死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~

平尾正和/ほーち

第58話『即席大火力パーティー』

 エムゼタシンテ・ダンジョンの集落はほぼ壊滅状態だったようだが、既に仮設の施設が作られ、魔物も掃討されているようだった。


 元々宿屋以外は簡易なテントや屋台だけだったので、集落の機能を取り戻すだけならそれほどの時間は必要ないのだろう。


 別に建物がなくなろうが魔道具自体が機能を失うわけではないので、倒壊した宿屋から運びだされた回復機能付きの寝台の多くは所狭しとテントに並べられ、ちょっとした怪我人はそこで回復出来るようになっている。


 今はエムゼタとの間を各種馬車が頻繁に行き来しており、非常時につき無料で使えるので、重傷者はエムゼタの治療士ギルドに運ばれているようだ。


 以前に比べて人は少ないが、それでも屋台などはある程度復活し、それなりの活気は戻っているみたいだな。


「いよぉ、ショウスケェ! よく来た!!」


 集落にとって運が良かったのは、本来このレベルのダンジョンにはいないはずのBランク冒険者パーティーがいた事だ。


 ガンドルフォさん率いる『煉獄の暴れ牛』の活躍により、比較的早い段階でのモンスター掃討が成り、フュースほどの被害は出なかったらしい。


「フュースじゃ大活躍だったらしいな」


「いえ、それほどでも。それより、ハリエットさんを見かけませんでしたか?」


「ハリエット? 魔術士ギルドのねーちゃんか。彼女がどうした?」


「フュースにいたんですが、どうやらさらわれたみたいなんです」


「さらわれた……? 襲われたんじゃなく?」


「ええ」


「そりゃあいよいよキナ臭くなってきたなぁ……ええ? フランツよぉ」


 ガンドルフォさんの視線の先に、武器屋のフランツさんと、アクセサリ屋のフレデリックさんがいた。


「あれ、なんでお二人がこんな所に?」


「うむ、実はこのダンジョン近辺でヘクターの目撃情報があってな」


「確認してもらったところ、どうやらダンジョンに入ったのは間違いないみたいなんだよ」


「で、詳しい居場所を調べてもらおうとしたところ、ダンジョンコアが応答しなくなってな。ほどなくあの暴走が始まったというわけだ」


 チッ……やっぱあのストーカー野郎か。


 ハリエットさん絡み=ヘクターと安易に結びつけるのもどうかとは思ったが、その線でまちがいないんじゃね?


「ところで、ハリエット嬢がさらわれたというのは本当かい?」


「ええ。護衛についていた冒険者の証言を得ましたので」


「そう……」


 フランツさんとフレデリックさんの表情が曇る。


「よろしい。ではフレデリック、元仲間として我々の手で始末をつけに行こうじゃないか」


「うん、そうだね」


 聞けばこの2人も元冒険者で、ヘクターとパーティーを組んでいたらしい。


 2人はAランク冒険者を目前にして冒険者稼業から足を洗い、それぞれ商売を始めたのだとか。


 元々冒険者となったのも開業資金集めのためだったらしい。


 ヘクターはその後も冒険者として活動し、Aランク冒険者となった。


「俺たちも行きますよ」


「俺もついていくぜ」


「おう、現役Bランク冒険者が来てくれるとは心強いな」


「よろしくお願いします」




**********




 フランツさんとフレデリックさん、俺とデルフィ、それにガンドルフォさんの5人で即席パーティーを作り、ダンジョンに挑む。


 ダークエルフのミレーヌさんを始めとするガンドルフォさんのパーティーメンバーは復旧の手伝いや、万が一またダンジョンからモンスターがあふれた時のために地上で待機する事となった。


