魔物がうろつく町内にアラフォーおっさんただ独り

平尾正和/ほーち

第31話『ゴーレム戦隊 1』

「戦隊モノかよ!!」


 並び立つ色とりどり(?)のゴーレムに、敏樹は思わず悪態をついてしまう。
 ゴーレムたちはすぐに敏樹の存在に気付き、ウッドゴーレムが突出して駆け寄ってきたため、慌てて運転席のドアを閉め、一旦家に帰った。


(どうしたもんかなぁ……)


 家に帰った敏樹は自室に戻って横になっていた。
 天井をぼんやりと眺めながら思案を巡らせる。


(とりあえずウッドゴーレムから片付けたほうがいいか)


 まずは動きの速いウッドゴーレムを倒さないと、どうにも身動きが取れなさそうである。
 その後、一体ずつ各個撃破していくのがいいだろう。


(しかし、あいつら一緒にいて大丈夫なんかね?)


 例えばファイアゴーレムとアイスゴーレムが隣り合っていれば、お互いの力を打ち消しそうである。
 先程見た光景を思い出してみたが、並び順をはっきりとは覚えていない。
 しかし、パッと見て戦隊モノと意識したのであれば、ゴーレム同士の立ち位置はそれほど離れていなかったのではないかと思われる。


 ファイアゴーレムと並んで平気そうなのはサンダーゴーレムぐらいだろう。
 アイスゴーレムは溶け、ウッドゴーレムは燃え、マッドゴーレムは乾きそうである。
 ならファイアゴーレムがどちらかの端にいたかというと、そうでもなかったような気がする。
 あの並びをみて戦隊モノをイメージしたのであれば、赤い印象を受けるファイアゴーレムは真ん中にいたのではないか。
 そうなると、必然的にどちらかの隣にはサンダーゴーレム以外が配置されることになる。
 それで平気だというのであれば、ゴーレム同士はお互い干渉しあわない可能性が高い。


(とりあえずいろいろ注文しとくか)


 これまでに使った消火器等の消耗品をTundraで購入した敏樹は、半切りのドラム缶で簡易ナパーム剤を多めに作りしっかり蓋を閉めて保管。
 ナパーム剤は気化し易いガソリンが混じっているので、強度の低いペットボトルに入れるのは、使う直前からにしている。
 さらに、余っていた石灰とにがりの粉末を袋型オブラートに包んでいく。
 そしてドアストッパーを、新たに購入した大型SUVの運転席ドアに装着した。


 翌日、必要な荷物を大型SUVに積み込んだ敏樹は、一路中学校を目指した。
 特に攻略法を思いついたわけではないが、まずはひと当てし、あわよくばウッドゴーレムだけでも倒しておきたいと考えたのだ。


 中学校に到着した敏樹は、一旦運転席のドアを開く。
 やはりファイアゴーレムが中央におり、隣はアイスゴーレムとウッドゴーレム、両端にマッドゴーレムとサンダーゴーレムという配置だった。
 そしてほぼ密接するように並んでいる。
 敏樹の予想通り、ゴーレム同士の属性は干渉しあわないということがはっきりした。


「ふぅ……」


 敏樹はすぐにドアを閉め、大きく息を吐きだした。
 そして、運動場をぐるりと見回す。
 何か使えるものはないかと、視線を動かしていると、運動場の奥に校舎が見えた。


(……入れるかな?)


 もし校舎に入れるのであれば相当な地の利を得ることになる。
 ゴーレムはそれぞれ3メートルほどの大きさがあり、どう頑張っても中に入ることは出来ないはずだ。
 ただし、校舎内が安全地帯となっていれば、中からの攻撃は出来ないのだが。


「行ってみるか」


 敏樹はゴーレムたちが校舎から離れるようにひきつけた。
 動きの速いウッドゴーレムが近づけばドアを閉めて移動し、またドアを開けるという動作を繰り返し、ゴーレムたちがある程度校舎から離れたところで、校舎入り口へ移動し、校舎内に駆け込んだ。


「よしっ」


 特に阻むものもなく、無事校舎に入ることが出来た。
 一応警戒してみたが、校舎内に他の魔物がいるということはないようである。


 一旦二階へ上がる。
 教室のドアも問題なく開き、中に入ることが出来た。
 そして、窓から運動場を見る。


「おお!!」


 運動場をうろつくゴーレム達の姿が見えた。
 どうやらここは安全地帯ではないらしい。
 つまり、ここからゴーレム達を攻撃できるということだ。


(いや、待てよ……、窓は?)


 敏樹は窓を開けようとしたが、見えない何かに阻まれて鍵や取っ手に触れることが出来なかった。
 つまり、窓からの攻撃は不可能ということになる。


(屋上は?)


