T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.0 The Christmas Miraculous offstage Chapter 4-1

Operation Code:G-3840-4 [From caldron of hell]


――A.D.2014.12.24 19: 53 日本国 東京都渋谷区――


1


 腹部に穴を開けられた源は、気を失った大隈をゆっくりと跪かせ、そのまま崩れ落ちる。しかしその身を地に横たえるより僅かに早く、絵美が彼を支えた。


「源!しっかり!しっかりして!」


 腿のポケットから急いで緊急止血用の生体膜を取り出し、患部に押し付ける。
 ビクリと反射で震える身体を抱き締め、相棒バディの顔をビッショリと覆う脂汗を手で拭い取ると、目が合った。


「何でこんな……」


「しゃー……ねぇだろ」


 急激な血圧低下で気分が悪いのだろう、片言の列なりだけ零して、源は玄山に顎を杓った。


「っ痛……これで、いぃだろ、早く、玄山アレ、捕まえろ」


 そこに来て、絵美はようやく源の意図を汲んだ。
 思えば、初めて出会った時からそうだ。
 源は、絵美の納得出来ない状況を良しとしない。
 彼女の心に澱を残す様なやり方を、絶対に採らない。
 故に源は、絵美を納得させる事だけを考え、刃を受けた。


「……ごめんね」


 T.T.S.の任務は、時間改変の阻止。
 本件では、大隈が犯行を行い、逮捕されたという事実があれば、それでいい。


 しかしながら、真実は違った。
 城野夕貴を刺したのは大隈ではなく、大隈と全く同じIDを有せる玄山によってそれは成されていた。
 表面上は全く相違のない事実だ、外見も身元照合も、DNAさえも一致する。


 だが、個人のアイデンティティが記憶と人格によって定義されるならば、話は変わる。犯人は玄山であり、大隈ではない。


 とどのつまり、本件の任務は大隈の冤罪を生む事なのだ。


 当然、生粋の警察官である絵美にとって、それは許せるものではない。
 誰一人傷付けていない者を罪に問う事の方が、余程罪だ。
 だからこそ、源は刺された。
 大隈に罪を背負わせた。
 強引なのは認める。
 だが、ナイフを携帯していた事と感情に任せて源を刺した事は事実だ。
 玄山がやらなければ、間違いなく大隈は城山夕貴を刺していただろう。
 それに何より――


「ねぇ源、ちょっと首元のソレ・・と柴姫音ちゃん借りていい?」


 一瞬身を強張らせた源が、視線を泳がせる。
 何となく、脂汗の温度が下がった気がした。


「……へ?……なして今更……?」


 それは、源がQFRONT上空から降って来た瞬間から彼の首元にあった。
 だが、彼が背負っていた物が物だったのと、直後に分かった衝撃の事実、そこからのジェットコースター的変移にすっかりツッコミ損ねた代物だった。
 しかしながら、今になってみれば、それはそれで良かったのかもしれない。
 結果として、今ソレ・・に意識を向けたのは絵美だけなのだから。


コレ・・に関しては、今回は見逃してあげる。だから柴姫音ちゃん借りるわよ」
 言うが早く、ユーザーの了承も柴姫音本人の了解も得ずに、WITを巻き上げる。
 しかし、これは仕方がないのだ。
 本当の主犯を捕える為には柴姫音彼女の協力が不可避なのだから。


「……ねえ」
 源をゆっくりと横たわらせ、源のWIT柴姫音ソレ・・を身に着けながら絵美は立ち上がる。
 爪先も視線も、まだ向けない。
 切っ先は、向けるべき相手に向けるのだ。


「まだ、お話し出来る?」


 鋭い視線と爪先を一編に向け、絵美は真っ直ぐに玄山英嗣を、その頭の中にまで斬り込む。


玄山朝眉・・・・さんと」


 場の空気が止まった。

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