死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~
第52話『護衛依頼』
残りの休日をそのまま海岸エリアで過ごした俺達は、ランクアップやらの手続きをするためトセマに来ていた。
ヘルキサの塔を擁するトウェンニーザ州の州都エベナにももちろん冒険者ギルドはあるのだが、なんというか俺にとってはトセマがホームポイントになってんだよね。
昼前にエベナを出た馬車がトセマに着く頃には日も傾き始めていた。
「おやおや~? お二人さんようやくアレな感じぃ~?」
と俺たちにニヤニヤと嫌らしい視線を送っているのはギルド受付の猫獣人エレナさんだ。
どうやらデルフィとはかなり仲がいいらしい。
「ちょ、何いってんの?」
「ふっふっふ。猫獣人様の嗅覚を舐めちゃあ行かんよ? あぁ~フェロモンくっさいわぁ~」
「ちょっと! やめなさいよ!!」
「あっはっは。ごめんごめん。えーっと、ランクアップだったね」
「……もう!」
「そんな怒んないの」
「別に……怒ってないわよ。じゃあ、これ」
デルフィが俺の分のギルドカードとダンジョンカードも合わせてエレナさんに渡す。
「はいはい。一応それぞれカーリーさんとクロードさんから、ダンジョン制覇を確認したラックアップしてもいいってお墨付きもらってるから」
クロードさんの事は知らんが、カーリー教官は最近各地のダンジョンを飛び回っているそうだ。
なんでもダンジョンモンスターの増加が結構深刻になっているらしく、間引きに大忙しなんだとか。
そっちが一段落ついたらお礼に行かなきゃな。
「いいの? 試験とかやんなくて」
「あのねぇ。2人組でエムゼタシンテ・ダンジョン30階層制覇なんて、下手すりゃAランクレベルの実績よ? いいに決まってんじゃない」
「そう。じゃあお願い」
というわけで、俺たちは晴れてBランク冒険者となった。
4枚のカードをデルフィに返したエレナさんが、ふと真顔になる。
「2人とも、魔術士ギルドのハリエットさんの事は聞いた?」
真顔というよりは沈痛な面持ちと言ったほうがいいだろうか。
エレナさんの視線が動く。
釣られて見たその先には所狭しと依頼が貼り付けられた掲示板。
その目立つ位置に男の写真があった。
ストーカー野郎のヘクターだ。
しかし、依頼内容は尋ね人から指名手配に変わっていた。
**********
「あらぁ、ショウスケちゃんにデルフィちゃん、わざわざお見舞いに来てくれたの?」
治療士ギルドの入院施設。
そのベッドの上でハリエットさんは上半身を起こしていた。
一応元気そうではあるな。
白い貫頭衣にスッピンのハリエットさんってのも新鮮だ。
そばには講師のじいさんが座っていた
「ちょっとぉあんまり見ないでよ、すっぴんなんだからぁ」
と両手を頬に当て恥ずかしげに、しかしわざとらしく身をよじる。
あー、なんか逆に気を使われてんのかなぁ。
「ハリエットさん、すっぴんでも充分お綺麗ですよ」
ってこれ言ったの俺じゃないからね。
デルフィね。
実はハリエットさん、男性冒険者や魔術士からの人気があるのはもちろんだが、女性冒険者からの人気も高いんだわ。
あまり実績がない状態にもかかわらず、生活魔術パックに『下級浄化』を加えたセットでのローンを特別に組んでくれるらしい。
デルフィが早い段階で『下級浄化』を使えたのはそういう理由があるんだな。
その他にもいろいろ相談に乗ってくれるらしく、デルフィもハリエットさんを尊敬しているとのこと。
「ふふ、デルフィちゃんみたいな綺麗なコに言われると悪い気はしないわねぇ」
「綺麗だなんて、そんな……」
おーい、デルフィー、ポーッとしてんぞ―。
「あの、ハリエットさん。今回の依頼、俺らが引き受けましたんで」
「あらぁ、今をときめく『ラブラブ魔道アタッカーズ』に護衛していただけるなんて、光栄だわぁ」
