スキルイータ

北きつね

第百二十二話


 リヒャルトとルートガーが行政区に帰ってきた。

 すぐに、ログハウスの執務室に来るように伝えた。
 本人たちもそのつもりだったようで、2時間ほどで執務室に来られるようだ。

 さすがに、旅装のままなので、風呂に入ってからログハウスに来るという事だ。
 ミュルダ老からの助言を入れて、まずは執務室ではなく謁見の間で簡単な報告を受ける事になった。

 そこで、賞罰を伝える方が対外的にも良いと言われた。

 執務室で待っていると、執事エントが呼びに来たので、謁見の間に向かう。

「ツクモ様。戻りました」
「ツクモ様。パレスケープよりただいま戻りました」

 ルートガーとリヒャルトが俺に対して、臣下の礼をとり頭を下げる。

「ご苦労。詳細は、後ほど聞く」
「「御意」」

 どこでそんな言葉を覚えた?
 まぁいい・・・けど・・・。

「リヒャルト」
「はっ」
「ご苦労だった。バトルホースとワイバーン。残り5体だったな」
「・・・はい」
「バトルホースは、少しだけ種族が異なるが偽装は終わっている、連れていけ!ワイバーンも後ほど向かわせる」
「はっ」
「それから、バトルホースの食事が必要だろう。準備が整った、後ほど届ける。ワイバーンは大丈夫だよな?」
「ありがとうございます。はい。ワイバーンは大丈夫です」

 こういう場面では、難しい話しは後にして、先に賞罰をはっきりさせたほうが良いと言われた。
 リヒャルトには、まずはその賞を与える。

「それから、リヒャルト、以前より話があった、商隊の認証だが・・・」

 脇に控えていたスーンがスキル道具を持ってくる。

 認証の簡単な方法が見つかったのだ。見つかったというと語弊があるかな。スキル創造で、認証を作成した。
 イメージは魔力の暗号化だ。復号化できる鍵を商店が持ち、商隊の代表者が俺の魔力を暗号化している情報を埋め込まれた魔核を持つ。その魔核には、同じ様に数名の魔力を登録できるようになっている。
 商店側は、渡されている鍵用の魔核に自分の魔力を流しながら、商隊の魔核を調べると、問題なければ両方の魔核が光る。問題があれば自分が持つ魔核だけが光る。

 という単純な物だ。
 商店側にも魔核を持ってもらう必要があるために少し不便である事と、俺の魔力が暗号化して組み込まれているので、量産が面倒だという欠点はあるが、商隊の認証に使う事はできる。

「と言った魔核を作るスキル道具が、”ダンジョン”から見つかっているが、使えるか?」

 リヒャルトが黙ってしまう。もちろん、俺が作っている事は想像できているのだろう。
 ミュルダ老には相談しているし、シュナイダー老も概要は理解して、問題は無いだろうという事になっている。

「わかりました。それで、商隊登録申請を行えばよろしいのですか?」
「そうだな。運用は、ミュルダ老とシュナイダー老に任せる事にする。それから、ルートガーお前も手伝え」

 ミュルダ老とシュナイダー老は予想していたのだろう。
 うなずいているが、いきなり名前を呼ばれたルートガーだけがなんのことという様な雰囲気を出している。教えていなかったからそうなるのは当然だよな。

 説明は、ミュルダ老に任せるとして・・・。ルートガーの困惑など俺が考える必要はない。無視して話を続ける。

「ルートガー!」
「はっ!」
「パレスケープの掃除ご苦労だった。あらかた掃除は終わったのだな」
「はい。まだ大陸に残党が残っている可能性はありますが、パレスケープ内の掃除は完了致しました」
「ご苦労。お前への褒美は・・・」
「ツクモ様。私は、罪ある身であれば・・・」
「そうだな。それを考えても、お主には賞に値する働きがある」
「・・・ツクモ様。私は・・・その言葉だけで・・・」

 ニヤリと笑ってしまう。

「そういうな。お前が受け取らないと困ってしまうからな」
「え?」

 あの事案が有ってすぐに、ルートガーはパレスケープに置き去りにされた形になっていた。

 俺はその期間を利用して、クリスや従者達を呼び出した。
 クリスに意思確認を行うためだ。

 クリスからの返答は簡潔だった。予想していたのだろう。
 俺への敬愛の念は一切薄れていないと断言した。”俺との繋がりが欲しい気持ちは揺らいでは居ない”と目を見てはっきりと断言している。しかし、俺の眷属になった事で、繋がりを感じられるようになったとも話している。
 そのために、心境の変化が有ったのだと・・・ルートガーが自分にむけている気持ちを受け入れる事を考えていた。しかし、それは俺への裏切りになるのではないかとも考えていたようだ。

