T.T.S.
FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 4-2
2
~1937年5月15日PM3:16
カタルーニャ共和国 バルセロナ~
真っ暗闇でも砲火でわかった。
MP18/1。短機関銃黎明期の代名詞ともいえるヒューゴ・シュマイザー設計の名器は、この形態の銃器の始祖として、2つの世界大戦を駆け抜けた。
栄誉ある9mmパラベラムの雨が降り注ぐのを見て、源は幸美の前に躍り出る。凶運の掴み手の艶めきも、源自身の姿も、光学迷彩のベールに包まれて相手には見えないだろう。
バチリバチリと凶運の掴み手が波打ち、左腕の中で射出された弾丸が塊を成していく。超人的な源の動体視力は、的確に弾丸の一発一発を捉え、手の中でピンポンボール大にまで固めていた。
「ほれ、装填してやんぞ!」
加減して投げ抜いた弾丸を、グレゴリーは間一髪柱の影に隠れて躱す。
すかさず源は背中越しに幸美に叫んだ。
「今だ!紗琥耶に向かって走れ!」
これが、源の考えた最善手だった。
紗琥耶を狙ってやってきたグレゴリーを、あえて紗琥耶とは戦わせない。当然だ。幸美も紗琥耶もグレゴリーに面が割れている。だから、もっとも関係性の薄い源が闘うことにした。
一瞬の逡巡の後、幸美は源の背中から離れて走り出す。その気配を察した源は、光学迷彩を解いてその身を曝した。
「来いよグレゴリー!邪魔もいねぇ。存分に殺り合えんぞ!」
両手を拡げて腰を落とし、通さない意志と徹底的に抗戦する意志を示し、ついでに、グレゴリーにもやる気を出してもらうために言葉を継ぐ。
「あとな、お前なんか勘違いしてっけど。エドのアホにトドメ差したのは俺だからな」
束の間、静寂があった。
その意味はすぐに知れる。
柱の影から姿を現したグレゴリーは、腰だめに構えたMP18/1の銃口をしっかりと源に向けていた。
「あの女を庇いだてしてもいいことはないぞ」
「んで俺があの糞ビッチ庇わなきゃなんねぇんだよ、バカかテメェ。っつかどぉしてあのアマ始末しとかねぇんだよ、どんだけ迷惑してると思ってんだ。ったくよぉ」
「そうか、やはりあの女は厄災だな」
「んな大層なもんでもねぇよ。あんなんただの糞面倒臭ぇ腐れアマだ」
「そうか、そうだな。あれだって所詮は人間だ……」
あれとはまた随分な言いようだが、源は抗議する気もなかった。別段紗琥耶に対する評に思うところはないし、グレゴリーの言葉は彼自身に向いている。
だが、そのままゆっくり冥想に入られても迷惑だ。
「で?どぉすんだ?」
改めてハッキリさせよう。
「俺と戦うのか?戦わねぇのか?」
答えは、グレゴリーの声ではなく9mmの銃声で答えられた。
「当然お前も殺す!あの女と共にエドに謝罪しに逝け!」
「なに言ってんだ?あの死にかけを始末してやったんだ、感謝こそされても謝ることなんざねぇよ!」
MP18/1のカタツムリ型の弾倉が、計32発の雨を次から次へと降らす。それらを握り止め、弾き飛ばし、叩き落としながら、源は着実にグリゴリーとの間合を詰めていった。
しかしながら、グレゴリーとて一流の兵士だ。手応えのない攻撃に拘泥しない。すぐに彼の次の策を打った。
「蚩尤!追加機械腕を展開しろ!」
グレゴリーが自身のOSAIにそう叫ぶと、彼の背骨を補強するバックボーンインプラントから2本の腕が生えた。脇腹の辺りから生えたそれは、腰のホルスターからマイクロウェーブシューターを抜く。
『やっぱそぉくるよな』
当然、源は予測していた。
現状、グレゴリーが唯一源に使用し、そして見事足止めさせた兵器。なにより、物理兵器に最強の耐性を持つ源に対して最も有効な非物質の熱運動レーダー兵器。懸念材料として十分な代物だ。
だからこそ、源はMP18/1の弾を左手の凶運の掴み手一つで捌いていた。左目で捉えた弾の雨を左手一つで捌くのは、非常にストレスのかかる作業だったが、どうにか耐えきった。ここからは、神を掴む手の能力を存分に発揮して対峙する。
