死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~

平尾正和/ほーち

第68話『従魔契約』

<自爆>
使用者を中心に範囲内すべての敵に対して防御無視・耐性無視・回避不能の絶対値ダメージを与える。使用者は実行時にあらゆる憂いから解き放たれる。範囲・ダメージ量は残りHP/MPとスキルレベルに依存。範囲→使用者を中心に半径(HP+MP)×スキルレベルm。ダメージ量→(HP+MP)×スキルレベルHP


 というわけで、前回は華々しく散って終了。


 いや、なんとなく目をつけてたスキルだったんだが、獲得に必要なSPが結構なもんだったんだよね。


 しかし『魔陣』で下手すりゃ100万匹近くの餓鬼を倒したおかげか、異常な量のSPを稼げていたので、思い切って取っちゃったってわけ。


 確か最終段階でHPとMPがそれぞれ1万ぐらいあったから……えっとスキルレベルの10かけて20万か。


 つまり半径約200km圏内の敵にそれぞれ20万のダメージあたえたわけだけど、それってどんなもんでしょね。


 残念ながら<自爆>で倒した分の経験値やSPは入ってこなかったわ。


 正直いうとそれを期待してスキルレベル上げまくったんんだけどね。


 ちょっと残念。


 なんというか、SP無駄にした感はあるけど、スカッとしたから良しとしよう。


 本来は、死ぬ瞬間ぐらいは清々しくいい気分にしてあげよう、っていう効果なんだろうけど。






 ってな感じで現在例のごとく、エムゼタ到着直後の高速馬車の中。


「あ、そういえばハリエットさん、今この街にいるらしいわよ」


 おおっと、それは大事なことですよー!


「うん、そのことなんだけど、すぐに魔術士ギルドに行ってくれる?」


「えっと、一言挨拶しておけばいいのかしら?」


「いや、『風陣』覚えてきて」


「はあ!? 『風陣』って超級攻撃魔術の?」


「うん」


「無理に決まってんでしょう!!」


「大丈夫。ちゃんとお願いすれば習得させてくれるから」


「ちゃんとお願いって。どうお願いすればいいのよ?」


「”今回の件で必要だから”って感じでいえば大丈夫」


「……何か隠してない?」


「おう、隠してるねぇ。でも説明してる時間はないから。俺は先に駅に行ってやることあるんで、終わったら駅に来てよ」


「……後で説明しなさいよ」


「オッケー!」


 うーん、我ながら変なテンションだな。


 なんかデルフィも不審半分呆れ半分って感じになってるわ。


 とりあえず馭者に断りを入れてデルフィには降りてもらう。




 駅に着いた俺は、早速ギルド職員に声をかけた。


「おお、これはショウスケさん! デル……えっとデルフィーヌさんは?」


「ああ、あとから来ます。で、ちょっと確認したいんですが、空を移動できる方法ってないです?」


 今回<自爆>のおかげでクリアな頭になった俺が導き出した答えが、空からの進行。


 はっきり言ってあれを全滅させるのは不可能なので、とりあえず境界壁の罅の辺りまで行きたいんだよね。


 もしそこに大元になる何かがあるんなら、それを倒すかなにかすれば事態は改善するんじゃないかと。


 どういう結果になるにせよ、出来るだけ罅に近づいてそこに何があるのか、何もないなら何もないってことを確認したいんだわ。


「空……ですか?」


「ええ。ワイバーンとかそんなんがあればいいんですが」


「そうですねぇ。一応スレイプニルは空を駆けることが出来るんですが……」


「おお、マジですか?」


「ええ、マジですが……、ただきっちり従属させる必要がありまして、高度な魔物調教技術が必要なんですよねぇ」


「魔物調教ですか……」


「はい。現在馬車馬としてスレイプニルを利用できているのは、魔術を使った従属契約が施されておりまして、馬車に組み込まれた魔術紋を利用してなんとか服従させている状態なんです。なので、馬車なしで走らせるのは無理ですし、馬車付きで空を駆けさせるのも不可能ですねぇ」


