T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.0 The Christmas Miraculous offstage Chapter 2-3




 街と言うダンスホールを埋め尽くし、ネオンやLEDの舞台照明に顔を輝かせ、無数のステップを踏みながら、群衆はタップを踊る。
 渋谷センター街通り上空を人知れず空中遊泳しながら、源は壁面を押し、スイングして行く。


『ピーターもトニー辺りに頼んで光学迷彩これ作って貰えりゃ人生楽だったろぉになぁ……』


 元の時代には消滅している某国のコミックキャラに思いを馳せながら、源の目は左へ右へと人波を洗って行く。
 彼の視界では、目まぐるしく映像が展開されていた。
 紫姫音がその本領を存分に発揮し、源が視認する全ての人をスキャンし、玄山英嗣の骨格データと照合して行く。
 不一致、不一致と一方的に烙印を押されていく人々を流しながら、源は今一つ資料を検める。
 本件は、2014年12月24日に発生した渋谷駅前刺殺事件が舞台となっていた。
 つまり、源の住まう2176年8月1日には一通りの捜査を終えた後、という事になる。
 如何せん時間が過ぎている為、データ形式は古く、欠けている物も多いのだが、資料は資料。
 参考にするべき何点かが到着時報告ランディングレポートに添付されていた。
 今源が辿るのは、その一つ、容疑者大隈秀介の動線、犯行現場までの足取りである。
 到着時報告ランディングレポートによると、違法時間跳躍者クロック・スミス玄山英嗣はこの事件の被害者城野夕貴の血縁だそうだ。
 その事実を踏襲すれば、玄山が時間跳躍した目的は容易に想像出来る。
 即ち、大隈秀介の殺人阻止だ。
 では、玄山は誰の元に現れる?
 人の波に紛れた大隈を探し、源は狭いスペイン坂に差し掛かった。
 低い軒が連なる通りは、直進すればFMラジオ局の公開録音スタジオにぶつかる。
 人探しにはうってつけの場所と言えた。
 スペイン料理屋の屋根の淵にしゃがみ込み、源は人混みに目を光らせる。
 渋谷駅前刺殺事件の容疑者大隈秀介は、その動機こそ突発的ではあるものの、その足取りは明確な計画性を匂わせた。
 木を隠すのに森を選ぶ様に、大隈秀介は逃走経路に人の密度の高い道を選択している。
 顔写真こそ失われているが、中々狡賢い男と言えよう。


『悪知恵の働く辺り、俺と話合いそぉだな』


 さて、そのご尊顔は…と煙草に火を点けようとした時だった。


『おっと……早速おいでなすった』


 同一とグリーンシグナルが騒ぎ立てる先に、そいつはいた。
 黒のダウンコートを着た薄幸顔が、その手をポケットに突っ込んで、人混みを塗って行く。
 咥え掛けた煙草を仕舞い、手頃なバルコニーに下り立った源は、光学迷彩カメレオンを解除して店内に入る。
 テーブルを拭いていた女性店員が不審な眼差しを送って来たが、笑顔で手を振ると会釈だけが返って来た。
 その辟易とした様子に、外国人慣れしていないのがありありと分かり、階段を下りながら思わず源は呟いた。


「……ちょろいもんだな、この時代の日本人は」


 脇目も振らずに店を出て、頭一つ高い目線で人波に飛び込む。
 さて、安穏とした時間もここまで。
 今から、少しばかり荒っぽい時間が始まる。


「まぁ、それはそれで大歓迎♪ってなぁ」


 隣を行くGAL風の女から送られる不審な視線にウインクを返して、源は黒のダウンコートとの間を詰めて行った。

「T.T.S.」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く