天才の天才による天才のための異世界
第十九話 ホルスゲイン
「見ろ!これが俺の最高傑作だ!」
「「おー」」
イオンはそう言って、二本の剣を掲げた。
和也とナトリアは剣を見て感心した。
見た感じ、剣というよりも刀だ。片側だけに刃がつき、反りがない直刀だった。
「こいつは、白月≪びゃくげつ≫。ユニコーンの角を材料にしているから、耐久性、切れ味、軽さはトップクラス!そしてこいつは、赤陽≪しゃくよう≫材料にはペガサスの骨を使い、使えば使うほど強靭になっていき、放たれる斬撃の威力は計り知れない!二本で五千万ホルムだ」
「……いや、こっちの二十万ホルムの剣を二つ」
「これが……いい」
ナトリアは白月と赤陽を見てうっとりしている。というより、剣を掴んだまま離さない。
「ナトリア、父さんの収入じゃこれは買えないんだよ」
「お父さん……内臓って……結構高いらしい」
「お前お父さんに容赦ねぇな!?」
和也の手持ちがあまりないのを察したイオンは分割でもいいと言ってくれた。イオンの武器屋が人気なのはこういう人柄の良さもあるのかもしれない。
「サンキューなイオン。これほど優しい奴見たことがないぜ」
「そ、そんなこと言われると照れるぜー。そんなことよりさっきの彼女、ナトリアさんだっけ? 得意げな顔で出て行ったけど……」
「は? うわっいねぇ!?」
和也はイオンに一言礼を言った後、すぐにナトリアを追った。
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「あいつ、どこに行ったんだ?」
イオンの店から数分走っったところで、騒がしくなっている所があった。
絶対あそこだと確信した和也は全力で向かった。
そこには、ナトリアが手に入れた二本の刀を眺めていた。周りの人は凶器を振りかざしている彼女に近づかないようにしている。
「うぉぉぉおおお、せいや!」
「……痛い」
「痛い、じゃねえよ!何やってんだよ?」
ナトリアは和也に叩かれたところをさすっている。表情が変わらないからほんとに痛いかどうかはわからない。
「これ……いい」
「そうか。そろそろ行くぞ。みんな集まる時間だ」
「……わかった」
この後、第七騎士団に職務質問されたことは言うまでもない。
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和也とナトリアが戻ったころには二クスとフランがもう集まっていた。
「遅かったですね。どこ行ってたんです?」
「ちょっと、いろいろあってな……」
「なんかカズヤ、行く前から疲れてないか?」
「なにか……あったの?」
「お前が原因だろ!! とりあえず行くぞ」
和也たちはカストナーのもとに向かった。
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和也たちは馬車で向かっていた。フランが馬を操り、和也達三人は後ろの荷台に座っている。
ルカリアの首都から少し離れた平地を走っている。
「僕たちだけで大丈夫ですかね?」
フランの心配は無理もない。ナトリアが一撃負けた相手に、大した戦力も無く挑むのだから。
「ホルスゲインに対抗するなら、カリファーかオルト団長も連れてきたいけどそれは難しいからな」
「なんでだ?」
「今回は王国内部の組織だから第七騎士団の管轄になる。個人的に頼むとしても、向こうはナトリアをまだ信用してないし、ホルスゲインについて全くわかってない状態で動いてくれるとも思えない。今回は良くて撃破、悪くても情報だけは持って帰るぞ」
「マントラの手帳はどう対処するつもりだ?」
「それは何とも言えないな。あらからいろいろ調べたけど、歴史ばかりで弱点とかは書いてなかったんだよ」
「カストナーが手に入れてないことを祈るしかないな」
「ちょ、ちょっと! あれなんです!?」
突然フランが大声を上げた。和也たちはすぐさま荷台から顔を出してフランが指している方向を見る。
そこには二匹のドラゴンが空を舞っていた。
「うわーお! ドラゴンだ! 初めて見た!」
「カズヤさん興奮してる場合じゃないですよ! 逃げましょう!」
フランが馬車を急旋回させた時、ナトリアが荷台から降り、ドラゴンに向かって走っていく。
