死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~
第60話『魔道士と魔法使い』
「くっ……これも幻影か?」
「いえ、ダンジョンコアの力で生み出した本物だと思いますよ」
俺はフランツさんのつぶやき応える。
現れたドラゴンどもは俺たちに向かって突進してきたり、ファイアブレスを吐いたりしている。
物理攻撃ならまだしも、ファイアブレスは厄介だ。
10体ほどが同時にブレスを吐けば、もうそこは灼熱地獄。
なんとか『氷界』で氷のドームをだしても、すぐに溶かされてしまう。
っていうかこれ『氷界』がなかったら詰んでたな。
講師のじいさんに感謝だ。
圧倒的物量で押し寄せてくるドラゴンどもに対し、物理攻撃にはカウンターを食らわせたり、ブレスの合間を縫って攻撃したりして、先程からもう20体ほどのドラゴンを仕留めたが、まさしく焼け石に水。
これを全滅させるのは不可能だろう。
ならば、ヘクター本体を倒すしかない。
先程からヘクターは悠然と目の前に立っているし、ハリエットさんも浮いたままなのだが、そこをドラゴンの攻撃が当たっても、全く影響を受けていないようだった。
もし近くに隠れているのならそこにドラゴン共の攻撃は及ぶまいと予想したが、残念ながら彼らの攻撃はあたり一面にくまなく及んでいる。
となると、これはもうヘクターの幻影術を破るしか無い。
今はメンバー全員善戦しているが、力尽きるのは時間の問題だ。
俺は改めて『氷界』を使い、<思考加速>を発動。
奴の幻影術は、光魔法と闇の因子を合わせたもので、おそらくは”魔術”以上”魔法”未満といったところだろうか。
それがダンジョンコアの力を力を得て強化されたようだが、それでも魔法ではない以上、限りなく魔法に近いが、魔法未満の術、というところだと思う。
つまり、『幻』魔法を習得すれば見破れるのではないかと、俺は考えたわけだ。
『光』と『闇』の複合属性『幻』
アルダベルト治療用の<聖魔法>を覚えるため、すでに<光魔法>と<闇魔法>を習得した俺は、<幻魔法>習得条件を満たしている。
そして、先程から何体ものドラゴンを倒したおかげで、SPにも余裕があるのだ。
《スキル習得》
<幻魔法>
《スキルレベルアップ》
<幻魔法>
<幻魔法>
<幻魔法>
<幻魔法>
とりあえず<幻魔法>のスキルレベルを5まで上げ、『氷界』を解除。
<思考加速>発動中の、ゆっくり流れる時間の中、俺は周りに意識を集中する。
何か違和感はないか?
ドラゴン共の攻撃をいなしつつ、辺りを観察。
何となく違和感を覚えるが、まだうまくつかめない。
《スキルレベルアップ》
<幻魔法>
クソッ、まだ足りないか……。
俺はドラゴンが密集しているところを探し、そこに向けて極大の『ねじ突き』を放った。
《スキルレベルアップ》
<幻魔法>
<幻魔法>
10体ほど一気に屠り、得たSPでさらにスキルレベルを上げる。
そしてようやく、ヘクターの幻影術を看破した。
「この先!! 100メートルほど先にヘクターがいます!!」
そう言いつつ、俺は指した方向に極大の『ねじ突き』を放った。
10体ほどのドラゴンが消え、そこにわずかながら道が出来るも、10秒とたたずドラゴンで埋まってしまう。
しかしそれで十分俺の意図は伝わった。
フランツさん、フレデリックさんは一瞬怪訝そうな表情を見せたが、俺の言葉の真偽を確かめる時間を無駄と思ったのか、フランツさんはその方向に突進し、フレデリックさんはそれを援護するよう、銃を連発した。
デルフィは元々俺を信頼してくれているし、なぜかガンドルフォさんも俺の言葉を疑うことなく、道を開けるべくドラゴンを屠っていく。
俺が『ねじ突き』で前方の道を開け、左右から道を埋めようとするドラゴンをガンドルフォさんとフランツさんが薙ぎ払い、後ろから押し寄せてくる連中をフレデリックさんとデルフィが抑えこむ。
そうやってドラゴンを100体以上倒して進んだ先に、目標を補足。