「はああ!? なんすかそれ!!?」
なんかとんでもない固有名詞が飛び出してきたんだけど……。
「あら、知らないの? いまアナタたちエムゼタシンテ・ダンジョンでは有名なのよ? 魔術剣と魔弓のゴリ押しで息ぴったりの、男女のデュオがいるって」
「ちょ、いえ、あの時は、まだ、そんな……」
デルフィが真っ赤になってあたふたしている。
俺も同じような顔してんのかも。
「”あの時は”……? じゃ今はいい関係なのかしら」
「あ! えっと……その」
デルフィが真っ赤になって俯く。
「ふふ、良かったわね、デルフィちゃん」
「えっと……はい」
と、デルフィが観念したように照れた笑いを浮かべた。
うーん、俺も顔があっついわ。
「そういえば、2人とも随分たくさん魔石を納品してくれたそうね?」
「ええ、まぁ」
「だったら魔術士ランク上げておく?」
「えーっと、別に急ぎじゃなくても」
「いいじゃない。上げれるときに上げておきなさいよ。おじーちゃん」
「うん?」
付き添っていたじいさんはウトウトしていたのだが、ハリエットさんに声をかけれて顔を上げる。
「ここはもういいから、2人のランク見てあげて」
「そうかそうか。ほなおふたりさん行こうかの」
よっこらせとばかりに立ち上がったじいさんは、よたよたと病室を出て行った。
俺とデルフィは顔を見合わせ、そのあとハリエットさんを見たが、ハリエットさんは微笑みながら軽く頷くだけだったので、とりあえずじいさんについて魔術士ギルドへ向かった。
「ほなおふたりさん、ギルドカード貸してくれるかの」
俺たちはそれぞれギルドカードを渡した。
「ほうほう。ふたりともエラい魔石稼いでくれたんじゃのう。うーむ、Cランクは余裕じゃが、Bには微妙に足りんところじゃな」
「あ、別にCランクでも」
「しかぁーし! エッちゃんの護衛依頼をうけてくれるっちゅうことなんで、ワシの権限でBランクにしちゃろ」
「あ、そっすか、どうも」
なんかしらんけど、上げてくれるんなら上げといてもらおう。
あ、ちなみにエッちゃんというのはハリエットさんのことね。
ハリエットちゃん→ハリエッちゃん→エッちゃんということらしい。
「さて、その代わりと言ってはなんじゃが、エッちゃんの護衛をより強固なものとするために上級攻撃魔術と防御魔術を覚えてみんかね?」
「あ、ランク的には問題ないんですよね?」
「そうじゃな。料金の方は半額にできるがどうじゃ?」
「覚えます!!」
と、いきなりデルフィが身を乗り出す。
まあ半額で覚えられるなら覚えておいてもいいだろうな。
一応防御魔術について説明しておこう。
防御魔術には下級の『壁』、中級の『円』、上級の『界』がある。
『壁』はそのまんま各属性の壁を1面作り出す魔術で、『円』は自分たちの周りをぐるりと囲む壁をだす。
『界』は周りプラス上方も守れる半球状の結界みたいなのを作り出すものだな。
防御魔術の場合は攻撃魔術と違って『聖』以外は単属性が基本となり、適宜属性を使い分ける。
基本属性四種(『炎』『氷』『雷』『無』)プラス『聖』の上級攻撃魔術と、四元素属性(『地』『水』『火』『風』)と『無』『聖』の各級防御魔術で1人15万Gのところを2人で15万G(およそ1,500万円に相当)にしてもらう。
いくらダンジョンで荒稼ぎしたとはいえどもさすがに一括で払える額ではないが、Bランク魔術士とじいさんの権限でローンを組んでもらった。
ちょっとした家が買えるレベルの金だし、防御魔術はともかく上級攻撃魔術の方は正直今回の依頼で必要かと言われれば微妙なところだが、覚えておけばいつか役立つはずだ。
「あと、エロイーズちゃんは魔弓を使うんじゃったな」
「はい」
じじいそのネタ誰にでもやってんのかよ。
んで、ガン無視かよデルフィ。
