T.T.S.
FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 3-5
5
エドワードと紗琥耶を見送った絵美と源の聴覚野にアスマア・マフフーズの声が響いた。
「お2人共待機任務お疲れ様です。No.1、No.2の両名がTLJ-4300SH-吽號にスタンバイ完了しました。よって、お2人も待機場所を変更してI.T.C.までお越しください」
煙草を揉み消した源がおもむろに立ち上がる。
その頃には、絵美は壁に背をつけていた。
「早く!」
「張り切ってんねぇ」
源も背伸びしてから後に続く。
「Va ou tu peux, meurs ou tu dois」
「Up,Down,Jack Ass!」
下に降りてからも、絵美の気合は凄かった。
妙に姿勢よく背筋の伸びた青洲への挨拶もそこそこに、足早にI.T.C.へ向かう背中からは緊張からくる力みが伝わってくる。
『こりゃちと鎮めてやんなきゃマジィな』
思うより早く、源は絵美の両脇腹に指を立てて掴みかかった。
「うっひゃ!何すんのよ!」
「うぉ裏拳速ぇ!」
「何よ!?」
「落ち着け」
「エドも紗琥耶も頑張ってるの!私たちも」
「じゃあ今具体的に何できんだよ」
グッと言葉に詰まった絵美に溜息を吐いて、源は煙草に火を点けた。
「スピリッツ効いてねぇなぁ。でもよ、気を回すより頭を回すのがお前のすべきことだろ?」
「……ごめん」
「頼むぜ相棒」
「ごめんなさい」
絵美は自分の顔を思い切り叩く。
パアン!と派手に響いた音を聞き付け、青洲が顔を覗かせた。
「すみません平賀さん、私は大丈夫です」
ペコリと頭を下げて、絵美は再び前を向く。
今度は力まず淡々と歩み出したのを見て、源は青洲にウインクして後に続いた。
兵器及び時空間跳躍機管理部門脇から固いセキュリティを挟んだところに、TLJ-4300SHの阿號が存在した。通常T.T.S.のメンバーは誰一人として通行を許可されていないが、今日はT.T.S.Masterの許可が下りている。
《T.T.S.No.2およびNo.4を認識。一時認証コードを入力してください》
「Rat Vache व्याघ्रः 兎 Drache سانپ」
「лошадь Hipi Monyet Pták 개 野猪」
静かに12単語並べた源と絵美の前で、気圧の変化を表すエアーの音が響いた。
観音開きの扉の先では、喫茶スペースに腰掛けコーヒーカップを傾けるアスマアと鈴蝶の姿がある。
「お疲れ様です」
「うぃっす」
呑気に手を挙げる2人にも、もはや絵美も苛立ったりはしなかった。
「お疲れ様です。こちらで待機していればよろしいでしょうか?」
「はい。有事の時はアラームが鳴りますので、それまではこちらで待機をお願いします」
「そぉさせてもらわぁ」
入るなり一直線にカウンターのコップを2つ取った源は、ソファに腰掛け、ティーテーブルにコップを1つ置く。そして底から湧き上がったコーラをグイと煽って、もう1つのコップを絵美に投げた。
「ほれ、絵美もどっか座ってろ」
「隣空けて、初任務成功の乾杯を2人で待ちましょう」
「絵美さんはゆっくりなさってください。源は立ってろ!」
「エリ、お疲れ様」
「おぉおぉ、元気一杯やる気満々で何よりだぜエリちゃん」
手厳しいコメントを鋭い口調で投げたのは紙園エリ。
源の手で確保された元テロリストで、現在はI.T.C.の技師だ。
彼女の顔つきはやつれきっていた。
目は虚ろながらぎらついており、口元もせわしなくヒクついている。
しかしながら、それは“初の時空間跳躍任務で緊張しているから”ではない。
「免罪を条件に悪どい契約結ばせてよく言うわ!」
「喚くな、黙って仕事しろ」
「手前……」
「紙園さん。そろそろ始めます、所定の位置についてください」
