死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~

平尾正和/ほーち

第26話『基礎戦闘訓練修了~実戦』

「では、せっかくなので、なぜ細剣術を学ぼうと思ったのか聞いておこうか。ダリルとアルダベルトは剣術全般だからまぁいいとして、ジータ?」


「私の父も冒険者で、父が使っていた武器だからです」


「なるほどな。ではショウスケは?」


 俺の場合は単純にかっこいいと思ったからなんだけどなぁ。


「えーっとですね。なんとなく俺の戦闘スタイルにあってんじゃないかなーって思って」


「ほう、具体的には?」


 具体的に!?


「あー、えーっとですね。俺の場合はこっそり近づいて死角から、こうブスリとやるんですね。今までは槍を使っていたんですが、細剣のほうが小回りがきくかなーと思いまして」


「ふむう、それなら弓術の方がいいのではないか?」


「いや、矢を買うお金が勿体無いといいますか……」


「たしかにかけ出しの冒険者にとって、矢の消耗は痛いところではあるが、剣もメンテナンス費がかかるぞ?」


「いや、剣だとギルドで借りれますから」


「ほう、なかなかしっかりもののようだな。考えなしに冒険者を目指して食いっぱぐれて盗賊になるような輩も多い中、君のように生活設計をしっかり出来る者は我々としても大歓迎だ」


 元の世界じゃ親のスネかじるしか能のないヒキニートが”生活設計をしっかり出来る”と褒められるまでに成長したよ!


 いやはや人から褒められるってのは嬉しいもんだねぇ。


 山田くーん! お稲荷さんに揚げさん1枚やっとくれ!!


「よろしい。では試しにやってみたまえ」


「はい?」


「君の言う、そろりと近づいてブスリというやつだ」


 え? いきなり実践?


「あの……構え方とか全然なんですけど」


「構わん。この巻藁まきわらを敵に見立ててくれ」


 何この流れ……。


 まぁしゃーないか。


「じゃあ、いきます」


 レイピアを抜き、何となく構える。


「プフ……」


 男爵、笑うな。


 とりあえず俺は<気配隠匿>を全開にする


「ほう……」


 カーリー教官がなんか言ったけど今は無視。


 んで、巻藁が間合いに入るまでゆっくり近づき……突くべし!!


 一応レイピアは巻藁に刺さった。


「ふむ、なかなかのものだな」


「ええ!? どこがですか!!」


 せっかくカーリー教官が褒めてくれたのに、ダリルの野郎が反論しやがった。


「ダリル、君はショウスケの構えがなってないと言いたいのだろう?」


「ええ、そうです。だからこそ型が重要だと思うのですが、正直褒める要素が見当たりません」


「ふむ。他の2人はなんとなく察しているようだがな」


「え?」


 ダリルが2人の方を向く。


 俺もそっちを見る。


「そっすねぇ。そのへっぴり腰はどうかと思うんすけど、構えてから攻撃に移るまでの雰囲気はなんかヤバかったっす」


「私も同感です。今の感じで物陰に潜まれたらちょっと怖いですね」


 おお、さすが獣人。


 気配には敏感なのね。


「気配の断ち方は見事なものだ」


 きゃー! 褒められたー!!


「しかしダリルの言もまた正しい。その構えはあまりにひどいな」


 上げて落とすのはやめて!!


「オラ、型の大切さがわかったような気がするっす!!」


 変なとこで納得しないで!!


「では、型の練習から始めようか」




 ってなわけで細剣術の訓練が始まった。


 まずはカーリー教官が手本を見せてくれるので、それを真似する。


 ここにきて、お稲荷さんが言っていた「思い通りに体が動く事がいかにすごいか」というのを実感する。


 まずステータスで【賢さ】が上がっているおかげか、一度見ただけで型の意図を理解でき、細かいところまで記憶できる。


 で、それを元に型を真似ると、自分でも驚くぐらい思い通りに体が動くんだわ。


 もちろん筋力や柔軟性の関係で再現できなかった動きはあったけど、それだってトレーニングすればすぐに習得できると思う。




《スキル習得》
<細剣術>




 初歩の型を一通り真似たところであっさりとスキルを習得できた。


 そこからしばらくは型をひたすら覚えるコーナーが続き、最後は模擬対戦。


 まずはカーリー教官相手に闘う。


 もちろん他人が闘っているのを見るのも訓練の1つ。


 全員手も足も出ずあしらわれたあと、訓練生同士で対戦。


 ダリルには一日の長があり、獣人2人には身体能力が及ばず、俺は全敗。


 ま、俺の場合「見合って見合ってよーいどん」って感じの対戦は向いてないんだよね、と心の中で言い訳しておく。


 そんな感じで初日の訓練は終了。


 ちなみにこの訓練、一週間、つまり8日の日程で行われる。


 ダリルとアルダベルトはここで離脱。


 あの2人はこの後、小剣術、長剣術、双剣術、大剣術を習い、残りの4日はその中から選んだ剣技を重点的に鍛える、という事になってるらしい。


 俺とジータさんは翌日からもずっとカーリー教官に鍛えられた。


 まず午前中は基礎体力作り。


 はっきり言ってこれ地獄ね。


 午後からはひたすら型の練習。


 途中1日座学の日があった。


 この辺でよく出る魔物との戦い方、みたいなのだったが、すげー役に立ったと思う。


 ラスト2日は模擬戦があった。


 教官には相変わらずボコボコにされたけど、ジータさんとはいい勝負が出来るようになったよ。


 ちなみにダリルとアルダベルトだが、ダリルは長剣、アルダベルトは双剣を選んだようだ。




 基礎戦闘訓練を無事終えたわけだが、8日間の訓練の成果は充分にあったな。


 なんせ<細剣術>がLv4になったからね。


 そしてなりよりの成果として、職業が『魔道剣士』になったんだぜ!!


