T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 4-6


~2176年9月30日AM4:18
ローヌ自治区リヨン~

 過去とは今に連なるピースであり、未来を敷く土台に他ならない。だからこそ、人は今出来ることに全力を注ぐ価値を見出す。

「これが上手くいけば旗色は一気に良くなる」

 紗琥耶との通信を終え、まだ暗いリヨンの街並み眺めながら、甘鈴蝶は溜息を吐いた。

『議員たちの身柄はこれで安心……けど、なんかまだ隠されてる気がする』

 彼女は絵美が敵勢をRUIDO RUEDAと称する前から、すでに敵のルーツがカタルーニャ独立運動から派生した組織と睨んでいた。
 きっかけは、軍事用着脱両面汎用性兵器MARTWだ。かなはじめ源の手によって一撃で粉砕されたそれを解析した結果、正規パーツの中に廃国独自自治区バルセロナ製の代替部品が混じっていることが判明した。
 続いて起こった皇幸美の時間跳躍、そして皇・粟生田両議員の失踪とニコラエ・ツェペシュの出現。
 奇妙なことに、すべてがカタルーニャ地方を示していた。
 とても偶然とは思えない。
 そう思ってニコラエのことを調べに来てみれば、思った以上の収穫があった。

「おや、珍しい顔がいるな」

 リヨンの地平線が白むのを睨んでいると、傍らの扉から男が顔を覗かせた。ニコリと人好きのする笑顔を向けてくるその黒人男性は、2M近い長身から手を差し出す。

「久しぶりだねティキ」

 握手に応じた鈴蝶の手を力強く握り返すのは、初のマサイ出身の捜査員となったティキだった。ファミリーネームのない文化圏からの出自は、入庁当初にこそ「非文明人」との差別的謗りを受けたそうだが、世界的な麻薬組織を壊滅させたティキは、その実績で悪評を捻じ伏せた。
 T.T.S.結成の折にはT.T.S.Master候補にも挙がった、鈴蝶の強力なライバルだ。

「まったく久しぶりだ。今日はT.T.S.はお休みかい?」

 どことなく裏を感じる言葉に苦笑しながら、鈴蝶は頭を振る。

「そうあったらいいのだけど、思いのほか大きな敵にぶつかってね。生憎まだ休めそうにないよ。今日は情報収集で来た。そういうキミは相変わらず麻薬の流通ルートの撲滅捜査かい?」

 世界的な麻薬組織はティキの手腕で消滅した。
 だが、玉座が空けばその席を争う者たちが出るのは必定だ。今もって麻薬組織間の覇権争いは絶えず。流通ルートの支配権は時々刻々と入れ替わっている。
 しかしながら、そんな話はT.T.S.とはなんの関係もない。鈴蝶にとって、与太話でしかなかった。
 のだが。

「まあね。でも最近は麻薬以外の荷物・・・・・・・も増えてきてね」
「……へえ、困ったものだね。どこまで分かっている・・・・・・・・・・んだい?教えてくれれば、なにかこちらで協力出来るかもしれない」

 さすがの情報収集力を見せつけるティキの放った、麻薬以外の荷物・・・・・・・という言葉は無視出来なかった。
 問題は、引き換えになにを求められるか、だ。
 まあ、鈴蝶はティキ以上にT.T.S.を信用している。たとえ何が来ようと、T.T.S.は負けない。

「ありがとう鈴蝶。君たちの助勢が得られるなら、とても心強いよ。近々お願いするかもしれない」
『半年以内、でしょう?』

 鈴蝶とて、ティキの動静は把握している。2ヶ月以内には、彼から申し訳なさを装ったお願い・・・が来るだろう。

「喜んで協力させてもらうよ。……でも獲物が何か分からないと対処も難しい。どんな獲物なんだい?」

 ニコリと嬉しそうに笑って、ティキは鈴蝶を抱き締めた。

「ありがとう鈴蝶!いやぁ本当にT.T.S.がいてよかったよ!実に頼もしい!」

 耳元で叫ぶのはご遠慮いただきたいのだが、隠す・・にはこれくらいしてもらった方がいい。声を潜めた時の聞き取りづらさが上がる。

「それで?麻薬以外に一体何が運ばれているんだい?」

 ボソリと紡いだ言葉に、ティキの口角が上がる。
 前借の悦に気分が高まっているのが気配で分かった。

「昨夜の目玉は軍事用着脱両面汎用性兵器MARTWの廉価パーツだ。今朝かなはじめ君が潰した軍事用着脱両面汎用性兵器MARTWに使われていたアレだよ」
「……ティキ、貴方どんだけT.T.S.私たちが好きなのよ」

「愚問だな。TLJ-4300SHタイムマシンに加え、超人を何人も抱えたT.T.S.君たちが注視されるのは当然だろう?」

 思わず溜息が出た。

『意識的にそれを忘れる努力も知らないで』

 薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサスがいなければ、世界がT.T.S.を最大の脅威と見るのは、鈴蝶にも分かっていた。
 しかし、その事実だけを重視しても、いい結果は生まれない。下手な規制や戒厳は、むしろ彼らのモチベーションを下げ、パフォーマンスを低下させることだろう。

『だからこそ、彼らの自主性と自由を守るのが私の役目なわけだけど』

 とにもかくにも、今必要な情報は揃った。

「ありがとうティキ!いざという時は、安心してT.T.S.私たちに任せなさい!」

 細いながらもしなやかでつよいティキの腕を解いて、鈴蝶は足早に出口に向かう。
 少し考えてから、彼女はメッセージを出した。

「絵美ちゃん。どうせ全部勝手に動いているんでしょう?面白いことが分かったから、共有しておく。盤面は最終局面。気を抜かずに行きましょう」

 返答はない。
 当然だ。表向き、彼女は任を解かれているのだから。
 しかし、だからこそ鈴蝶は絵美が確実にメッセージを理解したと信じられる。
 だから、鈴蝶の足は自然とグエル公園に爪先を向けた。
 そろそろ、あちらも片がつく頃だろう。

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