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T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 2-5




 暗澹たる光景だった。
 天井も壁も床もコンクリートで覆われた寒々しい空間に、男女一組が、ライダースーツにピアスと完全ペアルックを決めて歩いている。
 兵器及び時空間跳躍機管理部門を抜けた源と紗琥耶は、通路の突き当りで階段を下り、更に地下へと潜っていた。
 タイムマシンTLJ-4300SHは、兵器及び時空間跳躍機管理部門に置かれた四次元座標調整機たる阿號と、その指定座標に跳ぶ吽號とに分かれている。
 吽號はここより更に下層に設置されており、二人はそこに歩を進めていた。


「・・・・」


「・・・・」


 揃いも揃って黙々と足を運ぶ彼等の目に生気はなく、僅かに開いた口からはガス漏れの様に吐息が漏れるばかりだ。
 ゲッシュ。
 それはケルト神話に登場する「守らなければ酷い目に遭う誓い」の事だ。最早呪いと言っていいそのゲッシュを、魔術ではなく現代科学で青洲が再現したのだ。
 テンションが上がる訳がない。
 輪をかけて二人のテンションを下げるのが、二人に課されたゲッシュの内容だ。


・本ピアスは、帰還するまで外してはならない
・本任務中、決して任務完遂に背く行為をしてはならない
・帰還までの間、皇幸美の身を脅かしてはならない
・もしこれを破った場合。二つのピアスが共振し、両名の脳に耐え難い苦痛を与えると共に、両名の最も思い出したくない過去を眼前に展開する。


「信じらんない。ゲッシュって何よゲッシュって。何でよりによってゲッシュなのよ……こんな貞操帯、何でつけられないといけないのよ」


 ブツブツ呻く紗琥耶の言葉に、源も溜息を吐く。


「マグロかましてねえで何か言えこのインポ」


 そんな罵声と共に尻を蹴り上げられた源は、いい加減ウンザリして亜光速の裏拳で反旗を翻した。
 しかしそれは空を切り、亜光速の拳から生じた衝撃波と吹き戻しでコンクリートの壁が吹っ飛んだだけだった。


「テメェが文句垂れんじゃねぇよ。大体がテメェのせぇだろぉが」


 睨めつけた源の言葉も、紗琥耶には柳に風で、そっぽを向いて別の矛先に愚痴を並べ出す。


「これ絶対絵美たんの発想だよ。この性格悪さは間違いない」


「糞ビッチが」


 どうにもならない腹立たしさに、罵詈を吐き捨てたが、彼女の意見には源も賛成だった。
 正岡絵美と言う女は、目的を前にした時、非情で情け容赦がない。
 水と油そのものである源と紗琥耶の関係を懸念して対策を打ったとしても、何ら不思議はなかった。


「あの子、いつか絶対ネコにしてやる!」


 ゾッとする言葉に戦慄する源の前に、金庫と同じ防護扉が現れた。
 扉横の壁には、引っ繰り返したお椀の様な突起がある。
 突起の先端には穴が空いており、紗琥耶はその穴を覗き込んだ。
 青洲曰く、ワザと・・・使っている・・・・・という数世代前の網膜認証システムは、問題なく紗琥耶の身元を認識し、ガチャリとセキュリティの一段階目を解除した。
 T.T.S.は通常、二人一組ツーマンセルで任務にあたる。
 二段階目のセキュリティ解除には、紗琥耶のバディである源の認証が必要であり、両名のIDが任務執行対象者のIDと一致して初めて三段階目のセキュリティが解除された。


「どぉでもいぃが、テメェ今日ここにいていぃんか?」


 それは、気遣いの言葉の様でありながら、最も暴力的に紗琥耶の心を逆撫でる皮肉ことば
 だから、源の身体は再び吹っ飛ばされた。
 開き始めた金庫の扉を押し開けて、奥へ奥へと飛ばされる。
 だが、源とていつまでもやられっ放しではなかった。
 猫の様に躰を捻り、地に伏して動きを止め、そのままハンッと笑って見せる。


「随分と余裕ねぇじゃねぇか。そんなに嫌なら俺一人でいぃんだぞ?」


 言われた紗琥耶は凶悪な形相で牙を剥いた。


「テメェ今すぐ殺してやろうか」


 二人は剣呑な雰囲気で互いに睨み合う。
 どちらも放つ空気は、ともにのっぴきならない。
 相手を殺す事だけに専心した視線が、空間の温度をグッと下げた所で、二人の聴覚野に声が響いた。


「はい、二人共そこまで」


「いっってぇ!」


「痛っっっっっっっったい!」


 同時に、源と紗琥耶は揃ってその場でもんどりうつ。


「痛ぇ痛ぇ絵美!止めろコレ!」


「絵美たん痛いコレ!イッちゃうイッちゃう!」


「テメェはいぃ加減シモ控えろ糞痴女!」


 頭が割れんばかりの雑音ノイズが大音量で脳内に木霊する中、絵美の声だけがやたらとクリアに二人に届いた。


「じゃあ聞かせて貰いましょうか?二人共任務にちゃんと行って遂行する。幸美ちゃんには手は出さない。いいかな?」


 どこか楽しむ様な上機嫌な問い掛けに、源と紗琥耶の背筋に冷たいものが走る。


『おぃ、ヤベェだろコレ』


『やっぱ絵美たんの仕業だこのピアスゲッシュ


 ガンガン痛む頭と、グワングワン揺れる視線で会話して、問題児二人は頷き合う。
 下手したら、二人揃ってこの場で始末されてもおかしくない。
 正岡絵美とはそういう女だ。


「わぁった!わぁったから!」


「ちゃんと仕事するからぁ!絵美たん許してぇ!」


「……よろしい」


 雑音ノイズがピタリと止み、グワングワンと視界が未だに余韻で揺れ、競り上がっていた吐瀉物で酸っぱくなった口の中の感覚に、二人はゲンナリしながら立ち上がる。


「おぃ絵美」


「何?」


 ノンタイムで頭の中に応えが返って来て、源は確信する。


「テメェ何ちゅうもんジジィに作らせてんだ」


 ピアスを指で弾いて、源は紗琥耶に背を向ける。
 肩と声からの力を抜き、矛を収めた。


「しかもゲッシュたぁ悪趣味な名前付けんじゃねぇか」


「絵美たんさぁ、ホントそういうヤらしいとこ直した方がいいって」


 背後から近付いて来る紗琥耶の声と足音からも、刃の様な鋭さは失われていた。
 すっかり解れた二人の空気に、絵美の受け答えも滑かだ。


「アンタ達が仲良く潰し合いする安全装置セーフティーを作ってあげたんでしょ、むしろ感謝しなさいよ」


「いけしゃぁしゃぁと言ってくれんじゃねぇか」


「あら、事実じゃない」


 前を行く紗琥耶がこちらを省みる。
 目で合図を送って、二人は声を揃えた。


「限度ってもんがあんだろ」
「限度ってもんがあるでしょ」

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