そこにはここまでと同じようにドラゴンがひしめき合っているようにみえるが、それは幻影だ。
《スキルレベルアップ》
<幻魔法>
<幻魔法>
俺は戦いつつも<幻魔法>のレベルをMAXまで上げた。
そして目的の場所に、思いっきり魔力をぶつける。
「な、なんだと!?」
そこには幻影を見破られて驚愕するヘクターが立っており、ハリエットさんがその傍らに横たわっていた。
その半径2メートルほどにはドラゴンがおらず、そのスペースにメンバーが立ち入ると、先程までひっきりなしに続いていたドラゴンからの攻撃が、ウソのようにピタリとやんだ。
「な……なぜだ?」
「魔道士風情が魔法使いに勝てるわけないだろ?」
狼狽するヘクターを、思いっきり見下して、俺はその言葉を叩きつけた。
なにやら悔しげな顔をしていたヘクターだったが、何か言おうと口を開いた瞬間、2発の銃声が鳴り響く。
フレデリックさんの魔筒から放たれた銃弾が、ヘクターの胸と腹を撃ちぬいていた。
今度は幻影ではないらしく、撃たれた傷からじわりと血が染み出す。
「さっき、おとなしくハリエットさんを返しておくべきだったね」
「あ……が……」
「悪いけど、反撃の隙を与えるほど僕らは甘くないよ」
もう2~3秒もあれば、ヘクターもなにか手を打てたかもしれないが、こっちも結構限界なんでね。
フレデリックさんがやらなけりゃ俺が仕掛けてたわ。
今さら交わす言葉も無いしね。
ヘクターはなにか言おうと口をパクパクさせているが声は出ず、2度ほど咳き込んで血を吐き、腹を抱えて膝を着く。
「まったくだ。友人の忠告は聞くべきだぞ? まぁ、手遅れではあるがな」
そう言って、膝をつきうずくまろうとしていたヘクターの首を、フランツさんはヒュっと剣を振るい、叩き落とした。
落とされた頭がころころと地面を転がる。
恨みがましい表情のヘクターの頭と目が合った気がしたが、気のせいだろう。
断頭台で首を落とされたらこんなふうになるのかな、なんてこと考えてたら、転がっていたヘクターの頭と首のない胴体が光の粒子となって消えた。
「ふん……モンスターなんぞに成り下がりおって……」
フランツさんはそう吐き捨てると、血振りをして左右の剣を鞘に収めた。
ハリエットさんの方をみると、デルフィが、おそらく収納庫から取り出したであろうマントを体に巻いていた。
俺の視線に気づいたデルフィが軽く頷く。
どうやらハリエットさん、少なくとも命に別状はなさそうだ。
「で、これどうすんだよ?」
ガンドルフォさんが周りを見ながら呆れたように口を開く。
ダンジョンコアが停止した場合、倒されたダンジョンモンスターが復活することはない。
ただし、倒さなければそれは倒されるまで存在し続ける。
俺たちの周りには、数えるのも面倒なほど大量のドラゴンが、いまだにひしめき合っている。
こいつらが俺たちを襲ってこないのは、俺が『魔界』と<幻魔法>を組み合わせた『幻界』とでも言うべき魔法でパーティーを覆っているからだ。
とはいえいつまでもこのままという訳にはいかない。
慣れない<幻魔法>は消費MPが半端無いんだわ。
ここまで来るのにも相当MPを消費しており、このままだとたぶん、あと5分も保たない。
「使えるといいんだけど……」
フレデリックさんが手に取ったのは、帰還玉だった。
「じゃ、いくよ?」
メンバーを一通り見回した後、フレデリックさんは帰還玉を地面に叩きつけた。
すると瞬時に景色が変わる。
辺りを見回したところ、ボロボロに崩れてはいるが、そこはエムゼタシンテ・ダンジョン入口の転移陣を覆っていた砦だった。
どうやら無事帰還玉は発動したようだった。
**********
ヘクター討伐から数日後、俺はトセマにあるハリエットさんの自宅を訪れていた。
あの後、治療士ギルドで詳しく診察してもらったが、少なくとも体に傷などは無かった。
切断されていた右足も問題なく接合されており、これまでどおり動かせるようだ。
翌日には意識も戻ったが、そう簡単に体調が戻るはずもなく、魔術士ギルドから休養を提案されたハリエットさんは、しばらく自宅で休むことになった。