 夢の魔法剣士まであと一歩だな。




「2人とも訓練ご苦労だったな。才能のある者を育てられて私も嬉しいよ」


 おおっと、褒められちゃったぜ。


「まずジータ」


「はい」


「君は細剣にこだわりがあるようだが、君のしなやかで強靭な体には、双剣の様な変幻自在の剣術も合っていると思う。無理にとは言わないが、可能性の1つとして頭に入れておいてくれ。短剣と細剣での二刀流というのも悪くないだろう」


「はい。ありがとうございます」


「そしてショウスケ」


「はい」


「君の上達には正直舌を巻いたよ。最初のへっぴり腰がウソのようだ」


「どもっす」


「とにかく君には基礎を叩き込んだつもりだ。君なら得意の不意打ちと合わせてある程度我流に組み替えても充分戦えると思う。正面からならともかく、不意打ちという形を取ればEランクどころかDランクの魔物に負けることはあるまい」


「あざっす!!」


 教官のお墨付きが出たことだし、そろそろグレイウルフの納品始めるかね。




**********




 翌日が闇曜だったので無曜とあわせて二連休をとり、訓練終了の3日後に魔物狩りの依頼を受ける。


 受けたのはホーンラビット10体とジャイアントボア5体の討伐。


 もちろん薬草採取も平行して行う。


 ホーンラビットは強力な攻撃手段を持ってるせいか、ジャイアントラビットより警戒心が弱く、好戦的なんだそうな。


 一応角というやっかいな武器を持ってるってことで、討伐ランクはE。


 ちなみにジャイアントボアも同じランクだな。


 いつもの採取キットと、せっかくなので鋼のレイピアを借りたよ。


 そろそろ自前の武器がほしいところだな。




 で、さっきから俺は森の木陰に潜んでいる。


 <気配察知>で相手の場所を探り、<気配隠匿>を駆使して近づく、というのはジャイアントラビットの時と変わらんね。


 今狙ってんのはホーンラビット。


 こっちに来てすぐの頃、何度も俺を殺してくれた憎き奴だ。


 まあ、あの時はその場で仕留めたから今さリベンジってのもおかしいけどさ。


 しかしあの時のステータスでよくEランクの魔物に勝てたな、俺。




 おっといかんいかん、目の前の獲物に集中しないとな。


 気づかれないよう背後からそろーりと近づく。


 正直この距離なら『魔刃』か『魔槍』で一発なんだが、これは剣術の修行も兼ねてるからな。


 俺が仕掛けたグレイウルフの肉にガッツいて、全く振り向く素振りすらねぇ。


 そうそう、グレイウルフの素材だが、牙を含む骨と皮はともかく、肉は時々冷凍しなおしたものの痛み始めてたんだよな。


 その上犬系魔物の肉は需要ないらしく、大した値で買い取ってくれないから納品する必要もないってことで、ありがたく狩猟用のエサとして使わせてもらってる。


 そのグレイウルフ肉にガッツいてるホーンラビットの背後から、延髄めがけて……チェストォ!!


 確かな手応え。


 剣身の半分ほどがホーンラビットの首の裏に埋まっている。


 剣先は口から出ているようだ。


 血振りをして剣を鞘に収めた俺は、痙攣するホーンラビットを転がし、解体用ミスリルナイフで頸動脈を切る。


「早いとこ血抜きの魔術覚えてーなぁ」


 ついつい愚痴がこぼれてしまうな。




 さて、次はジャイアントボア。


 コイツにも殺されたんだが、まだリベンジが終わってなかったな。


 同じようにグレイウルフの肉でおびき寄せる。


 やっぱでかいなコイツ。


 牛ぐらいの大きさがある。


 流石に真後ろから延髄を一突きって訳にはいかない。


 しかし、基礎戦闘訓練で習ったところによると、ちょっとでも斜め後ろになると、視界に入るんだよな。


 いくら気配を消してても、視界に入ったら気付かれるわけで……。


「うん、無理はよくないな」


 俺は真後ろから『魔槍』を放ち、延髄を貫いた。


 俺ってば魔道剣士なわけだし、なにも剣術にこだわる必要はないんだよねぇ、ってことにさせてもらおう。


「リベンジ完了っと」


 ジャイアントボアを解体したところで冷蔵庫がいっぱいになったので、今日の狩りは終了。


 森の中で薬草採取して帰ろう。





コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品