スキルイータ

北きつね

第百二十三話


 二人を交互に見る。
 ルートガーは、別件もあるから、まずはリヒャルトからだな。

 報告書は既に目を通している。パレスケープで問題になりそうな事は、食糧難に陥ってしまう可能性があること位だな。

「リヒャルト、心証を教えてくれ」
「そうですね。報告書に書いてある通り、食料を大陸に握られています。それを仕切っていたのが・・・」

 リヒャルトが、ルートガーを見る。

「そうか、ルートに命令していた商隊なのだな?」
「そうなります」
「海の幸があるだろう?」
「・・・パレスケープでは、海の魔物は殆ど食べません」
「なぜ?」
「”なぜ?”とそんな素朴な疑問を言われても困ってしまいますよ」
「ロングケープでは普通に食べていたぞ?」
「そうですね。パレスキャッスルでも食べていますね」
「だから、”なぜ?”と聞いたのだぞ?」
「そうですね。簡単に言えば、漁に適していないからだと思います」

 ん?適していない?
 海流の問題なら無いはずだよな?

「・・・海運が盛んで海が混雑しているのか?定置網とか設置できなくて、漁師が居なくなってしまったとかか?」
「流石ですね。ツクモ様。ほぼその通りです」
「そうか・・・そうなると、いきなり”漁を行え”は難しいという事だな」
「はい。無理だと思います」
「暫くは、ペネム街・・・サラトガから運んでいくしか無いか?」
「そう手配しています。そろそろカトリナが第一陣で行くはずです」
「そうか、食料に関してはわかった、パレスケープは利鞘で食いつないでいる街だったのか?」

 元街・・・ミュルダ区、サラトガ区、アンクラム区、ロングケープ区、パレスケープ区、パレスキャッスル区、ユーバシャール区は最低でも自給自足ができて欲しいからな。

「ツクモ様。パレスケープは、周りの集落も問題を抱えています」
「どういう事だ?」
「口減らしが多すぎて、子供の数が激減しています」

 子供が居ない場所には未来を描けない。結構な問題だな。

「それで子供は?」
「・・・・」
「リヒャルト!」
「はっ元々は、サラトガに送られて、ダンジョンに潜らせたりしていたようです」
「はぁ?それで、今は?」
「・・・・」
「大陸のゼーウ街か?」
「はい。奴隷として連れて行かされています」
「そうか・・・リヒャルト、それだけじゃないだろう?」
「・・・はい。噂はなしであって欲しいのですが・・・海で、大型の魔物に襲われた時に、子供を海に・・・」
「わかった、その商隊ややり口は、あの商隊だけなのか?」
「いえ・・・ゼーウ街の商隊全てです。デ・ゼーウの指示だと言っています」

 ダメな奴決定。

「そうだ、リヒャルトは、そのゼーウ街には支店なりは持っているのか?」
「それがですね・・・接収されてしまいまして、今は無いのですよ」
「はぁ?お前何かやったのか?」
「やったと言うか・・・やらかした奴が居ると言うか・・・その・・・ですね」
「いいよ。言えよ」

 リヒャルトを睨む。

「はぁ・・・そうですね。ツクモ様には話しておいたほうがいいですね」
「ん?」
「先代のデ・ゼーウが俺の父の兄なのですよ」
「身内か?」
「いえ、後で知った事でしてね。俺には関係ない人です」
「まぁいい。それで?」
「はい。今代のデ・ゼーウは、その父の兄の養子になった人物でして」
「おっもう他人だな。その情報は、皆が知っているのか?」
「知っていますよ。だから、今代のデ・ゼーウは・・・」
「ちょっと待て、ゼーウ街は世襲じゃないのだよな?」
「あっはい。ツクモ様にご説明してわかるか・・・不安なのですが、そのゼーウ街は住民からの支持でデ・ゼーウが決まります」
「それはわかる」
「え・・・そうなのですか?それなら、その先代のデ・ゼーウを支持していた団体が、今代のデ・ゼーウを支持に回れば」