現在トセマの魔術士ギルドにはエムゼタから職員が派遣されている。
講師のじいさんは仕事の合間を縫ってしょっちゅう顔を出しているらしいが、身の回りの世話はデルフィが行っており、俺たちは冒険者稼業を休業中だった。
俺はあの後、事の経緯を冒険者ギルドに報告したり、不要になったハリエットさんの義足をキャンセルし、代わりにアルダベルトの奥さん用に義手と義足を注文したり、フュースの復興を手伝ったりと、いろいろ忙しかったが、ようやくハリエットさんのもとに顔を出せた。
いや、その気になればすぐにでも会えたんだが、なんとなく顔を合わせづらかったんだろうな。
ようやく精神的に落ち着いてきたので、こうやってここを訪れることが出来るようになった、というべきで、忙しかったのはわざと予定を入れたからだ。
「あら、ショウスケちゃん、いらっしゃい」
「どうも。顔を出すのが遅くなりました」
「いいのよ、気にしなくても。デルフィちゃん、ショウスケちゃんが来たから、こっちでお茶にしましょう」
「はーい」
部屋の奥から三角頭巾を頭に巻いたデルフィが顔を出した。
お、なんか似あってんな。
デルフィがティーセットを用意し、3人で丸テーブルを囲む。
「私ももう良くなったんだから、いいのよ?」
「いえ、私がやりたくてやってることですから……。もしかして、迷惑……ですか?」
「そんなわけないじゃない。助かってるわよぉ。でも、そろそろお仕事しなくてもいいの?」
「はい、あの……大丈夫です」
デルフィの答えを聞いた後、ハリエットさんが少し心配そうにこちらを見る。
「ええ、充分な貯えはありますから、大丈夫ですよ。心行くまでこき使ってやってください」
実はあのドラゴンの群れと戦った時、俺はただドラゴンを狩ることに夢中だったんだが、デルフィは隙を見て魔石やらドロップアイテムやらを片っ端から『収納』していたらしい。
それはフランツさんとフレデリックさんも同様で、俺とガンドルフォさんは女性と商人のたくましさにただただ呆れるばかりだった。
最後のドラゴンの分と、1~30階層までの魔石やドロップアイテムの回収分で合計500万Gを超え収入を得た。
日本円に換算して五億ですよ、五億。
ついこないだまで働きもせず部屋に引きこもってた男が、異世界の、それも非常時とはいえ億単位の金を稼げるようになったんだから大したもんですよ。
半分はフュース復興のために寄付し、残りを5人で山分けにしたが、借金を返しても余裕で貯金が出来たよ。
一応換金した場合の金額ベースでの山分けだったが、内訳としては、フランツさんとフレデリックさんは素材メイン、ガンドルフォさんは魔石メイン、俺たちは素材と魔石半々って感じになった。
全部売っぱらって現金を山分けするのが一番平等だが、魔石はともかくドラゴンの素材は商人2人にとって必要なものであり、一旦売って買い戻すってのもアホらしいからな。
俺たちも装備のオーダーメイドとかしたいし、そのためには多少ドラゴンの素材もとっておきたい。
ガンドルフォさんは、自分で回収していないんだから取り分は不要と言っていたが、そこはなんとか説得して受け取ってもらった。
エムゼタシンテ・ダンジョンの集落だが、ダンジョンコア停止の件もあり冒険者の利用が減るだろうこと、仮に娯楽施設となるのであれば、それは俺たちのあずかり知らぬこと、ということで、そちらに寄付の類はしていない。
まぁ、ガンドルフォさんが集落に入り浸って金を落として貢献する、といっていたからそれで充分だろう。
ちなみに今回の功績をもって俺たち5人は全員がAランク冒険者となった。
説明が長くなってしまったが、そんな感じで俺たちいまやプチ成金状態なので、当分の間は稼ぐ必要もないんだな。
「そう、じゃあもう少し甘えようかしら」
「ぜひ、そうしてください」
「それにしてもデルフィちゃん。あなたいいお嫁さんになるわよぉ?」
「ちょっと……ハリエットさん」
デルフィはちらっと俺の方を見ると、顔を赤らめ、うつむいてしまった。
可愛いなコンチクショウ!