「試し切り……相手に不足……なし」
和也たちは馬車を止め、ナトリアの戦闘を見ている。
「そういえば、ナトリアさんが本気で戦うのって初めて見ますね」
「確かに、最初の時は武器を持ってなかったしな」
ナトリアの戦いぶりはそれは凄かった。
数十メートル上空のドラゴンにジャンプだけで上に行き、回転しながら落下。そのままドラゴンの片翼を切り落とした。
落下していくドラゴンに着地し、そのままもう一匹のドラゴンに向かった。ドラゴンは口から炎を吐いたが、ナトリアは剣を一振りすると、炎の玉は真ん中から割れていき、ナトリアとドラゴンの間に阻むものはなく、そのドラゴンは一秒後には首がなかった。
ナトリアが地面に着地したとき、周りはドラゴンの死体が二つ転がり、ナトリアの剣と服は血で染まっていた。
和也たちは戦闘中、あまりの凄さに言葉が出なかった。
「これが……ナトリア・ハンフリー……」
「伝説の殺し屋の力か……」
「僕たち、これからの戦いについていけるんでしょうか……」
カストナーの組織だけならナトリアは簡単に壊滅できるだろう。問題はホルスゲインだ。こいつの攻略は和也たちの頑張りが大きくなる。戦闘は全くついていけないだろう。しかし、やるしかないのだ。
そんな彼らの前に、一人の男が現れた。
「いや~驚いたね。ここまでになってるとは」
いきなり現れた男に、和也たちは唖然としている。だが、一人だけは反応が違った。
ナトリアから殺気が染み出ていた。ドラゴンとの戦闘の後もあり、その姿は殺し屋というよりも、
「まるで、餓えた猛獣だねー」
その男は、見た感じ三十前半で、ラフな格好に帽子とサングラスを身に着けている。
特に武器を持っているわけではないが、ナトリアの殺気に全く動じない。というより、むしろ楽しんでいた。
「……ホルス……ゲイン」
ナトリアが呟いた名前で、ようやく和也たちが状況を把握した。
「いや~怖いね~ナトリアちゃん元気だった?」
「なんか軽いな。ナトリアじゃないけどイライラしてきた」
「ナトリアちゃん、後ろの人はお仲間かい? ん~左から四十点、二十五点、一点」
「おい! 一点ていうのは俺のことか!? なめんな。五点くらいはあるわボケェ!」
「あんまり変わってないじゃないですか」
「ハハハ八、君面白いね~面白さは百点だよ」
「そんなことは……どうでもいい……カストナーの元に……案内してもらう」
「案内してやってもいいけど、僕に勝てたらね~」
ホルスゲインの一言で、ナトリアが行動に移した。
距離は五十メートルほどあったが、彼女らにとってはこの距離は一メートルと大して変わらない。
二人の戦いは一瞬で始まった。だが、戦いになっているか疑問だった。ナトリアの攻撃はホルスゲインにはかすりもせず、ホルスゲインの攻撃は確実にナトリアに決まろうとする。ナトリアが無傷なのはホルスゲインが攻撃を寸止めしているからだ。
「フラン。俺達が戦いについていけるかって聞いてたよな」
「はい? こんな時になんです?」
フランは和也の方に目をやると、和也は笑っていた。だが、それは完全に作り笑いだ。精神を保つために無理やりにでも笑っている。和也の表情を見たとき、フランは確信した。この二人の戦いに参加する余地などなく、邪魔にしかならないことを。
「ナトリアの戦いを見た後にこれを見るとほんとに勝てるビジョンが見えない。ハイレベルな戦いなはずだけど、子供が騎士団長を相手にしてるようにしか見えない……」
ナトリアの動きは早く、強く、的確に急所を突いている。だが、ホルスゲインを相手にすると、同じ動きでも全く凄さを感じない。それほどまでにホルスゲインは強かった。
「ナトリアの身体能力を超える力……あいつの能力が関係してるのか?」
「だとしても、どんな能力か分からないことには……」
「それなら任せろ」
――分析!
和也は分析の力を発動した。だが、情報は手に入らなかった。なぜなら、分析が完了する五秒間の間に和也の視界からホルスゲインの姿が消えたからだ。
「君、意外と厄介だね~」
「!?」
ホルスゲインの声が背後からした。和也が振り向こうとしたとき、ホルスゲインの拳が和也の顔の前まで迫っていた――
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