MP18/1とマイクロウェーブシューター2丁を連射しつつ、グレゴリーはジリジリとホールの奥へと後退していく。柱の遮蔽を攻撃リズムの転調に利用する見事な立ち回りは、彼の経歴が決してイカサマではない照査だ。
『上手ぇな……ならこれでどぉだ』
敵ながら見事な立ち回りをするグレゴリーだが、彼は知らなかった。
い源の得意分野には、室内での潜入任務もあるのだ。ゆえに、源は大胆に戦法を変えた。光学迷彩を纏い、ドーリア式の柱のでっぱりを掴む。そして、さながら蜘蛛のように壁を掴んで飛び回り、グレゴリーの背後に回り込んだ。
しかし、切れ者のグレゴリーは光学迷彩の使用を瞬時に看破する。
「炙り出してやる」
『……の野郎!』
躊躇いなく放り上げられたチャフグレネードが眼前に迫って、慌てて源はグレゴリーに飛び掛かった。細切れの銀紙の爆発が起こす局所的な空間の鏡面化が、アッサリと光学迷彩のベールを剥す。
そして、空中から人間が現れるという超常的な現象にも、柱を背にしたグレゴリーは冷静に即応した。
アッサリMP18/1を投げ捨て、破滅との握手で固めた右手を伸ばす源の懐に潜りこむ。そのままグレゴリーは脚を前に伸ばし仰向けに身体を傾け、源の襟首を掴んで巴投げした。
「ブハッ!」
飛び掛かった勢いのまま背中から柱に叩きつけられた源は、詰まった息を整える間もなく、追加機械腕で押さえつけられる。
「終わりだ」
いつの間に追加機械腕から腕にスイッチしたのか、マイクロウェーブシューターを眉間に突きつけられた。グレゴリーが引き金を引けば、あっという間に脳が熱で壊死するだろう。そんな絶体絶命な局面にあって、それでも源は笑った。
「どぉだろぉなぁ?」
追加機械腕に押さえつけられた左手の凶運の掴み手の中。
今しがたグレゴリーが捨てたMP18/1の放った9mmパラベラムが、一発だけ隠されていた。
雷管が弾け、火薬が炸裂して射出される過程を、源の親指がコイントスの要領で再現する。
ハッとしたグレゴリーの眉間に穴が開き、その表情が凍りついた。ズシリとグレゴリーの死体に圧し掛かられながら、源は呟く。
「やれやれウンザリだ……ったく」
~1937年5月15日PM3:16
カタルーニャ共和国 バルセロナ~
真っ暗闇でも砲火でわかった。
MP18/1。短機関銃黎明期の代名詞ともいえるヒューゴ・シュマイザー設計の名器は、この形態の銃器の始祖として、2つの世界大戦を駆け抜けた。
栄誉ある9mmパラベラムの雨が降り注ぐのを見て、源は幸美の前に躍り出る。凶運の掴み手の艶めきも、源自身の姿も、光学迷彩のベールに包まれて相手には見えないだろう。
バチリバチリと凶運の掴み手が波打ち、左腕の中で射出された弾丸が塊を成していく。超人的な源の動体視力は、的確に弾丸の一発一発を捉え、手の中でピンポンボール大にまで固めていた。
「ほれ、装填してやんぞ!」
加減して投げ抜いた弾丸を、グレゴリーは間一髪柱の影に隠れて躱す。
すかさず源は背中越しに幸美に叫んだ。
「今だ!紗琥耶に向かって走れ!」
これが、源の考えた最善手だった。
紗琥耶を狙ってやってきたグレゴリーを、あえて紗琥耶とは戦わせない。当然だ。幸美も紗琥耶もグレゴリーに面が割れている。だから、もっとも関係性の薄い源が闘うことにした。
一瞬の逡巡の後、幸美は源の背中から離れて走り出す。その気配を察した源は、光学迷彩を解いてその身を曝した。
「来いよグレゴリー!邪魔もいねぇ。存分に殺り合えんぞ!」
両手を拡げて腰を落とし、通さない意志と徹底的に抗戦する意志を示し、ついでに、グレゴリーにもやる気を出してもらうために言葉を継ぐ。
「あとな、お前なんか勘違いしてっけど。エドのアホにトドメ差したのは俺だからな」
束の間、静寂があった。
その意味はすぐに知れる。
柱の影から姿を現したグレゴリーは、腰だめに構えたMP18/1の銃口をしっかりと源に向けていた。
「あの女を庇いだてしてもいいことはないぞ」
「んで俺があの糞ビッチ庇わなきゃなんねぇんだよ、バカかテメェ。っつかどぉしてあのアマ始末しとかねぇんだよ、どんだけ迷惑してると思ってんだ。ったくよぉ」
「そうか、やはりあの女は厄災だな」