「こんな素敵な女の子をお嫁さんにもらうのは、一体どこの色男かしらぁ?」
いたずらっぽい笑みを浮かべ、ハリエットさんが俺を見る。
「いやぁ……はは」
とまぁこんな感じでほのぼのと雑談を続けているうちに、いい時間になったのでお暇することにした。
デルフィがティーセットを片付けるため席を離れたあと、俺が立ち上がった時だった。
「……覚えてないのよ」
「え……?」
ハリエットさんはしばらく、どこを見るでもなくぼーっとしていたが、ふと俺の方に顔向けた。
「覚えてないの……。フュースから連れ去られた後のことは」
「…………」
「だからね、何もなかったの……。何も、ないのと……同じ……」
そう言いながら、微笑んでいるのか泣いているのかわからない表情で目に涙をためているハリエットさんの姿を、俺はしばらく忘れられそうになかった。
「いえ、ダンジョンコアの力で生み出した本物だと思いますよ」
俺はフランツさんのつぶやき応える。
現れたドラゴンどもは俺たちに向かって突進してきたり、ファイアブレスを吐いたりしている。
物理攻撃ならまだしも、ファイアブレスは厄介だ。
10体ほどが同時にブレスを吐けば、もうそこは灼熱地獄。
なんとか『氷界』で氷のドームをだしても、すぐに溶かされてしまう。
っていうかこれ『氷界』がなかったら詰んでたな。
講師のじいさんに感謝だ。
圧倒的物量で押し寄せてくるドラゴンどもに対し、物理攻撃にはカウンターを食らわせたり、ブレスの合間を縫って攻撃したりして、先程からもう20体ほどのドラゴンを仕留めたが、まさしく焼け石に水。
これを全滅させるのは不可能だろう。
ならば、ヘクター本体を倒すしかない。
先程からヘクターは悠然と目の前に立っているし、ハリエットさんも浮いたままなのだが、そこをドラゴンの攻撃が当たっても、全く影響を受けていないようだった。
もし近くに隠れているのならそこにドラゴン共の攻撃は及ぶまいと予想したが、残念ながら彼らの攻撃はあたり一面にくまなく及んでいる。
となると、これはもうヘクターの幻影術を破るしか無い。
今はメンバー全員善戦しているが、力尽きるのは時間の問題だ。
俺は改めて『氷界』を使い、<思考加速>を発動。
奴の幻影術は、光魔法と闇の因子を合わせたもので、おそらくは”魔術”以上”魔法”未満といったところだろうか。
それがダンジョンコアの力を力を得て強化されたようだが、それでも魔法ではない以上、限りなく魔法に近いが、魔法未満の術、というところだと思う。
つまり、『幻』魔法を習得すれば見破れるのではないかと、俺は考えたわけだ。
『光』と『闇』の複合属性『幻』
アルダベルト治療用の<聖魔法>を覚えるため、すでに<光魔法>と<闇魔法>を習得した俺は、<幻魔法>習得条件を満たしている。
そして、先程から何体ものドラゴンを倒したおかげで、SPにも余裕があるのだ。
《スキル習得》
<幻魔法>
《スキルレベルアップ》
<幻魔法>
<幻魔法>
<幻魔法>
<幻魔法>
とりあえず<幻魔法>のスキルレベルを5まで上げ、『氷界』を解除。
<思考加速>発動中の、ゆっくり流れる時間の中、俺は周りに意識を集中する。
何か違和感はないか?