 全員一度はここエムゼタシンテ・ダンジョンを制覇しているが、階層指定の転移陣は沈黙しており、1階層から進まざるをえない状態だった。


 野営に必要な物はガンドルフォさんがすべて手配してくれた。


 足りないものがあれば収納庫を介して地上メンバーとやり取りができるので、随時補給も可能だ。


 一応俺たちもそれなりの準備は整えてはいるけどね。


 武器防具はフランツさんが用意してくれた。


 俺はミスリル製の鎖帷子と軽鎧、そしてオリハルコンコーテッドのミスリルレイピアと、詠唱短縮・魔術効率アップの効果が付与されたミスリル製のショートロッド。


 デルフィはミスリル製鎖帷子とドラゴン革製の軽鎧、ドラゴン製の魔弓を用意してもらった。


 この魔弓、本体はドラゴンの骨と革を合わせており、弦の部分はドラゴンの腸を加工しているらしい。


 ガンドルフォさんは自前の全身鎧と、俺が売ったミノタウロスの斧。


 フランツさんとフレデリックさんの防具は、多少デザインは違うものの俺と同じくミスリル製の鎖帷子と軽鎧。


 フランツさんは双剣、フレデリックさんは魔筒の二丁拳銃スタイルだ。


 フランツさんは遠い祖先にヴァンパイアがおり、身体能力、魔力ともヒトより優れている。


 フレデリックさんはハーフエルフで、魔筒を使う限り魔力が切れることはないとのこと。


 さらにフレデリックさんが提供してくれたアクセサリでさらに装備を固める。


 魔術や魔法を主体とする俺とデルフィには、詠唱短縮、消費魔力軽減機能のあるネックレスやブレスレットを、魔道耐性の低いガンドルフォさんにはそれを補うバングルが提供された。




**********




 俺はこれまで、自分とデルフィ以外の戦闘を見たことがなかった。


 ダンジョン探索を始め、ガンドルフォさんたちの戦いぶりを見させてもらったのだが……、圧巻の一言だった。


 俺もそれなりに強くなったつもりだったが、なんというか、格が違うな。


 まずガンドルフォさんだが、「それ手斧だっけ?」っていうぐらい軽々と長柄の戦斧を振り回している。


 しかも単に怪力でもって振り回しているのではなく、遠心力やら戦斧の重さやらを上手く利用して振り回しているみたいだ。


 ひとつの動作が必ず次の動作につながっている感じ?


 なんというか、すげーダイナミックな動きなんだけど無駄がないな。




 フランツさんの双剣は、とにかく最短の動きで敵を仕留めるような感じだな。


 なんというか、理詰めてシステマティックな動きなんだが、逆にそれが舞のような美しい動きになっているんだわ。


 敵の動きや特性にあわせ、臨機応変に魔術剣を使い分けてるのもすげーな。


 なんかバカの一つ覚えみたく『ねじ突き』ぶっ放してる俺が馬鹿みたいだぜ……。




 フレデリックさんの二丁拳銃もマジやばい。


 一応六発装填式のリボルバーなんだが、「それフルオートだっけ? あといつ装填してんの?」ってぐらい銃撃が止まらない。


 状況に応じてうまく撃ってるんだが、たまに機関銃レベルの連射が起こる。


 あとフランツさんとのコンビネーションもヤバい。


 なんかフランツさんが軽く足止めしたらフレデリックさんが止めを撃ったり、その逆もあったり、フレンドリーファイアになるんじゃね? って思ったのがいい牽制になってたり……。


 なんというか、俺の闘い方ってステータスとスキルのゴリ押しなんだよな。


 対してこの人達の闘い方ってのは長年の経験を元にした唯一無二のものって感じで、スキルに頼ってちゃあいつまでたっても追いつけそうにないわ。


 何気にデルフィもすごい。


 森林エリアでの無双っぷりはやっぱ半端ないわ。


 置いてけぼり感半端無いが、一応俺も魔術やら魔法やらを駆使しつつ、スキルレベルマックスの<細剣術>を駆使して頑張ってるから、倒した敵の数じゃあ引けは取らないんだけどね。


 でもなんか、劣等感を感じてしまうんだよなぁ。


 まぁずっと引きこもりやってた男が、何年も武術の研鑽を積んできた人たちと数ヶ月で肩を並べようってのがおこがましいか。


 うん、ステータスとスキルのゴリ押しでも結果は出せてるんだし、あまり気にしないようにしよう。




 なんやかんやで、森林エリアは半日で踏破した。


 ミノタウロスなんて瞬殺ですよ。


 一応ガンドルフォさんが感謝の意味を込めて一刀両断したわ。




 その後、安全になったボスエリアで一旦野営することに。


 モンスターの出現状況がかなりおかしくなっており、例えば荒廃エリアで出るはずの上位アンデッドが森林エリアを当たり前のように闊歩したりしている。


 下手な冒険者では危険過ぎるので、収納庫を通じて地上メンバーとギルド、ダンジョン協会
に状況を伝えたうえで、俺たちが全階層を制覇するまで、Aランク以上の冒険者の立ち入りを禁じてもらった。


 なので、ボスエリアを占拠しても迷惑にはならないんだよな。


 時間的にはもう深夜に近いので、一晩休んで迷路エリアには明日から挑むことにした。





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