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T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 2-8




 TLJ-4300SHの跳躍を見届けた鈴蝶と絵美は、Alternativeのヴァーチャルロビーでスタンドテーブルを囲み、グラスを傾けていた。


「ふぅ……取り敢えず、あの二人を無事送り出せて何よりだ」


 手近なソファーに腰掛け鈴蝶が胸を撫で下ろす。
 後に続こうとした絵美だったが、僅かな逡巡が彼女の足を止めた。


「あの、本当にごめんなさい。あの二人に任せる事態になってしまって」


 喉を潤していた鈴蝶はグラスを戻して溜息を吐く。


「また貴女は……気にしなくていい。確かに分の悪い賭けではある。だけど、貴女は出目の調整だってしてくれたでしょう?」


 絵美は恐縮するばかりだが、今の彼女にはそんな表情を見せるべきでない相手もいる。


「絵美さん、署長に緊急配備の要請を容認させました」


 例えば今ログインして来たロサだ。


「ありがとうロサ、よく通してくれたわね」


 舌を巻く程一瞬で絵美の表情が切り替わる。
 確かな自信を纏ったその笑顔を見て、鈴蝶は絵美にT.T.S.を纏める役目を任せた自身の判断が間違いなかったと独り言ちた。


 その威厳が為せる業なのだろう、ロサは忠犬の様に嬉々として報告を始める。


「とんでもないです。T.T.S.Masterの署名を見て飛び上がってましたよ署長。ところであの、賭けってどういう事ですか?」


「ああ、それは……」


 ニコニコと嬉しそうだったロサの笑顔が遠慮がちなそれに変わり、いよいよ小首を傾げ出した所で、絵美の笑顔に戸惑いが混じって鈴蝶まで逃げて来た。


 Alternativeの経歴は知っているし、絆の強さは今見せて貰ったばかりだ。
 今ならば、鈴蝶はAlternativeを信用出来る。立場は違えど、同じ志を持つ者達なのだと。


「話してあげてもいいんじゃない?Alternativeばかりに情報を出させるのは、不公平でしょ」


「……わかりました。実は私も愚痴を聞いて欲しかったのよ」


 おおう、と溜息が出そうになるのをグッと堪えて、鈴蝶はロサに向ける絵美の疲れた笑顔を心中大いに労った。中間管理職の悲哀は鈴蝶も知る所だ。共感に涙を禁じ得ない。


 本部の様子を見ていたロサも思う所があるのか、鈴蝶に視線を向けた。


「T.T.S.ってカウンセリングとか付けてないんですか?」


 これには鈴蝶も閉口するしかない。
 何を隠そう、それはT.T.S.Masterとしての懸案事項でもあるからだ。


「うーん、元々一人常駐がいたんだけど。今長期休暇中なんだよね。代替人員の確保も急いでるんだけど、I.T.C.に入れて問題のない人格と経歴の持ち主でないと色々具合も悪いし、中々見付からないんだ」


 T.T.S.に関わる人員に求められる秘匿義務の重さは、尋常な重さではない。あ、源と紗琥耶は無視して下さい。


 常駐カウンセラーを務めるビアンカ・ヴント女史は鈴蝶の言った通り長期休暇中だが、彼女には監視員と護衛の同行とI.T.C.セキュリティAIに全感覚共有する事を義務付けられていた。
 プライバシーを侵害する許されない措置だが、ゲリラ的に市井に紛れる薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサスや他の反T.T.S.組織が相手である以上、略取や殺害の危険もあるメンバーには全員同じ措置を取らざるを得なかった。


 ちなみに、源と紗琥耶に限って言えば、この措置の対象外になっている。二人共、一人で一個師団を相手に出来る実力を備えているからだ。


 だが、それも本人の心理状態が安定しているからこそ出来る措置であり、その安定を脅かす外部要因があるのだとしたら速やかに除去されるべきだ。


「あの、Master。今後たまにでいいんで、ここで愚痴吐くのに立ち会ってもらえませんかね?」


 だから、絵美の提案には鈴蝶も同意せざるを得なかった。
 幸い、Alternativeの信頼度はこうして肌で確認出来ている。鈴蝶も立ち合うのであれば、まず間違いはないだろう。