ドラゴン共の攻撃をいなしつつ、辺りを観察。
何となく違和感を覚えるが、まだうまくつかめない。
《スキルレベルアップ》
<幻魔法>
クソッ、まだ足りないか……。
俺はドラゴンが密集しているところを探し、そこに向けて極大の『ねじ突き』を放った。
《スキルレベルアップ》
<幻魔法>
<幻魔法>
10体ほど一気に屠り、得たSPでさらにスキルレベルを上げる。
そしてようやく、ヘクターの幻影術を看破した。
「この先!! 100メートルほど先にヘクターがいます!!」
そう言いつつ、俺は指した方向に極大の『ねじ突き』を放った。
10体ほどのドラゴンが消え、そこにわずかながら道が出来るも、10秒とたたずドラゴンで埋まってしまう。
しかしそれで十分俺の意図は伝わった。
フランツさん、フレデリックさんは一瞬怪訝そうな表情を見せたが、俺の言葉の真偽を確かめる時間を無駄と思ったのか、フランツさんはその方向に突進し、フレデリックさんはそれを援護するよう、銃を連発した。
デルフィは元々俺を信頼してくれているし、なぜかガンドルフォさんも俺の言葉を疑うことなく、道を開けるべくドラゴンを屠っていく。
俺が『ねじ突き』で前方の道を開け、左右から道を埋めようとするドラゴンをガンドルフォさんとフランツさんが薙ぎ払い、後ろから押し寄せてくる連中をフレデリックさんとデルフィが抑えこむ。
そうやってドラゴンを100体以上倒して進んだ先に、目標を補足。
そこにはここまでと同じようにドラゴンがひしめき合っているようにみえるが、それは幻影だ。
《スキルレベルアップ》
<幻魔法>
<幻魔法>
俺は戦いつつも<幻魔法>のレベルをMAXまで上げた。
そして目的の場所に、思いっきり魔力をぶつける。
「な、なんだと!?」
そこには幻影を見破られて驚愕するヘクターが立っており、ハリエットさんがその傍らに横たわっていた。
その半径2メートルほどにはドラゴンがおらず、そのスペースにメンバーが立ち入ると、先程までひっきりなしに続いていたドラゴンからの攻撃が、ウソのようにピタリとやんだ。
「な……なぜだ?」
「魔道士風情が魔法使いに勝てるわけないだろ?」
狼狽するヘクターを、思いっきり見下して、俺はその言葉を叩きつけた。
なにやら悔しげな顔をしていたヘクターだったが、何か言おうと口を開いた瞬間、2発の銃声が鳴り響く。
フレデリックさんの魔筒から放たれた銃弾が、ヘクターの胸と腹を撃ちぬいていた。
今度は幻影ではないらしく、撃たれた傷からじわりと血が染み出す。
「さっき、おとなしくハリエットさんを返しておくべきだったね」
「あ……が……」
「悪いけど、反撃の隙を与えるほど僕らは甘くないよ」
もう2~3秒もあれば、ヘクターもなにか手を打てたかもしれないが、こっちも結構限界なんでね。
フレデリックさんがやらなけりゃ俺が仕掛けてたわ。
今さら交わす言葉も無いしね。
ヘクターはなにか言おうと口をパクパクさせているが声は出ず、2度ほど咳き込んで血を吐き、腹を抱えて膝を着く。
「まったくだ。友人の忠告は聞くべきだぞ? まぁ、手遅れではあるがな」
そう言って、膝をつきうずくまろうとしていたヘクターの首を、フランツさんはヒュっと剣を振るい、叩き落とした。
落とされた頭がころころと地面を転がる。
恨みがましい表情のヘクターの頭と目が合った気がしたが、気のせいだろう。
断頭台で首を落とされたらこんなふうになるのかな、なんてこと考えてたら、転がっていたヘクターの頭と首のない胴体が光の粒子となって消えた。
