T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.1 Welcome to T.T.S.  Chapter3-1

No.3 Operation Code:G-3864-proto [Beef or Fish?]


――A.D.1893.9.21 19:01 大日本帝国 奈良県――





 初秋の空気が、突然割れた。
 姦しい虫の声の一切が消え、代わりに高低問わずあらゆるノイズが空気を震わせる。
 聴覚を埋め尽くす電子の外乱に、頭が割れそうだ。


「何、よいきなり……」


 太陽から月へと支配権の渡った空の下、紫電に目をやられたと思ったら、今度は不協和音に耳をやられ、嫌でも絵美の顔は歪む。


「どぉした?」


「通信が、いきなり……」


 光の残響で覆われた視界の端で受信レベルを確認してみるが、数値は変わらず85%のままだ。


『何なの……』


 答えは、すぐに告げられた。


〈……I.T.C.紙園エリです。音…ザ…好でしょうか?ノイズは可聴値に収まっていますか?そちらはT.T.S.No.3正岡絵美でよろしいですか?〉


「え、何?エリちゃん?どうしたの?それさっき言ったよ?」


〈よかった。そちらはOperation Code:G-3842違法時間跳躍者クロック・スミス川村マリヤ確保後の完了報告終了直後でよろしいですね?〉


「うん、だからさっき……」


〈落ち着いて聞いて下さい。こちらはそちらの作戦開始跳躍時間より43日後の2176年9月14日AM11:18からの通信です〉


「…………へ?」


〈念の為に言っておきますが、これは訓練ではありません。緊急任務です。詳しくは追って送信します任務内容をご参照の程を……この通信が終了後、43日前。2176年8月2日の私からTLJ送信の最終確認が来ます。そこで“プライベートトーク盗聴者の口封じの為一時D-28を離脱する”とご説明を〉


「な、何を言って……」


〈ではT.T.S.ストレートフラッシュ両名の息災と成功、厳正なる時の改変阻止を祈ります……ごめんなさい。でも、宜しくお願いしますね〉


 内容把握が追い付かない内に通信は途絶え、直ぐに、元の紙園エリからのリダイアルが来る。


〈T.T.S.No.3、I.T.C.紙園エリです。最終確認を行います。周辺に住人の生体反応はありませんか?…………No.3?〉


「え?あ、いや、その……」


 理解も待たずに、事態がどんどん進んで行く。
 勝手な進行具合に、絵美はデジャブを覚えた。
 問題は、次に発する一言だ。
 未来のエリを信じ、その提案に伸るか反るかの決定権は、彼女にある。


『何が何だか……』


 しかしながら、今の絵美には判断の材料がなかった。
 決定打を求めて振り返ると、絵美以上に状況が分かっていないであろう、怪訝な顔の源と目が合った。
 それでも、今の絵美に必要なのは(絵美的に大変癪だが)この男だった。


『そうだ、あの時コイツは……』


 その瞬間。


『……ええい!ままよ!』


 絵美は肚を括った。
 目を瞑った顔を前に戻し、拳を固く握る。


「こちらT.T.S.No.3正岡絵美。やはり先程報告したプライベートトーク盗聴者は過去改変の危険性があると認知。これより、口封じの為の追跡に入ります。川村マリヤは意識剥奪の上PRDG-28の空き家に拘束しておこうと思うのですが、問題ありませんか?」


〈え?それは先の通信で“該当当時の学術的観点からは内容解釈が不可能”と報告を〉


「ええ、確かにそう申し送りましたが、万に一つの可能性を潰す事をT.T.S.の務めと再認識し、敢えてこの方針を打ち出す所存です。問題ありませんか?」


 暫くの間、誰も何も喋らず、秋虫だけがけたたましく騒いでいた。


〈……了解しました。川村マリヤを屋敷最深部の使用人部屋、手前から三番目の西側の襖に拘束して下さい。そちらからの再通信にて最終確認を行った後、対面する東側の襖にTLJを跳躍させます。それでよろしいですね?〉


 返された言葉は、不本意さを隠そうともしないエリの声だった。


「……ありがとう、恩に着るわエリちゃん」


〈いえ……他ならぬ絵美さんの願いならば仕方がありません。あの馬鹿ないい加減野郎だったら却下していましたが……ではストレートフラッシュ両名の健闘を祈ります〉


 緊張感のある通信を終え、胸を撫で下ろした絵美は振り返る。
 “馬鹿ないい加減野郎”は相変わらず訳が分からないと言った表情で相棒を見ていた。
 だが、説明して欲しいのは絵美も一緒だ。
 取り敢えず言われた通りの内容で急場は凌げたものの、次に何をすればいいのかさっぱり分からない。
 源に対して小首を傾げて見せようと思った、その時だった。


「源!なんかファイル来たからダウンロードはじめるよ!」


「はぁ?今か?」


『本当に来た!!』


 ストレートフラッシュは、各々のWITへと視線を落とす。
 そして彼等はソレを見付けた。
 送信日時2176年9月14日AM11:23の指令ファイル。
 作戦名タイトルは、Code:G-3864-proto。


『proto?何かを…経る?』


 その名に違和感を懐きつつ、ファイルを開く。
 見慣れた定型文をすっ飛ばし、ターゲットの名前を探して。


「何これ?」「何だこれ?」


 ストレートフラッシュは揃って首を捻った。

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