死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~
第53話『ハリエットの受難』
その日ハリエットさんは小型馬車でエムゼタの魔術士ギルドに向かっていた。
小型馬車というのは俺が普段使っている高速馬車や通常の馬車のような大人数が乗れるタイプではなく、6人乗りぐらいの小さい馬車だそうな。
深夜に出発し、明け方にはエムゼタに着く。
一応ギルドと提携しているので、ギルド関係の仕事で行き来する場合はこの小型馬車を推奨されるらしい。
小型馬車は普通に使うと高速馬車並みの料金をとられるので、使うのはギルド職員ぐらいだ。
なので乗り合わせるの顔なじみばかりで気楽なのだが、その日は珍しく見たことのない女性と乗り合わせることになった。
勤務明けで疲れていたハリエットさんは出来れば寝たかったらしいが、なにやら随分と馴れ馴れしく話しかけてくる女性で、適当に受け答えしていた。
最初は眠かったが、まぁ話している内に少し親密になり、話はそこそこ盛り上がっていたらしい。
「ハリエットさん、それだけお綺麗ならさぞ多くの男性から言い寄られているのでしょう?」
「まぁ、人と接する機会の多い仕事ですので、時々そういうこともありますわねぇ」
「贈り物やお手紙なんかを貰うこともあるんですか?」
「ええ、まぁ。正直困るんですけどねぇ」
「そうですか……。お手紙にお返事などは?」
「一応ひととおり目は通しますが、返事は書きませんねぇ。煩わしいので」
「煩わしい? それはせっかく思いを込めてお手紙を書いてくださった方に失礼なのでは?」
「そうかもしれませんわね。でも、頂いた手紙にいちいち返信していては自分の時間が持てなくなりますわ。男性の独りよがりに付き合うほど暇じゃありませんもの」
「独りよがり……?」
ここらへんでどうも女性の様子がおかしい事に気づく。
眠気がなければもう少し早い段階で異変に気づいていたかもしれないが、既に手遅れだった。
「つまり、私からの手紙もモテない男の独りよがりと断じて無視したというのか!?」
姿はかわらぬも、声は完全に男性の声になっていた。
そしてそれは聞き覚えのある声だった。
「……ヘクターさん?」
「ああ、そうだとも! 私だよ!!」
そこで今の今まで女性だったものがヘクターにかわる。
聞けばヘクターって奴は冒険者・魔術士ともAランクランクの凄腕魔道士らしい。
通称『幻想の魔道士』と呼ばれ、光魔法を使えるのだそうな。
さらに、遠い祖先に魔族がおり、先祖帰りで闇属性の固有能力を持っているらしい。
その能力が何なのかは親しい者にも明かしていないが、闇属性の能力と光魔法とを駆使した幻影術はそうそう見破れるものではない。
何とか抵抗はしたものの、Aランク冒険者とただのギルド職員とでは勝負になるはずもなく、それでも必死で逃げ出そうとしたところ馬車から落ちる形となり、不運にも右足が車輪の下敷きとなった。
激痛のあまり気を失い、気づけばトセマの治療士ギルドで施術を受けていたのだという。
ここからは馭者の証言だが、馬車のほうが騒がしいので馬車を止めようとしたところ、ハリエットさんがちょうど落ちるところを確認したらしい。
もう少し止めるのが遅ければ両足とも轢かれていたかもしれないとのことだ。
馭者席を飛び降り、ハリエットさんに駆け寄ろうとしたところでヘクターが馬車から降りてきた。
相手は名のしれた魔道士なので、馭者も死を覚悟したらしいが、とりあえずギルドに緊急通信を行ったことを通達する。
緊急通信というのは『収納』を利用した文書の通信で、緊急用通信箱に文書を収納し、各ギルドがそれを確認するというものだ。
ギルド提携の馬車を扱う馭者であればもちろん利用可能だ。
詳細を書く時間がない場合も馬車番号(出発地点・時刻・経路を確認可能)のみ記載された赤札で通知が可能となっており、馭者は即座に通信を送っていた。
それを聞いたヘクターは狼狽。
さらにハリエットさんの様子を見てそれ以上に取り乱す。
馭者としては出来ればヘクターをハリエットさんに近づけたくなかったが、かといってAランクの魔道士に特攻をかける蛮勇など持ちあわせていない。
なにやら意味不明な言葉を喚きながらハリエットさんに駆け寄ったヘクターは、馬車の車輪でほとんど切断されていたハリエットさんの右足を引きちぎり、それを抱えて走り去っていったという。
その後急いでハリエットさんのもとに向かった馭者は、なけなしの魔力で『止血』と『下級回復』をかけ続ける。
幸いトセマからそれほど離れていない場所だったので、駆けつけたギルド職員と腕利きの冒険者によって治療士ギルドに運ばれ、一命をとりとめた。
車輪に押しつぶされている間はよかったが、ヘクターに脚を引きちぎられた直後から大量に出血が始まっており、この時の馭者の処置がなければハリエットさんは間違いなく失血死していただろうとのことだ。
