T.T.S.
FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 4-12
12
口火を切ったのは、まだ元気一杯の紗琥耶だった。
「当然♪」と言い終えるが早く、彼女は消える。光学迷彩(カメレオン)で身を隠すのとは視覚的にも大きく違う、内側から爆発するような消え方だった。
《ああ、でも木偶人形だけはアンタにあげる。もうアタシあんな玩具じゃ満足できないし、色々溜まってんでしょ?色々》
『お蔭さんでな』
相棒の霧散を見届けもせず、源も歩き出す。
悪漢2人と殺人ロボットには目もくれず、市場スペースに向けて一直線に歩を進める姿は、公園の管理人のように淡々としていた。
「M1mi-CA!止めろ!」
マイクロフトの咆哮で軍事用着脱両面汎用性兵器が躍り出る。型名M1mi-CA8407はロサとエリザベートを追い詰めた性能を活かし、両腕に格納されていた微細振動刃を振り回して襲い掛かって来た。
だが。
「遅ぇ」
皇幸美を小脇に抱え、片手しか使えないはずの源を、刃先が皮膚を捉えることはなかった。それどころか彼の指先に刃を圧し折られたM1mi-CAは、そのまま両腕を引き千切られる。
だが、相手はサイボーグ。亜光速の芸当でバラバラに砕け散った肩部を惜しむ間もなく、空中でクルリと姿勢を転じ、蹴りを放って来た。
が、これも無駄。
「お前らは一方試合に乗った。負ける側でな」
拳一発で両脚を吹き飛ばされ、その衝撃で宙に浮いた身体に手を突っ込んだ源は、地面に叩きつけてバラバラに砕く。
「理解しろ。もぉ終わりだ。諦めろ」
その言葉に、偽りはなかった。
源は1937年の任務遂行後より、ほんの少しコンディションを整えている。
病魔を押してでも任務に当たりたかった絵美を阻んだ、22世紀に入って開発された薬品の効能だ。
薬品といっても、頓服薬のようなものではない。体力を一時的に増幅する、いわゆるエナジードリンクの類だ。
「諦めは悪さこそが美徳とされているが?」
首を傾げて問い返すニコラエには目もくれず、源は再び歩き出す。
「おい、こいつは一体どういうことだ?」
一方で、マイクロフトは動揺していた。
「ゾンビ映画の真似事はよせグレッグ……なんで動いてる」
グリゴリー・サルトゥイコヴァは確かに動いていた。
額に穴を空け、脳漿と血を撒き散らしながら、それでも2本の脚で立ち上がり、虚ろな目を地面に投げている。遂にはその口元が綻び、ピクピクと動き出す。
「悪……い、冗談、みた……い、でしょう?」
『まぁた趣味の悪ぃこと始めやがった』
瞠目するマイクロフトとニコラエを脇に、源は溜息をついた。
グレゴリーの身体は、マリオネットが動作確認でもするかのように、頭、首、胴体、腕、下半身の順に、ヒクリヒクリと筋肉を震わせていく。
死体に入り込んだ紗琥耶が、ナノマシンで死滅した細胞を補い、グレゴリーの身体の支配権を奪っていた。
「グレッグ?」
「違うマイクロフト、先ほどのT.T.S.の女だ」
「……クソが、クソッたれがあああ!」
マイクロフトの激怒の咆哮が上がる中、ニコラエは源を睨む。
「ゲスどもが」
「あの女単品がな。まぁアイツもテメェらにだきゃぁ言われたくねぇだろぉが」
しかしながら、死者を冒涜する紗琥耶の行為は、敵のヘイトと敵意を見事に集中させた。
「殺す!テメェだけは絶対許さねえぞ女!」
グレゴリーの体組織復元は源がM1mi-CAをバラバラにする時間で完了していたのだろう。紗琥耶の操るグレゴリーの遺体は、源が戦った時よりもキレのある動きでマイクロフトとニコラエの猛攻を凌いでいた。
しかしながら、源とて悠長に構えてもいられない。
「幸美、ここで待ってろ。さすがにこっから先は護り切れねぇ」
「……わかった。ケガしないでね」
「死なねぇよぉにはする」
ニコラエがどのようなプログラムを組ませたのは不明だが、エリンたちを苦しめた武器の射出が源目がけて降りかかって来た。
『面倒くせぇ仕掛け作りやがって』
射出されたレイピアと思われる細剣を掴んだ源は、飛来して来る武器を叩き落しながら前進していく。
「絵美!もぉすぐ、市、場だ!どこぶっ壊しゃ、いぃんだ?」
槍、メイズ、大太刀、カーボンナイフやスぺツナズナイフと、古今と洋の東西を問わず、あらゆる武器が飛んで来た。
だが、細剣が折れればメイズに持ち替え、リーチに難ありと思えば飛来した柳葉刀にスイッチする柔軟さで、源は前進し続ける。
《待って源!》
絵美の言葉と同時だった。
公園内のすべての地面から銀色のチェフが吹き上がり、視界が銀色に包まれる。
