俺は、電脳世界が好きなだけの一般人です

北きつね

第三話

 最初は、ソーシャルハッキングではないかと考えていたが、事象を聞いてみると、実際の端末へのハッキングが疑われる。
 そうなると、リアルに仕込まれたのか、ウィルスを混入させられたか、TwitterのSPAMアプリを踏んだ事も考えられる。この中で、SPAMアプリは除外していいだろう。Twitter 上で画像を公開していないと言う事や、二人が付き合っている事実を、裏アカでも公表していないという事から、脅迫者がその事実を掴む事は出来ない。
 カマかけという事も考えられるが、その事実は、他を調べてから考えればいい。

「先輩。そろそろ、ユウキが帰ってきます。その前に、お聞きしますが、お二人の関係が解るような物が、スマホの中に入っていたりしますか?写真は無いという事でしたが、LiNEでのメッセージやメールの類です」
「ない。落として、誰かに見られると困ると思っていたからな」
「祥。タクミ君。デートの約束とかは、メールでしているし、LiNEでも似たような事を話しているけど、それは違う?」
「あぁその程度なら、ユウキが見て、お二人が付き合っているとは考えないでしょ?でも、解りました、メールとLiNEは、ユウキの前では調査対象から外します」

 二人に見つめ合ってから

「そうしてくれると助かる」「うん。ごめんね」

 本当に、隠す気があるのですか?と聞きたくなってくる。

「時間的には、どうですか?今日は、何時くらいまで大丈夫ですか?」
「私は、18時から塾があるけど、それまでなら大丈夫よ。祥は?」
「私も、同じだな。塾までは、祥と一緒にいようと思っていたからな」

 はい。はい。見つめ合わなくてもいいですよ。ご自分たちの立場が解っているのですか?

「解りました。18時と言う事は、後5時間位ですね」
「美優。映画は、また今度だな」「そうね」

「話を進めていいですか?」
「あぁすまない。人前で、美優を愛でられるのが新鮮でな」「もう。祥」

 無視して話をする事にしよう。
 でも、脅迫者の動機も見えてきた。副会長に脅迫をしてきた事を考えると、会長のほうかな・・・いや、まだ先入観は良くないな。

「はい。はい。解りました。それでですね。塾の場所がわからないのですが、この家から30分程度で行ける場所だと仮定すると、17時30分が今日のタイムリミットという事になりますよね?」
「そうだな。私と美優は同じ塾で同じコースで、塾の道具も今日は持っている。だから、15分程度あれば大丈夫だ」

 同じコースという情報は別にいらない情報なのだけどな。

「解りました。でも、余裕を見て、30分までと考えます」
「お願いする」
「タクミ君。ユウキが帰ってくるよね?その前に、対価を教えてくれると嬉しいのだけど・・・ダメかな?」
「あぁいいですよ。俺が、お二人に望む対価は、学校側への交渉をお願いしたいと考えています」
「交渉?」
「はい。自分で普段使っているパソコンを持っていく事を許可してくれるか、学校の・・・そうですね。電算室のパソコンを普段から利用できるようにして、学校に無線LANの基地局を作る許可をもらって欲しい。そのための、提案書を書きますので、それを元に学校側と交渉して欲しいのです」
「へ?」「??」
「やっぱりそうなりますよね?その説明は、対価の支払いの時に、再度説明しますが、最悪でも、生徒会の権限で、学校側を交渉のテーブルに引っ張り出してくれればいいです」
「わかった。よく解らないが、キミは学校でやりたい事があるけど、今の状態ではそれが難しいので、なんとかしたいという事だな」
「はい。そう思ってくれていいです。勿論、先輩方の依頼が達成してからで問題ないです」
「わかった。いいよな。美優」「うん。祥が大丈夫だと思えば、私は大丈夫」
「ありがとうございます。そろそろ」

 玄関が開く音がした

「ただいま!タクミ。買ってきたよ。コップは使っていいよね?」
「おかえり。あぁ大丈夫。適当に持ってきてくれ」
「タクミ君。手伝ってこようか?」
「いえ、大丈夫ですよ」

