死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~

平尾正和/ほーち

第44話『vsミノタウロス』

 エムゼタシンテ・ダンジョン10階層。


 これまでの階層と同じく森林エリアではあるのだが、10階層のみ大きく異なる点がある。


 それが今、俺の目の前にそびえ立つ、階層中央に突如現れる石造りの建造物だ。


 俺は建物の入口を前に、マップを取り出した。


 デルフィがこのマップを見て驚いたのにはわけがある。


 この中が複雑な迷路になっているのだ。


 はっきり言って、マップ無しでの攻略は困難と言わざるをえないだろう。




 この石造りの迷路施設が、序盤最大の難関と言われている。


 複雑な迷路であるだけでなく、モンスターも出現する。


 出現モンスターは迷宮の中と外であまり変わらない。


 石壁に囲まれた回廊に植物系のモンスターが出ると、微妙な気分になるけどね。


 で、なぜこの迷路施設が難関かというと、回廊の広さに問題があるのだ。


 大人3人がなんとか並んで歩けるレベル。


 戦うとなると、2人並ぶのは難しいだろう。


 あと、大剣や槍を振り回すのも難しい。


 何をいいたいかというと、パーティーの陣形がまともに組めないってことなんだな。


 まともに闘えるのは先頭の者ぐらいで、あとは後ろから牽制位できるかもしれんけど、下手すりゃ同士討ちになりかねない。


 ここまでパーティーの連携を頼りにしているときついだろうなぁ。


 あと、武器によってはマジしんどいと思う。


 俺? 俺はソロだし、魔術使う分には標的を補足しやすいし、ご存知レイピアは刺突に特化してるから振り回せなくても問題ないし。


 まぁそれでも、不意打ちが得意な俺的には障害物がほとんどない空間てのは多少やりにくいけどね。


 それでもここに出現するモンスター程度に遅れはとらんよ。




 <多重詠唱>と<詠唱短縮>に慣れるため、とりあえず下級攻撃魔術を連発して倒していく。


 流石にこの階層になると下級攻撃魔術一発で倒せる敵ってのはほとんどいないので、連発するか、魔術で牽制して剣で倒す、という形になっている。


 たまに『魔刃』『魔槍』を使ってみるが、こっちだとまだ一撃で倒せるね。


 そんな感じで順調に迷路を進み、2時間ほどでボス部屋に到達した。


 9階層のはじめからだと、今回のアタックはここまでで既に3時間が経過していることになるな。


 まあ、デルフィには余裕を持って4時間と伝えてあるし、さすがにボス攻略で1時間もかからんだろう。




 ボス部屋に入ると部屋の中央に光の粒子が集まり始める。


 さすがにこの部屋は迷路部分の通路と違ってかなり広い。


 天井も高いし。


 そしていよいよミノタウロスと対面。


 下半身は牛、上半身は一応人っぽいけど頭が牛。


 身長は3mぐらい?


 バカでかい長柄の斧を構えている。


 うん、コイツが暴れまわるんだから、ボス部屋は広くないとダメだろうな。




 ミノタウロスは俺を確認すると、牛にしては凶暴な咆哮をあげる。


 そしてこちらを睨みながら、斧を構えている。


 さて、彼我の距離は10m。


 魔術なら充分とどく距離だが剣だと言うまでもなく間合いの外。


 このまま魔術でフルボッコにするという選択肢もあるが、せっかくカーリー教官が与えてくれた課題だし、行けるところまでは剣術で行こう。


 というわけで俺は剣を抜き、ミノタウロスに向かって走り始める。


 ある程度距離が縮まった時点でミノタウロスが斧を振り上げた。


 そして敵がそれを振り下ろすタイミングで横に飛ぶ。


「速っ!!」


 余裕を持ってかわしたつもりだが、想像以上に斧を振り下ろすスピードが速く、なんとか紙一重でかわす形に。


 振り下ろした斧は石の床を砕いてめり込んだが、その床を抉るような形で斧を薙ぎ、さらに追撃をかけてくる。


「おわっ……と!」


 初撃で崩れかけていた体勢をなんとか立て直し、二撃目もギリギリで回避。


 しかしミノタウロスは容赦なく斧を振り回し、追い詰めてくる。


 思っていたよりも攻撃速度も踏み込みも速いのなんの。


 しかも全部大振りなもんだから、たぶん一撃で死ねるわ。


「ごめんよ!」


 一言断りを入れ、とりあえず『雷球』を撃つ。


 出来るところまで剣術で、と思っていたが、どうやらそんな生易しい相手じゃないらしい。


 斧を振り切った隙をついて放った『雷球』はミノタウロスの顔面に直撃。


 衝撃でのけぞり、雷撃で一瞬動きが止まったところで一気に踏み込んでみぞおちを突く。


 みぞおちと言っても俺の頭より少し高い位置にあるので、深く突き刺すことは難しいが、それでも硬い皮膚を貫き筋肉に達した感覚はあった。


「浅い……か」


 俺の身長があと10cm高いか、もう一歩深く踏み込めていたら胸骨の下から突き上げる形で心臓なり周辺の血管なりを傷つけて、うまくすれば致命傷を与えられていたかもしれないが、残念ながら筋肉の鎧に阻まれてしまう。


 雷撃による痺れから一瞬で回復したミノタウロスは、自分のみぞおちに剣を突き立てた不届き者をほふらんと斧をひと薙ぎするも俺はさっさと後ろに跳んでかわし、相手の右側に回りこんで、ひたすら太ももを突きまくる。


