T.T.S.
FileNo.1 Welcome to T.T.S. Chapter5-4
4
突然開放されて動揺したのか、ボロボロの扉を前にギルバートは棒立ちになっていた。
「どぉした、早く入れよ」
だが、どこからともなく聞こえた源の言葉に即応し、あまつさえ音速越えで飛来した9mmの雨を捌き切って見せたのは流石だった。
「俺を振った野郎が、今更一体何の用だ?」
「おぃおぃ俺ぁノンケだぜ、ゲイセクシャルでもバイセクシャルでもねぇ。テメェと一緒にすんなや」
「何故追って来たと訊いている。俺と仲良くあの世までランデブーしてくれんじゃねぇのか?」
ガチャ、と重い特殊金属の取っ手が廻った。
ギルバートの重い蹴りに耐えて見せた扉は、建付けにさえ支障をきたしていない。
同時に、源が無警戒に姿を現した。
「じゃ確かめてみよぉや、果たして大禍は俺達を殺せんのかどぉか」
扉を抑える源の右腕にWITが一つ増えている事を目敏く見付けたギルバート
は、しかしその意味を考える事はしなかった。
正真正銘、ギルバートは先頭を切ってここにやって来た。
蹴散らした唯一的明星军团やロボットの数は、源の比ではない。
仮に源が何かを仕込んだとて、然程脅威にはならないだろう。
「どぉした?運命のご対面を前に小便でもしてぇのか?」
「冗談の質が良くねぇのは相変わらずだな」
「あぁそぉかい、ならもっととびっきりのを見よぉじゃねぇか」
「……あぁ」
源の言葉に引っ掛かるモノを感じつつ、ギルバートは源の支える扉を潜った。
「ねえ、アンタは大禍についてどんな風に聞いているの?」
再び、絵美が話題を変えた。
「どんな風にって訊かれても……」
マリヤが思い付く事は多くない。
中華栄民国が独立を認めさせる為に用いたウイルス兵器で、公共の敵唯一的明星军团が奪った事で核大戦を生んだ戦犯、と言う事位だ。
そう告げると、絵美は肩を竦めた。
「そうよね。私も同じ事しか知らないわ」
「あーそう」
「オカシイと思わない?」
「え?」
切れ長の目が下からマリヤを覗き込む。
全てのパーツが美しく、洗練された配置で成された顔は、同性を恋愛対象に据えていないマリヤでさえドキリとさせられる。
「中華栄民国が独立表明して、核大戦を経て20年余りが過ぎたのに、分かっている事はそれだけなのよ?中華栄民国政府関係者以外の人間。例えば唯一的明星军团の連中は、どうして何も語らずに死んでいったのかしら?」
何となく、絵美の言いたい事が分かって、マリヤは唖然とした。
「あんたまさか……」
「そう。大禍なんて物は、本当はどこにもないのではないか、と私は考えているの」
「さっきの“GOD bless you”にはそんな意味もあったの?」
「ええ、まあね」
果たして、何もない真っ白な空間がそこにあった。
薬品棚どころか実験器具もない部屋は、どこまでが部屋なのかさえ、判然としない。
マトリョシカ式の多重セキュリティを想定していたギルバートは、呆然と立ち尽くしていた。
「大した野郎だな、楊陽林って奴ぁよ」
この部屋に入った瞬間から、源は爆笑していた。
滑稽だった。
ありもしない脅威に怯えて袂を分かつ覚悟をした中華人民共和国も、その脅威を掠め取ろうとした唯一的明星军团も、ブラフに踊らされて核大戦まで始めた世界も。
そして、核大戦を契機に造られた自分達さえも。
全員揃って、楊大佐の言葉に踊らされていたのだ。
これを笑わずして何とする。
「大佐は脅威ってもんの一番重要な部分をよぉく知ってたんだな」