 クリスの独白を全部聞いてから、
「クリス。俺のために、ルートガーと結婚してくれ」
「え?」

 クリスならこれで解ってくれるはずだ。
 空気が読めないシロは置いてきている。今は、クリスと従者の8名だけだ。あとは、カイとウミとライが居るだけだ。

「カズト・・・様。僕は」
「必要だ。俺の側に居て欲しい」
「ありがとうございます。僕は、ルートをしっかりと繋ぐ鎖になります」
「必要ない。クリスティーネ。ルートガーと一緒に、俺のために生きてくれ」
「・・・はい。カズト様・・・いえ、ツクモ様。僕は、貴方に出会えた事、命を救ってくれた事、そしてこんな気持ちにさせた事を忘れません」
「あぁ全部受け止める。そうだな。夫婦で俺に毎日感謝しろよ」
「・・・ハハハ。そうですね。毎日感謝します。感謝して、ツクモ様のやる事のアラ探しを夫婦でして過ごす事にします」

「そうしろ。ミュルダ老からは俺からも連絡しておく、ルートガーが帰ってきたら、二人でミュルダ区とサラトガ区を回って何か問題がないか見てきてくれ」

「承りました」

 それから従者たちに新しい仕事が振り分けられる。
 今住んでいる所は、今後クリスとルートガーの家になるので、近くでもいいから家を用意する事になる。自分たちで全部手配させる事になる。クリスにも手伝わせるが、ルートガーが帰ってくるまで引っ越しまで終わらせる様に厳命した。
 従者たちも、クリスの承諾を得て、4人と4人に別れる事になった。男女で別れると思ったのだが、どうやら違ったようだ。
 ヴィマとヴィミ姉妹とイェレラとイェルン兄弟が一緒に住むことになって、ラッヘルとヨナタンとロッホスとイェドーアが一緒に住むことになった。そういう事らしい。8人揃って俺の所に来て、成人したら婚姻したいとの事だったので、成人したときにもう一度俺に二人で言いに来いと伝えた。

---
「クリス!」

 謁見の間に居なかったクリスが現れる。
 ルートガーの表情が変わる。いろいろ考えているのが物分りだ。自分に都合がいい想像だけではなく、違う想像もしているのだろう。

「ルートガー」
「っは!」

 言葉を詰まらせる。
 喉が鳴っているのがわかる。つばを飲み込むのもやっとのようだ。俺に対峙していたときよりも緊張しているのは納得できないが・・・まぁその表情が見られたので許す事にする。クリスもルートガーも、俺に負い目を持って自分の気持ちに素直になれないでいる。
 クリスは救われた事や俺に対しておこなってきた事が心にトゲとして刺さっていたのだろう。それが、眷属になって落ち着いた事で、考える切っ掛けになったようだ。俺に求めていたのは、繋がりであり父性である・・・と、ルートガーは単純だ。父親の仇であるが、自分たちを受け入れてくれた俺に対する気持ちと、クリスを受け入れない俺への嫉妬心。

 二人がこじらせたままになってしまうのは俺の本位ではない。クリスがルートガーを受け入れる事に抵抗があるのならやめようと思っていたが、受け入れない理由が”繋がり”や”安心”や”嫌われたくない”という気持ちだけなら、繋がりは眷属になった事で満たされたのだろう。安心も同じだ。クリスを拒否する事はない事を解らせる事もできる。眷属を解除しない事を約束する。これで、クリスはルートガーの気持ちを受け入れる事ができたようだ。

「お前への褒美は、既に命を与えることで渡している。そうだな」
「・・・はい」

 明らかに落胆するなよ。
 笑いたくなってしまう。

「クリス。俺の所に来い」
「御意」

 クリスが、玉座まで来て、跪いた。
 ルートガーの隣だ。

「クリス。ルートガーが俺に対してしでかした事は知っているな」
「はい。全て、私の不徳の致すところ。罪は私にあります」
「違う!ツクモ様。クリスティーネ様は関係有りません。私が、私が・・・罰ならば私が受けます。ですので、クリスティーネ様には、クリスティーネ様には・・・」
「ルートガー。いいのです。私がもっと貴方の事をしっかり見ていれば、違った結果になっていたのでしょう。ツクモ様。罪は私にあります。どの様な罰でも、ツクモ様をお恨み致しません」
「ツクモ様。違う。違う。罪は、私にあります。罰は、私の四肢を裂いて頂いてもお恨み申しません。私に、私に・・・お願い致します」