「ふん……モンスターなんぞに成り下がりおって……」
フランツさんはそう吐き捨てると、血振りをして左右の剣を鞘に収めた。
ハリエットさんの方をみると、デルフィが、おそらく収納庫から取り出したであろうマントを体に巻いていた。
俺の視線に気づいたデルフィが軽く頷く。
どうやらハリエットさん、少なくとも命に別状はなさそうだ。
「で、これどうすんだよ?」
ガンドルフォさんが周りを見ながら呆れたように口を開く。
ダンジョンコアが停止した場合、倒されたダンジョンモンスターが復活することはない。
ただし、倒さなければそれは倒されるまで存在し続ける。
俺たちの周りには、数えるのも面倒なほど大量のドラゴンが、いまだにひしめき合っている。
こいつらが俺たちを襲ってこないのは、俺が『魔界』と<幻魔法>を組み合わせた『幻界』とでも言うべき魔法でパーティーを覆っているからだ。
とはいえいつまでもこのままという訳にはいかない。
慣れない<幻魔法>は消費MPが半端無いんだわ。
ここまで来るのにも相当MPを消費しており、このままだとたぶん、あと5分も保たない。
「使えるといいんだけど……」
フレデリックさんが手に取ったのは、帰還玉だった。
「じゃ、いくよ?」
メンバーを一通り見回した後、フレデリックさんは帰還玉を地面に叩きつけた。
すると瞬時に景色が変わる。
辺りを見回したところ、ボロボロに崩れてはいるが、そこはエムゼタシンテ・ダンジョン入口の転移陣を覆っていた砦だった。
どうやら無事帰還玉は発動したようだった。
**********
ヘクター討伐から数日後、俺はトセマにあるハリエットさんの自宅を訪れていた。
あの後、治療士ギルドで詳しく診察してもらったが、少なくとも体に傷などは無かった。
切断されていた右足も問題なく接合されており、これまでどおり動かせるようだ。
翌日には意識も戻ったが、そう簡単に体調が戻るはずもなく、魔術士ギルドから休養を提案されたハリエットさんは、しばらく自宅で休むことになった。
現在トセマの魔術士ギルドにはエムゼタから職員が派遣されている。
講師のじいさんは仕事の合間を縫ってしょっちゅう顔を出しているらしいが、身の回りの世話はデルフィが行っており、俺たちは冒険者稼業を休業中だった。
俺はあの後、事の経緯を冒険者ギルドに報告したり、不要になったハリエットさんの義足をキャンセルし、代わりにアルダベルトの奥さん用に義手と義足を注文したり、フュースの復興を手伝ったりと、いろいろ忙しかったが、ようやくハリエットさんのもとに顔を出せた。
いや、その気になればすぐにでも会えたんだが、なんとなく顔を合わせづらかったんだろうな。
ようやく精神的に落ち着いてきたので、こうやってここを訪れることが出来るようになった、というべきで、忙しかったのはわざと予定を入れたからだ。
「あら、ショウスケちゃん、いらっしゃい」
「どうも。顔を出すのが遅くなりました」
「いいのよ、気にしなくても。デルフィちゃん、ショウスケちゃんが来たから、こっちでお茶にしましょう」
「はーい」
部屋の奥から三角頭巾を頭に巻いたデルフィが顔を出した。
お、なんか似あってんな。
デルフィがティーセットを用意し、3人で丸テーブルを囲む。
「私ももう良くなったんだから、いいのよ?」
「いえ、私がやりたくてやってることですから……。もしかして、迷惑……ですか?」
「そんなわけないじゃない。助かってるわよぉ。でも、そろそろお仕事しなくてもいいの?」
「はい、あの……大丈夫です」
