スキルイータ

北きつね

第百九十三話


 高齢者問題は、元老院に任せる事になるだろう。
 俺の腹案もシュナイダー老に伝えてある。

 高齢者は、街の宝だ。知識の塊にほかならない。確かに、老害となってしまう人は居る。そんな一握りの人の行為や言動で、全体として見るべきではない。

 腹案がいくつか有るので検討してもらう事にした。

 根幹の目的は、人格的に問題がない高齢者への社会活用だ。

--- 腹案1
 街から報酬としてスキルカードを渡して、孤児院の運営に関わってもらう。最初は、ペネムダンジョン内にある孤児院だ。神殿区の孤児院と違って、親を無くした子どもがメインの施設になっている。孤児院で、子どもたちに知識を授けてもらう。その対価として報酬を払う事になる。ペネムダンジョン内の孤児院で働いて貰った後は希望を聞いて、各SAやPAや道の駅や港で孤児院を運営してもらう事になる。
 残念な事に、セーフティーネットを作っても・・。違うな、作れば作るほど、子どもを守ろうとすればするほど、安易に子どもを捨てるバカ親が増えてしまう。これは、チアル街を運営していく事で判明した事だ。

--- 腹案2
 職業訓練校の開設だ。
 今までは、職業を選ぶ事が出来なかった。正確には、選ぶだけの余裕がなかったのだが、食糧事情が改善した事や、物流が機能し始めた事で、チアル大陸の住民に余裕が生まれたのだ。
 住人たちは、今まで考えも見なかった”他の職業”に興味も持ち始めた。行商人になろうとする者は今までも居たのだが、”鍛冶屋”/”料理人”/”宿屋”になりたいは殆ど居なかった。移動する事が出来て、わがままを言える余裕が生まれてきたのだ。
 しかし、そう思っても行商人のように弟子入り制度が有るわけではない。そこで、引退した高齢者をチアル街が雇って、子どもや違う職業につきたい者たちを指導してもらう。

--- 腹案3
 知恵の集約を行う。
 この世界にも自然災害はある。スタンピードは、ペネムもティリノもチアルも支配しているので、大丈夫だろう。しかし、台風のような物や津波災害は存在している。しっかりした観測機器がないために、自然災害を神の怒りだと認識して思考停止してしまっている。各集落には、集落に伝わる話があるので、それらをまとめてもらう。
 よくある話で、”ここに集落を作ると海の神様が怒る”とか言われる場所は津波の到達点になっている場合が多い。同じ様な話は他にもあるようだ。なので、高齢者にこれらの話をまとめて貰って、自然現象に結びついている物をピックアップして調べたい。
 神話とかも残されているので、それらをまとめてもらう事にする。

 これらの3つの案をシュナイダー老に話して、チアル街に適応できるかどうかを検討してもらう。その後、会議で話し合って問題なければ施行してもらう事になる。

「ふぅ」
「お疲れ様です」

 ログハウスから、洞窟に戻って一息つけた。
 身体も精神も疲れていないのだが、洞窟が我が家という感じがして、帰ってくると落ち着くのだ。

 さて、いろいろ運営を考えなければならないのだが、その前に行うべきことがある。

 俺は、シロを伴って、眷属たちが使っている下の部屋に移動した。

「マスター?なにか有りましたか?」
「オリヴィエ。大丈夫だ。アズリとクローエを呼んできてくれ」
「かしこまりました」

『ペネム。そう言えば、ダンジョンマスターの設定をクリスとオリヴィエから剥奪したけど、ダンジョンマスターは必要ないのか?』
『主様。ダンジョンマスターは居たほうがいいのですが、今は、主様がダンジョンマスターの様な物です』

 へぇそんな事になっていたのだな。
 俺としては、ダンジョンマスターをやるつもりはないけど、困っていないのなら問題ないな。

『主様。ダンジョンマスターなのですが、本来は必要ないのです』
『え?そうなの?チアルにも、ダンジョンマスターであるクロが居たよね?』
『はい。しかし、ダンジョンマスターは知識を持って、ダンジョンの運用を行う者です。あの・・・』
『そうか、クロでは物足りなかったのだな』
『はい。主様がダンジョンマスターになっていただければ、いいのですが・・・』
『ん?俺?なんで?そもそも、ダンジョンマスターって何をするのかよく解っていないからな。今から、アズリとクロに聞いて、ペネムのダンジョンマスターにふさわしい者を探そうと思っていたのだけど・・・。必要ないのか?』

 チアルの説明では、ダンジョンマスターは必要ないという事だ。
 ではなぜダンジョンマスターが居たのかは、簡単な事で、ダンジョンコアが破壊されないようにするためなのだ、それなら・・・。

『クロでは意味があまりなかったのではないか?』
『正直な所・・・。そうです』
『チアルから見て、誰ならダンジョンマスターにふさわしい?』
『主様を除いてですか?』
『そうだ』
『それでしたら、クローエ様がベストではありませんが、ベターだと思います』
『そうか、わかった。俺がダンジョンマスターをやったほうがいいのか?』
『それが可能ならベストな選択です』