 ルートガーが床に頭をこすりつけながら懇願する。最後は、涙で声が出ていない。

「クリス。お前の気持ちはわかった。今回の一件、お前に罪ある事とする!」
「はっ」
「ツクモ様!!!クリスティーネ様は・・・クリス様は・・・悪く、罰は私に、この生命を差し出します。お願いです」

「ルートガー。本当だな?」
「はい。この生命さえ惜しくありません」

 顔をあげて俺を見据える。

「わかった。二人に罰を与える」
「はっ」
「ツクモ様!」
「ルートガー。控えなさい。ツクモ様のお言葉です」
「しかし、クリスティーネ様」
「いいのです。ルートガー」

「ルートガー。お前の命、身体全てを持って、クリスティーネを支えろ、違える事は許さない」
「え?」「ルートガー。ツクモ様のお言葉です」

「あっはい。御言葉に従います。我が生命、身体、全てを持ってクリスティーネ様を支えます」
「命尽きるまでだぞ?」
「はい。それがご命令なら違えることなく従います」
「よし」

 ルートガー以外のメンバーはニコニコしている。
 この茶番をしっかりと認識して協力してくれている。

「クリスティーネ」
「はい」

 クリスも臣下の礼を取りながら頭を下げるが、見え隠れしている耳が真っ赤になっている。
 茶番が恥ずかしいのか、これだけの前で言われるのが恥ずかしいのか・・・それとも、嬉しくて興奮しているのかはわからないが、顔も赤くなっているのは間違いなさそうだ。

「お前への罰は」

 クリスが顔をあげて俺を見据える。

「命尽きるまでルートガーを支えろ。伴侶として、ルートガーと一緒に俺に仕えろ。子を作り子を二人で支え育む事を、お前の罰とする」
「はっ」

 ルートガーが口を開けて俺を見る。

「ルートガー。お前が不服なら違う罰を・・・そうだな。俺の子でも」「はっツクモ様。ルートガー・サラトガ・ペネムは、カズト・ツクモ様からの罰を受け入れて、クリスティーネ=アラリコ・ミュルダ・マッテオ・ペネムを生涯か愛しけて支えます」

 俺がいい切る前にいいやがった。
 それも、満面の笑顔でだ。

「わかった。二人が俺からの罰を受け入れた事は、ここに居る者が承認だ、約束を違えた時には、相応の報いを受けてもらう事になる」

 空気が読める大人たちだ。
 全員が神妙な表情から、表情を崩して祝福の言葉を口にしている。

「二人共立て、クリス、暫く謹慎したのち二人だけでミュルダとサラトガの視察を命じる。護衛を付ける事は許さない。二人だけで視察を行え。ルートガー。パレスケープと大陸の報告後に、クリスと一緒に謹慎しろ」
「はっ」「はい」

 二人が立ち上がって、お互いを見て笑顔になる。
 この笑顔を守らないとな・・・。

「ツクモ様」

 ルートガーが声をかけてくる。

「なんだ、ひとまず、執務室で話を聞く、リヒャルトも一緒だ」
「・・・わかりました」

 茶番に付き合ってもらった大人たちが一礼して謁見の間から出ていく。ミュルダ老が嬉しそうに見えるのは勘違いではないだろう。

 皆が退場したのを確認してから、俺も立ち上がってあるき出す。
 俺の前をカイが歩いて、ウミが肩に乗る。横には、エリンがライを抱えて歩いている。後ろに、シロが続く形になっている。

 その後ろを、リヒャルトが続いて、最後尾をルートガーが歩く格好になっている。

 執務室に入って、ソファーに座る。
 俺の膝の上にウミが乗ってきて、横にはエリンとカイが座る。ソファーの後ろにシロが立つ形になるが、公式な面会でもないので、ソファーに座らせる。正面のソファーに、リヒャルトとルートガーが座る。
 座ったのを見計らって、メイドドリュアスが飲み物を持ってくる。

