スキルイータ

北きつね

第二百二十二話


 迎賓館を出て、ロックハンドに向かう事にした。

 ホームに戻ると、リーリアが戻ってきていた。

「どうした?何か有ったのか?」
「はい。クリスが、お話があるという事です」
「俺に?」
「はい」
「そうか・・・」

 クリスが俺に話が有るとは珍しい。
 緊急な用事も無いことだし、顔を出してくるか?

「それで、リーリア。クリスは?」
「先程まで居たのですが、行政区に戻りました」
「わかった。行ってみる」
「呼んできましょうか?」
「いや、いいよ。久しぶりに行政区にも顔だしてくる」
「かしこまりました」

 なんだか本当に久しぶりに行政区に来たような気がする。

「カズト様。考え違いではありません」
「ん?俺、声に出していた?」
「はい。”久しぶりに行政区”っと」

 独り言のつもりだったのだけど、クリスに聞かれていたのだな。
 なんか微妙に恥ずかしい・・・。気にしないでおこう。

「それで?クリス。何か話があると聞いたけど?」

 クリスは少しだけ思案してから、姿勢を正した。

「カズト様。先程、ワイバーン便で届けられた情報なのですが・・・。僕では判断出来なくて、それに、ルートは別の事で忙しいようなので・・・」
「そうか、それは別にいい。それで、どこから?」
「経由は、ゼーウ街ですが、発信はアトフィア教です」
「は?アトフィア教?ゼーウ街経由で?」
「はい」
「ローレンツ経由ではなく、ゼーウ街経由?」

 もう一度だけ確認しておく事にしたのだが、間違いないようだ。

 クリスはうなずいてから、言葉を続ける。

「内容を説明してもいいですか?」

 少し動揺してしまったが、クリスに説明を頼む事にした。

 クリスの説明だけではイマイチはっきりしない。クリスの説明が下手だというわけではない。しっかり、書簡を読み込んで、自分の考えも無闇に付け足していない。
 ただ、説明しているクリスが自分の中で消化出来ていないから当然なのだが、よくわからない状況だという事が最初にわかった事だ。ワイバーン便での続報もない事から、唯一届けられた書簡以上の情報が存在しない事も、判断を難しくしている要因に繋がっている。

 クリスの説明と届けられた書簡から判断出来たのは、アトフィア教の一部の者が教会から”何か”を盗み出して、大陸中央のダンジョンに潜ったが帰ってこない。一緒に潜ったの者なのか、それとも何らかの問題が有った時に出る救難信号を受けたのかさえも情報が添えられていない。

 ただそれだけの情報なのだが、ゼーウ街経由で来た事がこの話を難しくしている。

 ”らしい”と考えるしか出来ないのが問題だ。
 ゼーウ街からの書簡にも”想像”で書かれている部分がある。補完してくれているのだろうけど事実だけを報告してくれたほうが嬉しいが、いろいろ想像が付け加えられている。ゼーウ街はチアル大陸と友好関係にはあるが属領ではない。したがって内容が”不確かな情報だけど、何か問題がありそうだから連絡しました”的な表現になってしまっている。

 情報からは、確かに何もしないで放置する事は難しそうだが、なんにせよ情報が少ない。

 書簡の中で確定している事は少ない。その少ない情報の中で間違いないのは、”ダンジョンに潜ったと言われている中に司祭が居る”事だ。
 そして、司祭は”アンクラム”の教会に居た奴で、獣人狩りを唆した一派の1人だ。
 てっきり死んだと思っていたのだが・・・。

「カズト様。どういたしましょうか?」
「うーん。無視するには、少し引っかかるよな」
「はい」
「でも、俺たちにできる事はなさそうだよな?」
「そうですか?」

 ん?
 クリスは何か腹案があるのか?

「何かあるか?」
「いえ、そのダンジョンに潜ってみるのは?」
「・・・。うーん。辞めておこう」
「なぜですか?」
「潜っても、いい事がなさそうだからな。それに、アトフィア教の教会から盗み出された物が気になる」
「盗んだ物ですか?」
「あぁスキルカードならなんとなく今までの情報から想像ができるが・・・スキルカードではなさそうだからな・・・」
「そうですね」
「スキルカードが盗まれたのなら、スキルカードが盗まれたと書くだろうし・・・。もっと別の物のような気がしてな。そうなると、想像が出来ない」
「・・・」

 うーん。ローレンツが調べるにしても限界が有るのだろうな。

「クリス。そのゼーウ街に保護を求めてきた奴に会えないかな?」
「え?問い合わせしてみますか?」
「頼めるか?」
「はい。でも・・・」
「わかっているよ。クローンを使うから、俺が直接会う事はしないよ」
「それならば、大丈夫です。手配します」
「頼む」