「……了解しました」
堪忍袋の緒が切れ掛かったエリをピシリと縫い留めたのは、TLJ-4300SH阿號調整部門の指揮官で、通称Conductor、アレッサンドラ・グレイス・ベルだった。
“穴倉の雪の女王”と称されるアルビノ体質の彼女は、その透き通るような白く長い髪と白い肌で薄暗いオペレーションルームを神々しく照らし、深紅の瞳は周囲を鋭く猊下する。それを前にしては、元テロリストも形なしだ。噛みつかんばかりに源を睨むエリも戻るしかない。
その様子をジッと見送り、アレッサンドラはアスマアに頭を下げる。
「Master、始めます。よろしいですね?」
「はい、よろしくお願いいたします」
事務的なやり取りを終え、アレッサンドラは源に目を向けた。
「そこで大人しく座っていなさい。貴方のような存在に暴れられるのは大変迷惑です」
「ハッキリ言ってくれんじゃねぇか」
「止めて、お願いだからジッとしてて」
「よろしくお願いします」
エリのお陰か悪し様に扱われる源を宥めつつ、絵美はアレッサンドラに頭を下げる。
しかし、絵美の言葉には答えずに、アレッサンドラは踵を返した。
ワザとらしく舌打ちした源の膝を叩いて、絵美はその膝を握る。
いよいよ、その時が来た。
「では始めましょう。これより、T.T.S.No.1トマス・エドワード・ペンドラゴンおよびT.T.S.No.3ジェーン・紗琥耶・アークの時空間跳躍を行います。各位、状況開始」
「TLJ-4300SH吽號をスリープより解凍」
「通電圧を30ZeVまで上昇」
「跳躍先磁場確認。類似惑星候補より、総海面面積を元に70%カット」
「96%カット」
「CLHC内にてミニカー・ブラックホールの発生を確認」
「99%カット。跳躍先磁場を固定。並びに、該当地陽イオン濃度の変異を感知。固定完了」
「これより帰還跳躍用位相空間の先行跳躍を開始」
「帰還跳躍用位相空間の先行跳躍に合わせ、跳躍者のヒッグス粒子を検索並びにタキオン粒子への置換を開始」
「置換率45%」
「87%」
「100%。時空間跳躍、開始します」
エドワードと紗琥耶を見送った絵美と源の聴覚野にアスマア・マフフーズの声が響いた。
「お2人共待機任務お疲れ様です。No.1、No.2の両名がTLJ-4300SH-吽號にスタンバイ完了しました。よって、お2人も待機場所を変更してI.T.C.までお越しください」
煙草を揉み消した源がおもむろに立ち上がる。
その頃には、絵美は壁に背をつけていた。
「早く!」
「張り切ってんねぇ」
源も背伸びしてから後に続く。
「Va ou tu peux, meurs ou tu dois」
「Up,Down,Jack Ass!」
下に降りてからも、絵美の気合は凄かった。
妙に姿勢よく背筋の伸びた青洲への挨拶もそこそこに、足早にI.T.C.へ向かう背中からは緊張からくる力みが伝わってくる。
『こりゃちと鎮めてやんなきゃマジィな』
思うより早く、源は絵美の両脇腹に指を立てて掴みかかった。
「うっひゃ!何すんのよ!」
「うぉ裏拳速ぇ!」
「何よ!?」
「落ち着け」
「エドも紗琥耶も頑張ってるの!私たちも」
「じゃあ今具体的に何できんだよ」
グッと言葉に詰まった絵美に溜息を吐いて、源は煙草に火を点けた。
「スピリッツ効いてねぇなぁ。でもよ、気を回すより頭を回すのがお前のすべきことだろ?」
「……ごめん」
「頼むぜ相棒」
「ごめんなさい」
絵美は自分の顔を思い切り叩く。
パアン!と派手に響いた音を聞き付け、青洲が顔を覗かせた。
「すみません平賀さん、私は大丈夫です」
ペコリと頭を下げて、絵美は再び前を向く。
今度は力まず淡々と歩み出したのを見て、源は青洲にウインクして後に続いた。
