女は………………妹、なん…………だ
だから………頼む…………
どうか、彼女を……
生かして…………やってくれ……………
よ、ろし…………く……………な
そのパターンの1つ、中華庭園を見回す東屋の中で、い源は1人茶器を煽っていた。池の真ん中にポツリと立つ東屋は、蓮の花が咲く水面から吹き上がる風で、快適な温度になっている。
肉体はボロボロでも、こうして意識だけになればゆっくりと出来るわけだ。
ふと、哨吶という木管楽器の音が、響き渡った。
盃の普洱茶を空けて、源は音源に目を向ける。
視線の先、池の畔に立つ天台庵風の建造物から、絵美が姿を現した。
「よぉ、謹慎だって?ここにいていぃんか?」
「……熱心ね。そんなに仕事に情熱を持っているとは思わなかったわ」
「ま、たまにゃな。今日はマダムんとこで入院だしな」
T.T.S.本部の中からアクセスする源は、急須から普洱茶のお代わりと絵美の分を注ぎながら席を勧めた。
このロビーにアクセスするには、メンバーのDNAと光彩パターンが必要なだが、ネットワーク環境と前述の鍵さえあれば、どこからでもアクセス出来る。
仕事を生きがいにする絵美は、律儀に自宅からアクセスしているのだろう。
「んで?こんな夜更けにどぉした?もぉ2:00回ってんだから寝ろ重病人」
「うるさい重傷患者」
対面に着席した絵美が普洱茶に口を付けながら、源が広げた書類データに目を向けた。どれも、皇幸美と服部エリザベートの身元変更に関する第三者見解の書類ばかりだ。
「……幸美ちゃん、これから大変でしょうね」
目を眇めた絵美の言葉を、源は鼻で笑い飛ばす。
「重罪人の罪をロンダリングしてやってる身としちゃ、同情してやる気はねぇよ」
皇幸美が法的罪に問われることはない。彼女の名は、歴史的汚名と共に源に殺された。というこ
とになっている。
そして、新たな人間として生きることになった彼女の、その人柄を第三者として保証するのが、源になったわけだ。
「そうでしょうね。汚いって憤慨する人もたくさんいるでしょうけど、こればっかりはね」
「そぉだ。恨みってのは消えねぇから存在価値があるんだよ」
そこまで話の歩を進めたところで、絵美が切り込んで来た。
「ねえ、エドになにを託されたの?」
「なにがだ?」
「とぼけないでよ。エドはアンタのことを気に入っていたのは、私にだって分かったわ。だからこそ、アンタになにかを託さなかったわけがない」
源は手を休めず、表情も変えず、普洱茶を今一度煽ってから立ち上がる。
「なにもねぇよ。先寝るぞ」
「……いいわ。いつか教えてくれるならそれで」
「なにも教えることなんざねぇよ」
小さな湯飲みを池に投げ、それが消えて行くのを見守りもせず、源は天台庵風の建造物に戻って行く。
「んじゃ、おやすみさん」
「ええ。今日はありがとう。お陰で助かったわ」
源は手で礼を受けながら、意識をフェードアウトさせていく。
『ダリィ1日だったが……終わり方はまぁ、悪くねぇ』
そう独り言ちて、自らの意識をスタンドアローンに切り離して、記憶領域を引っ掻き回した。
ようやく、気分が整った気がする。
毎年のように、ジャンクデータの中からどうでもいい口約束を引っ張り出した。
頼み……が、ある……………僕……の身体……………無事、な部分…………
彼女に…………せめて………一部……………細胞………でも……………
彼女は………………妹、なん…………だ
だから………頼む…………
どうか、彼女を……
生かして…………やってくれ……………
よ、ろし…………く……………な
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