天才の天才による天才のための異世界
第八話 呪術
「どうしたんだ? なんかまずいこと聞いたたか?」
フランの表情を見て和也は首をかしげる。
フランは和也の対応に慌てて表情を戻し、質問に答える。
「呪術というのはあまり人に話すものではないんです。なぜなら呪術は魔導師ではないものが使える魔法みたいなものですから」
――おそらく、俺が呪術を使うの可能性を考えているのだろう。まぁ、無理もない。俺だって拳銃の使い方を教えてくれと言われて簡単には教えられない。誰を殺そうが後味は悪いし最悪自分の可能性もあるのだから――
「別に使いやしねぇよ。ただその連続不審死には呪術かなんかが関わってるんじゃないかと思っただけだ」
フランは和也の考えを聞きホッとした後、推理の否定を行う。
「それはないですね。王宮の魔力探知機が反応してなかったので、魔法ではないですし、呪術の場合なんらかの痕跡が残ります。神通力の場合は否定できませんが、他人に直接死の影響を与える力など聞いたこともありませんし、そんな奴がいたなら王国が捕まえるでしょう」
フランの言葉に和也は考えを改める。
「呪術の場合の痕跡ってなんだ?」
「呪術を受けた場合、その人には靄がかかるんです。もちろん普通の人には見えませんが、その道専門の人には見えるので呪術の場合は生前死後関係なくわかります」
和也の考えは否定された。となればあとはなんらかの現象しかないと和也は思った。
「そういえば、なんでこの家壊さねぇの? こんな気持ち悪い家壊すだろ普通」
「確かにそういう声も上がりましたが、やはり皆さん怖いんですよ。呪術ではないと言われてもそこで死んだ人の怨念だの祟りだの言って誰も近寄らないんです。まったく、そんなオカルト話あるわけないですよね」
「魔法、超能力、呪術がある世界で言われてもな……」
やれやれと肩をすくめるフランに和也は苦笑いを浮かべる。
和也はふと思った疑問をフランにぶつける。
「芳香結晶をする前ってどんな匂いだったんだ?」
「なんでしょうね……接着剤みたいな匂いでしたね。とにかく気持ち悪くなる匂いでした」
和也はなるほどと呟き家を出て、家を外から凝視した。
――できるかわからんが……きた!!
何度か経験したあの感覚が和也を襲う。そして数秒経つと和也はニヤリと笑った。
「やっぱりな」
和也はすかさずフランを外に連れ出した。
「原因はこれだな」
「壁?」
「正確にはこの塗料だな」
フランはますます分からないと呟いて、和也の言葉に耳を傾ける。
「この塗料はシンナーっていうものが使われていたんだ」
聞いたことがない単語にフランは困惑した。
「まぁ、塗料の概念すらあまりない世界だ。本来と違った色の外壁なら有名になる。だが、シンナーの匂いには害が大きい。依存性があって、頭痛や嘔吐に襲われ、更には幻覚や意識障害を起こし最悪死んでしまう」
「そんな怖いものが使われてたんですか!?」
「住んでる方も最初は慣れないが時期なれるし問題は匂いだけでそれ以外は完璧。移動する必要はあまりない。匂いの方も芳香結晶でなんとかなる。だが、芳香結晶は香りで誤魔化してるだけでシンナーの症状は消えない。これが、連続不審死の正体だ」
「そうだったんですね。でもなんで分かったんです?」
「俺の神通力だ」
――まだそうと決まってないけど
和也の説明にフランは納得し、スッキリした顔になる。おそらく情報屋としてずっと気になっていたのだろう。
「まぁそんなわけだから、俺はここに決めた。塗装は剥がせばいいし、これをネタにめちゃくちゃ安く買い取ってやる」
「うわー」
和也の悪人面にフランは少し引いた様子だった。だが、そんなこと気にせず和也はこの土地の管理人のとこに向かった。
********************
「はぁ!? あの家を買いたい!? あんた正気か?」
当然の反応だ。
「あぁ売ってくれ。あっ、でも壁の塗装は剥がしてくれよ。フランが言うには水の魔石で剥がせるらしいし」
「別にそれくらい構わんが……本当に買うのか?」
「だから、そう言ってるだろ。あんたもあんな物騒なものと早く縁を切りたいだろ?もちろん、安くしてもらうけどな」
「あぁ分かった。ちょっと待ってろ」
そう言って管理人は机の中から書類を出した。
「ここにサインしてくれ」
「三十万ホルムか……随分安くなったな」
和也はフランに視線を向ける。
「なんです?」
「フラン、ここにサインだってさ」
「あなたが買うんだからあなたがすればいいじゃないですか!!」
「おいおい、俺はまだ剣を売る前だぞ。そんな金どこにある?名義は俺でいいから保証人になってくれ」
「はぁぁ、仕方がないですね」
フランはどうせ剣を売れば三十万など安く思える金が入ると思いため息をつきながら契約書にサインし、和也の代わりにお金を払った。
「はいよ。これが権利書だ」
フランはそれを受け取り和也に渡す。
こうして和也は夢のマイホームを手に入れた。
――三日後
「おはよー和也」
和也の家にリリがやってきた。和也は目をこすりながら扉を開ける。
「ふぁ〜あ、おいおい、今何時だと思ってんだ」
「もうお昼よ!! 早く準備して。」
「はいはい」
今日は宝剣取引の日だ。フランがとある貴族を紹介してくれるらしい。リリも取引に立ち会うため和也を迎えに来ていた。
「んじゃ、行きますか」
********************
「それにしても良くあんないい家手に入れたわね」
「まぁ色々あってな」
和也たちは取引場所へ向かう。フランが言うにはあまり人前に出たくない人らしく、取引場所も物静かな場所だ。
「その相手ってどんな人なの?」
「俺も詳しくは知らないけど、おそらく王国で一番金持らしい」
そんな話をしていると、二人は取引場所に到着した。
和也は扉をゆっくり開け中をうかがう。そこにはフードを被った二人とフランがいた。
フランがこちらに気づいたらしく、手を振ってきている。
「和也さん、中にどうぞ」
フランに誘導されるまま中に入り、フードの二人を見つめながら席につく。
「それでは、始めましょうか!進行は私、フラン・ストワールが務めさせていただきます」
待ち望んでいたのか、フランのテンションが高い。だが、そんなテンションなのは一人だけだ。
和也は机に肘をつき、前にいる二人を睨みつける。
「始める前に、あんたらフードくらい脱いだらどうだ?」
二人は「そうですね」と呟き、フードを脱ぐ。フードの中には艶やかな緑色の髪、耳には高そうなピアスをしている少女。もう一人は短い銀髪に褐色の肌、座っているためわからないが座高からして百八十センチはある男だ。
和也はその二人に見覚えがあった。もちろんリリは良く知っている。
「あんたら……」
「初めまして。わたくしはルカリア王国皇女、セシア・ルカリアと申します」
「……」
和也はまさかの相手に言葉が出なかった……
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