T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 1-1-Side:源

No.1 The Spoiled Holiday [雨の情景] 


――2176年9月30日AM6:38 東京――


 1  [Side 源]


 冷たい夢を見た。
 啜り泣く様な雨音が世界に響き渡る。


               「源おきて!! ねえ!!」


 全てを汚し、悲しみで塗りたくって行く。


               「ねえってば!! おきてよ!!」


 厚い雲に頭を抑えられた人々は、俯く頭に罪を被る。


               「ん~~~もう!!」


 赦しは与えられず、贖う事も叶わず、粛々と悼むだけの。


               「おきてってば!!」


 凍える様な夢を見た。


「ドゥォホ!!」


 ドシリと圧し掛かられた衝撃で、かなはじめ源はダブルベッドの上で小さくバウンドした。
 弾みで掛け布団が剥がれ、パンツ一丁の彼の上体は初秋の朝の冷気に曝される。
 横隔膜を揺さぶられた為、夢見と寝起きの悪い脳は真っ白になった。


「……に、すん……だ、テメ……」


 咽返りながら腹部を見ると、そこに自身と十字を切る人影を見付けた。
 肩甲骨まで伸びたウェーブ掛かった紫色の髪。
 見た目ローティーンであろう少女が、前面に守りを固めた結果背面がほぼノーガードになったフェチズムの極致的下着であるベビードールに着られて・・・・、そこにいる。
 “着られて・・・・”とする表現は実に正鵠を射ており、開けっ広げにも程がある背中は、少女特有の不格好な稜線を成している。
 だが恐ろしい事に、柴姫音はそれに見合う色気も纏いつつあった。
 不貞腐れた顔は新雪の様に白い柔肌と無花果の実の様に紅い唇で出来ており、源を睨む目元は綺麗な稜線の眉と長い睫毛でボンドガールもかくやと言った艶を醸し出す。
 腕輪型情報端末。通称WITに搭載された亜生インターフェイスFIAIたる彼女の名は、紫姫音。
 平時は視覚野に直接出力されるARとして現出する彼女だが、今はWITを構成する全原子を裏返す技術によって仮初の肉体で現出している。
 つまり、今の紫姫音は空気人形の様な物。触れる事も触れられる事も出来るが、彼女に突っ込んだ・・・・・所で、外気圧と等圧の空気しかない。
 それに。


『セクサロイドにするには見所のねぇ・・・・・身体だしなぁ』


 寝起きと酸欠からボンヤリと回復して来た思考でそんな事を思っていると、紫姫音はもぞもぞと源に騎乗した。


「きょうはオフだからしきねのドレスデータアップデートしにいくヤクソクでしょ!!」


 ベビードールの少女がボクサーパンツ一丁の青年に跨ると言う、第三者が見たら確実に誤解する光景が、そこにはあった。
 黒髪蒼眼の源は、戒めを解いた長髪を掻き上げ、エスニックな顔立ちの全てで目一杯に不満を表して時計を見る。


『AM6:38って何だおぃ』「ふざけんな寝させろ」


 迷いも淀みもない即断即行で、身体を裏返して枕と口付けした。


「あ、 ヤクソクやぶっちゃダメなんだよ源!しきねのフクかいにいくの!!!!」


 生身の人間なら唾が掛かる近距離で大声を張り上げ、バンバン撥ねる紫姫音。
 シルエット的にヤラシイから止め……いや、構わん、もっとやれ。
 だが、少女趣向者ならいざ知らず、そんな趣味は一切ない源の堪忍袋はアッサリ裂けた。


「うっせぇっつってんだろ!!!!んな時間に起きてるアパレル関係者がいるかボケ!!!!」


「デザイナーはきっとおきてるもん!!」


「販売員は夢の中だ!!!!あとキャッシャーのネェちゃんもな!!!!」


自動レジ打ちオートキャッシャーはデンリョクで24ジカンねんじゅうむきゅうでカドウチュウだもん!!!!」


「機械も休息させてやれよ、同族に対する気遣いはねぇのかお前には。それに残念だが肝心の店舗が開店準備中だ」


「ん~~~~~~~~でもいくの!!!!」


「だ・か・ら・って!!!!人の・上で・撥ねんじゃ・ねぇ・よ!!!!」


「い~く~の~!!!!」


 さて、ここでちょっとした公式のご紹介だ。


 (夢見の悪さから非常に寝起きの悪い男+口喧しい少女)×再三に渡る睡眠妨害行為=?


「………………………」


「あ、ウソ。ゴメン源やめt」


 視覚野に直接入力されるWITのインターフェイス起動停止プロセスを、躊躇いなく進行。
 途端、電子幼女の姿は立ち消え、再びシーツに包まり直した。


「休日位ゆっくり寝かせろバカ」


 そうは言ったものの、姦しかった少女の声が雨音に変わった様に、少しずつ眠気が離れ、代わりに言い様もない物悲しさが湧くのを感じて、今一度愚痴る。


「糞……バカがよ」

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