霊感少年

夜目

見えないもの3

瀬崎 南雲せざき なぐも久我 静人くが せいとの前に現れたのは、夏休みまであとちょうど一カ月という時だった。それまで二人は会話すら交わしたことはなかったが、その関係は急に南雲によって崩された。
 「君、見えるんだね」
 南雲の言葉は静人にとって完全なる不意打ちだった。
 なんだ、そのセリフは? そんなセリフはまるで・・・。
 まるであの事を知っているかのようじゃないか?
 「これは僕からの頼みなんだけれども、僕は君に、ある事で協力してもらいたいと思っている」
 静人の思考が追いつかないうちに、南雲はマイペースに話しを進める。そして、南雲の口から出てくる言葉の数々は、異様な衝撃を持って静人の前に振りかざされる。つまり、オカシイことを言っている。
 「ねえ、君は悪魔を見たことがあるかい?」

 その廃校は、建てられてから十年も経たないうちに廃校にされた小学校だった。昔ながらのというよりは、多少なりとも外観を意識したのであろう。白く塗装されたその鉄筋コンクリートの塊は、しかし逆にその計画性の浅はかさを露呈させるかのように、全体が惨めに色あせていた。周囲は山に囲まれており、廃校は異質な存在感を放ちながら佇んでいる。
 「学校、っていうよりは病院みたいな妙な小奇麗さだな」
 「皮肉のこもった言葉だね、静人」
 静人と南雲は廃校の一階を探索していた。あるものを見つけるために。
 「なあ南雲、どうして俺なんだ? お前が言う、例の日に、本当に俺が役に立てるのか?」
 あまり日当たりのよくない廊下を歩きながら、静人は南雲に話しかける。薄暗い廊下に、南雲の透き通るような顔は舞い降りた天使のように、静人には見えた。
 「静人、君じゃなければ駄目だ。僕はそう確信してる、運命的に」
 意外な答えだった。南雲のどこからそんな自信が出てくるのか、静人にははっきりしない。静人が南雲と行動を共にするようになってひと月余り。静人にとって、未だに南雲は掴みどころのない存在である。南雲が口に出す言葉一つ一つが、大きな意味があるようで、しかしその逆、薄っぺらに感じることもある。
 「変わった奴だよ、お前は」
 静人の本音だった。
 「そうかい? あまり言われたことないな」
 言われるも何も、他人と話している所を見たことがない、と静人は思う。思い、言葉にしようとしたところで、南雲が急に足を止めた。
 「どうした?」
 南雲は静人の問いかけに、真横にあった図工室のような教室を指さすことで応じる。静人はその指がさす方を見て、そして後悔した。
 ああ、やっぱり慣れないな。
 静人の背筋を悪寒が走る。恐怖に酷く似た、しかし気持ち悪さも兼ね備えたその感覚。同時に吐き気が静人を襲う。どうにもこれだけは何度味わっても体が受け付けてくれないようである。
 教室の中に、血で赤黒く染まった椅子があった。周囲にも血痕と思われるものが飛び散り、椅子の後ろには分厚いロープが落ちていた。

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