「うーんそうねぇ……うん。また貴女に倒れられても困るし、前向きに検討してみようか」


「やった!」


 小さく飛び跳ねて喜ぶ絵美が痛々しくて、鈴蝶は心の中で土下座した。
 そんな二人の間に、オズオズとロサが入って来る。


「それであの、賭けって言うのは」


 鈴蝶は内心舌打ちした。


『流石絵美ちゃんの部下だっただけある……忘れてはくれなかったのね、あの問題児コンビを』


 絵美にその意図があったかは分からなかったが、いい具合に話題を逸らしてくれたのだが、主眼は見失っていなかったらしい。
 観念して口を割るしかない。


「紗琥耶ちゃんと源ちゃんの二人がT.T.S.内での実力がNo.1とNo.2なのは確かなんだけどね」


 絵美が溜息を吐いて後を引き継ぐ。


「さっき見て分かったと思うけど、あの二人は相性が悪いの」


 そう、それも決定的に。


「込み入った事情があるのだけどね、紗琥耶は源に殺意を持っているわ」


 アッサリと言ってのけた絵美の言葉に、ロサは目を剥いた。


「殺意って……そんなのコンビなんて組める訳」


 鈴蝶と絵美はアッサリ同意する。


「そうなのよね」


「そうなんだよね」


 ロサは言葉を失って口をパクパクと動かすだけだ。
 鈴蝶は捕捉する。


「T.T.S.は基本的に二人一組ツーマンセルで任務に当たるんだけど、組むメンバーによってチーム名が決まっているんだ。ポーカーの役に擬えてね。例えば絵美ちゃんと源ちゃんのバディは《ストレートフラッシュ》上から二番目の強役だね。絵美ちゃんと紗琥耶ちゃんのペアが《クワッズ》。絵美ちゃんとアグネスちゃんのペアが《フルハウス》。貴女の元上司は誰とでも強いコンビを組める優秀なリーダーよ」


 気恥ずかしそうな絵美を憧れの視線で見詰めるロサが、表情を変えて絵美に尋ねた。


「《ロイヤルストレートフラッシュ》はどのコンビなんですか?確かポーカーで一番強い役ですよね?」


 言われた絵美の目が少し逃げたので、鈴蝶が後を引き継いだ。


「源ちゃんと紗琥耶ちゃんのバディだよ。勿論ね」


 ロサは反射的とも言える速度で反証する。


「それおかしいですよ。紗琥耶、さんにとってあの男は不倶戴天の敵なんでしょ?」


 その意見は、半分正解で、半分外れだ。


「そうね、だから基本的には上手くいかないの。でもね、同時にあの二人は揃って捻くれ者でもあるのよ。メンバーにはシミュレーターによるトレーニングが義務付けられているんだけど、あの二人にとっては遊びでしかない。そして、遊びだから・・・・・こそ・・あの二人は・・・・・超本気で・・・・シミュレーションする・・・・・・・・・・の」


 ロサは阿呆の様に口を開けて呆けている。
 絵美もまた溜息を吐いた。


「源がトレーニング中に何て言ったと思う?『本気でやれよ!任務しごとじゃねぇんだぞ!』よ」


 『おぃ糞ビッチ』と言う接頭語を除けば、完璧に再現された源の言葉に、いよいよロサは閉口した。鈴蝶と絵美も肩を落とすしかない。


「相対的に、あの二人は任務中にそのコンビネーションを見せる事は絶対にない。だからあのバディは《ハイカード》の役も持ってるって訳」


 無役ブタ最強役RSFか、まさに賭けなのだ。
 喉を潤した絵美が深々と溜息を吐く。


「一応布石は打っておいたの。だからそこまで悪い出目が出るとも思わないんだけど……現場って何が起こるか分からないものだから……不安しかないわ」


 気の毒そうなロサの視線を横目に見ながら、鈴蝶は絵美のメンタルケアを手厚くしてやろうと心に誓った。

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