スキルイータ

北きつね

第二百九十話


 ギュアンとの話を終えて、崖の住居に戻ることにした。
 シロも一緒だ。フラビアとリカルダは、フリーゼが帰ってくるのを待って、決まったことを、フリーゼに説明を行う。

 崖の下に移動したら、久しぶりに顔を見る面子が揃っていた。

 シロが、俺の前に出るが、肩を叩いて下がらせる。俺が前に出ると、一人の男が、俺の前に出てきて頭を下げる。

「どうした?イェレラ?皆で揃って来た理由は?俺に解るように説明してくれるよな?クリスとルートガーの従者であり、護衛であるお前たちが職場を放棄してきたとは考えていない。だから、緊張しなくていい」

 恐縮した表情を俺に向ける。

「外で話す内容じゃないだろう?」

 シロが何かに気が付いたようだ。俺にだけ聞こえるように耳打ちしてから、提案をしてきた。

「カズトさん。待機所に、リーリアが居ます。準備をさせては?」

「そうだな。それで、いいだろう。シロ。悪いけど、リーリアに連絡をしてくれ」

「はい!」

 シロが、崖の下で待機させる為に作った待機所に向かった。
 待機所という名前だが、殆ど、家と変わらない。ドリュアスの誰かが常駐しているが、今日は都合がいい事にリーリアだったようだ。イェレラたちが、ルートやクリスと一緒ではなく、従者だけで来たのには何か理由があるはずだ。シロの想像が当っているとしたら、俺に何を求めているのか気になる。

 シロが戻って来るまで、何か話が聞き出せるかと思ったが、イェレラたちは俺の問いかけにも返事を返すだけで、会話にならない。
 何を考えているのか?ルートを呼んだ方が早いか?それとも、クリスか?立場上は、クリスの従者だから、クリスを呼ぶのが正しいのか?

 リーリアが俺の後ろに姿を見せた。
 感知できるけど、やはりいきなりだとびっくりする。

「マスター。準備が整いました」

「ありがとう。移動するぞ」

「はい」

 イェレラたちが揃って返事をする。
 元々、そのつもりだったのだろうか?

 リーリアなら、自分で来なくても・・・。使いだけなら、別の者を俺の所に行かせることも出来たのに・・・。シロだけを残しているのも何か理由があるのか?
 それとも、俺の考えすぎか?

 待機所では、シロが待っていた。
 二人のメイドが一緒に居た。両者ともに、ドリュアスのようだ。二人も残っているのなら、リーリアが俺の所に来たのは納得できる。それにしても、ドリュアスも増えたな。眷属から派生していると、自動的に眷属になるようだけど、問題はないのか?

 部屋の中に落ち着くと、イェレラがまた俺に頭を下げる。

「イェレラ。謝罪は、いい。何が有って、俺に何をして欲しいのか説明してくれ」

「はい」

 イェレラは、仲間たちを見てから、返事をして語りだした。
 シロの想像があたっていた。それなら、シロの提案に従ったほうがいいだろう。

 俺は、ルートとクリスの考えに近い。どうやって、話をまとめようか?

「・・・・。ヴィマ。ヴィミ。ラッヘル。ヨナタン。隣の部屋に移動して、シロとリーリアと話をしてくれ、まずは体調の異常がないか確認させる。いいな。これは、命令だ」

 まずは、女性はシロとリーリアに任せる。
 ドリュアスの一人には、シロを手伝わせるために、隣室に移動させた。

「さて、お前たちの気持ちはわかった。女性たちにも無理をさせていないのは解っている」

「それなら!」

「それでも、俺は、ルートガーの・・・。クリスの味方だ」

「え?」

「お前たちは大丈夫だと思っているのかもしれないが、クリスやルートがお前たちを心配しているのなら、従者や護衛としては失格ではないのか?」

「それは・・・」

「お前たちは、一緒の屋敷に住んでいるのか?」

「はい」

 4人がほぼ同時に頷いている。

「それなら、俺から護衛を貸し出す。ルートにもクリスにも文句を言わせない。従者の代わりになる者も俺から貸し出す。ルートとクリスをお前たちの代わりに守る者たちだ。手が余るようなら、誰かがルートとクリスに付いていればいいだろう?」