 それから、クリスから近況を聞いて、ローレンツの所に移動する事にした。

 街中を久しぶりに歩いてみて気がついたけど、街らしくなってきた。
 区画整理とか、規格とか、いろいろ決めてから作ったから・・・。実際にはどうなったのかわからなかったけど、しっかり区画整理の状態を活かした作りが出来ているようで、安心した。

「ツクモ様!」
「ローレンツ。今、時間いいかな?」
「はい。大丈夫です」

 忙しそうにしているのはわかるのだが、情報が集まってきているのだろう。
 書類が山積みになっている。それに、腐ってもアトフィア教は二大宗教の一つだ。信者の数も多い。穏健派で、人族至上主義でない者もそれなりの数が居るのだろう。司祭や枢機卿では少数派かもしれないけど、その少数派も一箇所に集まっていれば、かなりの数になるのだろう。

「そうか、いくつか確認したい事が出来てな」
「はい。なんでしょうか?」

 ローレンツに、クリスが持ってきた話をした。

「・・・。ツクモ様」
「なんだよ?」
「ふぅ・・・。もし、その者が盗み出したものが、スキルでは無いものだとしたら・・・」
「どうした?何か知っているのか?」
「噂の上に・・・。かなり怪しい話ですが問題ないですか?」
「あぁ勿論だ。知っている事を教えて欲しい」
「わかりました・・・。でも、本当にそんな者があったのか不明ですよ?」

 そう言って話し始めたローレンツだったのだが、確かにかなり眉唾な話だ。

「・・・。ローレンツ?」
「だから、かなり怪しいと言いましたよね?」
「いや違う。もし、それが真実ならどういう事になる?」
「え?」
「だから、お前が今言った、アトフィア教の至宝の中に、”女神の聖遺物”があり、その聖遺物が、女神の遺骸だとする説が正しければ・・・・」
「どうなるのでしょう?」

 困った。
 確かに、ローレンツの言っている事が正しいように思えてくる。

 女神の聖遺物が、遺骸だとして・・・。だからどうしたと思えてしまう。

「なぁローレンツ。スキルって・・・。ほら・・・」

 手の甲からスキルカードを取り出す。

「あっ」

 ヤツラの狙いがそこに有るのなら・・・。でも、それならなぜダンジョンに潜る必要がある?

「ツクモ様。聖遺物が存在するとして、盗み出した連中の狙いが、女神のスキルカードだと仮定しても、わざわざ盗み出す必要は無いですよね?」
「そうだよな。それに、アトフィア教がすでにスキルカードを入手していると考えるのが普通だよな。アトフィア教だからな・・・」
「え?・・・・・。そうですね。教皇派の連中なら、操作を使って、全部抜き出して・・・。あ!」
「どうした?」
「ツクモ様。一般的なスキルなら、操作で抜き出す事は出来ますよね?」
「あぁ俺が実際にやっているからな。問題ないぞ?」
「でも・・・」
「でも?」

 ローレンツが何かを考えている。
 俺が考えつかない事なのだろうか?何か見落としていないか?

「そうか・・・。固有スキルが目的か?」
「はい。それしか考えられません」

 確かに、スキルカードなら抜き出しができる。
 死体でも、動きに問題は出てしまうが、操作できる事は実験で明らかになっている。

「固有スキルか・・・。それは厄介だな」
「はい」
「ローレンツ」
「調べますが、あまりご期待に添えられないと思います」
「わかっている。教皇派も必死で隠すだろう?」
「そうなると思います」
「わかった。嗅がせる匂いは、任せる。真贋の確認を急いでくれ」
「かしこまりました」

 その場で、スーンに念話で連絡を取って、スキルカードや素材やスキル道具を大量にローレンツに渡すように指示をする。

 追加が必要な場合には、スーンに連絡をするようにしておく。
 スーンには、ローレンツからの依頼は優先的に処理するように頼んでおく。

 一連の事をローレンツに説明してから、もう一度クリスの所に戻る事にした。

 スーンとの念話をしている時に、ルートから連絡が入って、クリスからの話を聞きたいという事なので、クリスの所でローレンツから聞いた話を踏まえて、もう一度説明しながら話をする事になった。