「覚えとるのは四種と『聖矢』だけかの?」
「ええ、そうです」
「ほいじゃあ『地矢』『水矢』『火矢』『風矢』もオマケしちゃろ」
「え、いいんですか?」
「かまわんよ。他の代金に比べたら誤差みたいなもんじゃし」
ちなみに魔弓の場合、戦闘付与魔術のように各属性での魔術紋登録は不要で、『矢』系魔術であれば属性を問わず使える。
支払い手続きを終えた俺たちは、じいさんの案内で魔術を習得した。
《スキルレベルアップ》
<地魔術>
<水魔術>
<火魔術>
<風魔術>
<無魔術>
<炎魔術>
<氷魔術>
<雷魔術>
<聖魔術>
《魔術習得》
『炎渦』『炎波』『氷渦』『氷波』『雷渦』『雷波』『魔渦』『魔波』『聖渦』『聖波』『地壁』『地円』『地界』『水壁』『水円』『水界』『火壁』『火円』『火界』『魔壁』『魔円』『魔界』『聖壁』『聖円』『聖界』
「ほいじゃあタイヤキくん、トルティーヤちゃん、エッちゃんのこと頼むでの」
「はい」
「ショウスケです。任せといて下さい」
なんかじいさんがデルフィの方見て寂しそうにしてたので、一応俺が突っ込んでやると、俺を見てすっげー嬉しそうな顔になった。
それやっぱネタだったんだな。
**********
翌朝、デルフィと駅へ向かう。
目的地はエカナ州の東側に隣接する国『ヘグサオスク共和国』。
依頼内容はハリエットさんの護衛。
依頼主は武器屋のフランツさんとアクセサリ屋のフレデリックさん。
2人はわざわざ駅まで見送りに来てくれた。
「今回は依頼を受けてくれてありがとう」
例のごとくキリッとしたイケメンのフランツさんが出迎えてくれた。
ただ、表情には陰りがある。
「僕からもお礼を」
フレデリックさんもなかなかのイケメンだが、フランツさんと違って柔らかいイメージだな。
フランツさんは髪型から服装からビシっと決めてるんだが、フレデリックさんはクセのある髪を適当になでつけて、服も軽く着崩してるわ。
すっげーモテそう。
「工房の主人に宛てて書いた手紙を預けておくので渡して欲しい」
と、フランツさんから封筒を預かった。
「了解です」
フランツさんの視線が俺の背後に移る。
そしてそちらの方へ小走りにかけ出した。
フレデリックさんも早歩きでついていく。
振り向くと、講師のじいさんに連れられたハリエットさんがいた。
ハリエットさんは松葉杖をついており、一応じいさんが介助しているようだ。
「ハリエット殿、この度は我が友人ヘクターがとんでもないことを……」
フランツさんがハリエットさんに頭を下げる。
「僕からもヘクターに替わり謝罪を」
と、フレデリックさんも頭を下げる。
「やめてくださいな、お2人とも。それよりもいい工房を紹介してくださってありがとうございます」
「いや、我々ではこれぐらいしか」
「いえいえとんでもない。護衛まで付けて頂いた上に経費まで負担していただいて、こちらこそ申し訳ないですわ」
しばらくそのようなやり取りが続いた後、ハリエットさんが俺たちに気付いた。
「ショウスケちゃん、デルフィちゃん、今回はよろしくね」
「はい。ハリエットさんは私達がお守りしますので」
なんだかデルフィがやる気満々だな。
「微力を尽くします」
と、俺もどこかで聞いたようなセリフで意思表明しておく。
「ふふ、そんなに気をはらなくてもいいわよ。折角の機会だし、ヘグサオスクを堪能しましょうね」
と、いつもとは打って変わって朗らかな笑顔を見せるハリエットさんだったが、なんというか健気に振る舞うほど痛々しい。
ハリエットさんの後ろに立っているフランツさんとフレデリックさんはしかめっ面のままうつむいている。
普段はボケっとしているじいさんも、今は真顔だ。
ハリエットさんの出で立ちは入院時の貫頭衣と違って、いつもどおりの三角帽にマントという姿だ。
化粧はいつもより薄めだが、スッピンでも充分美人なのは昨日確認済み。
