リライト ・ ファンタジー

アオピーナ

一章 幕間「ロベリ、死す」



    やあ、僕の名前はロベリ ・ アザミール!    人間の中で、一番屑で外道でどうしようもないゴミ野郎です!    とまあ、自己紹介はこのぐらいとして──、

    さて、問題です。今、僕は何をしているでしょう!    チクタクチクタク──はい、正解はこちら!    ででんっ!

『あのどぎぃ……よぐもぉ、わだじをごろじだわねぇ……しねぇしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねししねしねしねしねしねしねしね──』

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」

    祝!    百回目となる罰を受けている真っ最中だったのでした!    この僕、生意気ながらも沢山の人間を殺し、手にかけてしまったので、ルドキア君に言われた通りに自分が重ねた罪の分の苦痛を受けているというわけなのです!    さぁて、あと百九十一回頑張るぞ〜!

    以上、ロベリの心の声からお送りしました!    次にプログラム第二番、「元成り上がりクソ野郎が受ける復讐型刑罰法体験ハイライト」をお送りします。ではでは、ごゆっくり〜!



*                *                *                *



    業火に焼かれ、肉体はバラバラに切断され、極度の激痛が渦巻き、しかし死ぬことは許されないという生き地獄に陥ったら──なんていう暗い妄想を、たまにしていた。
    まさか、実際に自分がそのような目に遭うとは思いもしなかったが。

「────」

    侵入者が現れ、生き地獄を味わい、そこから記憶は無い。夢の中で、死神が目の前に立っていた気がするが、今、実際に目を開けると、死神の代わりに銀髪の青年が一人、微笑を浮かべながら佇んでいる。

「目、覚めましたか」

「ここは……」

「死後の世界ですよ」

「は……?」

「冗談です」

    目が覚め、整っていた髪が乱れ過ぎていることも気にせず、ロベリは状況を把握しようとする。真っ先に視界に映る情報が脳に伝達され、咀嚼する。
    薄暗く、冷気が差し込んでいる。どうやらここはどこかの部屋で、自分は今、椅子に座らされているのだということにようやく気付く。拘束というおまけ付きだということに関しては、身動きの不自由さと手足に当たる、手錠の冷たい感覚が示唆していた。

「僕を、拷問する気か?」

    声は出る。呼吸もスムーズに出来るし、何より痛みが無く、恐れることと言えば身動きが取れないということと──、

「拷問なんて野蛮な真似はしませんよ」

    目の前にいる男が放つ、得体の知れない「気」だ。
    蘇ってくる記憶の中で、再生されるあの温室での場面。護衛のスラータを意に介さず、土足で悠々と宝部屋に入るや否や、四肢を削ぎ落とし、龍の放つ炎を浴びせてきた男だ。どれをどう取っても普通じゃない。
    しかし、この男は回復術も使えるのか。切断された四肢は元通りだし、火傷の跡もどこにも残っていない。そうやって、自身の身体を見渡していると、男が心を見透かしたかのようにロベリの求める答えを口にする。

「元々、両手両足は切り落としてはいませんよ。あれは、そういう幻覚を見て、実際にその時に生じる苦痛や喪失感を再現させただけです。あの白龍も、古代に崇められていたものを死霊として呼び出したんです」

「幻覚……死霊を呼び出す……?」

「そういうことを得意とする聖力者を、貴方は知っている筈ですが?」

「お前──まさか《ナイトメア》か……?」

「いかにも。不肖ながら、聖力者を受け継いだルドキア ・ ストードルと申します」

    爽やかな笑みを浮かべながら、ネタばらしと素性を明らかにする青年──もとい、ルドキア。相手が聖力者で、幻覚やスピリットの類を操るような人物ならば話は別だ。
    あの赤い少年は別だが、基本的に、聖力者や神聖城塞に居る者達には尊敬の意を払っているつもりだ。されたことは何であれ、今はその敬意を最大限に込めて彼を油断させる。