「なるほど……。じゃあ非常事態ってことで、もし従属できたら1頭借りてもいいですか?」


「はぁ。じゃああそこにいる額が白いのでしたら冒険者ギルドの所有なんで、調教テイム出来るなら……」


「ありがとうございます! ちょっと試してみます」




《スキル習得》
<魔物調教>


《スキルレベルアップ》
<魔物調教>
<魔物調教>
<魔物調教>
<魔物調教>
<魔物調教>
<魔物調教>
<魔物調教>
<魔物調教>
<魔物調教>




 ってことで<魔物調教>スキルを習得し、スキルレベルを最大に。


 これでダメなら別の方法を考えよう。




 職員に案内され、目当てのスレイプニルの元へ。


 全身黒に近い濃茶の毛で覆われた、八本足の巨大な馬。


 その額の部分に真っ白い模様があった。


 <魔物調教>を習得した時点で、なんとなくやり方がわかったので、とりあえず俺は馬に近づき、脚に手を触れ、魔力を流し込む。


 一瞬、ブヒヒン! と鼻息を出して嫌がる素振りを見せたスレイプニルだったが、すぐおとなしくなった。


《ウェーイ! あるじぃー!!》


 突然、どこからともなく声が聞こえた。


「ん? なんだ?」


 周りを見回してみるが、特に声の主は見当たらない。


 ギルド職員が不思議そうにこちらを見ているだけだった。


《あるじぃー! オイラッスよオイラ!! 目の前にいるじゃあないッスかぁ》


 そして目の前のスレイプニルが自らの存在を誇示するように鼻息を出し、細かく首を振る。


 その後、首を下げ、頭を俺に近づけてきた。


「おお!! まさか本当に調教出来るとは!!」


 あ、これって成功したの?


「っつーか、さっきから俺に話しかけてんのお前か?」


《そッスよー! オイラッス!!》


「なんだこれ? 念話か」


《おおっとぉ! 察しがいいッスねぇ~。従魔契約が成立したんで、念話で意思疎通が出来るんッスよ~。オイラたちスレイプニルってそこそこ知能あるしぃ?》


《えーっと、これで聞こえるか?》


 なんとなくの感覚で語りかけてみる。


《お、いいッスねぇ! ばっちしッス!!》


 どうやら念話での意思疎通は問題ないらしいな。


《じゃあ早速で悪いけど、お前って空飛べんの?》


《ちょっとあるじぃ~、”飛ぶ”ってぇ。やめてくださいよ”飛ぶ”ってぇ。オイラたちスレイプニルは空を”駆ける”んッスよぉ! 鳥とかと一緒にしないで欲しいッス》


 なんだか面倒くさいやつだなぁ。


《で、空を駆けれんの?》


《いやぁ、本題に入る前にぃ、名前お願いしゃーッス!!》


《は? 名前? スレイプニルでいいじゃん》


《そりゃ種族名ッスよぉ~。従魔になったからには個体名が欲しいッス!! あるじに名づけて欲しいッス!!》


 あー面倒くせぇなぁ。


《んじゃあ、『テキロ』で》


《テキロ!? なんかイカした名前ッスねぇ!! やっべぇちょーカッケェんッスけど》


《そうかそうか。気に入ってくれたらなによりだよ。で。本題だけど……》


《ちなみに由来とかって聞いてもいいっスか?》


 いや人の話聞けや。


《……由来? ああ、あれだ。お前みたいに額に白い模様がある馬のことを的盧馬てきろばっつーんだよ》


《まさかの模様由来!! それってトラ柄の猫に『トラ』ってつけたり、ブチ柄の猫に『ブチ』ってつけたり、三毛猫に『ミケ』ってつけるのおなじ感覚じゃないッスかー。安易ぃー! あるじ超安易ぃー!!》


《例えが全部猫ってのがどうかと思うが、気に食わねぇってか?》


《いや、カッケェんでいいッス!》


 いいんかい。


《はいはい。んで? 空の方は大丈夫か?》


《いやぁ~、もうね、バリバリ駆けますよバリバリ! 最近は地上ばっか走ってたんでストレス溜まってんスよねぇ》


《よしよし。思う存分駆けさしてやるよ》


《マジっすか? いつ駆けます? 今ッスか? 今駆けますか!?》


 こいつぐいぐい来んなぁ……。


 つか、鼻息荒いって!!


《焦るな焦るな。連れが来たらすぐにでも出発だ》


《ウェーイ!!》 




 そうこうしている内に魔術士ギルドを訪ねていたデルフィが駅に到着した。


「どうだった? 『風陣』行けた?」


「ええ。なんかあっさりOKしてくれて、ちょっとびっくりしたわよ」


「さっすがハリエットさん。話がわかるなぁ」


「ところで、さっきからその馬、あなたに随分懐いてるわね」


「うん。従魔契約結んだ」


「はぁ!?」


「こいつに乗って俺ら2人で先行するから……ってことでいいんですよね?」


「ええ、SSランクのお二人に先行してもらえるなんて、ありがたい限りですよ。スレイプニル単体で空を駆けて行くなら、後発組がエラムタに着く頃にはエスケラ付近を偵察して帰ってこれるでしょうし」


 ああ、ギルド的には俺らが先行して様子を見たうえで、エラムタ辺りで合流するっていうプランなわけね。


 うん、ここはテキトーに合わせとこう。


「オッケーです。じゃあ他のメンバーがエラムタに着くぐらいのタイミングで一旦退きますね」


 嘘だけど。


 出来れば皆さんにはここに残って欲しいけど、多分説得なんて聞いちゃくれないだろうからね、この命知らずの冒険者たちは。


 まぁ、俺らが戻るまでは待機って感じになると思うし。






「よーっし! じゃ、いこうか!!」


《ウェーイ!!》


「ちょっと! 全然状況が掴めないんだけど!?」


 とりあえずデルフィへの簡単な状況説明は道すがら行うことにして、俺は彼女を抱え上げてテキロの背に乗った。



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