ただ、いくら魔術が発達しているとはいえ、欠損部位を再生させるようなものはない。
せめて切断された足があれば、多少切断面が潰れていようが接合は可能なのだが、無いものはどうしようもない。
というわけで今回、工業大国と名高いヘグサオスクへ行き、義足を作ってもらうこととなった。
俺たちはその行き帰りと滞在中の護衛を承ったわけだ。
義足の代金から行き帰りの交通費、向こうでの滞在費、俺達の護衛報酬はすべて武器屋のフランツさんとアクセサリ屋のフレデリックさんが持ってくれるらしい。
一応魔術士ギルドからも労災のようなものはおりるらしいが、それではとても足りないとのことだった。
隣国、といっても遠いわけじゃない。
俺たちのいるエカナ州がセンテオスク帝国の東の端に位置しているので、東隣のヘグサオスクは隣の州ぐらいの感覚でいける
あ、センテオスク帝国ってのが今俺たちのいる国の名前ね。
で、センテオスク帝国やヘグサオスク共和国を擁するこの大陸はネニア大陸というらしい。
正直その辺の地名にはあんま興味ないんだけどね。
トセマからはいったん北上してエムゼタへ行き、そこから東へ向かう。
エムゼタまで行くと、ヘグサオスクからセンテオスク南部を東西に走る『産業大路』という大通りに行き当たるので、そこをまずは東へ進む。
産業大路ってのはその名の通り元々は物資の輸送をメインに行なっていた大通りだったが、『収納』魔術の発達により往来のメインは人に移り変わったものの名前はそのまま引き継がれているという交通の要衝だ。
その産業大路を東へ進みヘグサオスクに入ると、ヘグサオスクで最も栄えているという商業都市フュースに着くのでそこで一泊。
そこから少し北に進むといよいよ工業地帯に入る。
俺たちが今回お世話になる工房はフュースから半日ほど北に進んだところにあるテキエダという街にあるらしい。
このテキエダの北に、この大陸で最も大きい『中央大路』という通りに行き当たる。
その中央大路を東へ1日行った所にヘグサオスクの首都エラムタがある、ということだ。
うーん、このあたりの地理については一度きっちり地図を用意したほうがいいかもしれないなぁ……。
ってなわけで、俺とデルフィは、ハリエットさんを介助しつつ目的地へ向かって進んでいた。
一応警戒はしていたが、何事も無くフュースに到着。
宿泊中も交代で見張りを立てたが何事も無く、翌日、無事目的地であるテキエダの街に到着した。
小型馬車というのは俺が普段使っている高速馬車や通常の馬車のような大人数が乗れるタイプではなく、6人乗りぐらいの小さい馬車だそうな。
深夜に出発し、明け方にはエムゼタに着く。
一応ギルドと提携しているので、ギルド関係の仕事で行き来する場合はこの小型馬車を推奨されるらしい。
小型馬車は普通に使うと高速馬車並みの料金をとられるので、使うのはギルド職員ぐらいだ。
なので乗り合わせるの顔なじみばかりで気楽なのだが、その日は珍しく見たことのない女性と乗り合わせることになった。
勤務明けで疲れていたハリエットさんは出来れば寝たかったらしいが、なにやら随分と馴れ馴れしく話しかけてくる女性で、適当に受け答えしていた。
最初は眠かったが、まぁ話している内に少し親密になり、話はそこそこ盛り上がっていたらしい。
「ハリエットさん、それだけお綺麗ならさぞ多くの男性から言い寄られているのでしょう?」
「まぁ、人と接する機会の多い仕事ですので、時々そういうこともありますわねぇ」
「贈り物やお手紙なんかを貰うこともあるんですか?」
「ええ、まぁ。正直困るんですけどねぇ」
「そうですか……。お手紙にお返事などは?」
「一応ひととおり目は通しますが、返事は書きませんねぇ。煩わしいので」
「煩わしい? それはせっかく思いを込めてお手紙を書いてくださった方に失礼なのでは?」
「そうかもしれませんわね。でも、頂いた手紙にいちいち返信していては自分の時間が持てなくなりますわ。男性の独りよがりに付き合うほど暇じゃありませんもの」
「独りよがり……?」
ここらへんでどうも女性の様子がおかしい事に気づく。
眠気がなければもう少し早い段階で異変に気づいていたかもしれないが、既に手遅れだった。
「つまり、私からの手紙もモテない男の独りよがりと断じて無視したというのか!?」
姿はかわらぬも、声は完全に男性の声になっていた。
そしてそれは聞き覚えのある声だった。
「……ヘクターさん?」
「ああ、そうだとも! 私だよ!!」
そこで今の今まで女性だったものがヘクターにかわる。
聞けばヘクターって奴は冒険者・魔術士ともAランクランクの凄腕魔道士らしい。
通称『幻想の魔道士』と呼ばれ、光魔法を使えるのだそうな。
さらに、遠い祖先に魔族がおり、先祖帰りで闇属性の固有能力を持っているらしい。