 ミスリルコーテッドのレイピアはミノタウロスの硬い皮膚をたやすく貫き、筋肉を斬り裂く。


 一本でも多くの筋繊維を切断すべく、手数を重視し、5連撃が決まった時点でいったん跳び退いた。


 そこに遅れて斧の一撃。


「当たるかよ」


 再び踏み込んで、今度は膝裏の健のあたりを突きまくる。


「ヴモオォォ……!!」


 悲鳴のような叫びを上げ膝をつくミノタウロス。


「ほい、いただき!!」


 膝をついたところでちょうどいい位置に下がってきた首の側面、おそらくは頸動脈があるであろう辺りに、刺突の連撃を加える。


 ちょうど3発目の攻撃が上手く頸動脈を捉えたようで、噴水のように血しぶきが上がる。


 さらにダメ押しで2発突き、飛び退いて間合いから外れる。


 最後の一撃とばかりに繰り出したミノタウロスの攻撃はあえなく空を切り、振りぬいた姿勢のままどうと倒れ伏した。


 なんとか起き上がろうとあがき、顔だけはこちらに向けていたミノタウロスだったが、やがてその瞳から生気が消え、程なく消滅した。


 消えた後にはバレーボール大の魔石と、長柄の戦斧が残った。




**********




「ほおぉ、こりゃミノタウロスの戦斧じゃないか。いいもん拾ったなぁ!」


 ダンジョンを出た俺はさっそく買取所を訪れていた。


 ミノタウロスの落とした長柄の戦斧は2m以上あり、収納庫に入りきらないので、担いで運んだのだが、くっそ重かったわ。


 ただ、どうやらレアアイテムらしく、道行く人からは羨ましそうに見られたよ。


「こいつは1,000Gで買取になるがいいか?」


 おお! すげーな!!


「よろしくお願いします」


 というわけで、魔石と合わせて1,300Gほどの儲けになった。




 デルフィを起こしに宿屋へ向かっている途中、ガラの悪い連中に声をかけられた。


「お前ぇ、良いもん拾ったみたいだな。ここは冒険者同士、お互い儲けは分け合おうや」


 そういやこういうテンプレな絡まれ方すんの初めてだな。


 相手は6人組の冒険者らしい。


 その中のリーダーっぽいのが一歩前に出て俺に話しかけている。


「おい! なにニヤニヤしてんだよ」


「ああ、ごめんごめん。あまりにもテンプレ丸出しだからついおかしくなって」


「なにわけのわかんねぇこと言ってやがる!! とりあえずさっきの斧売った金よこしな!!」


 アホじゃなかろうか。


 なんというか、俺もそこそこ剣術の腕が上がったおかげで、立ち振舞から相手の力量なんかがある程度分かるようになってきたんだが、こいつらどう考えても俺より弱そうなんだけど。


「一応聞くけど、おたくら何階層まで攻略してんの?」


「おいおい、10階層攻略したぐらいでいい気になってんなよ? 俺たちゃもう15階層まで攻略済みだぜ?」


「ふーん」


 あ、一応俺よりは先に行ってんのね。


「なんだぁ? ビビったか坊や。なんならお仲間に泣きついてもいいだぜ? つっても俺たちDランクパーティー『風の旋風』にゃ敵いっこないけどなぁ!!」


 なんじゃその”痛い頭痛”みたいな名前は。


 やっぱこいつらアホだな。


「いや、俺ソロだし」


「はあぁ!? 嘘つくんじゃねぇよ!! ソロでミノタウロスに勝てるわきゃねえだろうがよ!!」


「いや、勝ったからあの斧持って帰れたんだけど?」


 なんか、俺が当たり前のことを言ったら急に向こうの余裕がなくなってきた。


「おう! ショウスケェ!!」


 そこで背後から声が掛かる。


 振り返るとそこにはガンドルフォさんがいた。


「よぉ! 久しぶりだな」


「あ、こりゃどうもガンドルフォさん」


 彼の手には、俺がさっき売っぱらったミノタウロスの戦斧があった。


「いやぁ、いいタイミングでいいモノ売りに出してくれたなぁ」


 聞けば久々にここを訪れたタイミングで、以前から欲しかったミノタウロスの戦斧が売りに出されるのを見たらしい。


 っていうか、俺が売ってるところを見かけたんだと。


「参考までにいくらで買ったんです?」


「おう、値切りに値切って1,500Gよ」


「ああ……、だったら直接売ったほうが良かったですかねぇ」


「いやいや、冒険者同士での金や物のやり取りはトラブルのも元だからな。これだって街に出回る頃にゃ2,000Gぐらいになるから、俺としちゃ大満足よ!」


「そりゃよかった」


「ところで、ソイツらはなんだ?」


 ガンドルフォさんの視線が6人組にささる。


「えーっと、『痛い痛風』……でしたっけ?」


「か……、『風の旋風』だ!!」


 となんとか答えたリーダーだったが、明らかにガンドルフォさん見てビビってんな。


 そういやガンドルフォさんに睨まれたらすげービビるんだったっけ?


 多分この人<威圧>とかのスキル持ってんだろーな。


「ほう、その『風のそよ風』さんが俺の知り合いになんの用だ?」


「う……うるせぇ! おめーにゃ関係ねーんだよ!!」


「おい、やめとけ!」


 なんとかガンドルフォさんに言い返したリーダーを他のメンバーが止める。


「こいつはCランクのガンドルフォだ」


「し、Cランク?」


「おおっと、残念。つい最近Bランクに昇格したぜ」


「び……B!?」


「あ、おめでとうございます」


 それを聞いて6人組はゆっくりと後ずさり。


「し、失礼しましたぁー!!」


 と脱兎のごとく逃げ出した。



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