T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.0 The Christmas Miraculous offstage Chapter 1-1

Operation Code:G-3840 [The Christmas Miraculous offstage]


――A.D.2014.12.24 17:48 日本国 東京都渋谷区――





 数多くの車両を見送り、信号が赤から青に顔色を変えると、厚手の上着を身に纏った有象無象が、その口元に笑みを湛えてスクランブルに躍り出る。
 緑や赤でラッピングされた荷物があちこちに溢れ返り、見下ろす限り不景気の気配なんて微塵も感じさせない月並みの幸福が街を覆い隠していた。
 寄る辺とすべき神を持たない癖に、一体何を祝して彼等が浮かれているのかが理解出来ない。「盛り上がればいいじゃん!」と能無しが叫ぼうとも、「年末消費の促進には必要なのだ!」と経済学者が叫ぼうとも、納得出来ない。
 とどのつまり、彼等は浮かれているだけなのだ。
 「自分達は幸せなのだ」と信じ込む為に、街を彩り、自分を飾り、雰囲気をでっち上げて寂しさを紛らわせているのだ。


「下らない」


 平和で平穏で平静なハリボテの聖夜を鼻で笑い、カップに残ったキャラメルマキアートを飲み干す。手首を返し、18:00へ向けて刻一刻と進む秒針を確認した城野夕貴は、カウンター席を立った。
 そのまま店のドアまで進みつつ、カップをゴミ箱にシュートする。
 退店する時、擦れ違うカップルの笑顔が煩わしかった。


『アンタ達の人生なんてどうだっていいわ』


 彼女の幸福の尺度はシンプルだ。


『その浮足立った足元、攫わせて貰うわよ』


 今夜から明日の朝に掛けては、彼女にとって人生の岐路になる。
 上手く事が運べば、人生勝ったも同然だ。

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