《冷姫》に告白をした結果泣かれてしまったが、なぜかその後積極的に話しかけてくる件
第四話
今にして思えば、その頃から既に様子が変だった様に思う。
その後も、毎日瀬川さんは僕に絡みに来てくれたのだが…その度になぜか勇も絡んで来た。
別に、その時は何も感じなかったが…その頻度は、明らかに変だった。まるで、あえて僕が瀬川さんと話すのを防いでいるかのようだった。
さらに、2週間くらい経った頃から…瀬川さんの様子も変だった。なにかに怯えているかのような素振りを見せていた…ような気がした。
この時に、僕がもっと深く考えていれば…結果は変わっていたのかもしれない。最も、この事に気がついたところで、僕にはどうすることも出来ないのだが。
事態が明らかになってきたのは、僕が瀬川さんに告白をしてから三週間程が経った頃だった。
「けいs…久本君。今日も、生徒会室に来てくれるかしら」
今日の昼休みも、やっぱり瀬川さんは僕のクラスを訪れていた。毎日来るものだから、もはや僕達の噂は学年中に広まってしまっていた。
(おい…アイツまた冷姫に呼ばれてるぜ)
(まさか付き合ってるんじゃ…)
(まさか。だってあの啓介だぜ?)
おい。〈あの〉とはなんだ…否定できないのが辛いな…。
「…どうしたの?早く行くわよ」
「…わかりました」
はぁ…。このままじゃ、瀬川さんが僕と付き合っていると勘違いされてしまう。それは、流石に瀬川さんが可哀想なのでなんとしても阻止しなければ。
「…どう?美味しい?」
「うん。とても美味い」
こうして、毎日結奈は弁当を作ってくれるのだが…ホント、なんでなんだろう?…まぁ美味しいから嬉しいんだけどさ。
そういえば、いつのまにか結奈って呼ぶのに抵抗が無くなってきたな…慣れって恐ろしいな。
「今日こそは、二人で帰りましょ?」
「まぁ、いいけどさ。どうせ、勇も一緒だろうし」
僕がそう言うと、何故か結奈は少し機嫌が悪くなった。
「……が…のに…」
「ん?なんて言った?」
声が小さくて聞き取れなかった。
「…別に。なんでもない」
そう言って、顔を背けてしまった。さらに機嫌が悪くなってしまった…女って難しいのな。
その後も、話をしながら弁当を食べて昼休みは終わった。午後の授業は殆ど寝て過ごし…いつのまにか下校の時間になっていた。
「じゃあ、下で待ってるわね」
「了解です」
もう、この光景もクラスのメンバーにとっては日常となってしまったのか反応が少し薄くなって来た。
(はぁ…またかよ)
(これで付き合ってないとか…ありえねー)
(うらやましぃぃぃいぃぃぃぃいっぃぃ)
…最後のヤツは気にしない方がいいな、うん。さて、僕も帰るか。
「勇ーー帰る…あれ?」
勇の席を見てみると、そこに勇はいなかった。
「あれ…?もう帰ったのか?」
おかしいな…いつもはあんなに絡んでくるのに。…まぁ、急用でもあったのだろうか。
「まぁ、そんなこともあるだろ」
特に気にすることもなく、僕は下駄箱に向かった。
「あれ?今日は勇君はいないのですね」
「うん。今日は急用でもあったんじゃないかな」
そう伝えると、何故か少し嬉しそうにしていた。…そんなに勇が嫌なのかな?
「そういえば、今日の単語テストどうだった?」
「んー…まぁ意外と出来たかな」
「そっか。私は…」
学校での事や、テレビの事…とにかく、いろんなことを話した。結奈と話しながら帰るのは中々楽しかったのだが……ずっと、気になっていることがあった。
「結奈。次の角を曲がって」
小声で、結奈にそう伝える。
「えっ?でもそっちは家の方向じゃ…」
「いいからいいから」
そう言って、多少強引に曲がる。
「ね、ねぇ。一体どうしたの?」
「……」
「ねぇってば」
「……」
これは…やっぱり…
「結奈、次を左に曲がって」
「えっ!?どうし…」
また、強引に曲がる。…結果はやっぱり同じ。
「ホントにどうしちゃったの??」
もう、これは確定だろう。しょうがない、結奈に伝えないと。
「いい?落ち着いて聞いて?」
そう言って、彼女の耳に顔を近づける。
「う、うん…」
「僕たち、結構前から後を付けられてる」
「……えっ!?」
僕の言葉を聞いて、結奈はとても驚いている。それは、当然だろう。唐突にこんな事言われたら誰だって驚くに決まってる。
「振り向かないで」
結奈が、振り向こうとするのを言葉で制する。今振り向いてしまうと、襲われてしまうかもしれない。
「で、でも…一体いつから…」
「僕たちが学校を出て少し経った頃かな」
最初は、フードを被ってる人が後ろを歩いてるな…程度にしか認識していなかった。でも、その後もずっとソイツは後ろにいて、こんな何十分も同じなのはおかしいと思い始めた。
それで、さっきあえて曲がる必要もない角を二回曲がってみた。結果は、やっぱり後ろにいた…それで、確信した。
後は、どちらを付けているのかだが…僕は身に覚えがない。
「ねぇ。なにか、ストーカーされる心当たり…ある」
「……」
僕がそう尋ねると、結奈は黙ってうつむいてしまった。この反応は…。
「心当たりが、あるんだね…?」
「……」
結奈は、小さく頷いた。…やっぱり結奈の方だったか。
…どうするかな。まだ、結奈の家までは少し距離があるし…でもこのままじゃ危ない。それなら…
「よし。付いて来て」
「えっ!?ちょっとま……」
彼女の言葉を聞き終える前に、僕は彼女の手を掴んで早歩きで歩き始める。幸いにも、ここは僕のホームタウンだ。地図は、頭の中に入ってる。
(この角を曲がって、次はあそこで…そこからは走ろう)
「あっ…ちょッ…」
彼女の手を引いて、迷わずに進む。
「ハァッハァッ…巻いたか…?」
角をそぉっと覗いてみる…よかった。巻けたみたいだ。
「どう…?」
「大丈夫。もういないよ」
結奈が、不安げに僕を見ている。結奈も、だいぶ疲れてしまっているようだ。
「でも、これからどうするの?また見つかっちゃったら…」
「それは大丈夫。ひとまず、家に隠れよう」
そう言って、すぐ横の家を指さす。
「えっ?じゃあここが啓介君の家なの⁉︎」
「うん、そうだけど…」
結奈がめちゃくちゃ驚いている。…あれ?そーいえばまだ家は教えてなかったっけか?まぁ、いいや。
取り敢えず、結奈を家に招き入れて…リビングのソファーに座って貰った。
「ちょっと待ってて」
お茶を出すために立ち上がり、カーテンを締めながら台所へ向かう。
実際、危ない状況だった。あのまま気づかなかったらどうなっていた事か…そう思うと、恐怖を感じる。
でも、怖いのは結奈も一緒のはず。なら、せめて僕は明るく振る舞わないと…。
「大丈夫?これ飲んで落ち着きな?」
「う、うん。ありがとう…」
結奈が落ち着くまで待つ。
「ありがとね。守ってくれて…」
「大丈夫。…さっきの人とは…どんな関係なの?」
聞く必要は無かったかもしれない。でも、やっぱり気になってしまった。
「…最初に始まったのは、もう随分と昔の事なの…」
ポツリポツリと、少しずつ結奈は自身の過去を話始めた–––。
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苺大福
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