「んな大層なもんでもねぇよ。あんなんただの糞面倒臭ぇ腐れアマだ」
「そうか、そうだな。あれだって所詮は人間だ……」
あれとはまた随分な言いようだが、源は抗議する気もなかった。別段紗琥耶に対する評に思うところはないし、グレゴリーの言葉は彼自身に向いている。
だが、そのままゆっくり冥想に入られても迷惑だ。
「で?どぉすんだ?」
改めてハッキリさせよう。
「俺と戦うのか?戦わねぇのか?」
答えは、グレゴリーの声ではなく9mmの銃声で答えられた。
「当然お前も殺す!あの女と共にエドに謝罪しに逝け!」
「なに言ってんだ?あの死にかけを始末してやったんだ、感謝こそされても謝ることなんざねぇよ!」
MP18/1のカタツムリ型の弾倉が、計32発の雨を次から次へと降らす。それらを握り止め、弾き飛ばし、叩き落としながら、源は着実にグリゴリーとの間合を詰めていった。
しかしながら、グレゴリーとて一流の兵士だ。手応えのない攻撃に拘泥しない。すぐに彼の次の策を打った。
「蚩尤!追加機械腕を展開しろ!」
グレゴリーが自身のOSAIにそう叫ぶと、彼の背骨を補強するバックボーンインプラントから2本の腕が生えた。脇腹の辺りから生えたそれは、腰のホルスターからマイクロウェーブシューターを抜く。
『やっぱそぉくるよな』
当然、源は予測していた。
現状、グレゴリーが唯一源に使用し、そして見事足止めさせた兵器。なにより、物理兵器に最強の耐性を持つ源に対して最も有効な非物質の熱運動レーダー兵器。懸念材料として十分な代物だ。
だからこそ、源はMP18/1の弾を左手の凶運の掴み手一つで捌いていた。左目で捉えた弾の雨を左手一つで捌くのは、非常にストレスのかかる作業だったが、どうにか耐えきった。ここからは、神を掴む手の能力を存分に発揮して対峙する。
MP18/1とマイクロウェーブシューター2丁を連射しつつ、グレゴリーはジリジリとホールの奥へと後退していく。柱の遮蔽を攻撃リズムの転調に利用する見事な立ち回りは、彼の経歴が決してイカサマではない照査だ。
『上手ぇな……ならこれでどぉだ』
敵ながら見事な立ち回りをするグレゴリーだが、彼は知らなかった。
い源の得意分野には、室内での潜入任務もあるのだ。ゆえに、源は大胆に戦法を変えた。光学迷彩を纏い、ドーリア式の柱のでっぱりを掴む。そして、さながら蜘蛛のように壁を掴んで飛び回り、グレゴリーの背後に回り込んだ。
しかし、切れ者のグレゴリーは光学迷彩の使用を瞬時に看破する。
「炙り出してやる」
『……の野郎!』
躊躇いなく放り上げられたチャフグレネードが眼前に迫って、慌てて源はグレゴリーに飛び掛かった。細切れの銀紙の爆発が起こす局所的な空間の鏡面化が、アッサリと光学迷彩のベールを剥す。
そして、空中から人間が現れるという超常的な現象にも、柱を背にしたグレゴリーは冷静に即応した。
アッサリMP18/1を投げ捨て、破滅との握手で固めた右手を伸ばす源の懐に潜りこむ。そのままグレゴリーは脚を前に伸ばし仰向けに身体を傾け、源の襟首を掴んで巴投げした。
「ブハッ!」
飛び掛かった勢いのまま背中から柱に叩きつけられた源は、詰まった息を整える間もなく、追加機械腕で押さえつけられる。
「終わりだ」
いつの間に追加機械腕から腕にスイッチしたのか、マイクロウェーブシューターを眉間に突きつけられた。グレゴリーが引き金を引けば、あっという間に脳が熱で壊死するだろう。そんな絶体絶命な局面にあって、それでも源は笑った。
「どぉだろぉなぁ?」
追加機械腕に押さえつけられた左手の凶運の掴み手の中。
今しがたグレゴリーが捨てたMP18/1の放った9mmパラベラムが、一発だけ隠されていた。
雷管が弾け、火薬が炸裂して射出される過程を、源の親指がコイントスの要領で再現する。
ハッとしたグレゴリーの眉間に穴が開き、その表情が凍りついた。ズシリとグレゴリーの死体に圧し掛かられながら、源は呟く。
「やれやれウンザリだ……ったく」
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