脅威を与える最も重要な事。
それは、脅威の情報を広める事に他ならない。
正体不明のウイルス兵器と言うセンセーショナルな話題は、人々の関心を引く。
憶測と噂で次々と広がって行く架空の脅威は、いつしか人々に真実味を持った常識として知れ渡り、公然の脅威へと成り上がる。
「そぉしていよいよ外敵の排除にすら使われて、大禍は大義名分の一役すら担った訳だ」
なのに、蓋を開ければ真実はこうだ。
「おぃコラ、ギルバート。何とか言ぇや」
今一番馬鹿を見たモノに、嗜虐的な笑みで問い掛ける。
ガックリ脱力したギルバートには、最早精気すらなくなっていた。
気持ちは、分からないでもない。
『生まれた理由さえ否定されるってのは、案外来るもんだな』
争いの火種を訪ねたら、争いのいらぬ独立の証に辿り着く。
皮肉にも程がある結末だ。
『問題はコイツがどう壊れっかだな』
「問題」
「え?」
「生きて行く上で一番欠かせないものは何?」
「……食事と排泄と睡眠と運動、あとは」
「どれもしなくても何ケ月か生きられるわ。正解は呼吸」
「……正解させる気のない問題ってフェアじゃないと思うわ」
「あら、それは御免なさいね。じゃあ第二問、大気の主要四成分の中で最も重い気体は何?」
「舐めてんの?二酸化炭素に決まってんでしょ」
「正解。流石ね」
「何なのよ突然、イライラするわね」
言いたい事が分からず、痺れを切らせたマリヤは喰って掛かる。
怪訝な表情の彼女に対し、それでも絵美は不敵に嗤った。
「アンタもそうだけど、人間は愚かね。自分が一番偉いものだと根本的に誤解している。そんな人間に、“神罰”は下るのよ」
「なぁ、源。俺達は一体何だ?何故生まれた?人が戦場から消え、鉄屑共が互いを喰い合う時代に、何故また俺達が戦場に立たにゃなんなかった?分かんねぇんだよ、それがどぉしても俺にぁ分かんねぇんだよ」
「知るかんなもん」
「神を追う脚を与えられた。じゃあ神ってどこにいんだよ。俺ぁ一体誰を追えばいぃんだよ。答えてくれよ源、俺ぁ誰と戦えばいぃんだよ。お前は一体何と戦ってんだよ」
「今お前と戦ってんだろぉが」
「生きてく理由がねぇんだよ、あんなにも戦う事を強いられて来たのに、それがなくなっちまったんだよ、誰も彼もが俺を化物扱いして、辛くて辛くて仕方がねぇんだよ。どぉしてこんな風になっちまったんだよ、お前といた時のあの時間に戻してくれよ」
「冗ぉ談じゃねぇ、俺ぁ今が気に入ってんだ。武器でいられる今を、手放す気はねぇよ」
「……羨ましい限りだ。俺には出来ねぇよ。だが……クソ!もぉいぃ。全部いらねぇ。お前と死ねりゃ、それ以外何も望まねぇ」
「人の話聞ぃてなかったんか?俺ぁ死ぬ気はねぇ」
「釣れねぇ事言うなよ、お前と俺の中じゃねぇか。だから付き合ってくれよ。な?」
「ヤダよ馬ぁ鹿」
「頼むよ源、なぁ!!!!源!!!!」
キィィィィィと、ギルバートの手から、耳障りな圧縮音がした。
「恵まぬ雨の降り注ぐ間際、断罪の風は吹き荒れる」
「何それ聖書?聞いた事ないわよ?そんなの」
「当たり前でしょ」
「はぁ?」
「私が思い付いたのだから」
その時。
源が右手を差し出したのを、ギルバートは知らない。
更に言及すれば、その右手が、右手首のWITが、光輝いたのを、ギルバートは知らない。
ギュワァ!!!!
轟音にも似た風切り音が、部屋を埋めた。
直後。
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパン!!!!!!