「誰がグレゴリーにチャフを持たせたと思っている」
耳元で聞こえたニコラエの声に反応する間もなく、源の身体は元来た道に吹き飛ばされた。
口火を切ったのは、まだ元気一杯の紗琥耶だった。
「当然♪」と言い終えるが早く、彼女は消える。光学迷彩(カメレオン)で身を隠すのとは視覚的にも大きく違う、内側から爆発するような消え方だった。
《ああ、でも木偶人形だけはアンタにあげる。もうアタシあんな玩具じゃ満足できないし、色々溜まってんでしょ?色々》
『お蔭さんでな』
相棒の霧散を見届けもせず、源も歩き出す。
悪漢2人と殺人ロボットには目もくれず、市場スペースに向けて一直線に歩を進める姿は、公園の管理人のように淡々としていた。
「M1mi-CA!止めろ!」
マイクロフトの咆哮で軍事用着脱両面汎用性兵器が躍り出る。型名M1mi-CA8407はロサとエリザベートを追い詰めた性能を活かし、両腕に格納されていた微細振動刃を振り回して襲い掛かって来た。
だが。
「遅ぇ」
皇幸美を小脇に抱え、片手しか使えないはずの源を、刃先が皮膚を捉えることはなかった。それどころか彼の指先に刃を圧し折られたM1mi-CAは、そのまま両腕を引き千切られる。
だが、相手はサイボーグ。亜光速の芸当でバラバラに砕け散った肩部を惜しむ間もなく、空中でクルリと姿勢を転じ、蹴りを放って来た。
が、これも無駄。
「お前らは一方試合に乗った。負ける側でな」
拳一発で両脚を吹き飛ばされ、その衝撃で宙に浮いた身体に手を突っ込んだ源は、地面に叩きつけてバラバラに砕く。
「理解しろ。もぉ終わりだ。諦めろ」
その言葉に、偽りはなかった。
源は1937年の任務遂行後より、ほんの少しコンディションを整えている。
病魔を押してでも任務に当たりたかった絵美を阻んだ、22世紀に入って開発された薬品の効能だ。
薬品といっても、頓服薬のようなものではない。体力を一時的に増幅する、いわゆるエナジードリンクの類だ。
「諦めは悪さこそが美徳とされているが?」
首を傾げて問い返すニコラエには目もくれず、源は再び歩き出す。
「おい、こいつは一体どういうことだ?」
一方で、マイクロフトは動揺していた。
「ゾンビ映画の真似事はよせグレッグ……なんで動いてる」
グリゴリー・サルトゥイコヴァは確かに動いていた。
額に穴を空け、脳漿と血を撒き散らしながら、それでも2本の脚で立ち上がり、虚ろな目を地面に投げている。遂にはその口元が綻び、ピクピクと動き出す。
「悪……い、冗談、みた……い、でしょう?」
『まぁた趣味の悪ぃこと始めやがった』
瞠目するマイクロフトとニコラエを脇に、源は溜息をついた。
グレゴリーの身体は、マリオネットが動作確認でもするかのように、頭、首、胴体、腕、下半身の順に、ヒクリヒクリと筋肉を震わせていく。
死体に入り込んだ紗琥耶が、ナノマシンで死滅した細胞を補い、グレゴリーの身体の支配権を奪っていた。
「グレッグ?」
「違うマイクロフト、先ほどのT.T.S.の女だ」
「……クソが、クソッたれがあああ!」
マイクロフトの激怒の咆哮が上がる中、ニコラエは源を睨む。
「ゲスどもが」
「あの女単品がな。まぁアイツもテメェらにだきゃぁ言われたくねぇだろぉが」
しかしながら、死者を冒涜する紗琥耶の行為は、敵のヘイトと敵意を見事に集中させた。
「殺す!テメェだけは絶対許さねえぞ女!」
グレゴリーの体組織復元は源がM1mi-CAをバラバラにする時間で完了していたのだろう。紗琥耶の操るグレゴリーの遺体は、源が戦った時よりもキレのある動きでマイクロフトとニコラエの猛攻を凌いでいた。
しかしながら、源とて悠長に構えてもいられない。
「幸美、ここで待ってろ。さすがにこっから先は護り切れねぇ」
「……わかった。ケガしないでね」
「死なねぇよぉにはする」
ニコラエがどのようなプログラムを組ませたのは不明だが、エリンたちを苦しめた武器の射出が源目がけて降りかかって来た。
『面倒くせぇ仕掛け作りやがって』
射出されたレイピアと思われる細剣を掴んだ源は、飛来して来る武器を叩き落しながら前進していく。
「絵美!もぉすぐ、市、場だ!どこぶっ壊しゃ、いぃんだ?」
槍、メイズ、大太刀、カーボンナイフやスぺツナズナイフと、古今と洋の東西を問わず、あらゆる武器が飛んで来た。
だが、細剣が折れればメイズに持ち替え、リーチに難ありと思えば飛来した柳葉刀にスイッチする柔軟さで、源は前進し続ける。
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