T.T.S.
FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 4-11
11
~2176年9月30日AM10:32
廃国独自自治区バルセロナ~
意識を刈り取られたエリザベートの傍らで、ロサは膝を着いた。
絶望的な状況だ。
満身創痍を絵に描いたような重症に、ロサは立っているのもやっとだった。左腕や右手、肋や左大腿の骨が折れ、場所にやっては骨が飛び出ている。血圧の低下に吐き気が止まらない上、裂けた額からの出血も止まらず、視界を遮っていた。
横たわるエリザベートにしても酷いやられようだ。トンファーは捩じ切られ、アンドロイドに強打された頭部からの出血も止まっていなかった。
『あれは絶対にヤバい』
自身の怪我も顧みず、ロサはエリザベートに視線を滑らせる。
「こいつらはどうしたい?」
「建国の礎ってやつだ。自衛能力がよくわかるだろ」
「どうでもいい話してないで放してあげてくれない?」
敵前でのうのうと会話するニコラエとマイクロフトの隣では、アンドロイドに頭を掴まれたエリンがもがいていた。
現役軍人の頑丈さはさすがだったが、刀折れ矢つきた彼女に、もはや抗戦の術はない。主力武器の空薬莢が溢れる地面には、捻じ曲げられた補助武器の拳銃とナイフが虚しく転がっていた。
男たちは無関心そうにロサを見下ろして、エリンに視線を巡らせる。
「どうでもいいのはお前らの処遇の方だ」
マイクロフトのせせら笑いに、ロサは苦虫を噛み潰すような顔しか出来なかった。
P.T.T.S.一個小隊という強大な援護を受けながら、そのことごとくを潰されては、立つ瀬もない。
「恨むなら、戦力を逐次投入なぞしたT.T.S.を恨むのだな」
ニコラエの静かな勝利宣言に歯噛みしつつ、ロサは頭をクールに保ち、回した。
「随分T.T.S.が嫌いみたいね」
「当たり前だろ」
「当たり前?」
立ち居振る舞いから見てリーダー格であろうニコラエに話を振ったが、即応したのはもう一方だった。
意外な回答者に首を捻ると、マイクロフトは噛みつかんばかりの勢いで捲し立てる。
「T.T.S.はタイムマシンの技術を独占している。俺たちのような庶民から力を奪っている。ヤツらは独立運動の活動を阻害している支配階層だ!」
「……は?」
「そういうことだ。マイクロフトこそ独立運動の核を担う存在。俺はただの軍事アドバイザー。手を貸したに過ぎない。政治は俺の領分ではない」
その時、だった。
雑音がした。
虫の羽音のような、整体師の使う赤外線投射機の稼働音のような、ブーンともジーとも聞こえる、不自然な音だ。
空間が歪み、裂け、n次元が顕現する音だ。
時を旅した経験を持つ者ならば分かる。異なる時代、時間にいた者が扉を叩いている。
だが、今この場においてそれが分かる者は1人しかいなかった。
「やはりグレゴリーでは無理だったか。マイクロフト構えろ。最大の敵が来たぞ」
やがて音が止み、管理小屋の扉が開く。
「いい日だわ。あっちもこっちも私とヤリたがってる」
ジェーン・紗琥耶・アークは神に感謝でもするように両手を広げて天を仰いだ。
「最悪の日だ。休日を潰された上、面倒くせぇのばっか押しつけられる」
グレゴリーの遺体を担ぎ、皇幸美に服を引っ張られながら、い(かなはじめ)源は血痰を吐き捨てた。
「ほれ、土産やんぞ。お仲間さんだ」
死体を放り投げた源は腕を回しながら紗琥耶に釘を刺す。
「おぃ、俺とこのガキ護るっての、分かってんだろぉな?」
「当然♪」
ついてた女とついてなかった男は、すべての決着を着けるために戦場からまた別の戦場に降り立った。
グエル公園を舞台に239年の時を経て繰り広げられた戦いに、終止符を打つために。