「そうか……そうですか。あのストードル家の聖力者で……さぞ、苦労したんでしょうね。世襲系の聖力者は他の方々とは違って、その器になる資格を得ることがとてつもなく難しいと聞きます。僕は凡人なので、尚更貴方が凄いとも思うし、それだけに、かかる重圧や努力の量も別の次元過ぎて共感することもおこがましいのですが……それでも、家族や周囲からの期待や比較、差別、劣等感などについては自分も心に当たる部分があるのです。だから!    だからこそ!    私は他の誰よりも貴方のことを尊敬している所存で────っっすすぅぅっっ!?!?」

    媚びる、へりくだる、持ち上げる、下手に回る、褒めちぎる、敬う、敬意を払う。
    
    どれもこれも、上層で胡座をかいている、無能で存在無価値で不必要な粗大ごみ共を押しのけて、這い上がり、周囲の賞賛を得て富や権力を手にするために磨いた術だ。大抵の馬鹿どもは、それをほんの少し浴びせてやれば気に入っただの、使えるだのほざいていた。

    しかし、それを全身全霊で実行したのに、敵意も悟られないようにと慎重になっていたのに、このざまだ。

    ──手足の指の全てが折れ曲がり、骨が粉砕されていた。

「あああうっあうあうっっお、お、お、お、ぉぉぉぉぅ──」

「よくそんな方便に自身を持ったものだ。お前からは臭く、醜く、どうしようも無いほどの邪心しか漂っていない。悪なんだよお前は。醜悪だ。悪徳だ。悪には存在する価値すら無い。お前が存在していること自体が、世界にとって迷惑だ」

「……んだ……とぉ……?」

    おかしい。悪だとか、価値が無いだとか、迷惑だとか、他人への評価だった筈だ。何故、自分がその評価を受けているのだろうか。許せない。許されない。許していい筈が無い。

「今からお前に裁きを下す。その身を持って、じっくりと償うがいい」

「ばぁぁぁぁぁかやろぉぉがぁぁ!!    んなこと許されるわけねぇだろうがぁ!    僕はぁ!    ヴェイジーのぉ!    無法都市の統括者でぇ!    地位も高くて信頼されていて優秀で賢くて必要なぁぁぁじぃぃんざぁぁいだぁぁ!」

「地位?    優秀?    いや、関係無い。悪は滅びるべきだ」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?    強情はってんじゃねぇぞぉぉ!    善悪より真理だろうが!   狡猾なやつ!    悪どいやつが甘い汁すすってんのが現実だろうがぁぁ!!」

    道徳で習うような、事の善悪など、この腐った世の中では通用しない。自分の理想を実現するために、どれだけの犠牲を払い、どれだけ手を汚しても尚、いかに成功するかを追求し、社会で上を目指すかが重要になる。
    「悪人には裁きを下せ」なんていうのは、綺麗事の羅列にしか過ぎない。合理的な判断こそが必要とされ、勝ち抜くためにはそういった思想に陥るのが自然なことなのだ。

    善悪を追求し過ぎるがあまりに、努力者の成功の未来を潰すこと。それ自体が真の「悪」なのではないか。



    ──と、僕ことロベリ ・ クソミールは考えていた訳ですが!    何と愚かなことに、この時、大勢の人を殺したことや苦しませたことを、まるでテーブルに置かれた料理をテーブルごと持ち上げるかの如く(例えが微妙!)、自分が犯した罪の、全てを棚に上げてしまっていたのです!    当然、ルドキア君は怒りを通り越して呆れてしまうわけですよ!



「────」

    つい、頭に血が登って熱くなってしまっていた。しかし、あくまで事実を述べたまでだ。事実を──いや、今はそれよりも、突如として周囲が紫一色に塗り変わったことについて、考えるべきだ。

「埒が空かないな。とりあえず、今も言ったように、お前には裁きを下す。内容は『復讐型刑罰法』。この世界、何故か知らんが、殺人犯は人の命を踏みにじったにも関わらず、自分は死なずに牢屋で生かされ、刑期が明けたらのうのうと外に出る、罪と罰の天秤がアンバランスになっている」