 階段を駆け上がり、屋上へ。
 屋上へと通じるドアは、問題なく開くことが出来た。
 ドアをくぐって歩き、屋上の端から運動場を眺める。
 ここからなら攻撃は出来そうである。
 運動場にいたゴーレム達は、最後に敏樹が消えた辺りをうろうろしていた。


 一旦一階に降りた敏樹は、ゴーレムたちに気づかれないよう車に乗り込んだ。


(ウッドゴーレムだけは片付けとくか)


 仮に校舎を拠点にするにしても、荷物を運び込まなくてはならない。
 荷台のドアを開けることになり、すぐにゴーレム達に気づかれてしまうだろう。
 他のゴーレムはともかく、ウッドゴーレムは例え運動場の一番端にいたとしても、20秒程度で接近してくるはずである。


 敏樹は一旦ゴーレム達を運動場の隅に集めるように誘導し、反対側の隅へ車を走らせた。
 そこでドアを開けてストッパーで固定し、キッチンタイマーを8秒に合わせる。
 敏樹に気づいたゴーレム達が近づいてくるが、やはりウッドゴーレムだけが突出してくる。
 敏樹はアクセルを踏み、ウッドゴーレムに突撃。


「お?」


 車体が大きく、そして重くなったおかげか、衝撃がかなり小さくなった。
 敏樹は右にハンドルを切って急ブレーキを踏み、バラバラになったウッドゴーレムを確認し、キッチンタイマーをスタート。
 左前方から4体のゴーレムが近づいてくるが、遠距離攻撃を行う可能性のある20メートルの距離までまだ10秒以上はかかるはずだ。


 助手席から高圧洗浄機のノズルを取り、ドアの隙間から灯油を噴射。
 キッチンタイマーが鳴ったとこで噴射をやめ、ノズルを助手席に置いた。
 左前方を見ると4体のゴーレムの内、ファイアゴーレムが少しだけ先行しており、敏樹に向かって手をかざした。


「やべっ!!」


 敏樹は急いでストッパーを外し、ドアを閉める。
 ちょうどファイアゴーレムの手から火球が放たれたところでドアが閉まり、ゴーレム達の姿と火球が消えた。
 そして次の瞬間、右後方、ウッドゴーレムがいたあたりで、ボワッと炎が巻き上がった。


「……え?」


 ファイアゴーレムが放った火球の先にはもちろん敏樹の車があったのだが、ドアを閉めたことで車は安全地帯となり、火球はそこをすり抜ける形になった。
 そして射線のさらに先にはウッドゴーレムがいた。
 タイミング的にはバラバラになった体がちょうど組み直されたところだっただろう。


 ゴーレム同士の属性は干渉しあわない。
 おそらく攻撃もだ。
 しかし灯油は別だ。


 敏樹がウッドゴーレムにかけた灯油が、ファイアゴーレムの火球に触れて燃え上がったのだろう。
 そして灯油が燃えて発生した炎はウッドゴーレムにダメージを与えることが出来る。


「チャーンス!!」


 このまま放置していればやがて灯油だけが燃え尽きてしまい、ウッドゴーレムには大したダメージを与えられまい。
 敏樹は急いで車を発進させ、炎を迂回するように反対側へ行き、4体のゴーレムがいるであろう位置から離れる。
 そして運転席のドアを開け、炎が消えない内にナパーム剤入りのペットボトルを投げつけた。


 ボンッ! と軽い爆発が起こり、ナパーム剤がウッドゴーレムの身体に飛び散る。
 そこに消えかかっていた灯油の炎が引火。
 炎は勢いを取り戻した。
 敏樹は容赦なくナパーム剤入りペットボトルを投げつけ、ある程度炎が強まったところで運転席のドアを閉めた。
 ウッドゴーレムの姿は消えたが、燃え盛る炎は見える。
 その様子から、ウッドゴーレムがのたうち回っているのがわかった。
 やがてウッドゴーレムは倒れた。
 そして少し浮いた位置から発生していた炎が、完全に地面に落ちた。
 あとはナパーム剤がなくなるまで炎は燃え続ける。


(あれ、ポイント入らねぇな……)


 ナパーム剤が地面に落ちたということは、ウッドゴーレムが消滅したことを意味するはずである。
 しかし、ポイントが加算されない。
 ドアを開けてみるも、ナパーム剤が燃えている辺りにウッドゴーレムの姿はなく、軽く運動場を見回すもやはり確認できなかった。


(もしかして、全部倒してからポイント加算、的な?)


 ありそうな話である。


 残り4体のゴーレム達が接近してくる前に敏樹は運転席のドアを閉め、一旦家に帰った。



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