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T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 1-4

~2176年9月30日AM11:25 東京~


「絵美さん!」


 扉越しに聞こえる大きな声に、紗琥耶は思わず持っていたショットグラスのウイスキーを揺らしてしまった。
 一瞬天井に近付いた視界が元の距離感を取り戻したのを確認して、扉を顧みる。


「随分活きのいい子がいるのね」


 ウイスキーの芳醇な香りを嗅ぎながら、足に挟んでいたクッションを蹴り上げ、身を起こす。
 それなりに高い天井にぶつかったクッションが跳ね返ってくるのをキャッチして、紗琥耶は聴覚センサーの感度を上げた。
 捕捉波帯を心音に固定して、データと照合する。
 すると、マダムオースティンの部屋に5名ほどいるのが分かった。
 マダムの下に絵美を運んだ時から、随分と人が増えている。


「マダム、絵美たん……陰姫もいるのね」


 紗琥耶は部屋を見回した。
 T.T.S.ラウンジと呼ばれるこの部屋は本部施設内でも特に広く、60畳ほど広さの部屋にあらゆる設備が整っている。
 紗琥耶が横たわるのは、その中央、周りより少し窪んだ床に嵌め込まれた円形ソファで、すり鉢状の底からは上方が良く見えた。
 つい5分ほど前まで彼女がいた書架からは、確かにその姿は消えていた。


「で、アイツも来てる、と」


 心音からも明らかだが、彼女が読書すら止めて会いに行く動機からも、納得の事実だ。
 そして、残る新顔がどうして現れたのかも分かった。


「アイツが連れ込んで来た訳だ……美味しいかどうかは別として、活きはいいみたいね」


 改めて触れておくが、紗琥耶はバイセクシャルだ。








 一方、マダムオースティンの部屋では実に見苦しい光景が広がっていた。


「それで?この子は誰で、どうしてここにいるのかしら?」


 マダムの丸太の様な両腕が源とロサの頭を両脇にそれぞれギッチリと固めていた。


「痛い!痛い痛い痛いです!」


「話す、話すから、解いてくんねぇか、マダム……」


 ミシリと嫌な音を立てる頭に、割とマジで源とロサはマダムの腕をタップする。


「源ちゃん、貴方今日非番でしょう?どうして来たの?部外者まで連れて」


「言ぅ、言ぅ……放してくれたら言ぅよ」


 パッと拘束が解け、二人は床に転げ落ちた。
 もんどりうつ二人に、それでも容赦なくマダムは今一度尋ねる。


「それで?どうして来たの?」


 お説教モード全開のマダムの問い掛けに、源は隣の女ロサを指差した。


「ほとんどコイツのせぇだ」


「え?アタシ?」


「そぉだろ。勝手に付いて来たんだから」


「違っアンタのバイクに乗って来たのよ!アンタが連れ込んだも同然でしょ!?」


 言うが早く、ロサは源に掴み掛った。


「ここに入る時だってアンタが散々手を貸したんでしょうが!忘れたとは言わせないわよ!」


 堂々と始まった責任の擦り付け合いを放置して、マダムオースティンは絵美に問い掛ける。


「あの子、絵美ちゃんの知り合い?」


 渋面の絵美は力なく首肯した。


「前職時代の年上の後輩です。昔から私のキャリアストーカーをして来まして」


「……なるほど、迷惑な子なのね」


 首肯する絵美を見て、ギャーギャーうるさい連中を顧みたマダムは溜息を吐いた。


「でもまあ、そこを除けば無害だから源ちゃんは連れて来たのよ、きっと」


「ええまあ、それはそうなんですけど……」


 二人で仲良く溜息を零す。
 ちなみに、ロサと源の喧嘩は胸倉を掴み合うレベルにまで発展していた。


「そうね、今はしんどいでしょうし、今はご退場願おうかしらねえ」


 実力行使に出ようと拳を撫でるマダムを見て、絵美は苦笑いするしかない。


「本当にすみません。お手数をん……」


 言葉が途切れた。
 原因は、口を塞がれたからだ。


「んはっ、お熱下がったみたいね。絵美たん相変わらず唇柔らかーい」


 体面座位の状態で、紗琥耶が絵美の上に現れた。
 絵美の唇を奪って嫣然と笑うその顔は美しい。


「さ、紗琥耶……」


「おはよ、絵美たん」


「あの、紗琥耶」


 今朝の事を謝らなければならない。


「ちょっとアンタ何してんだ!絵美さんから離れろ!」


 源に馬乗りになっていたロサが、絵美に投げられた靴を投げ返して来た。
 難なくキャッチした紗琥耶は、揶揄う様にロサに言う。


「陰姫ぇ、そろそろその子を興奮させるの止めてこっちに混ざりなさいよぉ。珍しく絵美たんとれるかも」


「アグネス、紗琥耶の言う事なんて聞き流していいからね!」


 顔を顰めるロサの背中で動きがあった。
 空間の一部が歪み、湿り気のある黒長髪をピトリと垂らした褐色肌の少女がロサの背中に乗っている。
 彼女こそがT.T.S.No.4アグネス・リー。
 コーカソイドの血を強く感じさせる鼻の高さと目の大きさを持った美人でありながら、何処か陰鬱とした雰囲気を纏っている。


「うわぁ!誰ですか貴女!?」


 ロサは慌てて背中のアグネスを追い払った。
 余りに素直なロサの反応に、紗琥耶は大笑いする。
 一方の絵美は悪化する頭痛を抑えながら説明だけはしようと手でアグネスを指示した。


「ロサ、この大笑いしているのがT.T.S.のNo.1、ジェーン・紗琥耶・アーク。そして今貴女の背中に乗っていたのが、No.4のアグネス・リーよ。二人共私の大切な仲間で、化物みたいに強いわ。失礼は程々にね。勿論、そこの源にも」


 そうこうしている内に、アグネスは源に話し掛ける。


「源……会えて、嬉しい……今日は、休みだった……」


 だが、源はまるで話など聞いていない様に入口を見た。
 そこから、更に二人の人物がやって来る。


「やあ諸君、まさかこんな所に勢揃いしているとは思わなかったよ」


 ガチャリと扉を開けて、長身の若い男が這入って来た。
 背後には、服部エリザベートの姿もある。
 男はT.T.S.のメンバーの顔を確認すると同時に、ロサに目を留めて驚いた。


「ありゃ!貴女来ちゃったの!?」


 ヒスパニック系の源とは違う、アングロサクソンの美丈夫の視線に、ロサは目を白黒させる。


「え?いや、誰ですか貴女!?」


主将カピターンだよ」


「へ?」


 今となっては絵美の次に親しみを憶える顔になった源の言葉に、ロサは耳を疑った。
 ロサは暫し口をパクパクとさせて源の顔と男の顔を交互に見て、それからその視線は縋る様に絵美へと向けられた。
 最早何重苦かも分からないストレスに曝された絵美はウンザリした顔で、それでも言い方は出来るだけ柔らかく頷く。


「甘鈴蝶本人よ」


 その一言で言葉も失って鈴蝶を見返したロサに、男性の身体になった鈴蝶は朗らかに手を振った。


「ようこそ、T.T.S.本部へ」

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