スキルイータ

北きつね

第二百八十六話


 リヒャルトは、俺と話をして、安心したのか、来た時とは違う表情で、部屋から出て行った。

 おかしい。
 俺も新婚なはずなのに、忙しい。忙しくなりたくなかったから作った仕組みがうまく行けば、また忙しくなってしまう。

「カズトさん」

 シロが、部屋に入ってきていた。

 テーブルの上に乗ったカップを片づけている。
 今まで居たはずのメイドは下がらせたようだ。

「どうした?」

「僕が、カズトさんと・・・」

「いいよ。少しだけ話をしよう」

「はい!」

 帰ってきてから、シロとの時間はそれほど無かった。誰かが訪ねて来たり、用事が出来てしまったりしていた。お互いの立場を考えれば、ある程度はしょうがないのかもしれないけど、二人だけの時間が無いのは俺も寂しいと思っていた。

「今日は、予定をキャンセルして、食事にでも行くか?」

「いいのですか?」

「たまにはいいだろう?」

「はい!」

 店は、よくわからないが、適当に商業区を散策するようにしていれば、いい店が見つかるだろう。
 店選びは”感”任せだけど、まぁ・・・。大丈夫だよな?外れても、シロとなら楽しいだろう。

 どんな店に行くのかではなくて、誰と行くのかが大事だ。商業区なら、大外れはないだろう。

「カズトさん?」

「どうした?」

「僕、待ち合わせをしてみたくて・・・。ダメですか?」

「ん?商業区の入口とかで、待ち合わせか?」

「はい!」

「いいぞ」

「本当ですか?」

「あぁ商業区なら、一人で待っていても大丈夫だろう?」

「大丈夫です!僕も、戦えます!」

 そりゃぁそうだな。
 シロに勝てる者は、それほど多くない。それに、商業区の入口なら、シロの事を知っている者も居るだろう。どうせ、ステファナかレイニーがシロを一人にするとは思えない。

 テーブルのカップの片づけをしてから、時間を決めて、商業区の入口(行政区側)で待ち合わせをすることにした。

 シロが、家に帰って着替えてから待ち合わせ場所に向かうようだ。
 一応、フォーマル?な恰好をしてくるようなので、俺も合わせて着替えていくことにしよう。

 シロが部屋から出ていくのと同時に、レイニーが部屋に入ってきた。

「旦那様」

「これから、シロと食事に行く、服を頼む。それから、カトリナに連絡をして、いい店が有れば紹介して欲しいと伝えてくれ」

「かしこまりました」

 レイニーが、無表情で俺に頭を下げてから、部屋を出ていく、隣の部屋に服が揃っている。
 すぐに、服を揃えてきた。レイニーが持ってきた服を受け取って、疑問が湧いた。

「これでいいのか?」

「はい。ステファナなら、これに合うような服装を選ぶはず」

「わかった」

 それなら、間違いはないだろう。シロは、俺と同じで服装にはそれほど拘りはないが、あこがれは強い。可愛い恰好が似合うのに、自分には似合わないと思い込んでいた。最初の頃は、騎士風の服装か、教会で決められは服装で過ごしていた。今のチアル大陸では、服もいろいろ揃い始めている。ファッションというには芽生えたばかりの文化だが、今までには無かった服装ができるようになっている。皆が、服を着替える楽しみを持ち始めている。奇抜な服装も出始めているらしいが、一部の人間のセンスに留まっているのは、俺としては嬉しい。大陸は安全になってきたと言っても、盗賊が居なくなったわけではない。魔物も居なくなったわけではない。それに、新種できそこないが加わって、まだまだ安全にはほど遠い。その意味でも、動きやすい恰好が求められる。

 俺に服を渡して、レイニーは頭を下げて部屋を出て行った。

 待ち合わせまで、4時間ほどある。
 移動は、馬車を使うよりも、走ったほうが早いが・・・。無粋だよな。

 行政区から、馬車で商業区に向かうのも30分くらいか?転移したほうが早いけど、たまにはゆっくりと行くか?