    無駄に、権力に強い者が圧をかけ、刑罰そのものを塗り替えたり、未成年が暴行の限りを尽くし、最終的に殺害したとしても、そんな非人間的存在に対しても平等に、少年法が適用されて罰そのものが緩和されるケース──と、ルドキアは淡々と、しかしどこか怒りを含めながらそう語っていく。
    狂っている、という言葉で世の、罪と罰についての主張を区切り、ロベリをまっすぐ見据える。

「この空間は、私の聖力によって生み出されたものだ。ここでお前は、今までの人生の中で、人を殺害したときに、与えた恐怖や痛み、苦しみを再現したものを受ける。他にも、本来なら法律に抵触するようなことも沢山しているだろうから、それも同じく再現したものを味わってもらうよ」

「──、、」

    いつの間にか声が出せなくなり、椅子から解き放たれたものの、身体の自由は効かないままだ。しかし、耳は聞こえる。あの男は何を言っているのだろうか。再現する?    全くもって意味不明だ。

「《ナイトメア》は幻覚や交霊の他に、指定した人間の記憶を掘り出し、それを再現することも可能なんだよ。だから、お前が今まで人に与えてきた悪虐の数々をそっくりそのまま体験させる罰を与えることが出来る」

    無茶苦茶だ。そんなの、まるで裁きの権化ではないか。ロベリも努力して社会でのし上がった人間なので、当然、事の善悪については当たり前のように理解していた。それ以上に、価値観が既に歪みきっていたのだが。つまり、認識として、これは罪だろうという心当たりは山ほどあるのだ。これが何を意味するか。

「──!    ──!!    ──!!!」

「お前の罪の記憶を漁り、知らせてもらう」

    何かに身体が侵されていく感覚がする。

「なるほど。つまり──」
 
    無理矢理何かが引き出されていく。


「今からお前は、二百九十一回死ぬ」


    瞬間──、

    一瞬の暗転があり、その直後、目を疑うような光景が映し出される。


『ロベリ、学校の成績はどうだった?』

    ──有り得ない。
    だって、この人は、

「──父さん……?」


    最初に殺した人だから。

    何故、なぜ生きている。なぜ目の前に居るのだ。

『……こっちへ来なさい』


    ──離れの小部屋が、父から説教を受ける場所だった。

    兄より成績が少しでも悪ければ、比較され、殴られ、殴られ、殴られる。毎日繰り返される、躾という名の暴力の嵐。父は、機会都市の中でも十番内に入る程の規模である、AIの研究所の所長をしていた。
    暴力と共に吐かれる暴言の内容は、成績優秀な兄と比較してのものから始まり、それは段々と、滞っている研究、部下のヘマ、上司の愚痴といったものへと変化していき、最終的には人間という一括りの生態系を卑下し、貶し、罵るまでに至っていた。

    十五の時、母が死んだ。母さんはいつだって、親身になって相談に乗ってくれて、何より母さんの手作りのミートパイは世界で一番の好物だった。そんな母さんが何故、死ななければならなかったのか。
    それは、引き抜かれた生活費が全てを物語っていた。家庭では「良き母」の仮面を被り、夜の街では「遊び人」の素の姿をさらけ出す。
    父さんが母さんを執拗に問い詰めた結果、その事実が初めて発覚した。その後、口論になり、勢い余って殺してしまったらしい。

    母が死んだ。物凄く悲しかった。しかし、それ以上に裏切られたことへの憎悪の感情が身体中を蝕んでいった。
    ともあれ、父は罪を犯したので逮捕される。これで、長く長く長かった虐待と軽蔑の毎日は終わりを迎える。

    ──筈だった。

    どうやら、研究所の所長ともなるとそれなりに権威を振るえるらしい。
    父は母を殺害した事実を揉み消し、逮捕を免れたのだ。そして、次第に虐待はエスカレートしていった。出血や痣が出来ない日は無く、ろくに食事は与えられずに、飢餓状態に陥って頭がおかしくなったときもしょっちゅうだ。

    死にたくても死ぬ勇気を持てず、心身ともに限界を迎えていたある日、父が高熱で寝込んでいることを知る。好機だと思った。
    自分の内に潜む、残虐で醜悪な悪魔が復讐を実行するまでに時間はさほどかからなかった。