~2176年9月30日AM10:32
廃国独自自治区バルセロナ~
意識を刈り取られたエリザベートの傍らで、ロサは膝を着いた。
絶望的な状況だ。
満身創痍を絵に描いたような重症に、ロサは立っているのもやっとだった。左腕や右手、肋や左大腿の骨が折れ、場所にやっては骨が飛び出ている。血圧の低下に吐き気が止まらない上、裂けた額からの出血も止まらず、視界を遮っていた。
横たわるエリザベートにしても酷いやられようだ。トンファーは捩じ切られ、アンドロイドに強打された頭部からの出血も止まっていなかった。
『あれは絶対にヤバい』
自身の怪我も顧みず、ロサはエリザベートに視線を滑らせる。
「こいつらはどうしたい?」
「建国の礎ってやつだ。自衛能力がよくわかるだろ」
「どうでもいい話してないで放してあげてくれない?」
敵前でのうのうと会話するニコラエとマイクロフトの隣では、アンドロイドに頭を掴まれたエリンがもがいていた。
現役軍人の頑丈さはさすがだったが、刀折れ矢つきた彼女に、もはや抗戦の術はない。主力武器の空薬莢が溢れる地面には、捻じ曲げられた補助武器の拳銃とナイフが虚しく転がっていた。
男たちは無関心そうにロサを見下ろして、エリンに視線を巡らせる。
「どうでもいいのはお前らの処遇の方だ」
マイクロフトのせせら笑いに、ロサは苦虫を噛み潰すような顔しか出来なかった。
P.T.T.S.一個小隊という強大な援護を受けながら、そのことごとくを潰されては、立つ瀬もない。
「恨むなら、戦力を逐次投入なぞしたT.T.S.を恨むのだな」
ニコラエの静かな勝利宣言に歯噛みしつつ、ロサは頭をクールに保ち、回した。
「随分T.T.S.が嫌いみたいね」
「当たり前だろ」
「当たり前?」
立ち居振る舞いから見てリーダー格であろうニコラエに話を振ったが、即応したのはもう一方だった。
意外な回答者に首を捻ると、マイクロフトは噛みつかんばかりの勢いで捲し立てる。
「T.T.S.はタイムマシンの技術を独占している。俺たちのような庶民から力を奪っている。ヤツらは独立運動の活動を阻害している支配階層だ!」
「……は?」
「そういうことだ。マイクロフトこそ独立運動の核を担う存在。俺はただの軍事アドバイザー。手を貸したに過ぎない。政治は俺の領分ではない」
その時、だった。
雑音がした。
虫の羽音のような、整体師の使う赤外線投射機の稼働音のような、ブーンともジーとも聞こえる、不自然な音だ。
空間が歪み、裂け、n次元が顕現する音だ。
時を旅した経験を持つ者ならば分かる。異なる時代、時間にいた者が扉を叩いている。
だが、今この場においてそれが分かる者は1人しかいなかった。
「やはりグレゴリーでは無理だったか。マイクロフト構えろ。最大の敵が来たぞ」
やがて音が止み、管理小屋の扉が開く。
「いい日だわ。あっちもこっちも私とヤリたがってる」
ジェーン・紗琥耶・アークは神に感謝でもするように両手を広げて天を仰いだ。
「最悪の日だ。休日を潰された上、面倒くせぇのばっか押しつけられる」
グレゴリーの遺体を担ぎ、皇幸美に服を引っ張られながら、い(かなはじめ)源は血痰を吐き捨てた。
「ほれ、土産やんぞ。お仲間さんだ」
死体を放り投げた源は腕を回しながら紗琥耶に釘を刺す。
「おぃ、俺とこのガキ護るっての、分かってんだろぉな?」
「当然♪」
ついてた女とついてなかった男は、すべての決着を着けるために戦場からまた別の戦場に降り立った。
グエル公園を舞台に239年の時を経て繰り広げられた戦いに、終止符を打つために。
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