そこここから、風船を叩き割った様な音が炸裂して。
「グ………ガ…ァ……………………!!!!!!」
ギルバートの身体が、見えない何かに押し潰された。
それは、かつて絵美を追い詰めた脅威。
あの英国国会議事堂でのナノマシンテロの再現だった。
Neuemenschheitherstellungplanは凄まじい能力をギルバートに与えた。
その一つが、光速移動物体すら捉えるという驚異的な動体視力だ。
だがこの事実には、誤解し易い所がある。
手に入れたのは動体視力であって、視力そのものは上がっていない。
故にギルバートはこの攻撃を察知出来ない。
幾ら動体視力を上げようとも、無色透明な空気は察知出来ない。
そんな当たり前の事実を、しかし絵美は見逃さなかった。
「でも、どうやって……」
マリヤの疑問は、至極真っ当だった。
対象の認定、捕捉、発砲の三つのプロセスが、一体どこに当て嵌まるのかが分からない。
「私ね。肩を打ち抜かれたのよ、あのウォーターカッターで」
正岡絵美は淡々と語る。
「その時ね、僅かだけど見たの。ギルバートの袖口から覗く射出口のノズルを。一番近くであの圧縮音を聞いていたのも私だし、視覚野と聴覚野の記憶は綺麗に取り出せたわ。型名《CIC3846750WS》。キルチネルインダストリアル社製の軍用高圧水流射出機。通称は“恵まぬ雨”。それがギルバートの獲物よ。後はその圧縮音のデータを、対象、及び特定刺激としてプログラムするだけ」
目まぐるしく展開する事態に流されつつも、しっかりと断片的且つ僅かな手掛かりを拾い集め、そこから正解を導き出す。
光速の世界に生きるギルバートと、凡人の絵美。
絶対的な彼我の実力差を、努力と執念と閃きで埋め、遂に彼女は欠片程の勝機を拾った。
広大な砂漠の中からダイヤを見付ける様な無謀な仕事を、まるでルーチンワークをこなした様に語る絵美に、マリヤは戦慄を覚える。
ヒマワリの遺伝子情報より開発されたプログラムで制御したナノマシンを用いた遠隔攻撃。
救済の溜息の自動多重射出機構“断罪の暴風”。
かくして、咎人を裁く暴風は吹き荒れた。
『超クールだろ?これが今の俺の相棒なんだぜ』
思っていた何倍もイカした攻撃に、思わず口元が緩んだ。
駆け出す。
濃度3%を越え、二酸化炭素はその毒性を如何なく発揮していた。
震える足で何とか踏ん張ろうとし、所在なく手を伸ばすギルバートに、源は告げる。
「ギル!!!!お前は今を生きてなさ過ぎる!!!!俺は自分の手で過去と今に線を引いた!!!!だからもう、俺は過去に取り合わねぇ!!!!お前の背中は見ねぇ!!!!俺は前だけ見て!!!!バディと!!!!正岡絵美と!!!!進むって決めたんだ………よ!!!!」
言葉の締め括りと共に、つんのめる様にして源は破滅との握手を突き出した。
ギルバートの頬に、白い拳が喰い込む。
紫電が、金庫中に広がって行く。
ギルバートの袂から、翁面がこぼれた。
二人の足元に落ちたそれは、燦燦たる輝きに呑まれ、暴走する紫電に焼かれ、音もなく静かに砕け散る。
「お前だって、きっと変われんだ。俺に出来たんだからお前にだってきっと……な。もぉ、誰も追わなくていぃんだよ」
ギルバートの身体は、力なく崩れ落ちた。
突然開放されて動揺したのか、ボロボロの扉を前にギルバートは棒立ちになっていた。
「どぉした、早く入れよ」
だが、どこからともなく聞こえた源の言葉に即応し、あまつさえ音速越えで飛来した9mmの雨を捌き切って見せたのは流石だった。
「俺を振った野郎が、今更一体何の用だ?」
「おぃおぃ俺ぁノンケだぜ、ゲイセクシャルでもバイセクシャルでもねぇ。テメェと一緒にすんなや」
「何故追って来たと訊いている。俺と仲良くあの世までランデブーしてくれんじゃねぇのか?」
ガチャ、と重い特殊金属の取っ手が廻った。
ギルバートの重い蹴りに耐えて見せた扉は、建付けにさえ支障をきたしていない。
同時に、源が無警戒に姿を現した。
「じゃ確かめてみよぉや、果たして大禍は俺達を殺せんのかどぉか」
扉を抑える源の右腕にWITが一つ増えている事を目敏く見付けたギルバート
は、しかしその意味を考える事はしなかった。
正真正銘、ギルバートは先頭を切ってここにやって来た。
蹴散らした唯一的明星军团やロボットの数は、源の比ではない。
仮に源が何かを仕込んだとて、然程脅威にはならないだろう。
「どぉした?運命のご対面を前に小便でもしてぇのか?」
「冗談の質が良くねぇのは相変わらずだな」
「あぁそぉかい、ならもっととびっきりのを見よぉじゃねぇか」
「……あぁ」
源の言葉に引っ掛かるモノを感じつつ、ギルバートは源の支える扉を潜った。
「ねえ、アンタは大禍についてどんな風に聞いているの?」
再び、絵美が話題を変えた。
「どんな風にって訊かれても……」
マリヤが思い付く事は多くない。
中華栄民国が独立を認めさせる為に用いたウイルス兵器で、公共の敵唯一的明星军团が奪った事で核大戦を生んだ戦犯、と言う事位だ。