『主様。私もそう思います』『マイロード。我も同じです』

 全員?の意見が一致している。

『俺が行うメリットは?』
『まずは、情報が主様に集中します。クローエ様では出来なかった事もできるようになると思われます』
『そうか?』
『はい。他にも、ダンジョンのアイディアがお有りのようですので、それらを有効に使う事が出来ます』
『あぁ・・・。それは、お前たちのメリットだな』
『はい。我らのメリットとして最大な事が・・・』
『なんだ?』
『この地の支配者に管理して頂いたほうが、我らが安心出来ます。一番、魔力が多いのも、主様です』

 庇護者としてのダンジョンマスターを求めているのだな。それは問題ない。
 魔力が多い?そう言えば、ペネムがダンジョンを拡張する時に、魔力が必要とか言っていたな。

 アズリも、クローエも魔力は人族に比べれば持っている方だろう。ペネムのダンジョンマスターは魔力が枯渇していたから、ダンジョンが拡張出来なかったのだろう。

『わかった。それで、俺のメリットは?』
『ありません』
『おい』
『正確に言えば、有るのですが、主様に提供できる物ではありません』
『どういう事だ?』
『はい。寿命を伸ばす事が出来ます』
『ん?それだと、ペネムはどういう事だ?』

『マイロード。あの方は、拒否されました』
『そうか、わかった』

 いろいろ腑に落ちない所もあるが、今はそういうものだと思っておこう。

『主様は、すでにヒュームとしての寿命をお持ちです。ですので、主様に提供できるものではないという事です』
『わかった。そうだ、チアルの能力は?』

 ダンジョンコアによって能力が違う事は解っている。そのためにも、能力の確認は必須なのだ。

 ペネムは、自分の領域内とはいえ転移門を作る事ができる。当初、俺はダンジョンコアなら全員ができると思っていたのが、ティリノは転移門が作られない。

 そのかわり、ティリノは飛び地を支配領域に置くことができる。そして、支配領域にした場所を他のダンジョンコアに使わせる事ができる。それが今回のチアル攻略で役に立ったのだ。

『我ですか?』
『そうだ』
『我は、ダンジョンコアを生み出す事が出来ます』
『え?』
『ですから、ダンジョンコアを生み出して、新しいダンジョンとして独立させます』
『うーん。意味あるのか?』
『ダンジョンマスターの使い方しだいでは無いでしょうか?』
『チアル。その新しくできたダンジョンコアは意識を持つのか?』
『300年ほどで必要ですが、持ちます。ダンジョンマスターから知識を得られれば、もっと早くなるかもしれません』
『うーん。例えば、ダンジョンマスターが居ない状態のダンジョンコアの制御はできるのか?』
『制御というと?』
『ダンジョンを作ったり、魔物が発生しないエリアを作ったりだな』
『・・・』
『できないということか?』
『できません。自動的に作ってしまいます』
『最初の知識は?』
『今、作ったら、クローエ様の知識が与えられます』

 そうか、それで・・・。

『わかった。クローエとアズリに確認して、問題なければ、俺が3人のダンジョンマスターになる。問題はないな?』
『はい。主様がマスターになられるのに問題なんてあろうはずがありません』
『マイロード。よろしくお願いいたします。マイマスター!』
『主様。改めて、マスター。よろしくお願いいたします』

 ダンジョンコアとしては、全てにおいて、”マスター”が上位なのかもしれない。

 丁度、オリヴィエがアズリとクローエを連れてきた。
 食事中だったと、ブツブツ言っているが無視して話を進める事にした。

 アズリは、俺かシロにダンジョンマスターの使命を譲りたかったようだ。それに、アズリもダンジョンマスターであるメリットがさほどない。エルダーリッチになっている事から、マスターになっても寿命が伸びるわけではない。

 クローエは、寿命の問題があるので渋るかと思ったのが、二つ返事で承諾した。

// 名前:クローエ
// 種族:アンデット・ピクシー
// 固有スキル:眷属召喚(レベル1)
// 固有スキル:次元移動(レベル1)
// 固有スキル:時間停止(レベル1)
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// 体力:H
// 魔力:C

 クローエが眷属になった事で、改めて鑑定した。

「クロ。お前、アンデットだったのだな。それじゃ食事は必要ないよな?」
「え?あっ。違う。違わないけど、違う。ヤダ、ヤダ、ヤダ!!!ここの食べ物が美味しいから食べたい!必要!なの!」
「わかった。わかった。騒ぐな。働けば食べさせてやる」

// スキル:次元移動
// 次元空間に移動する事ができる。影移動の上位版。
// レベルで移動できる人数が決定する。

// スキル:時間停止
// 自分に関わる時間を停止させる事ができる。
// レベル1:停止状態での活動が可能
// レベル2:停止状態でスキルの発動が可能
// レベル3:自己と1人を停止状態での活動を可能にする

