天才の天才による天才のための異世界
第二十二話 マントラの手帳
和也達はホルスゲインの精神の奥に眠るデービーに問いかける。ホルスゲインは徐々に余裕が消え、ついには精神を抑えることに手一杯になるまで追い詰めた。
ホルスゲインは完全に自我を失おうとしている。頭を押さえ必死にこらえている。
「デービー……デービー!!」
ナトリアは目に涙を浮かべながら叫ぶ。
ナトリアの心からの問いかけは、ホルスゲインからデービーの精神を少しずつだが呼び起こした。
あと少し、デービーの精神はもうすぐそこまで出ている。作戦は順調に進んでいた。だが、二人の叫び声とともに中断された。
「カズヤさん隠れてください!!」
別ルートからカストナーを取れ絵に行っていたフランたちは全速力で戻ってきた。そして、和也に隠れろと告げて二人は壁や柱に身を隠す。和也は何事かと思いそちらに目をやると、近づいてくる人物と手にしているものを分析し、ナトリアを連れ、素早く隠れた。
フランたちが戻ってきた方には、カストナーが手帳を持って近づいてくる。マントラの手帳だ。
「ホルスゲイン……君は何度私を幻滅させれば気が済むんだい?」
「あの野郎、手に入れてやがったか」
マントラの手帳――分析の結果、マントラの手帳は書いたものの存在を消す。だが、効果の範囲は目に見えているもののみ。だから、すぐに身を隠した。
「あいつ自身は全く強そうじゃないのに、あれを持っているだけで雰囲気が変わるな。そういえばフランはマントラの手帳の効果を知ってたのか?」
「いえ、僕ではなく二クスさんが気付いてんです」
「奴の部屋に入った時、マントラの手帳に書かれそうになったんだが、反射的に隠れたら奴の手が止まってな。もしかしたらと思ったんだが……」
「へぇ~二クスってただの脳筋じゃなかったんだな」
「カズヤ、そんな風に思ってたのか」
「いい意味だよ」
「出たな、便利な言葉」
「二人とも悠長に話してないでどうにかしませんと」
「あの手帳の対策だが、隠れる以外にある。文字をを消す、二回同じことを書く、もしくは破るなりすると存在は元に戻る」
「つまり消されてもまだ助けるチャンスはあるということですね」
「そういうことだ。どんな感じに消されるかみたいな。よしフラン、三つ数えたら突撃な?」
「その言い回しだと実験台になれって言ってるようにしか聞こえないんですけど!?」
「まぁ、そんなことは置いといて、手帳の効果が本に書いてあったのと少し違う。リリが読めない本を置かない理由がよく分かったぜ」
「カズヤ……そんなことより……デービーが……」
ホルスゲインは今も必死に抵抗している。ナトリアたちに襲い掛かる余裕は今の彼にはない。倒すとしてはあまりにも無防備だが、中にデービーの精神がある以上こちらからも何もできない。
「デービーなら大丈夫だ。あそこまで浮き上がれば時間の問題だ。今はカストナーの持っている手帳が厄介だ。特にお前はな」
「……私は?」
「お前は名前を知られている。もちろん俺たちもお互い呼び合ってるときに知られているかもしれないが、フルネームは知らないはず。なら、消される可能性は少ない」
「なら……書かれる前に……切り刻めば」
「普通ならそれでもいいが、あいつはナトリアの実力を知っている。それでも、あんな簡単に出てきたあたり、何か対策をしているはずだ」
和也は隠れるのを止めた。フランの方に目をやった後、カストナーを睨みつける。そして剣を構えてこう叫ぶ。
「あとは任せたぞ!」
和也はカストナーに突撃した。カストナーのナトリア対策が何かを知らないといけないからだ。そして、和也の宝剣が届く数歩手前になると、カストナーは手帳のページを一枚破った。すると、和也の目の前に風の魔石が出現し、和也を突風で吹き飛ばした。
和也は、この状態を予想していた。分析した際に何が書いてあるかも把握していたのだ。だが、ただ状況に合わせて書いたのか、それとも武器をストックしているのかを知りたかった。故に正面から突っ込んだ。もちろん、かなり危険なものが書かれていた場合、別の手段を取らざるを得ないが、カストナーがストックしているのは主に魔石や武器だ。なら、宝剣で防ぐことも容易。
