T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 4-8



 ~1937年5月15日PM4:15
カタルーニャ共和国 バルセロナ~

 芳しくない。
 端的に言って、そんな所見だった。
 鈴蝶からの情報を元に、紗琥耶は市場部分の地下に眠る貯水槽まで潜っていた。

「うーん、ここだと思ったんだけどな」

 トカゲ像の口からナノマシンの身体を一時的にバラバラにして侵入さえた彼女は、なみなみと水を湛えた地下槽を見下ろして唸る。
 鈴蝶のメッセージから、紗琥耶はどこかの時代の地下貯水槽に議員連中が監禁されているのだと考えた。その予測が正しければ、グレゴリーが現れたこの時代この場こそが最も可能性が高い。
 だが、現実は違った。
 すなわち、前提が崩れた。
 恐らく、その可能性には鈴蝶も気づいていたはずだ。
 だからこそ、断片的で抽象的な情報だけを紗琥耶に告げたのだ。
 そして、次手のヒントも、先の通信に示されている。
 いつまでだって通信可能な鈴蝶が、紗琥耶との通信を継続したまま確認報告を待たなかった。
 ならば、次手は彼女に相談が筋だろう。

「絵美たんいるぅ~?この時代に大臣たちいなそう。水が張ってるだけで何もない。そろそろ現在(あっち)イこうと思うけど、いいよね?」
《待って》

「へえ、応えてくれるんだ。もう出て来ないのかと思った」
《開き直っただけよ。今更隠したふりしたって白々しいだけでしょ》

「違う。そうじゃない。源以外に挿入れさせてくれるとは思わなかったって言ってんの」
《……》

「まあいいや。で?何で焦らされなきゃいけないの?」
《そうね……まずはそこから説明するわ》

 弓削田ロサの戦況報告を読み上げる絵美の声は、いたって冷静な落ち着いたトーンだった。
 決して源やロサに対する後ろめたさを臭わせず、いたずらに味方の損耗を招いた自身の判断に落ち度はなかった、と主張するように、平坦な口調で現状を紗琥耶に伝えて来る。
 その太々しさが、紗琥耶は好きだった。

《聞きたいことは一つだけ。RUIDO RUEDAはどうやってそんなに大量の武器を持ち込めたんだと思う?》
『さすがよ絵美ちゃん』

 出された問いに答えるのは簡単だ。
 でも、ただ応えるのは惜しかった。
 この女の頭の中で駒として振る・・・・・・舞うことを・・・・・選択する・・・・のはもったいない。

『どうしよう。どんな条件が一番興奮しノッてくれるんだろう?』

 頭の中が掻き混ぜられるような興奮が、オーガズムに似た快感をもたらした。
 紗琥耶は垂れる生唾を啜りあげることも忘れて取引条件を練り上げる。

「ねえ、絵美たん」
《……》

「明日寝不足になるけど、いいよね?」
《……構わないわ。そういうだろうと思ってたから》

 その言葉で、紗琥耶は痺れイッた。

『ああ、やっぱり!この子はこれだからたまらないのよ!』

 飽くなき生への欲望が貪欲に自意識に求める、強烈な生身の刺激。
 それは手の中で生命を壊す時の感覚か、オーガズムによる脳の痺れでしか、紗琥耶には贖えない。
 ちぐはぐな心と体のギャップが生むジレンマの中で、今夜も紗琥耶は楽しめることだろう。

「じゃあ教えてあげる。武器を持ち込んだ方法は私と同じ・・・・。捏ねて練って固めた土人形。それを石に見せ・・・・かければ、・・・・・きっと立派・・・・・な彫刻に見える・・・・・・・でしょうね」

 ハッと息を飲む声が聞こえた。
 きっとこの後、絵美は青洲を探しに行くことだろう。
 同時に、紗琥耶は自身の探しも見つけた。
 あるものがないように見せかけられている。
 それがこの騒動の根幹だ。

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