T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 4-9


~2176年9月30日PM5:40 東京~

 紗琥耶の言葉を聞いて、絵美の中で敵の姿が一つの像を結んだ。
 考えてみれば、本件は何から何まで妙だった。

 かなはじめ源個人に依頼されようとしていた、皇幸美の捜索。それが露見した途端発覚した、薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサスによる誘拐。併せて発生した粟生田雪緒、皇栄太両名の失踪。そして、T.T.S.の戦力分断を予期していたかのような、敵勢の配備。

 もちろん、ここまででも、誂えたような舞台設定だという所感はあった。
 だが、紗琥耶の言葉で確信に変わった。
 絵美は通信をスタンドアローンにし、プライベートヴァーチャルスペースに意識を潜らせる。
 今一度、状況の変遷をT.T.S.やP.T.T.S.から集めた総知覚報告メモリーレポート土台ベースに組み直した。そこに、鈴蝶が黙って送って来た証拠や証言と、絵美自身が探った資料を照らし合わせていく。
 状況と証拠がピタリピタリと符合していく。
 そして最後に残った空白に、紗琥耶の言葉を当てはめた。

『……これだ』

 絵美は頭の中で何度も何度も再検討を重ね、ついに確信を得た。

 紗琥耶の言った「私と同じ・・・・」は、生体組織梱包BOPという技術を指していた。
 その名の通り、巨大な肉塊ともいえるタンパク質をコンテナとして使用する技術だ。グロテスクな見た目とは裏腹に、主に卑湿な土地での運用に重宝され、軍事利用はもとより、被災地支援などにも活躍する。
 表皮の角質硬度を自在に調整、自力合成で脂質の生成も可能、使用後は内蔵のタンパク質分解酵素に活性コマンドを入力して3分で消滅。そうした自己完結性の高さが、環境への影響の少なさや場所の節約になる、というわけだ。
 この技術を転用したのが、紗琥耶の身体を構成するナノマシンというわけだ。
 同時に、これはグエル公園で起こっているイリュージョンの解法にも繋がる。
 それこそ、紗琥耶と同じ。
 あの場所にタイムトラベルさせればいいのだ。
 アントニオ・ガウディの作ったグエル公園の建造物として。
 しかしながら、建造物に紛れ込ませるなどという大仰な仕掛けをI.T.C.の目を盗んで行うのは、難しい。
 常に監視の目を向けられているにもかかわらず、それをすり抜ける技術が必要だ。
 それこそが、時代錯誤遺物オーパーツに該当する。
 TLJ-4300SHは箱を開けずに中身を変える装置だ。
 その入れ替わり先を逸らされたがゆえに、紗琥耶とエドワードは原子爆弾の焔に誘われた。
 それならば、武器を詰めた生体組織梱包BOPをガウディの建造物の中に跳ばせば、容易に中身を入れ替えることが出来る。
 では、そんなものを用意出来るのは誰か?
 もちろん、薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサスしかいない。
 RRRUIDO RUEDA薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサス。両者の繋がりは確定的と見ていいだろう。

 では、皇親子と粟生田外相は?
 これも、すぐに説明はつく。
 内務副大臣を務める皇栄太にとって、もっともうっとおしい相手こそ、T.T.S.だろう。
 治安維持を担う内務の仕事において、テロの標的にもなりうるT.T.S.は常に頭痛の種のはずだ。
 そんな彼が、大事な一人娘が攫われたとて、T.T.S.に助けを求めるわけがない。
 しかしながら、粟生田外相の外遊に共擦る形での娘捜索は悪手だった。
 人探しをする人間が目立たないわけがないのに。 しかしそれでは、虜囚となった皇議員たちはどこにいるのか?

「うん……そろそろ大詰めね」

 まとめ上がった考察を、元に、絵美はスタンドアローンを解除して、あの男に叫んだ。

「源!起きて!」

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