「貸し出しなのですね?」

「そうだ。子供が産まれて、ある程度・・・。育つまででの期間だ。2歳くらいになれば大丈夫なのか?」

「え?」

 イェレラたちは、それぞれのパートナーが妊娠した。それは、喜ばしい事なのだが、従者であり護衛である自分たちが、妊娠を理由にルートガーとクリスの側から離れるのは間違っていると感じてしまっていた。
 ルートガーとクリスに、妊娠の報告をした時に、従者と護衛を外れるように言われた。

 護衛を外れたくないイェレラたちは、ルートとクリスの上司にあたる俺に頼みに来た。

 ルートも合理的なのはいいけど、相手の心情を汲み取れば、俺の所まで話が上がって来なかったはずだ。

「それでいいな?これ以上を望むのなら、俺はルートとクリスの裁定に従うぞ?」

「十分です。ありがとうございます」

「あと、妊娠初期だろう?女性に無理をさせるな」

「それは・・・。アイツらがついてくると・・・」

「わかった。わかった。まずは、子供を大切にしろ。これは、俺の命令だ。そして、皆で協力して、子育てをしろ。ドリュアスたちにも手伝わせる」

「え?」

「お前たちの経験を、ドリュアスたちと共有しろ。女性たちにも、困った事や、あると嬉しい物や、こうして欲しいとか、いろいろあるだろう。それを、まとめて共有しろ」

「??」

「解らないか?」

「もうしわけございません」

「ルートとクリスにも子供が産まれる。その時に、お前たちの子育ての経験が活かされる。離れた期間があっても、子育ての経験は無駄ではないだろう?」

「!!はい!」

 後ろを見ると、ドリュアスが納得している。
 今の話を、シロたちにも伝えて共有するように指示を出す。

 メイドが隣室に移動したタイミングでシロがこちらの部屋に来た。女性たちから事情を聞いたのだろう。男性たちを少しだけ睨んでいる。

 シロを俺の横に座らせる。

「シロ。それで、問題はなかったのか?」

「はい。リーリアが大丈夫だと言っていますが、長時間・・・。外に立たせていたので、少しだけ心配です。後で、メリエーラ殿に見てもらいます」

 そうか、メリエーラなら奴隷商として、妊婦への対応も経験があるだろう。シロが、既に指示を出しているので、俺から追加で頼む必要はなさそうだ。
 簡単に、説明をする。それで、少しは剣呑な雰囲気をおさめた。別に、怒っているわけではないが、自分勝手な振舞いに気分を害していたのだろう。シロの頭を撫でながらメリエーラへの指示を褒めると、少しは落ち着いてきた。
 それから、男性陣への罰として、妊婦の困った事や対応方法と、子育てに必要な事や困った事をまとめるように指示を出したと伝えた。

「カズトさん?」

「シロもだけど、クリスとルートガーの所も、子供が出来ても不思議ではない」

 それを聞いて、いろいろ思い出したのだろう。顔を赤くして俯いた。この手の話は、シロは苦手としている。夜は大分積極的になっているのだが・・・。

 女性陣も、ドリュアスから説明を受けて、部屋に戻ってきた。
 それぞれのパートナーの横に座って、俺に頭を下げる。

 女性陣も、できることなら、従者を辞めたくなかった。でも、パートナーとの子供も育てたい。その間で揺れていた。
 俺の解決策がいいとは思わないが、一つの方針にはなるだろう。

 まだまだ、知識を持った人材は大事だ。
 特に、クリスとルートの従者が務められる者は少ない。俺と違って、眷属が自動的に増えるような状況ではない。それに、二人の手元には重要な情報が届くことも多い。そのために、スパイが潜り込む可能性は減らしておきたい。

 従者の手配は、リーリアに任せた。護衛を考えると、エントとドリュアスに任せるのがいいだろう。

 イェレラたちが、揃って頭を下げてから、待機所から出て行った。
 来た時の緊張度合いとは、正反対な雰囲気だ。

「ふぅ・・・。帰るか?」

「そうですね」

 シロが腕を絡めて来る。

 崖の上を見ると、オリヴィエが出てきて待っているのが解る。
 あれは、厄介ごとだな。経験から、解ってしまったけど、帰らないという選択は、選べない。

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