死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~

平尾正和/ほーち

第51話『ヘルキサの塔』

 ヘルキサの塔はその名の通り地上から天空に向けて伸びる塔のようなダンジョンだ。


 塔とはいってもその形状は異様に縦長の直方体であり、表面は光沢のある大理石のようなもので覆われているので、塔というよりはビルって感じ。


 50階層からなり、エムゼタシンテ・ダンジョンで同じみの森林エリアや迷路エリア、荒廃エリア以外に、海岸エリア、渓谷エリア、草原エリア、荒野エリアと環境のバリエーションが豊かだ。


 現在はダンジョンコアが停止中で、すでにダンジョンモンスターは狩り尽くされており、ダンジョンコアの復活に10年かかると言われている。


 ダンジョンコアが停止されたのは5年前なので、あと5年間はダンジョンとしての環境を娯楽専用に使えるわけだ。




 早朝ヘルキサの塔についた俺たちは、とりあえずいろんな階層を見て回った。


 ちなみに入場にも階層間の移動にも金がかかるんだけど、今日だけはケチくさいこと言いっこなしだ。


 1日フリーパス券2人分を100Gで購入しているので、階層間の移動にはそれほど気を使う必要はないんだけどね。


 ガイドブックを参考に人気の階層やお店を巡っていく。


 なんてこと無い時間だけど、すっげー楽しいわ。


 特にデルフィの反応が良かったのは海岸エリア。


 故郷を出てからいろいろ放浪してたみたいだが、まだ海は見たことがなかったらしい。


 海岸エリアの海の再現度はなかなかのもので、俺も長いこと海なんて行ってなかったけど、昔行った潮干狩りの感覚とそこまで差異はなかったから本物みたいなもんだろう。


 最初は海の広さ(といっても大半は擬似的な風景だけど)に呆然としてたけど、しばらくしてからは子どもみたいにはしゃいでたわ。


 水着も用意して本格的に遊んだんだが、水着姿のデルフィはやはりというかなんというか残念だった。


 いや、まぁ別にいいんだけどね。


 ただ他の水着女性の谷間に目を奪われたところをしっかり目撃されて思いっきりぶん殴られた。


 海水浴で何が嫌って、あの海水でベタベタになる感じだが、そこは『浄化』でスッキリよ。


 やっぱ便利だよ『浄化』。




 ほぼ1日かけて遊び尽くした後、最上階へ。


 最上階は『星空の荒野』というエリアで、満天の星空と何もない荒野が広がるのみ。


 行ったことはないけど月面とか火星みたいな感じ?


 寒くもないのにオーロラとかも出る。


 ここのダンジョンコアはかなりのロマンチストなんだろうな。


 復活したら会ってみたいところだ。




 このエリアは富裕層向けのエリアで、かなり広い間隔をあけてポツポツとコテージが建っている。


 充分な広さに加えて不可視と遮音の魔術でコテージ同士のプライバシーを完全に確保できる様になっている。


 一泊なんと3,000G。


 日本円にして30万てとこでしょうか。


 ええ、奮発しましたよ。


 階層内を移動する無人馬車に乗り、予約したコテージへ。


「今夜はここに泊まるよ」


「そ、そう。2人っきりで?」


「いや、他に誰がいるのさ」


「えーっと……、メイドとか?」


「いない。2人だけ」


「そ、そう」


 いやいやデルフィさんキョドリ過ぎでしょーが。


 こっちまで緊張してきたわ。


 ダンジョンでは1ヶ月間ほぼ毎日2人きりで寝てたんだけど、やっぱそれとは別もんだな。


「じゃ、入ろうか」


「う、うん」


 俺は妙に緊張しつつ、デルフィの手を取った。




**********




 というわけで無事朝チュンを迎えた。


 いや、実際にはここ『星空の荒野』エリアなので、一日中夜だから窓から差し込む朝日もなければ、チュンチュン鳴く小鳥もいないわけだが、そこはそれ、察してくれ。


 大きさに貴賎なしという先人の言葉に偽りはなかったとだけ言っておこうか。


 しかし女ってのは一晩で雰囲気がかわるもんだねぇ。


 ガウンを纏って優雅にコーヒーを楽しむデルフィの姿からは、なんつーんですか? 余裕っつーんですか? そんな空気がにじみ出てますなぁ。


「ん、なに?」


「いやいや、可愛いなぁと思って見惚れてんの」


『な、ちょ……何いってんの? 馬鹿じゃないの!?』


 ってな感じに今まではなってたと思うんだけど、いまや軽く頬を染めて


「……ばか」


 ですってよー!!