そう告げると、絵美は肩を竦めた。
「そうよね。私も同じ事しか知らないわ」
「あーそう」
「オカシイと思わない?」
「え?」
切れ長の目が下からマリヤを覗き込む。
全てのパーツが美しく、洗練された配置で成された顔は、同性を恋愛対象に据えていないマリヤでさえドキリとさせられる。
「中華栄民国が独立表明して、核大戦を経て20年余りが過ぎたのに、分かっている事はそれだけなのよ?中華栄民国政府関係者以外の人間。例えば唯一的明星军团の連中は、どうして何も語らずに死んでいったのかしら?」
何となく、絵美の言いたい事が分かって、マリヤは唖然とした。
「あんたまさか……」
「そう。大禍なんて物は、本当はどこにもないのではないか、と私は考えているの」
「さっきの“GOD bless you”にはそんな意味もあったの?」
「ええ、まあね」
果たして、何もない真っ白な空間がそこにあった。
薬品棚どころか実験器具もない部屋は、どこまでが部屋なのかさえ、判然としない。
マトリョシカ式の多重セキュリティを想定していたギルバートは、呆然と立ち尽くしていた。
「大した野郎だな、楊陽林って奴ぁよ」
この部屋に入った瞬間から、源は爆笑していた。
滑稽だった。
ありもしない脅威に怯えて袂を分かつ覚悟をした中華人民共和国も、その脅威を掠め取ろうとした唯一的明星军团も、ブラフに踊らされて核大戦まで始めた世界も。
そして、核大戦を契機に造られた自分達さえも。
全員揃って、楊大佐の言葉に踊らされていたのだ。
これを笑わずして何とする。
「大佐は脅威ってもんの一番重要な部分をよぉく知ってたんだな」
脅威を与える最も重要な事。
それは、脅威の情報を広める事に他ならない。
正体不明のウイルス兵器と言うセンセーショナルな話題は、人々の関心を引く。
憶測と噂で次々と広がって行く架空の脅威は、いつしか人々に真実味を持った常識として知れ渡り、公然の脅威へと成り上がる。
「そぉしていよいよ外敵の排除にすら使われて、大禍は大義名分の一役すら担った訳だ」
なのに、蓋を開ければ真実はこうだ。
「おぃコラ、ギルバート。何とか言ぇや」
今一番馬鹿を見たモノに、嗜虐的な笑みで問い掛ける。
ガックリ脱力したギルバートには、最早精気すらなくなっていた。
気持ちは、分からないでもない。
『生まれた理由さえ否定されるってのは、案外来るもんだな』
争いの火種を訪ねたら、争いのいらぬ独立の証に辿り着く。
皮肉にも程がある結末だ。
『問題はコイツがどう壊れっかだな』
「問題」
「え?」
「生きて行く上で一番欠かせないものは何?」
「……食事と排泄と睡眠と運動、あとは」
「どれもしなくても何ケ月か生きられるわ。正解は呼吸」
「……正解させる気のない問題ってフェアじゃないと思うわ」
「あら、それは御免なさいね。じゃあ第二問、大気の主要四成分の中で最も重い気体は何?」
「舐めてんの?二酸化炭素に決まってんでしょ」
「正解。流石ね」
「何なのよ突然、イライラするわね」
言いたい事が分からず、痺れを切らせたマリヤは喰って掛かる。
怪訝な表情の彼女に対し、それでも絵美は不敵に嗤った。
「アンタもそうだけど、人間は愚かね。自分が一番偉いものだと根本的に誤解している。そんな人間に、“神罰”は下るのよ」
「なぁ、源。俺達は一体何だ?何故生まれた?人が戦場から消え、鉄屑共が互いを喰い合う時代に、何故また俺達が戦場に立たにゃなんなかった?分かんねぇんだよ、それがどぉしても俺にぁ分かんねぇんだよ」
「知るかんなもん」
「神を追う脚を与えられた。じゃあ神ってどこにいんだよ。俺ぁ一体誰を追えばいぃんだよ。答えてくれよ源、俺ぁ誰と戦えばいぃんだよ。お前は一体何と戦ってんだよ」
「今お前と戦ってんだろぉが」
「生きてく理由がねぇんだよ、あんなにも戦う事を強いられて来たのに、それがなくなっちまったんだよ、誰も彼もが俺を化物扱いして、辛くて辛くて仕方がねぇんだよ。どぉしてこんな風になっちまったんだよ、お前といた時のあの時間に戻してくれよ」
「冗ぉ談じゃねぇ、俺ぁ今が気に入ってんだ。武器でいられる今を、手放す気はねぇよ」
「……羨ましい限りだ。俺には出来ねぇよ。だが……クソ!もぉいぃ。全部いらねぇ。お前と死ねりゃ、それ以外何も望まねぇ」
「人の話聞ぃてなかったんか?俺ぁ死ぬ気はねぇ」
「釣れねぇ事言うなよ、お前と俺の中じゃねぇか。だから付き合ってくれよ。な?」
「ヤダよ馬ぁ鹿」
「頼むよ源、なぁ!!!!源!!!!」
キィィィィィと、ギルバートの手から、耳障りな圧縮音がした。
「恵まぬ雨の降り注ぐ間際、断罪の風は吹き荒れる」
「何それ聖書?聞いた事ないわよ?そんなの」
「当たり前でしょ」
「はぁ?」
「私が思い付いたのだから」
その時。
源が右手を差し出したのを、ギルバートは知らない。
更に言及すれば、その右手が、右手首のWITが、光輝いたのを、ギルバートは知らない。
ギュワァ!!!!
