スキルイータ

北きつね

第二百八十三話


 ルートガーも実際に使われ始めた時期や言葉が産まれた経緯は把握していなかった。クリスは、俺が何を問題にしているのか解っていない。ルートガーもクリスも小さな村や町の・・・。支配層の人間だ。

 支配層から見れば、身分は解りやすい指標になる。対応する態度を簡単に選択ができる。

「わかった。ルート。他には?」

「他?」

「言葉遊びで、他人を傷つけている連中が居るのか?」

「わからない」

 ルートガーを見つめているが、本当に解らないようだ。
 長老衆よりも、市井に詳しい人間に聞いた方がいいのか?

 クリスも俺が気分を悪くしているのは解っているが、根本の理由が解っていない。
 俺もそうだが、身分による差別を受ける事がない状況で生活していると、感じなくなってしまうのだろう。

 出会った頃のシロは酷かったが、あれは偏見からの差別だ。偏見が無くなれば、ルートガーやクリスよりも身分による差別を行わない。元々の価値観が壊れてしまったから、身分に拘らない状況が自然だと思えているのだろう。

 身分を使って交渉することは容認できる。
 対外的な身分は必要になってくる。

「カズトさん。まずは、”ダンジョン孤児”という言葉を禁止するのではダメですか?」

 クリスが言いたい事もわかるが・・・。

「それでは、違う言葉が産まれるだけだ。多分だが”ダンジョン孤児”という用語を使っているのは、同じ孤児や流れてきた者たちが多いのではないか?」

 ルートガーがクリスの言葉を引き継ぐように質問をする。

「産まれる言葉を禁止し続ければ、治まるのでは?」

 放送禁止用語がどうなっているのかを知っている。
 一つの言葉を禁止すれば、別の団体や別の考えを持つ者たちから、横やりが入って、”禁止”用語が増えていく
 そんな堅苦しい状況は勘弁して欲しい。

「無理だな。現実的ではない」

「なら、どうしたらいい」

「産まれた言葉は消えない。だからこそ、使った者に罰を与える。そうだな・・・。行政区で使っている者を処罰すればいい」

「・・・。え?処罰?」

「当然だ。行政区で働く者たちは、エリートなのかもしれないが・・・。解りやすく言えば、身分制度を作った場合には、行政区で働く者たちは、産まれたばかりの赤子よりも身分としては下だ」

「え?」「は?」

 二人が、驚いて俺を見て来る。
 何を驚く所がある?

「なんだ?」

「それは・・・。さすがに無理があるのでは?」

 ルートが言葉を選んで、苦言を呈している。
 俺も、実際には無理があるとは思っているけど、権力に近いほど身分は下に置いておかないとダメだ。建前だけになるかもしれないが・・・。

「なぁルート。気になったから聞いておくけど・・・」

 やはり、問題が出始めているのか・・・。”ダンジョン孤児”なんて言葉が産まれていることからも、行政区は特権階級だと勘違いをし始めている者たちがいるようだ。

「行政区は、住民の生活をサポートする。この大陸のサーバントだ」

 やはり、身分制度は必要なのか?
 役割では理解ができないようだ。

「サーバント?使用人ということか?さすがに無理があるぞ?」

「何が無理だ。行政区の作業は、この大陸の生産に何も寄与していない。選ばれた者たちではない。ただ、集められたスキルカードの使い道を考えて、できるだけ公平に、そして無駄が無いように再分配するだけだ。違うか?スキルカードを税として集めなければ、再分配の必要はない。その代わり、皆が自分の困らないように、道を作って、ルールを決めて、自分や家族を守ればいい。それができれば、行政区はなくても困らない」

「秩序が守られている!」

「秩序?誰の為の秩序だ?」

「それは・・・」

「ルート。気が付いているのだろう?俺やお前や長老衆が居なくても、社会は成り立つ」

「違う。違う。必要なのは、権力と秩序だ」

「秩序は必要だが、行政区が必要な理由にはならない。行政区が無くなれば、力が秩序を作る。弱い者が搾取されるだけの、力が基準な社会が構成されるだけだ。俺は、力やスキルカードの数で決まる社会がいいとは思っていない。だから、行政区を作った。力以外の曖昧な基準で運営できるようにした」