 昨日までのオタオタしてた初々しいデルフィちゃんはもうおらんようならはったんやなぁ……。


 ま、今のほうがいいんですけどね!!




**********




 事前に1週間ほど休暇を取ろうと相談しており、もうしばらくこのヘルキサの塔に滞在するつもりだが、さすがに一泊3,000Gで連泊ってのは厳しいので別の階層へ。


 デルフィ的には海岸エリアがお気に入りとのことなので、時間経過が外の世界とリンクしている階層で残りの休日を過ごすことにした。


 一日中昼の海岸ってのもあるんだけど、やっぱ黄昏時の海岸とか、星空の下の海岸とか雰囲気って大事じゃん?


 1泊100Gのところを5連泊するってことで300Gにしてもらい、そこでまったり過ごすことにした。


 その3日目にちょっとした事件があった。




「あら、貴方、久しぶりね」


 と海の家とオープンテラスのカフェを足して2で割ったようなお店で妙齢の女性から声をかけられた。


 どこかで見たことあるような……でも初めて見るような。


「すみません、どちらさん?」


「ふふ、この姿じゃわからないかもね。覚えてないかしら、アレシアよ、ア・レ・シ・ア」


 アレシア……? はて最近聞いたような。


 するとアレシアと名乗った女性は俺の隣りにいたデルフィを見てイタズラっぽい笑みを浮かべる。


「ふふ、『淫魔の館』って言えば思い出すかしら?」


 その一言でデルフィの敵意が爆発する。


 チラリと視線を動かすと表情は穏やかなんだけど、俺の<危機察知>が頭のなかで『CAUTION警告』アラームを鳴り響かせている。


 濃紺の髪と瞳、そして淫魔の館というワードでやっと思い出せたけど、この子1ヶ月ちょっとで成長しすぎてない?


 前に会った時は身長が俺の肩ぐらいだったけど、今は俺と変わらんし、おムネに関しては大きく見積もってBぐらいだったのが、どう過小評価してもFは下らんよね、って、デルフィの敵意が上がった!


 っていうかこのコ、デルフィが俺の連れだって確認した上でわざと『淫魔の館』ってフレーズ出してきたよね?


「ふふ、思い出せない貴方が悪いのよ?」


 くそう! 楽しんでやがるな?


「ってか、そこまで外見が変わってたらわかんねーって」


「私たち、処女の間はあんまり成長しないのよ。で、男を知ると急成長するの」


 あ、デルフィの敵意が殺意に変わった!


「な、ちがっ……!! 俺じゃない!!」


 頭のなかのアラームが『CAUTION警告』が『DANGER危険』に変わり、危機感を覚えた俺は必至で言い訳するも、デルフィの殺意は一向に収まる気配がない。


 表情は軽く微笑んだままなのに……。


「ごめんごめん。彼女さんもそんな怒らないの。私とこの人は何にも無いんだから」


「そうそう! なんもしてないの!!」


「……別に、怒ってないけど?」


 ならどうして頭のなかのアラームは『DANGER危険』のままなんでしょうか?


「ガンドルフォさんとの付き合いでちょっと寄っただけで……」


「へええ、じゃああの時だ」


 あれれえ? 墓穴?


「タバトシンテ・ダンジョンに行ったとか言ってたわねぇ。そういえばあそこ、有名だもんね」


「ふふ、ママ言ってた貴方の想い人って、その人?」


「え? あ……うん、そう! そうなんだよ!!」


 ナイスアシスト!


 アラームが『CAUTION』に戻った!!