腰から伸びるロングスカートもいつもどおりだが、その裾から見える足は一本しかなかった。
ヘルキサの塔を擁するトウェンニーザ州の州都エベナにももちろん冒険者ギルドはあるのだが、なんというか俺にとってはトセマがホームポイントになってんだよね。
昼前にエベナを出た馬車がトセマに着く頃には日も傾き始めていた。
「おやおや~? お二人さんようやくアレな感じぃ~?」
と俺たちにニヤニヤと嫌らしい視線を送っているのはギルド受付の猫獣人エレナさんだ。
どうやらデルフィとはかなり仲がいいらしい。
「ちょ、何いってんの?」
「ふっふっふ。猫獣人様の嗅覚を舐めちゃあ行かんよ? あぁ~フェロモンくっさいわぁ~」
「ちょっと! やめなさいよ!!」
「あっはっは。ごめんごめん。えーっと、ランクアップだったね」
「……もう!」
「そんな怒んないの」
「別に……怒ってないわよ。じゃあ、これ」
デルフィが俺の分のギルドカードとダンジョンカードも合わせてエレナさんに渡す。
「はいはい。一応それぞれカーリーさんとクロードさんから、ダンジョン制覇を確認したラックアップしてもいいってお墨付きもらってるから」
クロードさんの事は知らんが、カーリー教官は最近各地のダンジョンを飛び回っているそうだ。
なんでもダンジョンモンスターの増加が結構深刻になっているらしく、間引きに大忙しなんだとか。
そっちが一段落ついたらお礼に行かなきゃな。
「いいの? 試験とかやんなくて」
「あのねぇ。2人組でエムゼタシンテ・ダンジョン30階層制覇なんて、下手すりゃAランクレベルの実績よ? いいに決まってんじゃない」
「そう。じゃあお願い」
というわけで、俺たちは晴れてBランク冒険者となった。
4枚のカードをデルフィに返したエレナさんが、ふと真顔になる。
「2人とも、魔術士ギルドのハリエットさんの事は聞いた?」
真顔というよりは沈痛な面持ちと言ったほうがいいだろうか。
エレナさんの視線が動く。
釣られて見たその先には所狭しと依頼が貼り付けられた掲示板。
その目立つ位置に男の写真があった。
ストーカー野郎のヘクターだ。
しかし、依頼内容は尋ね人から指名手配に変わっていた。
**********
「あらぁ、ショウスケちゃんにデルフィちゃん、わざわざお見舞いに来てくれたの?」
治療士ギルドの入院施設。
そのベッドの上でハリエットさんは上半身を起こしていた。
一応元気そうではあるな。
白い貫頭衣にスッピンのハリエットさんってのも新鮮だ。
そばには講師のじいさんが座っていた
「ちょっとぉあんまり見ないでよ、すっぴんなんだからぁ」
と両手を頬に当て恥ずかしげに、しかしわざとらしく身をよじる。
あー、なんか逆に気を使われてんのかなぁ。
「ハリエットさん、すっぴんでも充分お綺麗ですよ」
ってこれ言ったの俺じゃないからね。
デルフィね。
実はハリエットさん、男性冒険者や魔術士からの人気があるのはもちろんだが、女性冒険者からの人気も高いんだわ。
あまり実績がない状態にもかかわらず、生活魔術パックに『下級浄化』を加えたセットでのローンを特別に組んでくれるらしい。
デルフィが早い段階で『下級浄化』を使えたのはそういう理由があるんだな。
その他にもいろいろ相談に乗ってくれるらしく、デルフィもハリエットさんを尊敬しているとのこと。
「ふふ、デルフィちゃんみたいな綺麗なコに言われると悪い気はしないわねぇ」
「綺麗だなんて、そんな……」
おーい、デルフィー、ポーッとしてんぞ―。
「あの、ハリエットさん。今回の依頼、俺らが引き受けましたんで」
「あらぁ、今をときめく『ラブラブ魔道アタッカーズ』に護衛していただけるなんて、光栄だわぁ」
「はああ!? なんすかそれ!!?」
なんかとんでもない固有名詞が飛び出してきたんだけど……。