そして、今のやり取りでカストナーは武器をストックしていることが判明。それに、破ったページの者は持ち主の周辺に出現することも分かった。
和也はすかさず特攻する。ストックしているものを少なくし、ナトリアが攻撃に踏み出せる状況を作るために。和也が消されていないということは、効果を発揮させるにはフルネームが必要なようだ。
「カズヤさんいくら何でも無茶をしすぎじゃ……」
「なら、加勢するか?条件は俺たちも和也と同じ。一人より三人の方が可能性があるだろう」
「ただ、それはかなり危険ですよ。あの宝剣、僕たちなど考えずに動いてますから」
「むしろ邪魔になるか……」
「それに……」
フランは話すのを止め、和也を見守る。二クスにはフランが何かを待っているように見えた。
「結構……きついな」
和也は宝剣が防御と攻撃の両方をしてもらっているが、体力が戦いに追いついていない。
足はコンクリートで固められたように重く、腕は千切れそうなくらい痛みが走る。少し前なら、完全に動けなくなっていただろう。
「あと……どれくらいだ?」
和也は再び分析の力を発動。だが、まだストックはたくさんある。これでは、和也の体が追い付かない。
「くそ! どうする?」
和也の考えた作戦はカストナーを追い詰めないと始まらない。フランと二クスに協力を要請したいが、後々のことを考えると、今は待機させておくのが一番。なら、ここはやるしかない。
和也は再び突撃した。もう、足の感覚がない。何度接近してもカストナーが出した魔石により簡単にあしらわれる。だが、どこにそんな力があるのか、何度でも立ち上がり突撃を繰り返した。その行動が、功を奏し、カストナーが焦りだした。手持ちの武器が少なくなってきたからだ。
「くそっ! いい加減くたばれぇ!」
「どうしたカストナー? さっきまでの余裕はどこに行ったんだ?」
「うるさい! これでとどめだー!」
カストナーはページを数枚破り捨てる。すると、和也の目の前に複数の魔石が出現する。和也は宝剣を強く握りしめ、宝剣は魔石に反応して全てをはじく。もう、和也は宝剣を手から離さないことで精いっぱいだ。だが、限界が近くなっているのはカストナーも同じ。念のため、剣や弓も多少はストックしているが、そんなもの手に持ったことがあるかも疑問だ。だから、なるべく魔石をストックしている。それが、無くなるなど予想もしていないだろう。ホルスゲインもカストナーにとっては武器の一つだ。一つ一つ手持ちの武器が減っていくのは、カストナーにとって不安でしかないだろう。
――それでも、奴にはまだ奥の手がある。
それを知っているのは最初にマントラの手帳を分析したとき、カストナーも効果の範囲に入っていたからだ。なので、和也はカストナーの奥の手――神通力を知っている。作戦もそれをもとに立てている。
幾度となく突撃し、ついにカストナーのストックが無くなった。やけになったカストナーは剣や弓も出したが、宝剣の前ではいくら和也の体力が限界だとしても対応できるものではない。
「どうだ? 自分の守るものが無くなった気分は?」
「くそっ! これはマズい!」
和也はカストナーに最後の特攻を始める。カストナーはペンを持って手帳に何かを記入しだした。
和也の背後にはホルスゲインが頭を押さえながら自我を保とうと必死に抵抗している。
そして、和也がカストナーの目の前、カストナーの視界に和也しか映らないほどに近づいた。あとは、剣を振り下ろすだけ。だが、カストナーは不敵な笑みを浮かべる。和也のフルネームを知らない以上、和也を消すにはこう書くしかない。
――人間
和也はうっすらと笑みを浮かべながら消えた――
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