リライト ・ ファンタジー

アオピーナ

二章 一話「機械竜の遺跡」



「────」

    つい先程まで、かの有名な神王様と戦っていた筈だ。結果は見事に惨敗で、こうしてよく分からない状況にある訳だが。そんな状況というものに、幾多の情報や出来事、謎が頭の中で台風の如く渦巻いていることも含まれる。そこのところを、まずは整理したいのだが。

    突然だが、セベリアに飛ばされたフィソフとイェローズは今、どこに居ると思うだろうか。

「──ギルルル」

    ヒントは、目をかっ開いて激しく焦燥しているフィソフと、意識を失ったままのイェローズを睨みながら、歯軋りしている巨大な影だ。その容貌は、簡単に言えば色々なフィクションで出てくる「ドラゴン」の機械バージョン。しかし、機械の癖に、今放たんとしているそれは、炎のブレスと酷似していて──、

「──。これは……」

    突如得体の知れない場所に転移させられ、「機械竜」を前にフリーズして数秒。ショックした身体に、電気を流された様に鞭を打たれてようやくこの状況が「ヤバイ」ということに気付く。

「起きろイェローズ!    起きねぇと俺が食っちまうぞ!」

「────」

    童話に出てくる狼でも頭によぎったのか、そんな危機的文句をぶつけても、すぐ隣で横たわっているツインテールの小動物は寝息を絶やすことは無い。

「ギルルルルアアァァッッ!!」

    そして、咆哮。急激に背筋が凍る感覚を覚え、咄嗟の判断でイェローズを抱き抱える。そして──、

「じゃあ、またいつか……ぜってぇ会いたくねぇけど」

    引きつった笑みで捨て台詞を吐きつつ、白い光と共に場所の書き換えを図る。
    薄暗く冷たい無機質な空間で、ろくに立地条件が分かる筈も無く、今頭に浮かんでいるのは「どこか安全な場所」という抽象的な考えのみだ。しかし、このままここに留まれば十中八九焼き殺される。
    というわけで、目の前のドラゴン様がうっかり自分達を焼いてしまう前に、再び未知なる場所への転移をしたのだった。



*                *                *                *



    ──《機会都市》の中心部に存在する、《機械竜の遺跡》という場所がある。

    誰が何の目的で建てたか分からない、その謎の場所には、いくつもの噂が流れ、いくつもの物好きな人間達を喰らってきた魔の迷宮だ。しかし、機会都市を守護していた先代の聖力者は言った。曰く、

「ここの主《機械竜》を倒せば何か一つ、望みが叶う……かも知れない」

    という、いい加減なものである。
    何せ、「かも知れない」だ。つまりは、その聖力者すらここを攻略出来なかった。もしくは、攻略する気すら無かったということを意味する。


「イェローズ!   お前、いい加減起きやがれ!」

    最早、寝心地良さそうに眠りに着いているイェローズ。安全な場所──先程の様なドッキリイベントは無く、今度こそ周りに何も居ない、何も無い無機質で薄暗い部屋──に転移出来たからいいものの、もし敵が周りにうじゃうじゃ居る状態だったら危険極まりない。
    つんつん、と弾力のある頬に触れる感覚が指に伝わる。女性にはなるべく手をあげたくないという、ロベリとは正反対のポリシーを持つフィソフが、それを捨てて覚悟を決めた行動にも関わらず、本人は意にも介さず夢に絶賛ダイブ中。そして、相変わらず背中に装着してある妖精の羽を模した機械も停止したままだ。

「はぁ……」

    見知らぬ場所で話し相手が居ない孤独感。鬼ごっこで気合を入れ過ぎて、隣の隣の街まで行ってしまったトラウマが蘇る。その時は、心配して涙目だったトリアに思い切りドロップキックを喰らったものだ。だが、それも今では良い思い出だ。そして、そんな思い出に一味違った感想を入れるAIや神女も居ない。
    あの時、黒く染まっていった景色の中で見た、光が消えたスタルチスと悲鳴をあげて泣きじゃくるエイリスの姿が最後だ。助けられなかった。助けたかった。そんな後悔も一緒に頭で渦巻く。ただ、それは本当に暇がある時にすべきだ。少なくとも、今すべきことは他にある。聞きたいことや知りたいことも、全てはここを抜け出したあとだ。