デルフィの答えを聞いた後、ハリエットさんが少し心配そうにこちらを見る。
「ええ、充分な貯えはありますから、大丈夫ですよ。心行くまでこき使ってやってください」
実はあのドラゴンの群れと戦った時、俺はただドラゴンを狩ることに夢中だったんだが、デルフィは隙を見て魔石やらドロップアイテムやらを片っ端から『収納』していたらしい。
それはフランツさんとフレデリックさんも同様で、俺とガンドルフォさんは女性と商人のたくましさにただただ呆れるばかりだった。
最後のドラゴンの分と、1~30階層までの魔石やドロップアイテムの回収分で合計500万Gを超え収入を得た。
日本円に換算して五億ですよ、五億。
ついこないだまで働きもせず部屋に引きこもってた男が、異世界の、それも非常時とはいえ億単位の金を稼げるようになったんだから大したもんですよ。
半分はフュース復興のために寄付し、残りを5人で山分けにしたが、借金を返しても余裕で貯金が出来たよ。
一応換金した場合の金額ベースでの山分けだったが、内訳としては、フランツさんとフレデリックさんは素材メイン、ガンドルフォさんは魔石メイン、俺たちは素材と魔石半々って感じになった。
全部売っぱらって現金を山分けするのが一番平等だが、魔石はともかくドラゴンの素材は商人2人にとって必要なものであり、一旦売って買い戻すってのもアホらしいからな。
俺たちも装備のオーダーメイドとかしたいし、そのためには多少ドラゴンの素材もとっておきたい。
ガンドルフォさんは、自分で回収していないんだから取り分は不要と言っていたが、そこはなんとか説得して受け取ってもらった。
エムゼタシンテ・ダンジョンの集落だが、ダンジョンコア停止の件もあり冒険者の利用が減るだろうこと、仮に娯楽施設となるのであれば、それは俺たちのあずかり知らぬこと、ということで、そちらに寄付の類はしていない。
まぁ、ガンドルフォさんが集落に入り浸って金を落として貢献する、といっていたからそれで充分だろう。
ちなみに今回の功績をもって俺たち5人は全員がAランク冒険者となった。
説明が長くなってしまったが、そんな感じで俺たちいまやプチ成金状態なので、当分の間は稼ぐ必要もないんだな。
「そう、じゃあもう少し甘えようかしら」
「ぜひ、そうしてください」
「それにしてもデルフィちゃん。あなたいいお嫁さんになるわよぉ?」
「ちょっと……ハリエットさん」
デルフィはちらっと俺の方を見ると、顔を赤らめ、うつむいてしまった。
可愛いなコンチクショウ!
「こんな素敵な女の子をお嫁さんにもらうのは、一体どこの色男かしらぁ?」
いたずらっぽい笑みを浮かべ、ハリエットさんが俺を見る。
「いやぁ……はは」
とまぁこんな感じでほのぼのと雑談を続けているうちに、いい時間になったのでお暇することにした。
デルフィがティーセットを片付けるため席を離れたあと、俺が立ち上がった時だった。
「……覚えてないのよ」
「え……?」
ハリエットさんはしばらく、どこを見るでもなくぼーっとしていたが、ふと俺の方に顔向けた。
「覚えてないの……。フュースから連れ去られた後のことは」
「…………」
「だからね、何もなかったの……。何も、ないのと……同じ……」
そう言いながら、微笑んでいるのか泣いているのかわからない表情で目に涙をためているハリエットさんの姿を、俺はしばらく忘れられそうになかった。
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