「それで、ツクモ様。先程の茶番は何だったのですか?」
「茶番?なんの事かわからないな?」

 ルートガーがいきなり噛み付いてくる。

「・・・クリスティーネ様は納得されているのですか?」
「それは大丈夫だ。お前と一緒になりたいと言っていたぞ」
「それなら・・・」
「なんだ?不服があるのなら、言えよ」
「違います。まだ信じられなくて・・・」

 ルートガーは、まだ夢心地のようだ。

「ツクモ様。クリスティーネ様とルートガー殿の話は本当に良かったのですか?」
「なんだリヒャルトは反対なのか?」
「いえ、賛成ですが、あれでは、ツクモ様がお二人を無理矢理婚姻させたと思われますよ?」
「うーん。別に今更一つや二つそんな評判が追加しても構わないと思っているのだけどな」
「・・・そうですか・・・それなら問題は無いのですが・・・」
「なんだ、お前も歯切れが悪いな」
「ツクモ様自信の婚姻はどうされるのですか?成人されるときに考えるとおっしゃっていたと思いますが?」

 考えるフリをする。
 結論は既に出ている。

「考えた結果、まだ早い面倒という結論になった」
「はぁ・・・やっぱりですか?」
「やっぱりって何だよ、”やっぱり”って・・・・!!」
「”やっぱり”は”やっぱり”ですよ。ミュルダ殿やシュナイダー殿の苦悩が続くという事ですよ」

 リヒャルトが改めて説明し始めたのだが、各代官や新しく恭順した集落や街の有力者から、俺への婚姻の申し込みが殺到しているのだという事だ。直接俺に言ってくて”不興を被ったら”いやなので、ミュルダ老やシュナイダー老に打診してきているのだと言っていた。
 もちろん、リヒャルトの所にも来ているのだと言っている。
 今までは、正妻候補筆頭だったクリスが居たので、遠慮していた者たちも居たが、これで遠慮がなくなるだろうという事だ。

「なぁリヒャルト。俺の評判はそれほど良くないのだろう?」
「・・・えぇそうですね。それでも、それを補うほど魅力的に見えるのですよ、そういう有力者という者たちにとったら・・・という事ですね」
「面倒だな。俺がダンジョンの攻略を進めているのは知られている話なのか?」
「はい。それは有名です。スキル道具はツクモ様が持ち帰り、解析して作っていると思われていますからね」
「それは丁度良かった。俺の伴侶は、俺と一緒にダンジョンに潜られる程度には強くなければならない。最低でも、シロとエリンに勝てないとダメだと言っていると伝えてくれ」
「・・・それは・・・詐欺というのでは?」
「何が?こんなに可愛いエリンとシロより強いが最低条件なのだぞ?何が詐欺なんだ?」

「ルートガー殿も何か言ってくださいよ」
「俺ですか?」
「ルートは、今それどころでは無いだろうからな!」
「ツクモ様!でも、ツクモ様のアイディアがいいと思いますけどね」
「ルートガー殿まで・・・シロ殿は別にして、エリン様は竜族ですよ?誰が、竜族の姫君に勝てるのですか?」
「まぁ無理でしょうね。だから、いいのでは?」

 ふむぅ・・・といいながら、リヒャルトが考え込んでしまった。

「わかりました。ツクモ様。婚姻の話は、先程のアイディアをベースに考えます」
「自分で言っておきながら・・いいのか?」
「はい。シロ殿やエリン様は別格にして、ダンジョンに一緒にもぐれないとダメというのは使えると思います」
「そうか・・・頼むな」
「はい。付随しての事ですが・・・」
「なんだ?」
「いえ、ツクモ様に断られるのを覚悟で持ってこられた縁談話で、行政官の息子や商業区やダンジョン区で働く者たちでもという話がございますが、許可してよろしいですか?」
「別に止める理由は無いからな」
「ありがとうございます。これで少しはツクモ様の風よけになろうかと思います」

 エリンは既につまらなくなったのか、睡魔と戦っている。
 シロも何やら、可愛いとかブツブツいいながらうつむいている。少し怖いので、無視させてもらう事にする。

「さて、婚姻の話はもういいだろう?」
「はい」「そうですね。後は、ミュルダ殿とシュナイダー殿と話をします」

「それじゃ、パレスケープと大陸の事を詳しく教えてくれ、これから、ペネム街はどうしたらいい?」

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