「ああああああ!!    あついあついあついあついあついあついぃぃぃぃぃ!!」

    途端、ロベリの身体が高熱で焼かれ始める。すぐに呼吸困難を起こし、その後、皮膚から肉にかけては焦げ肉と化し、機能を緩和されてしまった穴という穴からは滝のように血が溢れ出る。やがて、灰のように黒ずんでいった肉体は終わりを迎え、死に至った。

    ──そうだ。あの時父を、初めて人を殺した時は、こうやって炎で炙ったのだ。


「──っ!?!?    いまのが……死?」

    「死」を味わい、認識し、それを理解した途端に尋常でない程の恐怖を伴った寒気が身体を突き抜ける。

    なるほど、これが死を経験させる刑罰ということか。そんな、現実逃避じみた感情で納得するのも束の間、次なる「死」が待ち構えていた。

「がっっっ!?    ──……」

    一筋の光が走った途端に視界が暗転し、遅れて頭蓋が砕かれ、激痛が迸る。やがて大量の血潮と共に脳髄液が飛び散って、世界からログアウトする。
    今度は撲殺されたのだ。そして、それには、ひどく心当たりがあった。


    フラッシュバックされるのは、おぞましい何かを見て、怯えるような目で自分を見る兄の姿。父を炙ったことがすぐに兄にばれてしまい、彼は散々ロベリを罵詈雑言でまくし立て、挙句の果てにヴェイジーの警備隊に通報しようとしたのだ。

    兄さんはいつも優しかった。母が死んだ時も、父に暴力を受けていても兄さんだけは、僕のことを見捨てずに慰めて、勉強を教えてくれた。だけど──、

『お前のような悪魔は俺の弟なんかじゃない!!』

    その言葉を聞いた瞬間に、再び悪魔が目覚めたのは自分でも驚いた。父なんかと違い、兄さんは僕が殺人を犯したから軽蔑し、罪を償わせようとしたのだ。頭では分かっていた。しかし──、

    ──この時、既にロベリ ・ アザミールは人を嫌い、拒絶する思考に陥っていた。
    
    母が死に、父を殺し、兄を殺した。家族と呼べる人達はもうこの世にはおらず、どうせなら記憶諸共消してしまおうと考えた。
    結果、家が燃え、警備隊が駆けつけ、父と兄の死と火事は、全て事故によるものだと決定付けられた。

    程なくして、児童養護施設に送られ、残りの学生時代はそこで過ごした。
    一流の学園と大学園を卒業していた僕が、社会に出て花開くまでの道のりは思いのほか順調だった。憎かった父を越えるためにも、敢えて奴と同じ、AIに関わる研究所に入ることにした。持てる限りの才能を発揮し、新人にも関わらず数多の成果を上げて、よく天才と呼ばれたものだ。

    そして、ここでもやはり、そんな僕に嫉妬し、狡猾な手口で僕を陥れようとする奴らは現れる。気さくな同僚に裏切られ、無能な部下に根も葉もない噂を流され、害悪な上司に排斥されることとなった。

    我流でAIの研究をしていた産物が、指示一つで標的を仕留めてくれる殺人機だった。その頃から、AIへの愛着はあったのかもしれない。
    試作品となる、そのAIを「スラータ」と名付け、それを使って自分を追い出した研究所の、件の関係者達を標的とした実験を試みた。結果は見事なもので、僕の所属していたチームが使っていた一室は、死体の山と血溜まりで満たされた凄惨なものになっていた。これも運良く、AIの暴走による悲惨な事故ということで片付けられた。


「あばっ、ば、ば、ば、ば、ば、ばば──」

    面影のあるAIが無数の弾丸をロベリに撃ち込む。蜂の巣のように穴だらけになった身体は、コンマ数秒遅れておびただしい量の血を吹き出して、生命の役割を終える。
    あの時、AIを使って殺害した人間の数は二十五人。つまり──、

