死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~

平尾正和/ほーち

第76話『彼女の笑顔を守るために』

 翌日、シェリジュの森で薬草を採取しつつEランク級の魔物をメインに狩り、半日で約1,000Gを稼いだ俺たちは、2人揃ってEランク冒険者に昇格。


 前回は基礎戦闘訓練受けたり、試験受けたりしたんだけど、グレイウルフやジャイアントボアなんかの素材をごっそり納品したら、あっさり条件クリア出来たわ。


 路銀も出来たので、デルフィの安宿を解約し、一路ヘグサオスクを目指す。


 手っ取り早く金を稼ぐんなら、金属採取が一番だよな。


 まだ武器も防具も大したものを持っていないが、俺たちには魔術と魔法がある。


 デルフィは元々持っていた短弓で魔法の矢は撃てるみたいだし、俺は手ぶらでも魔術や魔法は撃てるんだよね。




 まずはフュースで鉄工ギルドに登録し、納品用収納庫を契約。


 そのままフェイトン山に向かった。




 デルフィはこの時点で持っていた皮の軽装があるのでまだいいが、俺は革ジャケットスタイルだったので、受け付けで渋い顔をされたけど、とりあえずEランク冒険者だとうことを確認してもらい、10番までの入り口を解放してもらった。


 もちろん10番口から入り、採取を開始。


 アイアン・カッパー・ティン等の金属ゴーレム以外に、ロック・ウッドゴーレムも出るとこらしく、採取した石材や木材は手数料を払って鉄工ギルドから石工・木工の各ギルドに回してもらった。