 廊下を走る音がして、すぐに戻ってきた。
 足で扉を開けたのか、器用にドアを開けて部屋に入ってくる。

「おまたせしました。先輩。タクミに苛められませんでしたか?」
「おい」「大丈夫だ。話を聞いてもらって、対価も納得できる物だ。今から、対策と方針を聞く所だ」
「それなら良かった。心配だったから、急いで帰ってきた!」
「おまえな」

 今日始めて、先輩たちの笑顔を見た気がする。
 少しだけ休憩する事にした。俺は、ユウキからいつものデカビタを受け取った。

 俺は、準備があるからと、応接室を出て自分の部屋に向かった。
 ユウキと先輩には、準備が終わるまで、適当に時間を潰してもらう事になる。準備といっても、10分程度だと告げてある。

 10分じゃゲームも出来ないとかほざいていたが、無視して、準備をする事にした。

 部屋に入って、まずは、MacBookを端末から外す。ノートタイプがあればいいが、まだ入手出来ていない。薄型で持ち運べるタイプなので、応接室のTVにHDMIで接続するのはそれほ手間ではない。そのための電源は確保してある。
 一台で両方共調べる事ができるが、確実性と考えると、もう一台用意したほうがいいだろう。そちらは、Macでなくいてもいい。Anrdoid Studio が入っているノートパソコンを起動する。スペック的には、数世代前のものだが、今回の確認の為には十分使えるだろう。
 あとは、シェアードハブと、別々のSSIDに設定してある無線LANの基地局を用意する。パケットキャプチャを使えるようにしているLinuxも必要だな。しょうがない。もう一台持っていくか。Linux は、パケットキャプチャができるだけのサービスにとどめて、それ以外は停止状態にしておけばいいだろう。

 応接室に機材も持って戻ると、ユウキがどこから取り出したのか、俺とユウキの卒業写真集を見ていた。なにやら熱心に説明していた。
 ユウキの頭を問答無用で叩く。

「痛いな」
「"痛いな"じゃない。ユウキ。どこから中学の卒業写真集なんか取り出した」
「ん?タクミが部屋から出ていったから、窓からちょっと行って取ってきた」
「・・・はぁまぁその件は、後でしっかり説明してもらうとして、先輩。準備が出来ました。機材の説明は必要ですか?」

 二人とも首を横にふる。
 テーブルの上に並べられた二台のパソコンと、TVに繋げられたパソコン。そこから、伸びるケーブル類。シェアードハブの説明とか難しいから説明して欲しいと言われても困るだけだったので、機材説明が省略できるのは嬉しい。

「簡単に、今から行う事を説明します」
「お願いする」「はい。お願いします」「はぁーい」

 ユウキまで見ているようだけど、おまえに解るまで説明する気はない。

「まず、お二人のスマホには、スパイウェアか監視用の仕組みが、お二人の許可を得ないで入れられている可能性があります」
「え?」「なに?それは、ウィルスとかいう奴か?」
「そうですね厳密な意味では違いますが、そう考えてもらって問題ないです」
「そう・・・」「キミ。それはおかしい。私も美優も、ウィルス対策ソフトは、入れているし、しっかりバージョンアップもしている」
「あぁだから厳密な意味では、スパイウェアは、ウィルスではありません。副会長。例えば、撮影した写真を、自動的に自分のパソコンに転送するアプリは、ウィルスですか?」

 副会長は少しだけ思案する顔をしてから

「違うな」

 完結に答えてくれた

「はい。でも、その"自分のパソコン"ではなくて、他人のパソコンに転送する。と、なったらどうですか?」
「それは・・・そうか、そういう事だな」
「祥。どういう事?」「タクミ。わからないよ。他人に転送したら、ウィルスじゃないの?」

「ユウキ。少しは考えろよ。例えば、お前が使っているスマホに、そんなアプリを俺がセットアップして、俺のパソコンに、ユウキが撮影する写真を転送するようにしたら、それはウィルスじゃないだろう?アプリとしては、正しい動き出し、設定が正しいかなんて、使っている本人以外わからないだろう?」
「え。あっそう・・・だよね」