 クリスは、ルートガーの袖を握っている。
 俺とルートガーが喧嘩別れするのがクリスにとっては悪夢なのだろう。ルートガーが持っている力は、俺から貸し与えられている物だと勘違いをしている。ルートガーの力は、権力でも知力でも魅力でも武力でもない。調整能力だと、クリスだけではなく、ルートガー本人も気が付いていないのだろう。

「なら、何が必要だ!」

「ルート。落ち着けよ。民衆が求めるのは、公平な税制と公平な裁判だ。そして究極的に・・・。民衆が求めるのは、”甘い毒”だ」

「甘い毒?」

「そうだ。『収入の半分だった税が6割を税で取られるが、毎月レベル3のスキルカードを5枚。行政区で”平等に配布”する』のと、『収入の半分だった税を収入の4割5分にする』では、前者を好む者が多い。まぁ数字は適当だから、しっかりと調べないとダメだろうけど・・・」

 俺の言葉を受けて、ルートガーは考え込んでしまった。

「カズトさん。ルートも、行政区も、長老衆も、しっかりと皆に不満を与えないように平等に、いろいろな事を実行していますが、”ダンジョン孤児”という言葉が産まれてしまいました。これ以上は、難しいのでは?」

 クリスが、自分で答えを語っているのに気が付いていない。
 ”不満が無いように平等に”考えていたから産まれたのだ。

 別に、言葉が産まれたのは自然な流れで、ある程度はしょうがないと思う。しかし、気持ちが悪い言葉だ。人を見下し、差別し、自分の優位を確保しようとするくだらない思考が見え隠れする。人と比べなければ、自虐で終わっているのなら出てこない感情の表れだ。
 ただ、まつりを行う者が許容していい話ではない。

 たしかに、民衆が勝手に身分を作って、勝手に差別し始めるのは、楽だ。
 勝手に、対抗意識を持ってくれる。それが、まつりの失策だとしても、”平等”という甘い言葉でごまかしができる。その上で、公平にしようとする者を平等ではないと、貶すことが出来てしまう。民衆が民衆を差別して、まつりの失策を隠してくれる。タブーを作って、言論を自由を権利を義務を放棄してくれる。これほど簡単で楽なことはない。

「クリス。それは、解っている。ルートたちがしっかりと考えているのも、俺が言ったことを忠実に守ろうとしてくれているのもよくわかる」

 ルートガーも考え込んではいるが、話は聞いているようだ。

「なら・・・」

「だからこそ、”ダンジョン孤児”なんて言葉が産まれてしまった。もしかしたら、探せばもっとあるかもしれない」

「それは・・・。でも!だったら・・・」

 不可能だと言いたいのだろう。
 クリスがルートガーや長老衆の処罰を心配しているのなら、杞憂だ。主に、俺が楽をするために・・・。
 だから、いい着地点を探したい。俺の本音だ。

 俺は、家に籠って好きなことだけをしていたい。

「クリス。俺は、”平等”が嫌いだ」

「え?」

「平等は、差別を産む」

 平等になってしまっているから、劣等感や不公平感が産まれる。これが実際に”劣等”や”不公平”なら対処ができる。しかし、そう感じてしまっているだけなのだ。だから、対処ができない。ルートガーたちはよくやっていると思う。
 よくやっているからこそ産まれてしまった。

「カズトさん。言っている意味が解りません」

 そうだろうな。
 ルートガーはまだ何かを考えている。クリスには、解らないだろう。差別されたとしても、困らない生活をしていた。
 ”ダンジョン孤児”という言葉を作った者たちは、自分たちは頑張っているのに、いい暮らしをしている人たちが居る。自分たちよりも、不幸になっている者たちが必要だっただけだ。

「完全な平等は、存在しない。そんな物ができるとしたら、皆が平等に不満を持って過ごしている世界だけだ」

 ”ダンジョン孤児”という言葉が、見下す意味になってしまっているのを覆せばいい。

「ツクモ様?」

 思考がまとまったのか?ルートガーがクリスを目線で制してから俺に向き直った。

「どうした?」

「先ほどの話で、平等と公平と言われましたが、私には解りません」

 まぁそうだよな。
 両方とも、耳障りがいい理想を語るときに言われる言葉だからな。明確な違いは、平等に扱われたことがある人にしか解らないだろう。

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