 そんな感じで順調に採取を行い、出入り口の解放も進め、半月ほどでミスリルとオリハルコンの装備を既成品で揃えることが出来た。


 オーダーメイドは既に発注済みで、仕上がりまで少し時間がかかるので、その間のつなぎとして既成品を購入している。


 もちろん、かなりの蓄えも出来た。


 あと、前回より展開が早いのだが、高ランク冒険者への金属採取依頼が早くも本格始動しそうだ、とのこと。


 これについては鉄工ギルドの人や職人の人からはかなりお礼を言われたよ。


「いやぁ、つよくてニューゲームって、いいね!」


 最初は金も物もなくてしんどいな―って思ってたけど、強さがあればなんとでもなるもんだ。


 少なくともこの世界では。




**********




「さて、デルフィーヌさん。我々には守らなければならないものがあります」


「なによ、急に改まって」


「我々には守らなければならないものがあります!」


「……まぁ、世界を、ねぇ」


「そんなものはどうでもいいのです!! もっと大切なモノがあるのです!!」


「さっきから何なのよ……。じゃあ世界を救うよりも大切なものでなんですか、ショウスケさん」


「わかりませんか?」


「……わかりません」


「それは……ハリエットさんの笑顔です!!」


「!!」


 デルフィがハッとした表情を見せる。


 実は初日の夕方頃に、一度魔術士ギルドを訪れていたんだ。


 元気そうなハリエットさんを見て、デルフィのやつ泣き崩れちゃったんだよね。


「そうね……。それは世界を救うことなんかよりもずっと大切なことだわ」


「だろ?」


「うん……。じゃあ、あの童貞粗チン野郎をブチ殺……」


「ストップストーップ!! 何物騒なこと言ってんの!? まだ何もやってないのに殺すとかダメに決まってんでしょ?」


「ほなあのクサレチ○ポとタマぁ抉り取ったらえんですかいのぅ?」


 なんかデルフィが暗い表情で笑みを浮かべなから、両手をワキワキとさせている。


「いやいや、キャラおかしいでしょ? ダメです」


「でも、あの男がいる限り、いつかハリエットさんに危害が及ぶじゃない!!」


「まぁそりゃそうなんだけどさ。でも暴力に訴えてはいけません。少なくとも未遂の内は」


「……なにかいい考えがあるんでしょうねぇ?」


「ある」


「成功する可能性は?」


「結構高いと思ってる」


「……失敗したら?」


「その時は申し訳ないけど、ヘクター氏にはご退場願うしかないな」


 一応法治国家で育った俺としては、短絡的に命を奪うってのは嫌なんだよね。


 とはいえ、倫理を優先させ過ぎたせいでハリエットさんに危害を加えられたんじゃお話しにもならないので、最悪の場合は消えてもらうことにする。


 でも、出来ることはやっておきたい。


「で、どうするの?」


「うーん、その前に1回エベナに行っときたい」


「エベナに? なんで?」


「そろそろテキロに会いに行ってやらないと……」


《ウェーイ!! あるじぃー!! まだー? まだ来ないんスかー!?》


「うるさくてしょうがない」


 とりあえずテキロはしばらくエベナにいるってことはわかっているので、そちらへ向かうことにする。


 ハリエットさんの笑顔を守ろう作戦でもあの辺には用があるんでね。




**********




 フェイトン山から高速馬車を乗り継いてエベナに到着。


 早速駅の厩舎へ向かう。


 そこには何頭ものスレイプニルが待機していたが、その中にテキロはちゃんといた。


「おう。ごめんな。待たせたな」


《ウェーイ! あるじぃー!! おひさッス!!》


「元気にしてたか?」


《元気も元気、チョー元気ッスよ!! いやー、平和っていいッスね! 大地を駆けるって楽でいいッスね!!》


「まぁそのうち空は駆けてもらうけどな」


《もちろんッス!! 空は空でいいもんスからね》


 一応テキロにも前回の百鬼夜行やら死に戻りやらの事情を説明しておく。


《よくわかんねーんで、なんかあった命令して下さいッス! オイラはあるじの命令に従うだけッス!!》


「まぁ、そんときゃよろしく頼むわ」




「ほう……なにやら随分懐かれてますなぁ」


「あ、ども」


 現れたのは、ここまで俺たちを案内してくれたギルド職員の人だった。


 さすがに一般人が厩舎になんて入れるわけないので、身分を明かしたうえで見学という名目で入れてもらっていたのだ。


「はは……なんかコイツだけエラく懐いてきちゃって」


「ふむふむ。的盧馬というのはなかなか扱いが難しいのですがね。珍しいこともあるもんだ」


 え、コイツって扱い難しいの?


《嫌いな奴の言うことは効かないッスよー。オイラ、あるじ大好きなんで!!》


 おうおう、嬉しいこといってくれるじゃないの。


「あ、そうだ。例えばコイツを買い取る……って出来ます?」


「買い取り? スレイプニルを? バカおっしゃい!」


「やっぱ無理っすか?」


「まあ、馬体だけなら100億ぐらいでお譲りできなくもありませんが、その後の管理は個人じゃあ無理ですぞ? その後もひと月数万G単位の維持管理費が必要ですからなぁ」


「ああ、そりゃ現実的じゃないっすねぇ。じゃあしばらく貸し切りにするとかは?」


「それは……馬車を、ですかな?」


「いや、馬だけ。たとえば調教テイムしてちょっと遠乗りしたり、とか?」


「そもそも調教というのが現実味のない話ですが、仮に調教できたとしたら……、依頼に必要ということでお貸しできなくはないかもしれませんなぁ」


「なるほど。おいくらぐらいで……?」


「ふーむ。前例がないのでなんとも言えませんが、スレイプニルは日に数万G単位で稼ぎますからなぁ……。そう安くはならないかと」


「ほうほう。金さえあればなんとかなると?」


「いえ、その馬は冒険者ギルドの所有ですので、やはりそれなりのランクの方でないと」


「Eランクでは……?」


「せめてAランクですかな」


「鉄工ギルドのではAランク採取士なんですけど……?」


 実は金属採取しまくって、鉄工ギルドでの採取士ランクはめっちゃ上がったんだが、ダンジョンの魔石と違って、鉄工ギルドと冒険者ギルドはまだ提携を取ってないから、金属を納品しても冒険者ランクはEランクのままなんだよねー。 


「あまり意味はないかと……」


「ですよねー。ありがとうございました」


 さて、テキロとの再会も果たせたし、コイツに働いてもらうのは先の事になるだろう。


《テキロ、また来るわ》


《ウェーイ!!》




「で、これからどうするの? まだ作戦の内容を一切聞いてないんだけど」


「そうだな。とりあえず明日、タバトシンテ・ダンジョンに行こうか」



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