「しょうがねぇ。抱きながら行くか」

    頭を切り替えてセットアップ。役割を果たしていないピクシー ・ フェザーを畳み、抱き抱えていたイェローズの身体を、そのままお姫様抱っこの形で抱え、立ち上がる。

「っし!    行くか」

    気合を入れていざ出陣。とりあえず、目前の、先の見えない暗闇が広がる道を進む。
    よく見ると、壁や床、天井といったものには統一性があり、その全てが機会都市ならではのもので、暗い銀色の鉄の様な表面に時折、ライトグリーンの回線が見える。
    そんなSFチック通路を歩き進んでいると、早速厄介な出来事に遭遇する。

『シンニュウシャ、シンニュウシャ』

    突如鳴り響く、耳障りな甲高い機会音声。スタルチスやスラータのそれとは少し違うが、間違いなくAIだろう。

『ハイジョ、ハイジョ、ハイジョ──」

「まぁ、ある意味王道なやつだな……」

    得体の知れない遺跡を無闇に歩けば当然、セキュリティがそれを侵入を許さない。しかし、直後、ある違和感に気付く。

    ──姿を見せないのだ。

    これが普通のセキュリティではあれば、影から姿を見せて排除行動に移るだろう。しかし一向にそんな素振りは見せない。

『ジュンビ、ジュンビ、ジュンビ──」

「──?」

    ずっと聞いていると洗脳でもされそうな、無感情の機械音声が狭い通路に響き渡る。前方に走って逃げようにも、見えないので危険。来た道を戻るという選択肢もあるが、それはそれでリスクが高そう。
    ──いや、そもそも、こんなことで思考を張り巡らせるよりも、断然手っ取り早い方法があるではないか。

    目に見える範囲と言っても、それは自分自身にも当てはまる。ならば、エイリスが使用していた《アナザーワールド》で認識無効をして透明人間になったように、フィソフもまた、認識自体を感知出来ないものや攻撃を受けないものに書き換えればいいだけだ。
    とるべき手法は決まった。早速試みる。


    ──が、

「──ッ!    うぐっ、がっ、あがぁぁぁぁぁ!」

    エフェクトである白い光が放たれた瞬間、その効果はフィソフに効果をもたらすこと無く、代わりに肉体へのダメージが返ってきた。激しい頭痛が走る。針を刺されたかのように全身の肉が痛む。ヒビが入ったかのように全身の骨が痛む。何なのだこれは。まるで、何かがフィソフが書き換えようとした内容を否定する様な──、

『デルゾー、デルゾー、デマース』

    そんな痛みの襲撃に悶えていると、キャラを変更したのか、急にふざけた態度に切り替わって何かを言い出した。

「いま、なんつっ──た……」

    何気なく上を見上げて、唖然とした。
    いつの間にか通路の天井が開いており、そこから覗く赤い双眸──。
    
    それを動物に例えるなら「蛇」が妥当だろう。それも、よくテレビで目にするような標準サイズなどでは無く──、


「大……蛇……?」

    フィソフ五、六人分はある通路の幅にピタリと収まる程の横幅を持ち、胴体の長さは暗闇に隠れているため未知数。キキキ、と甲高く耳障りな鳴き声を上げながら赤い双眸を細め、紫色に光る長く鋭い舌を遊ばせている。その異様な風貌にも驚いたが、これが全て機械で作られているという事実に対しての驚きの方が、多少上回る。