 地盤を引き継いだという所か

「そうか、”地盤を引き継いだ”という感じなのだな」
「・・・」
「あぁすまん。ようするに、住民が選んでいると言っても、声が大きな、まとめる力がある奴がトップに立つという事だな。そのトップを決めているのが、”支持している団体”という事なのだろう?」
「あっそうです。それにしても・・・なぜわかるのですか?」
「まぁそれはそれだな。それで、その今代のデ・ゼーウがどうした?お前が恨まれる理由でもあるのか?」

「娘を嫁に寄越せと言ってきたので、思いっきり拒否したら、商隊ごと出禁にされて、店を接収されてしまいました」
「娘ってカトリナか?」
「はい」
「今代のデ・ゼーウは若いのか?お前の父親の兄の息子だとすると、お前と同じくらいだろう?」
「・・・いえ、俺よりも10上ですね」
「はぁ?カトリナってまだ20になっていないよな?」
「はい」
「デ・ゼーウは独身というわけじゃないのだろう?」
「・・・・正妻はいませんね。30人近い愛妾が居るだけです」
「バカなの?」
「どうでしょうね。自分の正妻の座を高く売るつもりで居たようですがね」
「リヒャルト、もう一度聞くけど、バカなの?」
「・・・バカだと思います。それで、後継者の話にもなるのですが、”カーマン”の血筋が欲しくなったのでしょうね」
「どういう事だ?」
「支持している団体が居るというお話をしましたよね?」
「そうか、支持者たちから見たら、”養子”の子供を支持する必要はないという事だな」
「・・・はい。俺や、カトリナまで、デ・ゼーウにならないかという始末ですからね」
「なんで断る?」
「ツクモ様。こんだけ面白い物を見せておいて、そりゃないでしょ?大陸の一つの街のトップになるよりも、この街で貴方と商売した方が面白いからに決まっていますよ。娘も同じですよ。貴方から出されるレシピの研究が楽しくて・・・婚期が・・・ツクモ様に責任取って欲しいくらいですよ」
「わかった。わかった。責任云々は一切考えないけど、お前たちの気持ちはわかった。嬉しく思う」
「(ちぇダメか・・・)」
「リヒャルト何か言ったか?」
「いえ、何も・・・言っていませんよ。それで、ですね。ゼーウ街には連絡員は紛れ込ませていますが、それだけですね」

 ルートガーを見ると、唖然としていた。
 今の話は、リヒャルトから聞いていなかったようだな。

「そうだ、リヒャルト。ゼーウ街にはアトフィア教は居ないのか?」
「え?教会は有るとは思いますが、勢力はそれほどでも無いはずです。なんと言っても、獣人が作った街ですからね」
「そうか・・・パレスケープもか?」
「はい。パレスケープもパレスキャッスルも、教会はありません」
「わかった」

 シロが安堵の表情を浮かべる。
 今回は、アトフィア教とのいざこざは避けられそうだな。横槍を入れてくるかも知れないけど、獣人の街と魔物の王と獣人の庇護者のいざこざに積極的に首を突っ込んでくるとは思えないからな。

 エリンは夢の中に入ってしまっているな。
 俺の腿を枕にして寝てしまっている。寝るなら来なければよかったのに・・・とも思うが、離れたくないという思いが有るのだろう。

「ルート。それで、パレスケープのゴミ掃除はどうだったのだ?」
「あっはい。奴ら・・・失礼、彼らは、スラムを根城にしていました」
「スラムが有ったのか?」
「・・・はい」
「それで?」
「潰しました。難民や集落や親を亡くした子供を捕らえては、隷属させていたので、ツクモ様から預かっていました、隷属のスキル道具で解除しました」
「そっそうか。ルート。それで、捕らえられていた子どもたちは?」
「隷属を解除した子供達は、サラトガに送っています」
「そうか、神殿区に送る必要はありそうか?」
「そうですね。少し様子見は必要だと思います。それに、この街・・・の異常性にもなれさせないとならないですからね」

 ん?今、ルートガーは”異常性”とか言わなかったか?