その能力が何なのかは親しい者にも明かしていないが、闇属性の能力と光魔法とを駆使した幻影術はそうそう見破れるものではない。
何とか抵抗はしたものの、Aランク冒険者とただのギルド職員とでは勝負になるはずもなく、それでも必死で逃げ出そうとしたところ馬車から落ちる形となり、不運にも右足が車輪の下敷きとなった。
激痛のあまり気を失い、気づけばトセマの治療士ギルドで施術を受けていたのだという。
ここからは馭者の証言だが、馬車のほうが騒がしいので馬車を止めようとしたところ、ハリエットさんがちょうど落ちるところを確認したらしい。
もう少し止めるのが遅ければ両足とも轢かれていたかもしれないとのことだ。
馭者席を飛び降り、ハリエットさんに駆け寄ろうとしたところでヘクターが馬車から降りてきた。
相手は名のしれた魔道士なので、馭者も死を覚悟したらしいが、とりあえずギルドに緊急通信を行ったことを通達する。
緊急通信というのは『収納』を利用した文書の通信で、緊急用通信箱に文書を収納し、各ギルドがそれを確認するというものだ。
ギルド提携の馬車を扱う馭者であればもちろん利用可能だ。
詳細を書く時間がない場合も馬車番号(出発地点・時刻・経路を確認可能)のみ記載された赤札で通知が可能となっており、馭者は即座に通信を送っていた。
それを聞いたヘクターは狼狽。
さらにハリエットさんの様子を見てそれ以上に取り乱す。
馭者としては出来ればヘクターをハリエットさんに近づけたくなかったが、かといってAランクの魔道士に特攻をかける蛮勇など持ちあわせていない。
なにやら意味不明な言葉を喚きながらハリエットさんに駆け寄ったヘクターは、馬車の車輪でほとんど切断されていたハリエットさんの右足を引きちぎり、それを抱えて走り去っていったという。
その後急いでハリエットさんのもとに向かった馭者は、なけなしの魔力で『止血』と『下級回復』をかけ続ける。
幸いトセマからそれほど離れていない場所だったので、駆けつけたギルド職員と腕利きの冒険者によって治療士ギルドに運ばれ、一命をとりとめた。
車輪に押しつぶされている間はよかったが、ヘクターに脚を引きちぎられた直後から大量に出血が始まっており、この時の馭者の処置がなければハリエットさんは間違いなく失血死していただろうとのことだ。
ただ、いくら魔術が発達しているとはいえ、欠損部位を再生させるようなものはない。
せめて切断された足があれば、多少切断面が潰れていようが接合は可能なのだが、無いものはどうしようもない。
というわけで今回、工業大国と名高いヘグサオスクへ行き、義足を作ってもらうこととなった。
俺たちはその行き帰りと滞在中の護衛を承ったわけだ。
義足の代金から行き帰りの交通費、向こうでの滞在費、俺達の護衛報酬はすべて武器屋のフランツさんとアクセサリ屋のフレデリックさんが持ってくれるらしい。
一応魔術士ギルドからも労災のようなものはおりるらしいが、それではとても足りないとのことだった。
隣国、といっても遠いわけじゃない。
俺たちのいるエカナ州がセンテオスク帝国の東の端に位置しているので、東隣のヘグサオスクは隣の州ぐらいの感覚でいける
あ、センテオスク帝国ってのが今俺たちのいる国の名前ね。
で、センテオスク帝国やヘグサオスク共和国を擁するこの大陸はネニア大陸というらしい。
正直その辺の地名にはあんま興味ないんだけどね。
トセマからはいったん北上してエムゼタへ行き、そこから東へ向かう。
エムゼタまで行くと、ヘグサオスクからセンテオスク南部を東西に走る『産業大路』という大通りに行き当たるので、そこをまずは東へ進む。
産業大路ってのはその名の通り元々は物資の輸送をメインに行なっていた大通りだったが、『収納』魔術の発達により往来のメインは人に移り変わったものの名前はそのまま引き継がれているという交通の要衝だ。
その産業大路を東へ進みヘグサオスクに入ると、ヘグサオスクで最も栄えているという商業都市フュースに着くのでそこで一泊。
そこから少し北に進むといよいよ工業地帯に入る。
俺たちが今回お世話になる工房はフュースから半日ほど北に進んだところにあるテキエダという街にあるらしい。
このテキエダの北に、この大陸で最も大きい『中央大路』という通りに行き当たる。
その中央大路を東へ1日行った所にヘグサオスクの首都エラムタがある、ということだ。
うーん、このあたりの地理については一度きっちり地図を用意したほうがいいかもしれないなぁ……。
ってなわけで、俺とデルフィは、ハリエットさんを介助しつつ目的地へ向かって進んでいた。
一応警戒はしていたが、何事も無くフュースに到着。
宿泊中も交代で見張りを立てたが何事も無く、翌日、無事目的地であるテキエダの街に到着した。
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