「ツクモ様」「カズト様」

 二人が恐縮している。
 別にヒマじゃないけど、時間があるから別に問題は無い。

「いいよ。それで?ルートが話を聞きたいって事で間違いない?」
「・・・。はい」「申し訳ありません。カズト様」

「いいよ。別に時間が無いわけじゃないからな」
「・・・」
「それで?ルートは、何に納得が出来ていない?」
「え?」
「クリスからの話と、ゼーウ街からの書簡を見たのだろう?それに、ルートだけが持っている情報も有るだろう?それらを併せても納得できない事が出たのだろう?それとも、情報が多すぎて混乱したか?」
「あっ」

「まぁいいよ・・・。そうだ。ルート。紙が出来ているよな?」
「はい。”和紙”でしたか?作れていますよ?」
「この位のサイズにカットして10枚程度持ってきてくれ」

 5cm×10cm位の小さめのメモ用紙サイズにした物を用意させる。
 メモ用紙に、クリスとルートが認識している情報を書き出していく。

 俺がローレンツから聞いた話も加えていく。

「ツクモ様・・・。これは?」
「一つ一つは知っている事だな?」
「はい。そうですね。ツクモ様から聞いた事は、初めての事も有りましたが、情報としてはわかります」
「うん。なぁルート。これを時系列に並べるとどうなる?」
「時系列ですか?」
「あぁ間は少し広めにして並べてみてくれ」
「わかりました」

 ルートが時系列で事象を並べていく。
 クリスが横から口を出して修正を施している。

 俺は、今出ている物以外の副次的な事象を追加していく。
 新種の魔物の出現が目撃情報を含めて場所や内容や被害を書き加えていく。

「こんな感じでしょうか?」

 ルートが並べた物を見た。
  アトフィア教がアンクラムの(一部)住民と獣人狩りに出る
  返り討ちにあって、司祭の1人が逃げ帰る(らしい)

  アトフィア教から、聖遺物と思われる物が盗まれる。

  強硬派と教皇派の確執ができる。

  ミュルダ街をターゲットとした軍事行動が行われる。

  ゼーウ街がアトフィア教の強行派に襲われる。

  新種の魔物が現れる。

  ゼーウ街にアトフィア教の一部が救援を求めてくる。

 大まかだがこれで問題は無いだろう。
 これに、ルートの情報を付与していく。

「ルート」
「はい。そうですね」
「間違いなさそうだな」
「はい。そちらを調べますか?」
「うーん。ローレンツの結果が出てからでいい。何より、罠だろう?」
「どうでしょう。考えすぎかもしれませんが、罠である事も考えなければならないでしょう」
「そうだな」
「・・・。何か、引っかかりますか?」
「あぁ聖遺物がどうしても気になってしまう」
「それこそ考えてもしょうがないのでは?」
「そうだけどな・・・」

 ルートと二人で、メモの並びを見ながら話している。

「なんだ。クリス!」

 クリスが、ほっぺたを膨らめながらすねている。そういうのは、旦那にだけやっておけよ。

「クリス!そういうのは、旦那にだけやっておけ、俺に向けても何も出てこないぞ?」
「だって、ルートもカズト様も二人だけでわかって、説明してくれないので・・・。酷いです!」

 面倒だな。
 ルートを見ると、拝むように俺を見ている。

 大きく息を吐きだして
「しょうがないな」

 クリスに順序立てて説明した。

 決定的なのは、アトフィア教の強行派の連中が、ゼーウ街を襲撃した時に、聖騎士が居なかった。このときには主要なメンバーはダンジョンに潜っているだろうと考えられる。
 そこから、ゼーウ街に救援に来るまでの時間がかなりかかっている事を考えると、ある程度の準備が整った事が考えられる。
 その上で、新種の被害がここに来て落ち着いてきている事から、何かしらの理由を欲しているように思える。
 そう、攻勢に出るきっかけを待っているようにさえ思える。

 クリスが納得出来ているかわからないが、簡単に説明した。
 俺の思考も整理されたし、ルートも細くが無いようなので、考えは同じなのだろう。

 気になる事は、コルッカ教が絡んできているという噂がある事だ。盗み出した物が聖遺物で、女神の遺骸だとしたら、コルッカ教を巻き込んでも不思議ではない。
 スキルカードの研究は、アトフィア教も行っているだろうが、コルッカ教にしかないスキルの研究も有るだろう。

「カズト様」

「ん?あぁ考えても仕方がないからな。今の所は、出方を見るだけにしようかと思う」
「わかりました。クリスもいいよな?」
「はい」

 ルートとクリスも納得してくれたようだ。
 基本方針にした”何もしない”が正しいのか判断は出来ないが、正しいと思って行動するしか無い。

「ルート。後の説明は任せていいか?」
「はい。お任せください」

 後の事は、ルートにまかせて、俺は一旦ホームに戻る事にした。

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