T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 2-2




 ポッドが降下して行く。
 コリオリの法則を考慮したカーブを描く真空のレールチューブの中を、リニア式で時速2000k/hに近い速度を出しながら、一気に下って行く。
 その中に、源はいた。
 壁に寄り掛かって胡坐をかき、絵美から取り上げられる際に何とか掠め取った煙草に火を点ける。


「はぁ……行って帰って来た所で……今度は柴姫音がギャーギャー言ぃそぉだな」


 これまたしっかり絵美に取り上げられた柴姫音は、今回はお留守番となった。


 忘れてはならない事実だが、柴姫音もまた休みオフを潰されている。
 彼女の不興を買ったのは間違いなかった。
 少しご想像いただこう。
 久しぶりに休みを取ってくれた父親と過ごす休みが潰れた。
 その時の娘の気持ちを。
 ご機嫌を取るには、相当な代価が必要な事だろう。


 美味い筈の最初の煙草の吸引が、妙にほろ苦く感じた。


《No.2。発汗量が多い様ですがどうされましたか?》


 視界に文字群が踊る。


「やかましぃ。問題ねぇから黙ってろよエララ」


 木星の衛星群から命名された柴姫音の代役は、正確に余計な情報を与えてくれた。


《了解しました》


 無味乾燥なAIの言葉が消えた所で、ポッドは地下980kmまで達し、動きを止めた。
 やれやれと立ち上がる源の姿が、溜息と共にポッドの中から消え去った。
 無人になったポッドは急上昇を開始、真っ暗闇のチューブの中を、ポッドと同極の磁界を放つ電磁力の光だけが、時間を遡る様に反発的に登って行く。

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