T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 3-3



 エドワードは、地下深くに降り立った。

『ここもか』
「みんな火照ってる」

「そうだね」

 一歩を踏み出した瞬間、今自分がいる場所が、紛れもなく前線基地なのだと確認する。
 すぐに背中に乗ってきた紗琥耶もその空気を理解したようだ。
 懐かしさすら感じるその雰囲気に、背筋が伸びる。
 平賀青洲を始め、その場にいる全員が、ピリピリとした緊張感とギチギチのストレスに雁字搦めにされ、隣に立つ者にすら視線が向いていなかった。
 ともすれば一瞬でバランスを崩してパニックに陥りかねない場の雰囲気を前に、エドワードはその気質と経験から、すべきことを自然と行う。

「平賀さん。今日はよろしくお願いします」
「任せておけ。俺が責任を持ってお前たちを送ってやる。だからお前たちも気をつけてな」

「あは、お爺ちゃん何そのテンション!超ウケる!」
「紗琥耶、からかうんじゃない。僕たちの命を受け持ってくれるんだ。感謝こそすれ、侮辱するなんて僕が許さないぞ」

 紗琥耶が絶妙に緩めた雰囲気を、一気に修正してストレスと緊張の矛先を本懐に向ける。
 思えば、あの源でさえ緊張していた。あんなにはっきり意思表示する彼は珍しい。
 チシャ猫のようにニマニマと笑いながら引っ込む紗琥耶を遮って、エドワードは頭を下げた。

「すみません。どうぞ僕たちの時間跳躍をよろしくお願いします」
「いっそ頼もしいってなもんだ。まかせろ」

「お爺ちゃん、ツールアプリの復習しながら一緒にイコ♪」

 豪気に頷く青洲に頭を下げて、エドワードは奥へと歩を進める。
 背中にくっつく紗琥耶と青洲の遣り取りをそれとなく聞いていると、前方に2人の人影が見えてきた。

「トマス・エドワード・ペンドラゴン。ジェーン・紗琥耶・アーク」
「お疲れ様ぁ」

「Mastert。おや、Vice-Masterまで」

 T.T.S.Masterアスマア・マフフーズとT.T.S.Vice-Master甘鈴蝶のコンビは、それぞれが潔癖と怠惰の見本のようで、これでよくコンビを組んでいられるものだとエドワードは感心する。

「まで、とは言ってくれるねーエド」
「失礼、ですが貴女にまで来ていただけるのは心強いです」

「それは私では心許ないという意味ですか?」
「い、いえMaster、決してそのような意味では」

「Master、イジメちゃかわいそうですよー」

 できるだけ触れないようにしていたのだが、本人が言い出してしまっては仕方がない。
 今日こうして初任務を迎えるまで、アスマアは様々な手続きに追われ、ほとんど本部におらず、代理でここを取り仕切った鈴蝶の方が、T.T.S.メンバーには馴染みの存在となっていた。
 そのことを、アスマアも気にしていたとまではエドワードも思い至らない。

「Master、僕は」
「いいえ、おっしゃらずとも結構です。私なりの冗談だったんですが、ちょっと質が悪かったわね。失礼したわ」

 フッと表情を和らげて、アスマアは書類を差し出した。

「任務概要です。すでに把握済みとは思いますが、念のためこの場で再確認を。そちらの最終確認が済み次第、書類はすぐに回収させていただきます」
「アヌスさん相変わらずまじめー」

「私の!名前は!アスマアです!……まったく貴女は」
「紗琥耶!」

「はーい。アタシにも見せてー」

 もう何度も見直した書類を検め直す。

Operation Code:G-0023
概要
 本任務は2168.9.28 19:32にブルキナファソ共和国ワガドゥグー市のコトブキビルディング48Fにて発生した緋雅嵯紫音氏の誘拐とTLJ-4300SH設計データの強奪の阻止を主任務とし、その後の生還までも任務とする。
 跳躍先では主要任務にまつわるもの以外のあらゆる事象への干渉を禁ずる。
 TLJ-4300SHの折り返し便は任務対象日時の2168.9.28 19:32から90分後の2168.9.28 21:02に同フロア西側の男性用個室トイレの掃除ロボット充電スペースに展開。
 これに間に合わなかった場合、予備人員を投入。任務を続行する。
 本任務は人類史のみならず、この世界そのものの存亡を賭けたものであり、達成の重要度は極めて高いマストコンプリート

着任人員
 T.T.S.No.1 トマス・エドワード・ペンドラゴン
 T.T.S.No.3 ジェーン・紗琥耶・アーク

予備人員
 T.T.S.No.2 かなはじめ
 T.T.S.No.4 正岡絵美

 その後も長々と続く、すでに頭に入っている以上でも以下でもない情報に、それでもキッチリと確認して、エドワードは書類から顔を上げる。

「できれば源の支援が欲しいところなんですがね」
「まーた言ってる。あの中毒者ホント好きだよね」

「ご所望なら任務を長引かせることですね。決しておすすめしませんが」
「……了解しました」

「いやいや、やろうとしないでね!色々追加手続きなんかも大変なんだからさ!」

 ひとしきり笑って、アスマアは胸を撫で下ろした。

「わかっていましたが、安心しました。あなた達にすべてお任せします。どうか私達を、この世界を護ってください」

 深々と頭を下げるアスマアを見て、鈴蝶もまた頭を下げる。
 2人の大人の三跪九叩に、さすがの紗琥耶もエドワードの背から降りた。

「行って参ります」
「いってきまーす」

 書類をアスマアに返し、エドワードと紗琥耶は更に奥へと脚を向ける。
 もはや、誰の見送りもなく、後にも続かない。
 今と断絶した世界の入口が、紛れもなくそこにあった。

「T.T.S.」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く