「あら、知らないの? いまアナタたちエムゼタシンテ・ダンジョンでは有名なのよ? 魔術剣と魔弓のゴリ押しで息ぴったりの、男女のデュオがいるって」
「ちょ、いえ、あの時は、まだ、そんな……」
デルフィが真っ赤になってあたふたしている。
俺も同じような顔してんのかも。
「”あの時は”……? じゃ今はいい関係なのかしら」
「あ! えっと……その」
デルフィが真っ赤になって俯く。
「ふふ、良かったわね、デルフィちゃん」
「えっと……はい」
と、デルフィが観念したように照れた笑いを浮かべた。
うーん、俺も顔があっついわ。
「そういえば、2人とも随分たくさん魔石を納品してくれたそうね?」
「ええ、まぁ」
「だったら魔術士ランク上げておく?」
「えーっと、別に急ぎじゃなくても」
「いいじゃない。上げれるときに上げておきなさいよ。おじーちゃん」
「うん?」
付き添っていたじいさんはウトウトしていたのだが、ハリエットさんに声をかけれて顔を上げる。
「ここはもういいから、2人のランク見てあげて」
「そうかそうか。ほなおふたりさん行こうかの」
よっこらせとばかりに立ち上がったじいさんは、よたよたと病室を出て行った。
俺とデルフィは顔を見合わせ、そのあとハリエットさんを見たが、ハリエットさんは微笑みながら軽く頷くだけだったので、とりあえずじいさんについて魔術士ギルドへ向かった。
「ほなおふたりさん、ギルドカード貸してくれるかの」
俺たちはそれぞれギルドカードを渡した。
「ほうほう。ふたりともエラい魔石稼いでくれたんじゃのう。うーむ、Cランクは余裕じゃが、Bには微妙に足りんところじゃな」
「あ、別にCランクでも」
「しかぁーし! エッちゃんの護衛依頼をうけてくれるっちゅうことなんで、ワシの権限でBランクにしちゃろ」
「あ、そっすか、どうも」
なんかしらんけど、上げてくれるんなら上げといてもらおう。
あ、ちなみにエッちゃんというのはハリエットさんのことね。
ハリエットちゃん→ハリエッちゃん→エッちゃんということらしい。
「さて、その代わりと言ってはなんじゃが、エッちゃんの護衛をより強固なものとするために上級攻撃魔術と防御魔術を覚えてみんかね?」
「あ、ランク的には問題ないんですよね?」
「そうじゃな。料金の方は半額にできるがどうじゃ?」
「覚えます!!」
と、いきなりデルフィが身を乗り出す。
まあ半額で覚えられるなら覚えておいてもいいだろうな。
一応防御魔術について説明しておこう。
防御魔術には下級の『壁』、中級の『円』、上級の『界』がある。
『壁』はそのまんま各属性の壁を1面作り出す魔術で、『円』は自分たちの周りをぐるりと囲む壁をだす。
『界』は周りプラス上方も守れる半球状の結界みたいなのを作り出すものだな。
防御魔術の場合は攻撃魔術と違って『聖』以外は単属性が基本となり、適宜属性を使い分ける。
基本属性四種(『炎』『氷』『雷』『無』)プラス『聖』の上級攻撃魔術と、四元素属性(『地』『水』『火』『風』)と『無』『聖』の各級防御魔術で1人15万Gのところを2人で15万G(およそ1,500万円に相当)にしてもらう。
いくらダンジョンで荒稼ぎしたとはいえどもさすがに一括で払える額ではないが、Bランク魔術士とじいさんの権限でローンを組んでもらった。
ちょっとした家が買えるレベルの金だし、防御魔術はともかく上級攻撃魔術の方は正直今回の依頼で必要かと言われれば微妙なところだが、覚えておけばいつか役立つはずだ。
「あと、エロイーズちゃんは魔弓を使うんじゃったな」
「はい」
じじいそのネタ誰にでもやってんのかよ。
んで、ガン無視かよデルフィ。
「覚えとるのは四種と『聖矢』だけかの?」
「ええ、そうです」
「ほいじゃあ『地矢』『水矢』『火矢』『風矢』もオマケしちゃろ」
「え、いいんですか?」