「ルート。今、この街の”異常性”とか言ったか?」
「あっ・・・申し訳ない、リヒャルト殿。ツクモ様には・・・」「言ってない。多分、ミュルダ殿もシュナイダー殿もだ」

 二人を見る。
 これは、二人は確信犯だな。何かしらの取り決めをしていたのだろう。
 乗ってやらないとダメだろうな。

 ルートガーが説明をしてくれるようだしな。

「さて、ルート。話を聞きましょうか?」

 どうやら、ダンジョンの上に街があり、ダンジョンの中にも街・・・だけじゃなくて、農場や繁殖場所が有るのは異常だという事だ。
 洞窟を入っていって、抜けた先に空が広がっていたりしたらびっくりするだろうな。そして、階段を降りても同じ風景になるので、はじめての者はパニックになるらしい。
 そのさきに、ダンジョンがあると説明しなければならない作りになっているので、余計に説明が難しいという事だ。

 まぁたしかにな。
 最初から、ダンジョンが一つしかなければ話は簡単なのだけど、途中の階層からさらにダンジョンが産まれているように感じてしまうのだろうからな。それに、転移門を便利な移動手段に使っているのも理解できないようだ。

 以前は、他の街から来る場合でも、この辺りの説明は省いていたらしいのだが、今は自由区でしっかりと説明しているという事だ。自らの意思で来た者や商隊はそれで良いと思うが、隷属されていたり、捕らえられていた子供をいきなりその状況に入れると、パニック状態がひどくなってしまうのだと説明された。
 そのために、最初は自由区で一緒に教育をしていたのだが、不安な気持ちは隠せないようで、ダンジョンの説明ばかりになってしまうので、ダンジョン内での強制労働や肉壁にされてしまうのではないかと思ってしまうようだ。
 そんな事はしないと言っても、最初に紹介される仕事が、バトルホースやワイバーンの繁殖や湖での魔物漁なのだから、そう思ってしまってもしょうがない。

 そこで、考えたのが神殿区に送って、少しいい生活になれさせてから、徐々に教育していく方法だ。
 神殿でも快く受け入れてくれたので、俺が許可を出せば、今後、成人前の子供に限っては、神殿区送りにする事にしたいとう事だ。

「問題ない。それで頼む。でも、神殿の負担は大きくないか?」
「それなのですが・・・神殿区からの陳情で”学校”を作ってみてはどうかと言われています」
「神殿って事は、コルッカ教?」
「はい。コルッカ教もですが、神殿で働いている人たちです」
「わかった。学校は少し棚上げしていいか?まずは、大陸・・・と言うよりも、ゼーウ街との関係だな」

 リヒャルトとルートガーが不思議な顔をする。
 シロも”え?”という顔をする。

 どういう事?

「え?」
「”え?”ってどういう事だ?ルート?」
「ツクモ様?ゼーウ街を支配下に置くのではないのですか?」
「は?それこそ、なんでだよ。俺、そんな事考えていないぞ?」

 なぜか、俺以外の皆が”はぁ?”の様な顔をする。

「え?ツクモ様。支配下に置くための代官ですよね?」
「はぁ?ツクモ様。俺に掃除命じたのは敵対行動ですよね?」
「・・・皆、カズト様が、大陸への橋頭堡を確保するために、パレスケープからゼーウ街に行くと思っています」