轟音にも似た風切り音が、部屋を埋めた。
直後。
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパン!!!!!!
そこここから、風船を叩き割った様な音が炸裂して。
「グ………ガ…ァ……………………!!!!!!」
ギルバートの身体が、見えない何かに押し潰された。
それは、かつて絵美を追い詰めた脅威。
あの英国国会議事堂でのナノマシンテロの再現だった。
Neuemenschheitherstellungplanは凄まじい能力をギルバートに与えた。
その一つが、光速移動物体すら捉えるという驚異的な動体視力だ。
だがこの事実には、誤解し易い所がある。
手に入れたのは動体視力であって、視力そのものは上がっていない。
故にギルバートはこの攻撃を察知出来ない。
幾ら動体視力を上げようとも、無色透明な空気は察知出来ない。
そんな当たり前の事実を、しかし絵美は見逃さなかった。
「でも、どうやって……」
マリヤの疑問は、至極真っ当だった。
対象の認定、捕捉、発砲の三つのプロセスが、一体どこに当て嵌まるのかが分からない。
「私ね。肩を打ち抜かれたのよ、あのウォーターカッターで」
正岡絵美は淡々と語る。
「その時ね、僅かだけど見たの。ギルバートの袖口から覗く射出口のノズルを。一番近くであの圧縮音を聞いていたのも私だし、視覚野と聴覚野の記憶は綺麗に取り出せたわ。型名《CIC3846750WS》。キルチネルインダストリアル社製の軍用高圧水流射出機。通称は“恵まぬ雨”。それがギルバートの獲物よ。後はその圧縮音のデータを、対象、及び特定刺激としてプログラムするだけ」
目まぐるしく展開する事態に流されつつも、しっかりと断片的且つ僅かな手掛かりを拾い集め、そこから正解を導き出す。
光速の世界に生きるギルバートと、凡人の絵美。
絶対的な彼我の実力差を、努力と執念と閃きで埋め、遂に彼女は欠片程の勝機を拾った。
広大な砂漠の中からダイヤを見付ける様な無謀な仕事を、まるでルーチンワークをこなした様に語る絵美に、マリヤは戦慄を覚える。
ヒマワリの遺伝子情報より開発されたプログラムで制御したナノマシンを用いた遠隔攻撃。
救済の溜息の自動多重射出機構“断罪の暴風”。
かくして、咎人を裁く暴風は吹き荒れた。
『超クールだろ?これが今の俺の相棒なんだぜ』
思っていた何倍もイカした攻撃に、思わず口元が緩んだ。
駆け出す。
濃度3%を越え、二酸化炭素はその毒性を如何なく発揮していた。
震える足で何とか踏ん張ろうとし、所在なく手を伸ばすギルバートに、源は告げる。
「ギル!!!!お前は今を生きてなさ過ぎる!!!!俺は自分の手で過去と今に線を引いた!!!!だからもう、俺は過去に取り合わねぇ!!!!お前の背中は見ねぇ!!!!俺は前だけ見て!!!!バディと!!!!正岡絵美と!!!!進むって決めたんだ………よ!!!!」
言葉の締め括りと共に、つんのめる様にして源は破滅との握手を突き出した。
ギルバートの頬に、白い拳が喰い込む。
紫電が、金庫中に広がって行く。
ギルバートの袂から、翁面がこぼれた。
二人の足元に落ちたそれは、燦燦たる輝きに呑まれ、暴走する紫電に焼かれ、音もなく静かに砕け散る。
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