「かまわんよ。他の代金に比べたら誤差みたいなもんじゃし」
ちなみに魔弓の場合、戦闘付与魔術のように各属性での魔術紋登録は不要で、『矢』系魔術であれば属性を問わず使える。
支払い手続きを終えた俺たちは、じいさんの案内で魔術を習得した。
《スキルレベルアップ》
<地魔術>
<水魔術>
<火魔術>
<風魔術>
<無魔術>
<炎魔術>
<氷魔術>
<雷魔術>
<聖魔術>
《魔術習得》
『炎渦』『炎波』『氷渦』『氷波』『雷渦』『雷波』『魔渦』『魔波』『聖渦』『聖波』『地壁』『地円』『地界』『水壁』『水円』『水界』『火壁』『火円』『火界』『魔壁』『魔円』『魔界』『聖壁』『聖円』『聖界』
「ほいじゃあタイヤキくん、トルティーヤちゃん、エッちゃんのこと頼むでの」
「はい」
「ショウスケです。任せといて下さい」
なんかじいさんがデルフィの方見て寂しそうにしてたので、一応俺が突っ込んでやると、俺を見てすっげー嬉しそうな顔になった。
それやっぱネタだったんだな。
**********
翌朝、デルフィと駅へ向かう。
目的地はエカナ州の東側に隣接する国『ヘグサオスク共和国』。
依頼内容はハリエットさんの護衛。
依頼主は武器屋のフランツさんとアクセサリ屋のフレデリックさん。
2人はわざわざ駅まで見送りに来てくれた。
「今回は依頼を受けてくれてありがとう」
例のごとくキリッとしたイケメンのフランツさんが出迎えてくれた。
ただ、表情には陰りがある。
「僕からもお礼を」
フレデリックさんもなかなかのイケメンだが、フランツさんと違って柔らかいイメージだな。
フランツさんは髪型から服装からビシっと決めてるんだが、フレデリックさんはクセのある髪を適当になでつけて、服も軽く着崩してるわ。
すっげーモテそう。
「工房の主人に宛てて書いた手紙を預けておくので渡して欲しい」
と、フランツさんから封筒を預かった。
「了解です」
フランツさんの視線が俺の背後に移る。
そしてそちらの方へ小走りにかけ出した。
フレデリックさんも早歩きでついていく。
振り向くと、講師のじいさんに連れられたハリエットさんがいた。
ハリエットさんは松葉杖をついており、一応じいさんが介助しているようだ。
「ハリエット殿、この度は我が友人ヘクターがとんでもないことを……」
フランツさんがハリエットさんに頭を下げる。
「僕からもヘクターに替わり謝罪を」
と、フレデリックさんも頭を下げる。
「やめてくださいな、お2人とも。それよりもいい工房を紹介してくださってありがとうございます」
「いや、我々ではこれぐらいしか」
「いえいえとんでもない。護衛まで付けて頂いた上に経費まで負担していただいて、こちらこそ申し訳ないですわ」
しばらくそのようなやり取りが続いた後、ハリエットさんが俺たちに気付いた。
「ショウスケちゃん、デルフィちゃん、今回はよろしくね」
「はい。ハリエットさんは私達がお守りしますので」
なんだかデルフィがやる気満々だな。
「微力を尽くします」
と、俺もどこかで聞いたようなセリフで意思表明しておく。
「ふふ、そんなに気をはらなくてもいいわよ。折角の機会だし、ヘグサオスクを堪能しましょうね」
と、いつもとは打って変わって朗らかな笑顔を見せるハリエットさんだったが、なんというか健気に振る舞うほど痛々しい。
ハリエットさんの後ろに立っているフランツさんとフレデリックさんはしかめっ面のままうつむいている。
普段はボケっとしているじいさんも、今は真顔だ。
ハリエットさんの出で立ちは入院時の貫頭衣と違って、いつもどおりの三角帽にマントという姿だ。
化粧はいつもより薄めだが、スッピンでも充分美人なのは昨日確認済み。
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