兵器及び時空間跳躍機管理部門脇から固いセキュリティを挟んだところに、TLJ-4300SHの阿號が存在した。通常T.T.S.のメンバーは誰一人として通行を許可されていないが、今日はT.T.S.Masterの許可が下りている。
《T.T.S.No.2およびNo.4を認識。一時認証コードを入力してください》
「Rat Vache व्याघ्रः 兎 Drache سانپ」
「лошадь Hipi Monyet Pták 개 野猪」
静かに12単語並べた源と絵美の前で、気圧の変化を表すエアーの音が響いた。
観音開きの扉の先では、喫茶スペースに腰掛けコーヒーカップを傾けるアスマアと鈴蝶の姿がある。
「お疲れ様です」
「うぃっす」
呑気に手を挙げる2人にも、もはや絵美も苛立ったりはしなかった。
「お疲れ様です。こちらで待機していればよろしいでしょうか?」
「はい。有事の時はアラームが鳴りますので、それまではこちらで待機をお願いします」
「そぉさせてもらわぁ」
入るなり一直線にカウンターのコップを2つ取った源は、ソファに腰掛け、ティーテーブルにコップを1つ置く。そして底から湧き上がったコーラをグイと煽って、もう1つのコップを絵美に投げた。
「ほれ、絵美もどっか座ってろ」
「隣空けて、初任務成功の乾杯を2人で待ちましょう」
「絵美さんはゆっくりなさってください。源は立ってろ!」
「エリ、お疲れ様」
「おぉおぉ、元気一杯やる気満々で何よりだぜエリちゃん」
手厳しいコメントを鋭い口調で投げたのは紙園エリ。
源の手で確保された元テロリストで、現在はI.T.C.の技師だ。
彼女の顔つきはやつれきっていた。
目は虚ろながらぎらついており、口元もせわしなくヒクついている。
しかしながら、それは“初の時空間跳躍任務で緊張しているから”ではない。
「免罪を条件に悪どい契約結ばせてよく言うわ!」
「喚くな、黙って仕事しろ」
「手前……」
「紙園さん。そろそろ始めます、所定の位置についてください」
「……了解しました」
堪忍袋の緒が切れ掛かったエリをピシリと縫い留めたのは、TLJ-4300SH阿號調整部門の指揮官で、通称Conductor、アレッサンドラ・グレイス・ベルだった。
“穴倉の雪の女王”と称されるアルビノ体質の彼女は、その透き通るような白く長い髪と白い肌で薄暗いオペレーションルームを神々しく照らし、深紅の瞳は周囲を鋭く猊下する。それを前にしては、元テロリストも形なしだ。噛みつかんばかりに源を睨むエリも戻るしかない。
その様子をジッと見送り、アレッサンドラはアスマアに頭を下げる。
「Master、始めます。よろしいですね?」
「はい、よろしくお願いいたします」
事務的なやり取りを終え、アレッサンドラは源に目を向けた。
「そこで大人しく座っていなさい。貴方のような存在に暴れられるのは大変迷惑です」
「ハッキリ言ってくれんじゃねぇか」
「止めて、お願いだからジッとしてて」
「よろしくお願いします」
エリのお陰か悪し様に扱われる源を宥めつつ、絵美はアレッサンドラに頭を下げる。
しかし、絵美の言葉には答えずに、アレッサンドラは踵を返した。
ワザとらしく舌打ちした源の膝を叩いて、絵美はその膝を握る。
いよいよ、その時が来た。
「では始めましょう。これより、T.T.S.No.1トマス・エドワード・ペンドラゴンおよびT.T.S.No.3ジェーン・紗琥耶・アークの時空間跳躍を行います。各位、状況開始」
「TLJ-4300SH吽號をスリープより解凍」
「通電圧を30ZeVまで上昇」
「跳躍先磁場確認。類似惑星候補より、総海面面積を元に70%カット」
「96%カット」
「CLHC内にてミニカー・ブラックホールの発生を確認」
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