 うーん。ぶっちゃけ、両方共スキルとしては珍しい事は認めるけど、メリットをあまり感じない。
 スキル枠に関しては、しばらく戦闘の予定も無いし、開けておくほうがいいかもしれない。

「なぁクロ。お前、念話がないけど、チアルと話はできなかったのか?」
「え?できるよ?」
「どうやって?」

『マスター。我から説明します』

 チアルの説明では、触れている状態で話せば大丈夫だという事だ。

「クロ。念話はいらないか?」
「え?ほしいけど?」

 そのくれないの?見たいな反応はなんだ。
 それに、シロの肩に腰掛けるな。シロの可愛さが倍増してしまう。悔しいけど、ポンコツピクシーだと思っていたけど、可愛いのは認めるしか無いようだ。

「わかった。クロ。他に、何が欲しい?」
「うーん。わからない」
「魔核の吸収はできるよな?」
「うん!」

「シロ。レベル8の魔核・・・。持ってきてくれているな」
「はい!」

 シロが、魔核を取り出す。
 アズリにも念話以外を固定したほうが良さそうだけど、まだ困っていないのが正直な所だよな。

 クローエの方は、念話をつけるにして、眷属召喚と相性が良さそうな物としては、操作と遠見だな。

「なぁクロ。お前、攻撃手段は無いよな?」
「最強のこのパンチがあれば」「そうか、それじゃ攻撃系のスキルは必要ないな」
「うそです!必要です!欲しいです」
「スキルカードを直接発動ではダメか?」
「へ?」

 あぁ微妙に会話が成り立っていないと思ったけど、クローエに俺のスキルを説明していなかったな。

 オリヴィエが、クローエに俺のスキルである固有化を説明する。
 その間に、魔核に念話と操作と遠見をつける。個人的には、ピクシーが前線で戦うイメージはない。情報収集とかでもない。どちらかというと、完全な後方支援と斥候役のような気がしている。
 どうせ、クローエは深く考えないだろう。俺の思っていようなスキル構成で問題はない・・・はずだ。

「なぁクロ」
「はい!なんですか!」

 オリヴィエから話を聞いて納得しているようだ。

「お前が呼び出す”眷属”って何?アズリだと、自分が作り出せる魔物を呼び出せるけど、お前はそういう感じじゃないよな?」
「うん?」
「眷属にした物を呼び出せるのなら、スキル呼子だろう?」
「えぇーと」
「わからないのか?」
「うん」
「使った事がないのか?」
「うん。必要なかったし・・・」
「必要なかった?」

『マスター。クローエ様は、最初から、”私は最強だから、眷属なんていらない”とおっしゃってスキルを使われなかったのです』

「はぁ・・・。それで、クロ。眷属は何を呼び出せる?やってみろよ」
「はっはい!」

 クローエがスキルを発動する。
 そういう事だな・・・。これは、これで強力だな。

 クローエのスキル眷属召喚は、通常のピクシーが呼び出せる。
 意識がない状態で、全部が”クローエ”だという事だ。持っているスキルを呼び出された眷属?に付与されるようだ。
 付与されるスキルは、クローエがスキルカードとして持っている物から選択できる。呼び出された眷属に、そのスキルが固定化されるようだ。
 そうなると、操作や遠見は必要なさそうだな。レベル依存で呼び出せる数か持たせるスキルの数が違ってくるようだ。レベル1だと、呼び出される眷属は、1体だけで付与できるスキルも一つだけになる。レベル2になれば、一つのスキルを付けた眷属2体を呼び出すか、2つのスキルを付けた眷属1体を呼び出すか選べるようになるようだ。

 呼び出した眷属は、込めた魔力がなくなると消滅してしまうけど、使い所を間違いなければ強力な武器となるのは間違いない。

「クロ・・・。これがあればもう少し戦い方があったと思うぞ?」
「え?」
「まぁいい。あんまり言っていてもしょうがないからな」

 そうなると、隠密とかをもたせておいたほうが良さそうだな。

 スキル念話と隠密を付けたレベル8の魔核を吸収させるか?

 オリヴィエを見ると、俺が手に持っているスキルカードを見てうなずいている。
 シロを見る。

「カズトさん。あと、複製をもたせておけば、眷属につけるスキルカードを複数枚持たせなくても良くなりませんか?」
「おっそうだな。俺の固有化もレベルが上がっているしダメなら取り上げればいいな」

 確かに、いちいちスキルカードを渡すのも面倒だし、低レベルのスキルカードなら複製してもらったほうが楽だ。

 シロから、レベル8の魔核をもうひとつだけ受け取って、複製を一応攻撃用として即死を付けた。

// 名前:クローエ
// 種族:イリーガル・デス・シークレシー・アンデット・ピクシー
// 固有スキル:眷属召喚(レベル1)
// 固有スキル:次元移動(レベル1)
// 固有スキル:時間停止(レベル1)
// スキル枠:念話
// スキル枠:隠密
// スキル枠:即死
// スキル枠:複製
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// 体力:H
// 魔力:C

 うん。やりすぎた?

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