 エリンが目を覚まして、腿に頭を乗せたまま、俺の方を向いた。

「ねぇねぇパパ。子供が不幸になっているの、パパは見逃せるの?助けられる子供だよ?」

 そうか・・・
 助けられる子供・・・かぁ確かに手が長くなったものだな。

「考えていなかったな。子供だけ救い出しても意味はない・・・ということか」

 俺がそんなに好戦的に思えたのか?
 エリンの頭をなでながら考えるが、情報不足だし・・・な。

「なぁルート。子供だけ買い戻す事はできないか?」
「できるとは思いますが・・・かなりのスキルカードが必要ですよ?」
「正直、スキルカードで子供が救えるのなら、スキルカードくらいならいくらでも稼げるからな」
「・・・そうでした」
「攻撃系のスキルカードは別にして他の物で買い取っていけばいいと思わないか?」

 ぶちゃけ、チアルダンジョンに潜っている獣人族や眷属から持て余す位のスキルカードが入手できている。
 その上で、税とか言われて大量に集まってくる。通常では、街を作るのにある程度は必要になるが、獣人やエントたちが協力してくれているので、かなり安価で街が作れてしまう。

「大丈夫だと思いますが、ゼーウ街にスキルカードが集まる事になりますがよろしいのですか?」
「別に困らないよな?」

「・・・ツクモ様?」
「あっ別に攻めようとか考えていないぞ?」
「違うのですか?」
「そうだな。ルート。大量に子供を買い取っていく奴が現れたときに、ゼーウ街というか権力者がどう思うか考えた事があるか?」
「・・・まずは、身元を探ろうとするでしょうね」
「そうだな。それで?」
「身元が解ったら、直接交渉をしますかね?」

「うーん。リヒャルトはどう思う?」
「そうですね。私が、権力者なら身元が解ってその者が特定の街の指示で動いているようなら・・・」

「交渉するか、敵対するかのどちらかだろうな」
「そうなるでしょうね」

「さて、ルート。今までの、ゼーウ街の対応から考えて、どちらだと思う?」
「あっ・・・ペネム街がスキルカードを大量に持ってると思って、難癖を付けてくる!」
「そうだな。第一段階ではそうだろうな。その時に、謎の商人(笑)がゼーウ街で売られている武器や防具を安くゼーウ街が今まで売っていた街で売り始めたらどうすると思う?」

「・・・そこまで馬鹿ですかね?」
「どうだろうな?何も手を打たないかも知れない。そうなったら、俺たちは武器や防具をゼーウ街よりも少し安い値段で売り続ければいいだけだとは思わないか?」
「・・・あくどいですね」
「そんな事ないと思うけどな、それに合わせて、謎の商人(笑)が近隣で食料の買い占めを行ったり、ゼーウ街近くでそうだな・・・移民を募ったりしたらどうなる?」

「実行しますか?」
「そうだな。でも、その前に情報収集が先だな」

「わかりました。ツクモ様。それは、私の方で引き受けます。大陸の奴隷の買い占めも行いますか?」
「そうだな。頼む。予算は、ミュルダ老に聞いてくれ、あとスーンからもスキルカードを提供させる」
「ありがとうございます」
「リヒャルト、任せるな」
「はっ」

 リヒャルトは立ち上がって、一礼して部屋から出ていく
 早速、ミュルダ老とスーンの所に行くのだろう。

 執務室には、俺とルートガーとシロと、また眠りに入ってしまったエリンが残った。

 すっかり冷めてしまったお茶の代わりをメイドドリュアスが持ってきてくれる。

「さて、ルート」
「・・・はい」
「なんで俺を暗殺しようとしたのか、理由を教えてくれるよな?」

 シロに目配せすると、俺の腿を枕にして寝ているエリンを持ち上げて、執務室の隣にある部屋に入っていった。
 ベッドがあるので寝かしつけてくれるようだ。シロも、仮眠室で待機してくれているようだ。一緒に、カイとウミとライも移動した。

 部屋には、俺とルートガーだけが残る事になった。

「・・・さっきの事もだけど、やっぱり、俺は、ツクモ様。貴方の事が嫌いですよ」
「それは、最大の褒め言葉だな。それで?」

「・・・わかりました・・・話さないとダメなのですね。大した理由では無いですよ?」

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