高欄に佇む、千載を距てた愛染で

本宮 秋

友誼

第一話

あの不思議な夢をみた数日後、夢を見た事は覚えていたが夢の内容は記憶から消えていた。
あの橋に行き白い花を川に流した事と、橋から帰るとき風が…… 一瞬吹いた事だけ印象に残っていた。

その夜…… また夢を見た。

あの橋では無い、大きな建物の裏手。
学校⁈ の様な建物。その裏手の雑木林。

制服を着た女の子二人。

中学生か高校生か……
相変わらず自分は、夢には登場せず俯瞰で見ているだけ。

仲の良さそうな二人。

授業をサボっているのか、放課後なのかはわからないが、木に寄りかかりながら楽しく会話していた。

「ねぇ〜〜 真樹《まき》ずっと一緒にいたいね〜〜  卒業しても大人になっても」

「勿論、私はそのつもりだよ! 亜紀《あき》は、ずっと親友。ずっと…… 」

「でもさ〜〜  もし一緒に居られなくなったら、どうする? 」

「なんでそんな事、言うの? 」

「ん〜〜  例えばさ〜〜 お互いやりたい事が、あってさ〜〜 進む道が違ったり。後は…… 男とか? きゃはは」

「男って。なに、一人の男を取り合うとか? ん〜〜 もし、そうなったら私は亜紀に譲る! 」

「譲るって。なんかヤダな〜〜  遠慮されたみたいで。それは無しにしよっ。恨みっこ無し! で…… 」

「うん。でも男って。しばらくそんな事、起こらないでしょ」

「確かに。こんな田舎にいたんじゃ男は無理かな。周りに、ろくなの居ないし。ぷっ! 」


年頃の女の子の会話。

でも本当に仲がいい二人なんだと思った。


だが……

いきなりやってくる。
女の子たちが、話していた事が……

田舎の学校に転校生。
都会から来た男の子。
見た目も中身もスマート。
当然、女の子達の注目の的に。

あの二人もその男子生徒に、好意を持つ。初めは、二人で仲良くキャッキャ言いながら恋を楽しむ。

しかし時間が経つにつれ、そうもいかなくなる。
片方と仲良く話せば、嫉妬が生まれ。
嫉妬が楽しく仲の良い関係を少しずつ壊していく。

恋は盲目

あんなに仲が良かった相手の事さえ目に入らない程、それぞれが夢中に恋をしていた。
若いからこそ、熱しやすく独占欲が強くなる。

一人の男子生徒で、こうも簡単に……

恋と友情。

今の二人の女の子には、上手くバランスを取る事も、気持ちのコントロールも出来る程大人では無かった。

「ねぇ真樹。前に話したよね。恋愛に遠慮は無しって! 恨みっこ無しって! 覚えてる? 」

「……うん」

「真樹も好きでしょ? 崇《たかし》の事。でも私は、譲れない! 好きだし」

モテモテの転校生の名は、崇《たかし》

「亜紀が好きなのも本気なのも…… わかるよ。私も…… 好きだけど…… でもそれで亜紀と歪みあいたくない。だから…… 」

「だから? 譲るって? なんか上から言われてる感じ…… 」

「そんなんじゃ…… ただ亜紀とずっと仲良く居たいだけ…… 」

「じゃ、いいんだよね? 崇に、言うよ! 私は。付き合う事になっても恨まないでよね! 」

「…… 恨まない…… と思…… う」


女の友情で一番、水を差す事は…… やはり男 絡みなのか?
若い真っ直ぐな気持ちは、良い感じがするが…… その真っ直ぐ過ぎる気持ちは、時に残酷というか。

告白する気が満々な亜紀。


ただ告白する前に……

崇が、真樹に告白した。

真樹は、戸惑った。勿論嬉しさもあったが……  色んな事を考えた。
自分の気持ち。亜紀の気持ち。
悩んだ末に出した答えが……

「ごめんなさい。嬉しいけど…… ホントにごめんなさい。亜紀が…… 」

真樹は…… 身を引いた。
友情を取った? いや、真樹は色々考えた結果…… 怖くなった。
考え過ぎたから、素直になれず……
考え過ぎたから、怖さが出た、恋に……

真樹とは違う亜紀。

考えるより行動する亜紀。
若い男女には、行動で気持ちを表す方が良いのかもしれない。

数日後

一人歩く真樹。
不本意な気持ちを後悔しながら、自分自身の弱さに気づく。

あの橋。
愛染橋の欄干に手を付きながら…… 歩く。

その時、橋の反対側に……
亜紀…… と  崇。

思わずその二人を見る真樹。

真樹の存在に気付きながら、真樹と目を合わせなかった…… 亜紀。

ちょうど、橋の真ん中に互いが近寄った時…風が吹いた。

川上から川下に。

真樹と亜紀の間を割って入り込む様に、風が吹いた。

二人の髪が、同じ方向に靡《なび》く。

お互いに髪を直す事無く、そのまま……
すれ違った。

愛染橋で、二人がすれ違ってから……

お互いの気持ちも…… すれ違ったままになった。

……


自分があの橋で印象に残った一瞬吹いた風。
その風が、この二人の想いを自分に……

愛染橋の思い出が…… また一つ夢となって


第一話    終

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