「そっか。次来た時はサービスしてあげようと思ったんだけど」


 ここでまた『DANGER』に!!


「いやいや、俺はデルフィ一筋だからね!! ごめんね!!」


「ちょ……ばか!」


 ふぅ、なんとか『CAUTION』に収まったぜ……。


「あはは。そこまで露骨に拒否されると流石に傷つくなぁ……」


「ああ、いや、ごめん……」


「冗談よ。貴方たちヒマ? お店でサービスできない分、あの時の埋め合わせになにかおごるわよ?」


「あ、えーっと」


「それとも、私のような商売女と食卓を囲むのは嫌かしら?」


 そう言って妖艶に微笑むアレシアの視線はデルフィに向いている。


 お、アラームが消えたな。


「いえ、私は……別にいいけど……」


「じゃ、決まり!!」


 というわけで、俺とデルフィとなぜがそこにアレシアが加わった奇妙な食事会が始まった。


 デルフィとアレシアは意外と気が合ったようで、最初は特にデルフィの方が警戒してたが、アレシアの巧みな話術で距離を縮められ、いつの間にか仲良く談笑するに至った。


 その中で、あの日何があったかがアレシアの口から説明され、彼女が全裸でベッドに横たわったところで『DANGER』アラームが鳴ったものの、俺の紳士的な対応をアレシアが上手く説明してくれたおかげで怒りはすぐに収まった。


 アレシアは俺と会った後、それほど間を開けず客をとったらしい。


 ただ、普通の客ではなく、ママが気を使って高級男娼をあてがってくれたらしく、それほど嫌悪感も抵抗もなく受け入れることが出来たようで、以降は普通に客をとっているのだそうだ。


 で、客を取り始めて1ヶ月ほどたったので、休暇をプレゼントしてくれたとかで、ここに来ているということだった。


 以降女子トークが盛り上がったせいで俺はなかなか微妙な時間を過ごさせていただいた。


 なんやかんやで3時間ほど女子トークが続き、日も傾いてきたので解散ということに。


「いつもと違う体験をしたかったらいつでも来てね?」


 とアレシアは豊満な胸を強調するようにあえて胸の下で腕を組み、軽く前かがみになって谷間を強調する。


「ふん! そんな脂肪の塊に価値はないわ!!」


 と、なぜかデルフィが胸をそらして応じた。


 い、いたたまれねぇ……。


「そうねぇ。あったらあったで邪魔なのよねぇ。誰か半分ぐらいもらってくれないかしら?」


「だぁかぁらぁ! そんな脂肪の塊に価値なんて無いのよ!!」


「残念ねぇ。淫魔の秘術を使えば本当に分けてあげられるのに……」


「え……、ホント!? ホントに!!?」


 おーい、デルフィー、目が血走ってんぞー。


「嘘に決まってんでしょ。バカじゃないの?」


「な……、アンタ!! よくも乙女の期待をっ!!!」


「はぁ? 100超えのババァが乙女って真顔で言ってんの?」


「アンタだって似たようなもんでしょうが!!」


「残念でしたぁ。アタシはまだ50代ですぅ!」


 日本にはね、五十歩百歩ってことわざがあるんだよ、って思ったけど口に出すのはやめといた。


 まぁこんな感じで軽口を言い合えるぐらいには距離が縮まったわけだ。


 そうそう、アレシアが随分と落ち着いた雰囲気になってたけど、あれは商売用の顔みたいで、デルフィとの女子トークが盛り上がるにつれて素に戻ったていったよ。


「そのうちダンジョン探索ついでに2人で遊びに来てよ」


 そう言って微笑むアレシアはどことなく寂しげだった。


 俺たちはもうしばらくここに残るが、アレシアは店に帰るとのことで、そのまま別れた。




 その後デルフィとしばらく月夜の海岸をぶらぶらと散歩したが、特に雰囲気が悪くなるということはなかった。


 むしろアレシアと話してた時のノリが少し残っていて、いつもより会話が弾んだと思う。


 まぁ、その夜はこれまでより激しかったとだけ言っておくよ。





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