「──っ!!    やめっ──ろ、お、おおお、おおお、おお、おおおおお──」

    死しては心身の感覚と機能が再生され、

「ぶ、ぶぶぶぶぶ、ぶぶぶぶぶ、ぶぶぶぶぶぶぶぶ──」

    暫くは次の回想へ移ること無く、

「げはっ、なん、かい、し──ぬぬぬぬ、ねねねねね、ねね、のののの、のの??」

    25回、同じように怨念のこもった弾丸でひたすら撃たれ、死亡。撃たれ、死亡。撃たれ、死亡。撃たれ、死亡。撃たれ、死亡。撃たれ、死亡。撃たれ、死亡。撃たれ、死亡。撃たれ──、


「──ぁ。──ぁぁ?」

    夢の中にいるように、身体の扱いが思う様にいかず、痛みや死ぬ感覚はあるが、それはどこか別世界での出来事の様な──、

    ──気がする筈も無く、現時点で27回死んでいるなぁ、という漠然としたカウントが脳裏に浮かび、すぐさま恐怖の時間に戻るべく、過去の再上映が開始される。


    
    研究所での騒動があった後、研究所自体が潰れ、僕自身も職を失うハメになった。とは言え、いくつかの実績があり、人としても有能と判断されていた僕はすぐに次なる場所を見つけることが出来た。

    ──それが「ヴェイジー」だった。

    大陸中の各都市、その中の各地区や街といったあらゆる区域を警備し、他にも政治や経済といった中枢を担う役割も果たしている、言わば世界の中枢機構だ。努力やツテでその道に行くことができ、入団後の訓練や座学、模擬戦闘、技巧、操縦技術、そして実戦──どれも努力を重ね、その成果と才能を駆使した結果、ここでも、どの分野においても優秀な成績を納めることが出来た。

    すぐに地位を高め、人脈を増やし、結果を出し、その過程でやはり邪魔は現れる。

    肩書きや収入に目が眩んだ狡猾な女達が、寄ってたかってアプローチを重ねてくる。それも、どの女も裏に通ずる厄介な手駒だったらしい。当然、それらは排除した訳だが、元を絶たない限り敵は減らず、繁殖し続けるだけだ。
    ここで、僕の卓越したAI操作が生きてくるというわけだ。腕利きの情報屋を雇い、アジトを虱潰しに特定する。そして、そこを大勢のスラータ達に襲撃させた。女は、ばれないように毒でも盛っていれば勝手に死んでいった。


    ヴェイジーでの立場はさらに上になり、既に人を醜悪なモノとしか見ていなかった僕は、いくら邪魔を払っても払ってもキリが無いと感じ、排除することを辞めた。
    ──筈だったが、あれは休暇で久々に街を訪れていた時のことだ。

    周りの馬鹿な男共に持て囃され、自分が勝ち組だと誇示せんばかりの、勝ち気で美貌の仮面を被った女達がとても醜く見えたのだった。自分の容姿に絶対の自身を持っている人間は、そういったところを突けば簡単に話に乗っかってくる。
    街中のありとあらゆる「美女」と呼ばれる女達を、口八丁手八丁に騙し、屋敷に招き入れて奴隷として扱い始めた。人間の持つ「個性」と言うものを破壊し、恐怖で蹂躙して従わせるというのは意外と簡単なことだった。

    ヘマをした奴隷を殺し、その死体を花が咲き誇る温室に寝かしたとき、ようやく僕は人間の本当の価値というものに気が付いた。それは今まで僕が散々やってきたことで、殺して「死体」にし、「個」を失わせることで初めて人としての輝きを放っていた。
    それからと言うものの、攫っては奴隷とし、その後、暫くすれば殺して宝箱という名の棺桶に奉納し、温室に保管していった。二百六十五個の宝箱が、その殺害回数を物語っていた。



「は、はは、はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは────ぁぁ──」


    あの時向けた憎悪や、与えた痛みや恐怖は全て、今自分に回帰している。段々と自我が捻じ曲げられ、自分を自分と認識することが曖昧となり、終わりの無い無窮の闇へと誘われる。



「これが貴方の犯した罪に課された罰ですよ──」



    制裁者がそう呟いたのを、自分か誰か分からない誰かが聞いていた気がした。

    



    
    

    
    


    

    

    

    





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