 生徒会長は理解してくれたようだ。
 ユウキはまだわからないようだけど、無視して話を進める。

「話が横道にそれましたが、お二人のアプリを全部調べてみて、お二人がダウンロードした覚えが無いものがないか確認してもらいます」
「わかったわ」「了解!」

 二人が、スマホを調べている間。俺は、ユウキの相手をする事にした。二人だけの時間を作ったほうがいいだろう。見られて困る物はないということだったが、ユウキがいる前では出来ない話もあるだろう。二人には、リビングに移動してもらった。俺は、先輩たちの後ろに付いていこうとした、ユウキを引き止めて、"卒業写真集"を見せていた事を問い詰める事にした。
 15分位して、二人が戻ってきた。生徒会長の顔が少しだけ赤い所を見ると、人の家のリビングでなにかしたようだが、問い詰めないでおこう。
 なにかしてきたのだろうという証左に、生徒会長が俺からの目線に気がついて、顔をそらした。副会長は、何食わぬ顔をしているが、我慢できなくなったのだろう。

「キミ。私のスマホにも、美優のスマホにも、覚えがない、アプリは入っていない。ただ、最初から入っていたような物だけは解らない。すまない」

 偽装行ったのか?
 インストールさせた可能性もある

「あぁ大丈夫です。調べれば、解る事です。不正アプリが解れば、その方が早いと思っただけです」
「そうなのか?」
「はい。次に、Twitter のアカウントとパスワードはわかりますよね?」
「あぁ」「もちろん」

 意外と、自分のログイン情報を忘れている人は多い。
 特に、スマホからしかログインしていないと、最初に認証を通したら、次から必要がないので、忘れてしまう場合が多い。先輩たちは、忘れていなかったようだ。

「それはよかった」
「僕、知らない。ねぇタクミ。知らないとダメなの?」
「ユウキ・・・あれほど言ったよな。忘れるなって」
「そうだっけ?」

 買ってきたポテチの袋を開けて、摘みながらジュースを飲んでいる。

「まぁいい。ユウキへの説教は後でするとして」「えぇぇぇぇ」

 やはり、ユウキは無視して話をする事にして

「お二人とも、こっちのパソコンで、Twitter にログインして下さい。あぁアカウントは一つづつお願いします」
「いいのか?前に聞いた時に、同じパソコンで、アカウントを共有すると、アカウントが凍結されると聞いたぞ」
「あぁ大丈夫ですよ。そうなったら、解除すればいいですし、最悪は、電話認証を取りますよ」
「キミが言うのなら、大丈夫なのだろう。美優いいよな」
「えぇ問題ないわ。”凍結”て、何かわからないけど、最悪はTwitterをやめればいいのでしょ?」

 なんとなくからくりが見えてきた。
 会長からログインしてもらって、アカウントを調べる。普段から、スマホからしかやっていないのだろう、連携アプリがすごい事になっている。その中に一つ気になっていた物があった。一般的な物から、グレーな物までかなりの数があり、一つひとつ聞いてから必要なさそうな物は解除していった。
 記憶のある物もあったが、大半が記憶が無くて、承認と出たので、承認してしまったという感じの様だ。
 グレーなものも、あったが、名前から検索する事で、該当する情報にたどり着く事が出来た。会長と副会長では、やはり使い方に差があるのだろう。認証されているアプリに差がある。それでも、その怪しいアプリが両者にセットアップされていて、許可した日時がほぼ同じ。というよりも、ほぼ同時刻になっている。

「タクミ君。そのアプリというのは、何ができるの?」
「簡単に言えば、先輩たちが許諾した事に応じて、サービスを提供する事になります」
「許諾とは?」
「そうですね。お見せしたほうが早いと思います。副会長アカウントお借りします」
「いいよ」

 俺が以前頼まれて作った、サイトにアクセスして、副会長のアカウントで承諾画面が出る所まで移動した。

「ここ見て下さい。許可を求める情報が出ています。これに承諾すると」

 読み/書き/ダイレクトメールというフルアクセス権限を得る
 先輩に、ログアウトしてもらって、もう一度Twitter画面を開いてもらって、情報が表示されない事を確認してもらった。
 その後で、別のパソコンから、俺が作ったサイトからツールにアクセスする。証明書付きのClickOnceになっているので、アプリがインストールされて起動した。副会長のアカウント名を選択して待機状態にした。

「会長。副会長に、他愛もないDMを出してみて下さい。いいですか、本当に、他愛もない物でお願いします」
「解っているわよ」


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