 1時間くらいの余裕を見れば大丈夫だろう。
 それまでに、カトリナが捕まって情報が得られればいいけど、層じゃなければ、まぁ何となるだろう。

 レイニーが戻ってきて、カトリナからいくつかの店舗を紹介された。
 全部に、個室がある店舗で予約を入れてくたらしい。俺が行かない店には、カトリナから補填をするから気にしなくて良いと言われた。借りを作るのも悪いから、レイニーとステファナにそれぞれ、知り合いと俺の名前で店に行くように指示を出しておく。
 どうせ、シロの跡を付けるのは確実なので、俺たちが入らなかった店にそれぞれで行くようにすればいい。そのためのスキルカードも渡しておく、レイニーは少しだけ嫌そうな表情をするが、食事の後は、レイニーとステファナが戻って来るまで店で待っていると約束する。
 護衛の必要はないが、従者としての役目を全うしたいのだろう。
 部屋に帰って来るまでは、どちらかはシロに従うつもりで居る。

「シロは、馬車で行くのか?」

「はい。シロ様は、馬車で商業区まで行く予定です」

「ステファナが一緒か?」

「はい」

「それなら、レイニーも馬車の手配を頼む」

「旦那様がお使いになるのですか?」

「そうだな。そのまま、馬車を商業区の入口か、店で待機させてくれ」

「わかりました。お二人で使えるように、大きめの馬車を手配します」

「頼む」

 レイニーがまた部屋から出ていく、俺専用の馬車はあるのだが、せっかくシロと二人で行動するのだから、目立つ馬車は使わないほうがいい。シロが気にするというよりも、商業区に居る他の客が萎縮してしまっても、楽しくはならない。

 時間まで、書類を読み込んでいた。

 時間になって、湯あみをして、着替えをした。
 本当に、これで正しいのか?スーツ姿だぞ?まぁレイニーが選んだのだから、間違いはないだろう。それに、スーツ姿なら、シロの服装がよほど奇抜でない限りは大丈夫だろう。それに、それほど奇抜な服は持っていないと思う。

 俺の執務室がある建物を出ると、レイニーが待っていた。

「旦那様」

「ありがとう」

 用意されている馬車は、行政区で使われている一般的な馬車だ。
 乗り込むと、内装は上等な物が使われている印象がある。揺れが少ないことから、新型なのだろう。

 そんなことを考えていると、商業区の入口に到着した。

「レイニー。シロは?」

「既にお着きになっています」

「わかった。あとは、予定通りに頼む」

「はい。かしこまりました。行ってらっしゃいませ」

 レイニーに礼を言って、馬車から離れる。

 シロはすぐに見つけることができた。

「カズトさん」

 シロは、ワンピースを着てきた。膝が隠れる程度の丈だ。髪の毛を後ろで束ねている。腰の辺りをベルトで絞っているので、シロのスタイルの良さが際立つ。
 俺が近づいたのを見て、ステファナがシロと俺に頭を下げてから、シロの側を離れる。目の端で、ステファナを追うと、レイニーと合流している。情報交換をするようだ。

「シロ。今日の恰好も可愛いよ。シロに似合っている」

「ありがとうございます!」

 嬉しそうなシロに手を差し出すと、手を握ってから腕を絡めるようにしてくる。
 どこで、そんな技を覚えたのか聞きたいが、ステファナかレイニーか、フラビアかリカルダ。もしかしたら、メリエーラという筋もあるのか?

 余計な事を考えながら歩いている。
 そうしないと、柔らかいシロの身体を意識してしまいそうだ。特に、シロの匂いが俺を誘っているように思えてしまう。

 カトリナから進められた店は、どれも有名店な用で、シロが知っていた。
 候補の店から、シロが選んだ店は、ギュアンとフリーゼが育てた湖の食材を使った店だ。

 店に入ると、俺の名前を出したら、奥に案内された個室の一つに通された。

 出て来る料理は、どれもおいしかった。
 終始、シロが嬉しそうなので、食事に誘って良かった。

 コースが終わって、食後の飲み物を飲んでいる時に、店主が感想を聞きに来て、うまかったとだけ伝えた。他に、気の利いた事を言えるだけの語彙力はない。だが、また来るというと、店主は嬉しそうな表情をしたので、大きく間違えていないのだろう。ウエイターにチップを渡して、レイニーとステファナが来たら、部屋に通して貰うように頼む。

 ウエイターが部屋に入ってきて、従者が来たと伝えてきた。
 二人は、俺とシロが落ち着くまで待っているようだ。別に、部屋に来て待てばいいのに、今日は俺とシロだけにしてくれているようだ。

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