『シンニュウシャ、ハッケン、ナノデスヨ』

    これまた、テレビなどでモザイクのかかった人物から聞こえる、あのキーの高い音のように甲高い声でフィソフを見つめながら、彼を侵入者として全身を舐めるように見回す。

    そしてフィソフもまた、未だに動揺を隠せないものの、抱き抱えているイェローズの感触がフィソフを我に返し、彼はすぐさま脳をフル回転させる。
    上には巨大な蛇、先は未知、狭い、下は床──、

「……来いよ」

    素早く現状を把握しつつ、短い経験則が脳裏をよぎる。
    敵の姿は今、目に見えている。

『キ、キ、キ、イキマース!』

    不快な機械音声を上げながら、身体をくねらせて襲いかかってくる。フィソフのことを人畜無害だと誤認している様だ。そして、それが仇となる。

「──おめぇは存在しねぇんだよ!」

『キキ〜?』

    口頭で、接近してくる大蛇の存在を否定。それと同時に白光が放たれて、その内容を具現化するべく対象を包み込む。
    「存在の否定」──初陣ではスラータに対して、先程ではセベリアに対して使った手法だ。もっとも、何故かセベリアに対しては効かなかったのだが。そんな一抹な不安が浮かぶも、構わずその書き換えを促す。


    ──その寸前で、

「──あ!?    うぐっ、ぐうぅぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

    再度にわたる原因不明な激痛。セベリアは特殊だから除くにしても、使用数回目には出来たことが今は出来ない。それどころか、全身激痛オンパレードというペナルティ付きだ。理解不能。しかし、現状、痛みと無理解に苦しむ余裕などどこにも無く、

『シトメマス、シトメマ、、、ス!!』

「──ッ!」

    勢いに乗って進撃してくる巨大な口と、不敵な紫光を放つ長く鋭い舌。それが視界でズームアップされる間の、コンマ数秒という僅かな時間で策を練る。

    存在変える──無理。

    状況も──多分無理。

    物を──何か変えられるものがあれば。

    何かありそう、身近、近く、身に付けて──服だ。

    服を……服をとりあえず盾に──、

『ア〜ン!!    ン、ン、ング!?』

「と、りあえず──これで!」

    白い光が次に包み込んだのは、フィソフがいつも身に付け、彼のトレードマークでもあるアロハシャツだ。望む物の出現に備えて、お姫様抱っこ状態のイェローズを片手のみで抱える形にし、今、姿を変えたそれは切ったら直ぐにでも破けてしまうそれではなく、いくら巨大な蛇が口をあんぐりと開けても、口に入れるどころか噛み砕くことすら難しい程の大きさと硬さを誇る巨大な盾と化していた。
    適材適所が働いたのか、横幅も通路と同じ位の大きさだ。

『タベレナイ、ナラ、ナオサラ、──』

「──?」

    ひとまずは、盾で食われるのを防いだ。と思いきや、すぐさま機械蛇は次なる動きを見せる。言葉を最後まで言い切らず、一度溜める動作を見せる姿勢。直感で気付く。

    ──次はビームだ。

『カチ、ナシ!!』

「させるかぁっ!」

    この至近距離でビームが放たれるのなら、距離を利用し、一気に片をつける。
    白光が盾の効能を書き換える。内容は──、

『ンン、ンン!?』

    巨大な口から放出された淡い紫のビーム。それが盾に当たるや否や、軌道を変えて主の元へと戻っていく。

「反射は想定外だったか……それとも案外、脳筋だったりする?」

    間一髪の反射攻撃が決まり、内心安堵しつつも煽りを忘れない。
    ともあれ、これで敵は自らの攻撃をカウンターで受けて自滅、という形で片がついただろう。

『アマ、アマアマナ、オアジッ!』

「──は?」

    そう、あって欲しかったが。
    今度は、フィソフの方が開いた口が塞がらない。何せ、あんな高出力のビームを反射によって諸に受けたも同然のダメージを負った筈なのに──、


    巨大な機械蛇は、そんな事など無かったかのようにビームを、「甘々な」などと言いながら吸引し、咀嚼していたのだから。

    

    

    
    

    

    



    



    


    

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